崖上のスパイ(張 芸謀監督作品)を見る①
赤いコーリャンや紅夢 では赤がテーマの映画だったが今回は多分白と黒がテーマの色になるだろう。ものすごい資本を投入して作った映画でこんなすごいもん千円少々二千円弱で見せてもらっていいのかと思いながら見ていた。
お金をかけた場面はクラシックカーの部分かもしれないが、雪の場面がもっとかかっていそうである。白と黒だけの追走する場面で、緊張感をみなぎらせる映画は昔フランスの暗黒街もので見たことがある。この時は多分アランドロンだったと思うが白いワイシャツの袖の部分と黒い服の追走の場面で、ここに白黒だけを用いた見事な場面があった。30年以上たった今でも明瞭に覚えている場面である。このフランスの暗黒街ものは照明スッタフやカメラマンの腕だけでできたと考えられるが、崖上のスパイは同じような場面で黒い服と黒い帽子、白い雪であって見事な緊張感をみなぎらせる名場面である。もちろんカメラマンや照明スッタフの腕も冴えているが、それ以外のスッタフの腕の冴えもあるように思う。
初めは雪の上を何の苦も無く走る人物をみて余程特殊な靴を履いているのかと思ったり、うまいこと作った発泡スチロール使ってるなと思ってみていた。しかしエンディングに出てくるスッタフの100人はいるであろうCGスッタフの名簿を見ながら多分この雪はCGで合成した場面ではなかろうかと思う。(違ってれば恥ずかしいことだけど)娯楽映画ながら大変な名場面でブリューゲルの名画が動いているような気分で鑑賞できる。
映画にCGというとどうしても動きが滑らかなアニメを想像してしまうが、アニメよりこういう拡張現実の場面に使うことの方が(多分大変な手間だと思うけど)CGの有効な利用方法だろう。アニメだと初めから作り物という気分で見てしまうが、こういう拡張現実の手法だと作ってると思いながらも引き込まれてしまうものがある。引き込まれた状態で普段の自分の考えていることを反省し見直すことが映画の値打ちなのであるから、ヒトをその魂ごと引き込むことができるのが良い映画である。他人を引き込むためには俳優の優れた演技もよい音楽ももちろん必要であるが、見事な場面も必要である。多分CGによってだと思うけどこれは見事な場面であった。
アートでも自然でも美しいものに触れて気分を良くしながらいろいろものを考えたいというのは、都市に生活するとどうしても必要なものである。これを商業主義の娯楽映画であるなどと思わないで巨大なアートであると思って鑑賞すると見る人の人生を裨益すること大きいと思う。