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【あらすじ・感想】文庫版・『ガラスの仮面』第23巻【ネタバレばれ】

2015-02-23 23:14:01 | ガラスの・・・あらすじ
※※『ガラスの仮面』文庫版読み返してます。あらすじと感想まとめてます。※※
※※内容ネタバレ、感想主観です。※※


仮面年表は こちら
紫のバラ心情移り変わりは こちら

49巻以降の話、想像してみた(FICTION)*INDEX*はこちら

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『ガラスの仮面』文庫版第23巻 ※第12章(途中から)※第13章(途中まで)

第12章 紅天女

能面をつけて現れた千草の表情は見えない。
荘厳な天女
恥じらいを見せる乙女・阿古夜
うかがえない表情が見えるように、千草の演技は違和感なく観客全員を包み込む。
千草の演じる『紅天女』は、まさにこの地で演じられることで
一つの完成形を見せた。

しかしクライマックスを演じることなく、千草の舞台は終了する。
この続きは、若い後継者がきっと演じてみせます。
そう言って千草は、自らの紅天女を永遠に封印するかのように
付けていた能面を真っ二つに割った。

千草の演じる紅天女に魅入られ、その世界観にどっぷりと浸かるマヤ。
千草のしぐさ一つ一つの微妙な表現が、得も言われぬ紅天女の世界観を構築していることに
驚愕する亜弓。
何十年と愛し続けた紅天女を、千草を再びこの目で見ることが出来た英介の感慨。
仲良く寄り添う桜小路とマヤに、あきらめたはずの思いが嫉妬とともに再び沸き起こる真澄。

見ている者それぞれに深い感動と感銘を残し、千草の紅天女は永遠の眠りについた。

「紅天女の恋は、わたしの恋でした。
 舞台の上の阿古夜の思いは、そのままわたしの思いとなり、
 阿古夜のセリフはそのままわたしの言葉となりました。」
魂を乞う、それが恋・・・
出逢ってしまえば惹かれあい、近づきあい、どんなことがあっても離れる事ができない・・・
それが魂の片割れ

**
千草の紅天女を見た後のマヤは、素直にその感動に浸っていた。
体の中まで、紅天女の霊気が流れ込んでいるような感覚、
先ほど千草が演技で使用した打掛をこっそり身に着け、梅の枝を手に
梅の谷で阿古夜の気持ちを反芻させていた。
真澄もまた、先ほど見た紅天女の夢のようなひと時の余韻が冷めきれずに
一人梅の谷を歩いていた。
そして森の中に、天女を見つけた。

小川を挟んで対峙する二人。
何も言わず、見つめあう二人。
「あの日、はじめて谷でおまえをみたとき、阿古夜にはすぐにわかったのじゃ」
おまえがおばばのいう魂の片割れだと・・・
「捨ててくだされ 名前も過去も 阿古夜だけのものになってくだされ・・・」
マヤは右手をすっと差し出した。
その手に引き寄せられるように、真澄の手も差し出される。
その時・・・・
二人の体はまるで幽体離脱でもしたかのように宙に舞い、
魂と魂が結び合うように一つの大きな球となって、心と心が抱き合った。
身に着ける物など何もない、
ただ一人の男として、女として。
魂と魂の融合・・・。
次の瞬間、体が重なり合うように互いの体をすり抜けた二人の魂は再び、
それぞれの入れ物に戻って行った。
それは、実に不思議な体験。
現実とは思えない、非科学的な感覚。

真澄を呼ぶ紫織の声に、ふと我に返った時、目の前にいたはずのマヤの姿は
もうそこにはなかった。
あれは・・・幻?
マヤもまた、先ほどの感覚が現実だったのか理解できずにいた。
魂のふれあい、速水さんは私の・・・?

