映画 哀れなるもの②
哀れなるものが女性であるという見方に立つとわかりやすい映画であるが、哀れなるものが男であるという立場で見るとかなり残酷な北欧の童話(アンデルセンでもグリム兄弟でもどちらでも)と見ることができる。ただそうすると、これが日本の女性に支持される映画である理由が薄くなる。日本人はこういう残酷な復讐物語を好まないのが普通だと思うのだが。日本昔話のかちかち山も浦島も少し残虐なところもあるが北欧の童話には質量ともに比べ物にならない。
主人公の脳の父親体の部分の夫は、最後羊にされてしまう。脳の部分体の部分両方に残酷な仕打ちがあったので同じく残酷な復讐をされた。それも20年30年経ってからである。どうもユーラシア大陸には我々からみて驚くほどのしつこい復讐をする伝統があるようである。アメリカ型のうまく立ち回って相手の富を強奪するというのとは、味わいの全く異なる復讐の感情である。その復讐された男が哀れなるものという題になっている。もしそうなら、日本の比較的若い女性にこの映画が好まれているということは、かなり恐ろしいことではないか。日本の若い女性の心に大きな変化が最近起こったのではないか。日本の厚生省の官僚の皆さんはここに気づいているのか、多分気づいていないであろう。数字ばっかり見ていると他人の心を見ることはできないものである。
事実かどうかは知らないが、(多分事実だと思うが)秦の始皇帝に宦官にされてしまった男は、始皇帝の死後その息子のうち最も暗愚なのを選んで二世皇帝に建てることで秦を滅ぼしたという。この復讐劇に匹敵するくらいしつこい復讐である。
ヨーロッパにしつこい復讐あるのであれば、軽々しく人をいじめをしたりブラックに人をこき使ったりはできないであろう。子々孫々何代にも渡って復讐されるおそれがあるからである。日本では過去を水に流すのでいまだにブラックに人をこき使ったりする。日本人もこのくらいしつこく復讐すれば社会の構造も変わるのであるが。たぶん哀れなるものはこの父親というのが、この映画のテーマではないか。わかりにくいけど。
映像が美しいという意見があるが、私はそう思わない。陰鬱な映像であった。