時遊人~La liberte de l'esprit~

優游涵泳 不羈奔放 by椋柊

刑事犬養隼人シリーズ2~七色の毒~

2020-12-22 | 読書
シリーズ第2弾は
7編の短編から構成されています

一「赤い水」
中央自動車道を
岐阜から新宿に向かっていた高速バスが防護柵に激突
1名が死亡・重軽傷者8名の大惨事となった
運転していた小平真治が
ハンドル操作を誤ったとして逮捕されるも
警視庁捜査一課の犬養隼人は事故に不審を抱く
死亡した元タタラアルミ代表取締役社長・多々良淳造(たたらじゅんぞう)は
毎週末に新宿便を利用する際
いつも同じ席に座っていた
やがて小平と多々良の過去の関係が明らかになり…

※運転手の小平の故郷
 岐阜県龍川村のアルミニウム工場の廃液垂れ流しによる
 鉛中毒が絡んだ小平のよる多々良淳造殺害と思われるも
 実は
 犯行を起こさせようと心理的に誘導したと思われる人物
 名濃バス株式会社運行管理係・高瀬昭文(たかせあきふみ)による
「自動車運転過失死傷罪」と「危険運転致死傷罪」を悪用した事件でした
 ですが
 高瀬自身の行為は業務上過失にも教唆にも当たらない
 法律で殺意を裁くことは出来ない…
 高瀬自身も小平同様に家族を鉛中毒で失っていたのです
 一般人がここまで見事なマインドコントロール出来る設定は 
 若干無理があるけれどなるほどね~
 巻き添えにいなった他の乗客があまりにも不憫

二「黒いハト」
日沢中学校2年A組の東良春樹(ひがしらはるき)は
1週間前に教室の窓から飛び降りて亡くなった親友
保富雅也(ほどみまさや)のことを思い出し自分を責めていた
何故自分は親友を護ってやれなかったのだろう
実は春樹だけでなく多くの生徒が雅也がいじめに遭っていたことを
知っていたが公にはならず
母親の携帯に遺言らしき声が残されていたことから
所轄の高輪警察署が事件性無し&自殺として処理したため
学校もこれ幸いといじめの事実には蓋をしていたのである
しかし
そんな学校側の態度を非難する声が次第にあちこちからあがり
改めて警察が捜査することが決定された
そして春樹のクラスの事情聴取に警視庁の犬養がやって来る

※読み始めてすぐ保富雅也を自殺に追いやったのが誰なのか
 珍しく分かってしまいました
 自身を「白いハト」に紛れた「黒いハト」だと言う東良春樹に
 犬養が放つ言葉
 安心しろ今度君が身を寄せるところは全員が黒い羽をしている 
 ただしそこにいる黒い鳥たちは君のようなハト科の鳥じゃない
 獰猛なカラスの群れだ
 あいつらは異種の闖入(ちんにゅう)を決して容赦しない
 これから君には食うか食われるかスリルと冒険の日々が待っている

 これに対し恐怖を覚えるかと思いきや
 一つだけ教えてくれないか
 とうして雅也くんにあんなことをした

 と言う犬養の問いに
 どうしてって?
 面白いからに決まってるじゃん

 と平然と答えた東良春樹に
 未来はアリやナシや
 リアル! 

三「 白い原稿」
8月初旬
都内でも指折りの高級住宅街にある公園のベンチで
ロック歌手兼小説家の桜庭巧己(さくらばたくみ)の死体が
ナイフが胸に刺さった状態で発見された
そしてそのわずか3時間後
自称小説家の荒島秀人(あらしまひでと)と言う男が
自分が犯人であると出頭してきた
取り調べにあたった犬養が話を聞くと
「ビブレ賞」という文学賞に応募したものの
桜庭が受賞したせいで
自分が受賞できなかったことを恨んでの犯行なのだという
しかし公園で寝ていた被害者を見ての突発的な行動で
殺意は無かったと話す
殺意の否定には疑問が残るものの話している内容に矛盾は無いため
犯行の裏付けのため関係者に話を聞いて回っていた犬養であったが
御厨からの検死報告書を見て驚く
そこには直接の死因は凍死であると書かれていたのだ

※登場する作家志望のどいつもこいつもろくでもない輩ばっかり…
 自信過剰の認識不足もここまでくると手に負えない
 しかも出版社側もまともじゃ~ない!
 作家とは 
 本来
 卓越した想像力と発想力があり
 且つ
 それらを文字(言葉)によって具現化する才能がある人種
 にもかからわず
 犯行が稚拙
 だからこそ芽がでなかったんだが…
 自身を信じる努力することは必要だけど
 その方向性を違え
 常軌を逸した面々集まって
 被害者を演じながら加害者を演じている
 虚しい… 

四「青い魚」
1人で釣具店を経営する帆村亮(はんむらりょう)は
45歳で遅い春を迎えて幸せな日々を送っていた
3か月前
店を訪れた20代の若くて美人な本橋恵美が自分のことを気に入り
あれよあれよというまに同棲生活を始め結婚が決まったのである
ただ1つ
恵美の実兄だという由紀夫までがいつからか
同居人として加わってしまったのには困惑したが
由紀夫の人柄にも好感がもて
何より家族というものに飢えていた帆村は
こんな生活も悪くないと思い始めていた
しかしある日
3人で船を出してハギ釣りに熱中していた時
帆村は頭部を押されてボートの縁に激突し
そのまま海に身体を放り込まれてしまう