**
2ヶ月に渡る梅の里での稽古も終わり、いよいよマヤと亜弓が東京に戻る日がやってきた。
この地で学んだことを土台に、あとはそれぞれの紅天女を作り上げる・・・。
亜弓はいまだ自分自身がこの地で学び残したことがないか悩んでいた。
一方マヤは真澄の事を思い出しては涙を流していた。
すると千草は二人を呼び出し、吊り橋に火をつけると、もう二度と谷へと渡れないように橋を焼き落とす。
「紅天女はもう、あなたたちの中にあるのです」

最後の夜も、亜弓は雨の中必死に紅天女の稽古をしていた。
それに気づいたマヤは、亜弓の美しさに改めて驚き、やっぱり亜弓にはかなわないと震えた。
その様子にマヤに対するいらだちが爆発した亜弓は、あなたのそういう所が嫌いだと罵倒する。
天性の才能で、いつも当たり前のように演技をする。
亜弓が必死になってやっと掴んだ役との一体感も、マヤにとっては当たり前のいつものこと。
女優として、あなたに勝った覚えがない・・そういう亜弓に、
私なんかと自虐的に返すマヤを腹立たしく思う亜弓。
「あの日、橋から落ちそうになった時、私はあなたを見殺しにしようとした
 あなたなんかいなくなればいいと、本気で思っていた」
亜弓のマヤに抱いてきた劣等感。どんなに努力しても報われない思いを抱えながら、
それでも誇り高くあれと顎を上げて生きてきた女優人生。
私なんて、亜弓さんの方が・・・そんなことばかりいうマヤ、それなのに私はこの子に今まで一度も
勝てていない・・・。
不安、焦燥感、嫉妬、憎しみ、醜い感情は全てあなたのせいで私の中に生まれてきた。
亜弓の悲痛な叫びに、思わず涙を流すマヤ。
その姿に、同情などしてほしくないと亜弓はマヤの頬にビンタをくらわせた。
「紅天女は譲れない」
マヤも同じように亜弓の頬をはる。
初めて心と心をさらけ出して体中ボロボロになりながらケンカをするマヤと亜弓。
そして夜が明け、空が白み始める頃、
二人は互いのひどい姿を見ながら大声を上げて共に笑い、次は紅天女の試演でと、ライバルをたたえあった。

最後の挨拶にと、月影千草のもとを訪ねた真澄だったが、
五感はマヤの姿を探していた。
ひと目姿をみるだけでも、そう期待している自分がいた。
マヤへの思慕の思いを募らせながら、真澄は山寺を後にする。
外に出ていたマヤは真澄の車を見かけ、あわてて山寺に戻ってくるが
既に姿はない。
真澄が座っていた座布団を胸に抱え、改めて自分の中で膨らんでいく
真澄への恋心に涙を流す。
千草に、魂の片割れについて質問するマヤ。
その人に出会ったらどんな気持ちになるのかと。
マヤの目に本物の恋をしている色を察した千草は、優しく諭すように語った。
魂の半身にもしめぐり会ったのなら、魂と魂が響きあい、互いにとってかけがえのない相手だということが
理屈ぬきで感じあえる
もしそんな相手にであったなら、勇気をもって一歩を踏み出す事
自分の運命の扉を開くのは、自分だけ・・・
大切なのは魂と魂の結びつき、たとえ表面上の恋が実らなくても
そして共に生きる時、そのとき初めて生まれてきた意味を知る・・・
それが紅天女の恋ーーー

空に流れ星がきらめく。
以前、真澄と二人で見た星。あの時真澄は、俺の願いはきっと一生かなわない・・・と言っていた。
そんなの悲しすぎる。かなわないなんて・・・。
空に再び流れ星がきらめいたとき、
マヤはその星に願った。
“お願い・・・!”

