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SiriusとAldebaranとPolaris

きまぐれ

2015-02-24 08:47:20 | 日記

気まぐれな季節であります。

きのうは4月を思わせるあたたかさ

きょうは雪模様で暖房のあかいいろがきもちをあたためる。

 


 

 

樹下の二人

       ― みちのくの安達が原の二本松松の根方に人立てる見ゆ―

 

あれが阿多多羅山、

あの光るのが阿武隈川。

 

かうやつて言葉すくなに坐ってゐると、

うつとりねむるやうな頭の中に、

ただ遠い世の松風ばかりが薄みどりに吹き渡ります。

この大きな冬のはじめの野山の中に、

あなたと二人静かに燃えて手を組んでゐるよろこびを、

下を見てゐるあの白い雲にかくすのは止しませう。

 

あなたは不思議な仙丹を魂の壺にくゆらせて

ああ、何といふ幽妙な愛の海ぞこに人を誘うことか、

ふたり一緒に歩いた十年の季節の展望は、

ただあなたの中に女人の無限を見せるばかり。

無限の境に烟るものこそ、

こんなにも情意に悩む私を清めてくれ、

こんなにも苦渋を身に負う私に爽やかな若さの泉を注いでくれる、

むしろ魔もののやうに捉へがたい

妙に変幻するものですね。

 

あれが阿多多羅山、

あの光るのが阿武隈川。

 

ここはあなたの生れたふるさと、

あの小さな白壁の点点があなたのうちの酒庫。

それでは足をのびのびと投げ出して、

このがらんと晴れ渡った北国の木の香に満ちた空気を吸はう。

あなたそのもののやうな此のひいやりと快い、

すんなりと弾力ある雰囲気に肌を洗はう。

私は又遠く去る、

あの無頼の都、混沌たる愛憎の渦の中へ、

私の恐れる、しかも執着深いあの人間喜劇のただ中へ。

ここはあなたの生れたふるさと、

この不思議な別箇の肉身を生んだ天地。

まだ松風が吹いてゐます。

もう一度この冬のはじめのもの寂しいパノラマの地理を教えて下

 さい。

 

あれが阿多多羅山、

あの光るのが阿武隈川。

 

             詩集 智恵子抄より

 

 


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