※これも読んでるうちに犯人わかってしまいました
 淋しい独身男に言い寄る
 本橋姉弟による結婚詐欺+保険金殺人と思いきや
 そう単純な話ではにゃい!
 船上で由紀夫に殴られた帆村亮は
 海に放り出され死んでしまうのかと思いきや
 海上保安庁の巡視船に助けられて
 本橋姉弟は船上でソウシハギを食べて死亡
 帆村さん? 
 ソウシハギどこで釣れるとか
 事前に同業者に聞いちゃうとか
 バレバレです
 本橋姉弟による保険金殺害から逃れるための
 正当防衛だとしても
 当の姉弟が死んじゃってるから
 立証できないやん
 その一方で
 帆村さん自身の犯行には状況証拠も物的証拠もある
 早い段階から本橋姉弟を怪しいと自覚していなら
 さっさと縁を切ればいいのに…と思うんだが
 人の心は弱い
 
五「 緑園の主」
ホームレスの塒(ねぐら)に火が放たれ
黒沢公人(くろさわきみひと)と言う男が
全身火傷で救急搬送された事件現場を訪れていた犬養は
班長の麻生から別の事件の現場へ急行するように命じられる
都営グラウンドで部活動をした後の帰り道に昏倒し
搬送されたが亡くなってしまった中学生
小栗拓真14歳の体内から劇薬のタリウムが検出されたというのだ
誰かに毒を盛られたとすると
また違う被害者が出るかもしれないと懸念されたのだが
ホームレスの事件の方に残った成瀬からの連絡により
事件は違う顔を見せ始めた
意識を取り戻した黒沢は自分の塒に火を点けたのは
小栗拓真であると証言したというのだ

※小栗拓真を筆頭に
 子供が起こしたホームレス狩りやら放火事件って
 現実世界でもめずらしい事件じゃないです
 小栗拓真らを極端な行動に走らせる社会の歪
 妻・祥子(さちこ)の認知症を盾に
 小栗拓真を死に至らしめた
 佐田啓造(さだけいぞう)の行動もまた
 現代社会が抱える難題と言うか歪なわけで…
 
六「黄色いリボン」
学校で担任の戸塚先生が話していた性同一性障害の話に
桑島翔は心が軽くなる思いがした
自分には
学校の誰にも言っていない秘密がある
毎日学校から帰ると女の子の格好して化粧をして
「ミチル」という女の子として過ごしているのだ
今なら皆に秘密を話しても大丈夫かもしれない…
一縷の望みを抱いた翔だったが両親は否定的で
「ミチル」でいるのはこれまで通り家の中と団地内までと厳命された
しかしある日
架空のはずの「ミチル」に
ダイレクトメールが来ているのを発見したのを発端に
知らない男やましてや警察にまで
あちこちで翔はミチルについて聞かれることになる

※冷静に考えれば考える程ヘビーな内容でした
 桑島翔少年は身体は男の子だけど心は女の子
 それを自覚して両親含め自身を「ミチル」呼んでいる
 いわゆる「性同一性障害」かと思いきや
 架空のはずの「ミチル」にダイレクトメールが届く…
 ふたを開ければあな恐ろしや
 実際ミチルと言う妹がいて何らかの理由で両親がミチルを殺害
 遺体を自宅に隠し対外的にミチルが生きている風を装うため
 翔にミチル役を演じさせていたのです
 妹の死後
 翔少年の心の中に(後天的に)ミチルが出現していたのかもしれない…
 翔少年は「性同一性障害」ではなく「解離性同一障害」?
 父方の祖父母に引き取られることになる翔は
 転向する最後の日に
 親友である直也に本当の自分が何者であるか
 告白する直前で話は終わります
 本人は身体は男で心は女と言う認識でいるようですが
 本当のところはわからない感じです

七「紫の献花」
多治見署の刑事部強行犯係の刑事・榊間明彦(さかきまあきひこ)は
取調室で昨年5月に発生した名濃バス株式会社による
高速バス衝突事故の被害者で
足に障害を負った樫山有希と対峙していた
名濃バスの運行管理係だった高瀬昭文が
自宅で刃物で刺された状態で死亡していたのだが
高瀬には家族がいないにも関わらず
事故後名濃バスを退職した直後に生命保険に加入しており
その受取人が樫山有希になっていたのである
しかし樫山は高瀬とは全く面識がな無いし
ましてやもしそこまで恨むとしても
運行係の高瀬ではなく廃業して民事でも
責任をとらなかった元社長の菅谷の方だと主張する
その時
警視庁捜査一課から犬養がやってきて
あのバス事故の裏には実は高瀬の殺人教唆があったのだと話す

※「赤い水」で加害者として登場した高瀬昭文が一転
 被害者となって登場しています
 しかもまたもや心理操作 
 自己破産を装い被害者への補償を逃れた
 元名濃バス株式会社社長
 菅谷豪志(すがやたけし)が
 己を殺害するように仕向け
 自身の死亡保険金を「赤い水」の中央自動車道の事故で
 巻き添えを食いオリンピックとしての将来を絶たれた
 樫山有希(かしやま ゆき)に残したのです
 高瀬は自ら死をもって償おうとしたのです
 
 この短編集には
 人間の毒(悪)が様々な色をとして象徴的に
 用いられていました
 色の持つイメージから広がった世界観
 的確だったと思います