紅天女の故郷での夢のような経験を胸に、真澄は東京へと戻ってきた。
向こうで英介に言われた言葉が重くのしかかる。
紅天女を必ず、大都のものにしろ。たとえ北島マヤであろうとも。
拒否するようだったら、マヤをつぶせ。
もしおまえができないのだったら・・・わしがやる
移動車の中で流れ星を見つける秘書水城。
東京でも見えることがあるのだと、改めて真澄は梅の里での出来事が
全て自分中の幻であることを、そしてこれから先自分はこの闇のような現実の中で
生きていくしかないことを思った。


第13章 ふたりの阿古夜

紅天女の故郷での日々、真澄と見た星空、一夜を過ごした社務所、
梅の谷での魂のふれあい・・・
マヤは東京に戻ったら真澄に会いに行こうと決心していた。
会って、これまでのお礼を言おう。そして、
好きだと伝えよう・・・・。

しかし、東京に戻ったマヤがたどり着いた場所は、真澄と紫織の婚約披露宴会場だった。

第24巻へは・・・こちらから
*****感想**************************************
「紅天女」の章はさくっとね・・・。
梅の里で見た流れ星に、マヤは願いを込めます。
その内容は分かりませんが、のちに私の願いはかなわないってわかったから・・って
嘆く所を見ると、やはり真澄との事を願ったのではないでしょうか。

亜弓さんみたいに、理論から入る人好きです。
天賦の才にあぐらをかかない努力の人、何ものちにあんな試練を与えなくても・・・。
今の所、心で紅天女を理解しているマヤが少しリード・・といった所でしょうか。



【あらすじ・感想】文庫版・『ガラスの仮面』第22巻【ネタバレばれ】

2015-02-23 22:41:33 | ガラスの・・・あらすじ
※※『ガラスの仮面』文庫版読み返してます。あらすじと感想まとめてます。※※
※※内容ネタバレ、感想主観です。※※


仮面年表は こちら
紫のバラ心情移り変わりは こちら

49巻以降の話、想像してみた(FICTION)*INDEX*はこちら

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『ガラスの仮面』文庫版第22巻 ※第12章(途中から)(途中まで)

第12章 紅天女

千草は夢を見ていた。
それは夢なのか、それとも過去の記憶なのか・・・・。

幼いころに両親を失った千草こと千津は、生きていくためにはどんなこともした。
盗みや詐欺、拾い食い・・・ 混乱期に幼い少女が生きていくにはあまりにも過酷な日々。
7歳になったある日、千津は月光座と呼ばれる劇場の楽屋に盗みに入ったところを取り押さえられる。
警察に突き出される寸前、千津を助けてくれた人こそ、
尾崎一蓮その人だった。
一蓮は月光座で台本や演出を手掛け、若くして人望も厚く恵まれた青年だった。
一蓮の父親は資産家で、座長とも懇意にしており、劇団創立以来多額の出資を続けていた。
千津は一蓮に引き取られ、東京にやってきた。
劇団月光座で千津は暮らすことになる。
掃除や洗濯を手伝いながら、時に一蓮に読み書きを教えてもらい、
千津は知らなかった安心という幸せを知る。
最初は胡散臭がっていた劇団員たちも、打ち解けてくるごとに千津に優しく接してくれる。
何より一蓮が、千津を大切にしてくれていた。
一蓮の妻清乃は、得体のしれない子供を引き取ることに難色を示していた。
しかし一蓮は千津をよそにやることをきっぱりと否定し、千津は責任を持って育てることを宣言する。
その言葉に、幼いながらも一蓮への感謝の思いと、彼を裏切れないという思いが千津の
胸いっぱいに広がった。

