
「散歩する侵略者」 黒沢清監督 ◯ ☆☆
Jホラーの黒沢監督が劇団イキウメの戯曲を映画化しました。SFに初挑戦です。
のどかな金魚すくいの場面から一転して残忍な殺人事件の場面となり血まみれのセーラー服の少女が徘徊し「おお、黒沢だ!」と映画に引き込まれます。
一方、行方不明だった夫しんちゃん(松田龍平)は妻鳴海(長沢まさみ)のもとに戻りましたがぼうっとして医者に見せても原因がよくわからず、自宅療養をすることになりました。時々「散歩してくる」とどこかへ行ってしまいそのたびに鳴海はイライラさせられます。
また、殺人事件の現場を取材に来たジャーナリスト桜井(長谷川博己)は宇宙人の天野(高杉真宙)と出会い二人は行動をともにすることになります。宇宙人たちは出会う人間たちから人間を理解するために「概念」を吸収していきます。「仕事」「家族」「競争」などの概念を失った人間たちの異常行動が目立つようになり、いよいよ国家権力が3人とその「ガイド」になっている鳴海や桜井に近づいてくるのでした。
ホラーの黒沢らしい場面もあり、従来のファンにも納得できるSFです。信じがたい「宇宙人」の存在を次第に受け止めていくようになる過程がちょっとした表情の変化などそれぞれの俳優の名演で丁寧に描かれ観客も共感していきます。単なる「宇宙人の侵略物」に終わらず、人間にとって大切なもの、国家権力の横暴さ、セクハラ、パワハラまで織り交ぜ現代社会への風刺とも警告とも、そして新たな社会への提案ともなっています。筆者にとって今年度ベストスリーには確実に入る作品です。(☆☆)
タバコは、なし。無煙です。