成長するにつれて日舞や芸事も習わせてもらうようになった千津。
子役として舞台に上がるようにもなった。
一蓮は時に優しく、時に厳しく演劇を指導し、
それにこたえるように千津も必死につらい稽古を耐え抜いた。
そして16歳になった千津は子役を卒業し、月の女神ダイアナという大役を演じることになる。
初舞台の日、その美しく光り輝く千津の姿に一蓮は圧倒され、観客達も美しさに息を飲み、
舞台は大成功をおさめた。
そして役にちなんで一蓮は千津に月影千草という芸名を名付ける。
その頃から、一蓮に対する思いは単なる育ての親に対するものではなく、
一人の男性へのものへと変化していった。
一蓮には妻も子供もいる。年も離れている。
叶わぬ思い、秘めなければならない恋・・・
まさに今の千草の気持ちをそのまま表現したかのような舞台『華炎』の令嬢彩華役は大はまりし、
その成功が千草を次のステージへと進ませる。
千草はただ、一蓮のそばに居られればそれでよかった。
千草の成長と成功に伴い、一蓮も月光座の実質的責任者になっていた。
二人で月光座を支えているといってもいい。
しかし千草の一蓮への思いは、決して表に出すことのできない秘めた恋。
人知れず涙を流し、それでも一蓮のためにと舞台に立ち続け、さらに活動場所を映画界にも広げていく。
全ては一蓮の為に・・・。

しかし戦争の波が、月光座に暗い影を落とす。
若い役者は兵隊にとられ、軍からは敵国の芝居はするなと上演停止令を受ける。
関係者も皆散り散りになり、一蓮の妻子も田舎に疎開していった。
月光座にはもう、一蓮と千草しかいない。
戦火によってとうとう月光座は燃え落ちてしまった。
そして一蓮は東京から、千草の前から姿を消した。
故郷、奈良の山寺にこもっていた一蓮は、そこで「紅天女」の執筆に取り掛かる。
そしてその脚本が完成した時、一蓮の行方を追ってきた千草が目の前に現れた。
“紅天女が現れた・・・”
後に一蓮はその時の事をそう振り返る。
千草にとって一蓮は、生きる全てだった。
戦争が終わり、一蓮は必死で劇団を再建しようとした。
以前にも増して厳しい指導を続ける一蓮、千草に風火水土の稽古をつける。
火の演技の時、一蓮の前で演じた八百屋お七、一蓮は千草の熱い思いに
気づいていながら何も答えなかった。
女性として愛されないのなら、女優として誰よりも愛されよう。
千草は決心し、神がかり的な紅天女は完成した。
千草演じる「紅天女」は空前の大ブームを巻き起こし、月光座の一枚看板として、
千草が支えていた。
言葉で交わすことはなくとも、一蓮と千草の間はどんな言葉でも表せないほどの
強い信頼と絆で結ばれていた。
こうして月光座は見事復活するかに見えた。
速水英介が現れなければ・・・・。

速水英介は、岡山の田舎から若くして家出同然に上京し、
身一つで大都運輸を立ち上げた。
ある日偶然目にした「紅天女」の舞台。
一目で千草に魅了された英介は、山のようなプレゼントを千草に贈るが、千草は丁重に断りを入れる。
それでもなんとか紅天女のためになりたいと、紅天女の地方公演のスポンサーを申し出る。
大都運輸で培った全国への運送ノウハウや地方とのつながりは、「紅天女」の地方公演にとても
役立ち、一蓮も英介を信用して思うがままにやらせていた。
しかし徐々に英介は本性を見せ始め、各地の劇場を買収し、劇屋主も兼ねるようになり、
映画会社と結びつくなど勢力を拡大させていった。
地元のやくざとのつながりも増え、潔癖な一蓮はそんな英介のやり方を拒絶し、
袂を分かったが、時すでに遅し、すでに英介の力は大きくなりすぎていた。
速水英介は大都芸能を興し、独自に芝居の制作を始める。
一蓮の元から役者を引き抜き、月光座は苦境に立たされる。
役者不足は、客演とそれに伴う台本の書き直し、芝居の質の低下と
悪循環を生み、徐々に客足は遠のいていった。
月光座は経営に苦しみ、一蓮は多額の借金を抱えるようになる。
しかし英介の方も、大都芸能を興してはみたものの、一蓮も千草もいない状態では
魅力的な芝居を興行することは出来ない。
そうなると一蓮に、「紅天女」の上演権を譲るようもちかけ、さらに千草を引き抜こうと画策する。
それでも動かないと見るや、罠を仕掛ける。
一蓮に相場の話をもちかけ、借金を膨らませ、月光座の公演でやくざを暴れさせる。
心労が祟って一蓮は病に倒れ、月光座は事実上解散したも同然になった。
しかしどんな状況にあっても「紅天女」だけは手放さない一蓮。
妻子も一蓮の元を去って行った。
それでもただ一人、千草だけが一蓮のそばにいた。

そしてあの夜、
千草はたった一夜、一蓮と結ばれ、翌朝、一蓮は首をつって自殺した。
「紅天女」を千草に遺して。

一蓮の遺志を継いで一人で「紅天女」を守り続ける千草。
速水英介に対抗するため、巧みな政治的戦略も巡らせる。
こうして、月影千草は大女優となり、
千草によって紅天女は永遠に守られるかに思えたその時、
落ちてきた照明によって千草は顔面に深い傷を負い、女優生命を絶たれる。
そして同時に、紅天女は長い封印の時を迎えた・・・・

最愛の人、尾崎一蓮、
彼が自分に遺した、唯一の宝「紅天女」
千草はこれを演じることで、一蓮への愛を紡ぎ続けた。
そして、自らが演じられなくなってから数十年の時を経て、
今、再び紅天女が息吹を取り戻そうとしている。
全ては一蓮のために・・・・。
一蓮、もう少しだけ、力を、私に・・・。

意識を取り戻した千草は、最後の気力を振り絞って、紅天女の伝承へと残りの命を燃やしていた。
“忘れないで千草 舞台の上でぼく達はいつも一緒だ・・・”

**
紅天女の故郷に、劇団つきかげ+一角獣のメンバーがやってきた。
千草が倒れたという連絡を源造から受けてやってきたのだ。
久しぶりの仲間との再会に喜び、夜更けまでずっと仲良く語らうマヤ。
紅天女の言葉の意味を必死で理解しようと集中する亜弓は、
無邪気に仲間と盛り上げるマヤの様子に苛立ちを感じていた。
紅天女の言葉の意味を考えなければならない、大切な時期に・・・。
つまらない平凡な子。あんな子に、負けられない・・・・。

意識を回復した千草は、二人を本堂へ呼ぶ。
そして、稽古の進捗を尋ねた。

ぶつかり合う二つの渦とは
天地を荒す二つの独楽とは
“樹”は“気”・・・
我が力は螺旋となりて・・・

理知的に、言葉の意味を追求する亜弓に対し、
紅天女だから分かるのだろうと感覚的に理解するマヤ
対照的な二人はアプローチはそれぞれの演技を刺激する。

千草はマヤ、亜弓そして劇団のメンバーを連れて梅の谷に入った。
ここで、「紅天女」の一節を演じるのが最後のエチュード。
梅の谷で、紅天女のイメージを膨らませていく中、千草が
劇団メンバーに自由にそれぞれ精霊を演じさせる。
風の精、霧の精、こだまの精、龍神、山の神・・・
それぞれが思い思いの精霊を描き自由に動き回る。
千草はそこで、マヤと亜弓に、まず梅の木としてその場に存在するよう命じた。
そして次に合図する時に、紅天女に変化しろと。

美しく佇んでいた亜弓は、合図を受けて実に優雅に、木から天女へと華麗な変化を
演じた。
ため息が出るほどの美しさ。
一方梅の木の生気を全身で受けていたマヤは、千草の合図が聞こえてはいたが
すぐに体を動かすことが出来なかった。
何か分からない、分からないが、体に伝わってくる梅の木の気が、体をとらえて離さない・・・。
まるで自分の体が自分の物ではないような感覚に陥ったマヤは、
「おおおおおおおおおおおおおおお」
とうなり声ともつかない叫び声をあげる。
千草が興奮して紅天女のセリフを言わせる。
「・・・まこと紅 千年の命の花を咲かそうぞ!!」

マヤの振り上げた羽衣は螺旋を描き、周囲の人間はみな、そこに紅天女を見たと感じた。
そして誰よりも、その姿に衝撃を受けたのは亜弓だった。
自分がどんなに努力に努力を重ねても、天才の前には無力・・・。
自分がもがき苦しみながら必死に得ようすることを、マヤがいともやすやすと
呼吸をするように我が物にする姿を目の当たりにして、
自分との間の越えられない差を痛感し、亜弓の心はくじけた。

もうここにいても、自分が出来ることは何もない。
自分が紅天女に選ばれることなどない。
みじめな思い、深い失望と共に、亜弓はこの地を去る決意をした。
荷物をまとめ、人目に付かないようにこっそり山寺を抜け出した亜弓は、
最後にもう一目と、梅の谷へと向かう。
しかし谷へとかかる吊り橋が腐蝕しているので危険だと村人に教えられ渡ることを断念した。
そしてその場を去ろうという時、何も知らないマヤが、同じように梅の谷へと向かおうとしている
姿に気付く。
橋は危険だ、そう伝えようとした亜弓の脳裏に悪魔がささやく。
もし、このままマヤがあの橋を渡ったら・・・
腐蝕に気付かずもし、橋から転落することになれば・・・
マヤがいなくなれば紅天女は・・・
亜弓の中で、これまで一度も芽生えたことのないあさましい嫉妬の心。
しかしいざマヤの悲鳴が聞こえると、亜弓は必死にマヤをひっぱりあげ、助け出した。
命を救ってくれたと素直に感謝するマヤ。
しかし本当の亜弓は、知っていながら見殺しにしようとしていたのだ。
自分の中に有ったこんなにも醜い心・・・。
亜弓は改めて自分に潔癖であろう、たとえ勝負に敗れるとしても、
誇り高き女優であろうと改めて決意し、もうどんな壁を前にしても逃げない事を心に誓う。

**
毎日毎日、全身ボロボロになりながら紅天女のけいこを積む、マヤと亜弓。
これまでの風火水土で学んだこと、
紅天女のセリフに込められた意味を読み解き、体得しようともがく二人。

千草に秘かに介抱されていた英介は、源造の行動を追っていた部下によってその所在を
発見された。
英介無事発見、その一報はすぐに東京の真澄のもとにも届けられ、
その吉報を素直に喜ぶ紫織とともに、真澄は再び紅天女の故郷へ向かう。
そして紅天女の故郷に集まった、演劇協会理事長はじめ実行委員会関係者、
小野寺や黒沼、そして桜小路や赤目慶・・・
梅の里を訪ねてきた人々に千草は、
谷へとかかる吊り橋が復旧したのち、ここにいる皆の前で
亜弓とマヤの「紅天女」エチュードを梅の谷で行い、
そして最後に、月影千草自身が、紅天女を演じる事を宣言した。
これが最後の、千草の紅天女・・・・

山の中で稽古中に真澄の姿を見つけたマヤ。
そばにはぴったりと寄り添う紫織の姿。
まさにお似合いの二人。
泥だらけのマヤの姿を見て、まるで先日の社務所での事などなかったかのように
マヤをからかい、嘲笑する真澄に、マヤは反論もできずただ顔を真っ赤にして涙を流す。
そんなマヤをなぐさめるように肩を抱き、その場を後にする桜小路との様子を
真澄は見送ることしかできなかった。

神がかり的なマヤの演技、しかし亜弓は、その憑依的な能力に表現力が追い付いていないことを悟る。
たとえどんなに紅天女そのものになれたとしても、表現できなければ舞台として観客に伝えられない・・・
そこにマヤの弱点があった。

**
梅の谷、そこは一年の大半を梅の花が覆うような、異空間の地。
まさに、紅天女の故郷。
演劇協会理事長を始め協会関係者や大都芸能の速水英介、真澄そして紫織
黒沼に小野寺、桜小路に赤目慶、さらにカメラマンのハミルなど、関係者も梅の谷に
準備された簡易的な客席に座り、二人の稽古の成果を待っていた。

まずは亜弓の演技ーーーー
亜弓の動きはまさに天女の舞、軽やかで優美で神秘的でさえあった。
亜弓の声はおよそ同じ人物が発しているとは思えないほどの
時に高く鳥のような、時に地鳴りのような低い声、
ここにいるのは人間ではない・・・・誰もがそう思った。

そしてマヤの演技ーーーー
マヤはまるでずいぶん昔からこの地に存在していたかのような自然との調和を見せる。
その存在感は圧倒的で、見る者は異空間のような世界観を全身に受けていた。
披露終了後、マヤに声をかけた真澄。
試演が楽しみだと言って去ろうとする真澄に、マヤは思わず声をかけた。
「今の私にはこれが精いっぱい。
 だけどきっと試演までには、あなたに喜んでもらえるような天女を完成してみせます」

現段階で二人がこの地で吸収した紅天女が、そこに居た。
そしていよいよ、千草の紅天女が、降臨する。

一蓮 魂の半身
今わたし達は一体になる
これが最後の「紅天女」

第23巻へは・・・こちらから
*****感想**************************************
千草と一蓮の関係について触れられる巻でした。
一夜を共にしたのち、自殺されるなんて・・・・。
マヤと亜弓、どちらがより千草を受け継いでいるのかな、と思ってみたのですが、
どちらかというと亜弓さんのようが、往年の月影千草に近いのかなと、
私は思いました。
綺麗だし、表現力もあるし。
でも、一途に一人の男を愛し続ける所(幼い時からの因縁がある所)、秘めた恋
とかは完全マヤだよな・・と思ったり。

この巻、紫織がすごく有頂天に真澄に絡みつく所がいやなんですよね・・・。
晴れて正式に婚約者となったからかなんなのか・・・・
露骨にマヤの事見下すし。
それに調子を合わせてる真澄も、やな奴に見えてきます。
次は月影先生の演技メインだから・・・短くなりそうね。




【あらすじ・感想】文庫版・『ガラスの仮面』第21巻【ネタバレばれ】

2015-02-19 00:30:04 | ガラスの・・・あらすじ
※※『ガラスの仮面』文庫版読み返してます。あらすじと感想まとめてます。※※
※※内容ネタバレ、感想主観です。※※


仮面年表は こちら
紫のバラ心情移り変わりは こちら

49巻以降の話、想像してみた(FICTION)*INDEX*はこちら

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『ガラスの仮面』文庫版第21巻 ※第12章(途中から)(途中まで)

第12章 紅天女

「火」のエチュード
亜弓は燃え盛る炎を両手に持った細長い布のリボンで巧みに表現した。
高い身体能力をいかんなく生かした、燃え盛る炎。
音楽に合わせて、時に激しく、時にメラメラとした亜弓の火の演技は
見る物を飽きさせない美しさと華やかさがあった。
表現力の高い亜弓の演技は、風になろうとしたマヤと比較しても、
舞台性の高い演技として評価される。

一方マヤ、打掛をざっくりと羽織り、うつろな目をしながら
火の見やぐらを昇るパントマイム、そして
「火付けは死罪・・・・もし見つかれば殺される・・・」
マヤが始めた「八百屋お七」の演技に、千草は驚愕する。
これはかつて、同じエチュードを一蓮の前で行った時、千草が火の演目でやったものだ。
何故マヤがこれを・・・。
「熱いよ吉さん、燃える・・・なにもかも燃えていくよ・・・・」
全身を炎に巻かれ燃やし尽くされるようなマヤの演技は切なくなるほど苦しく、
まさに心の火を表現していた。
「本物の恋をしなさい、マヤ。その後またあなたの演技が見たいわ」
千草はマヤの目にはまだ、本当の恋の狂気がないことを指摘し、そう感想を述べた。

次は「水」のエチュード・・・
亜弓を追って梅の里にまでやってきたカメラマン、ピーター・ハミルは
この風火水土のエチュードを行う意味を千草に尋ねた。
千草は、このエチュードは過程にこそ意味があると語った。
何を演じたか、どう演じたかではなく、何を演じるか、どう演じるかを悩み、導き出す
この過程を通して、二人は紅天女をつかむことができるのだと。

亜弓は水の中でしか生きられない存在に着目した。
水、生命をつなぐもの
水がなければ人も植物も動物も虫も生きられない。
そしてその中で生きるもの・・・。
水から決して離れて生きていけないもの・・・。

マヤも自分の中の水の演技をどういう風にすればいいか悩みながら
さまよっていた。
雨、そののちの虹、そうだ、これもすべて水のもう一つの姿。
あの雲も、霧も、変化した水・・・。
ダムを訪ねたマヤは、水力発電で水の流れおちる力で電気を起こしていることを聞く。
雲となり、雨となり、時には虹を見せ、時には落下する力で電気をも起こす
水の力・・・。

マヤが千草の前で八百屋お七を演じたことを
部下から聞いた速水英介は、してやったりと大笑いをした。
千草はさぞかし驚いたことだろう。
そして、滞在していた湯治場からいよいよ梅の里に向かう事を決める。
しかしその途中が崖崩れで行き止まりになった山道で立ち往生、
運転手が助けを呼ぶため一人取り残された英介の車は、
雨でスリップしそのまま崖下に転落し、英介は行方不明となった。

東京でその一報を受けた真澄は、急ぎ救助隊を派遣するよう指示を出し、
自らも紅天女の故郷に向かう。
崖下からは、ぐちゃぐちゃになった車が発見されたが、車内に英介の姿はない。
周辺を捜索するが、英介の物すら見つからない。
こんな形で、英介と決着が着くのはいやだ。何としても探し出す。

捜索は夜にまで及んだが、英介を見つけ出す事は出来なかった。
やるせなさを抱えながら宿に戻る真澄、その途中ふと星空に気付き
途中下車した真澄は、
そこに寝転がるマヤの存在に気付いた。

マヤは水のエチュードに悩みながら、一人草地に寝ころび星空を眺めていた。
あの日、プラネタリウムで見た時以上の満天の星空。
真澄にも見せてあげたいな・・・などと思っている時、流れ星がきらめいた。
願い事すればよかった・・・・と独り言を言っていると、
「何を願うつもりだったんだ?」
という声、
振り返るとそこに、真澄が立っていた。
まさかこんなところで会うとは思ってもいなかったマヤは、言葉がつながらない。
マヤの隣に腰かけた真澄は、今義父が行方不明になっている事、
その捜索でここまで来た事を淡々と語った。
いずれ君の耳にも入るだろうから言ったまでだ、心配してもらわなくて結構。
そう語る真澄の顔はどこまでも冷静で、感情が読み取れない。
二人で寝ころび空を見上げる。
いつか、紅天女の故郷で、一緒に星が見てみたいと話した。
まさかこんな形で実現することになるとは。
お互いに告げられない思いを抱えながら、夜空をずっと眺めていた。
「わたし、もし紅天女を演れるようになったら、紫のバラの人にまっさきに観ていただきたい・・」
いつか、私の前に現れて名乗り上げてくださるのを待っている・・・
切実な気持ちを真澄に告げるが、真澄は
「幸せなファンだね、そのひとも」
としか言ってはくれなかった。
その時、一筋の流れ星がきらめいた。
また願い事ができなかったと言うマヤ。真澄にあなたはできたかと聞くと
「おれの願い事は、きっと一生かなわない・・・」
とつぶやくように答えた。
夜も更けてそれぞれの地に戻る為、その場を後にした二人。
真澄の差し出した手を静かに握り歩く二人。
この星空が、どこまでもつづけばいいのに・・・。
真澄の手のぬくもりを感じながら、マヤはそう思うのだった。

マヤは、村人から龍神伝説を聞く。
龍神さんは水の神
川も池も滝もみんな龍神さんが治めている
変化する水、それを司るもの・・・

亜弓は、水の中でしか生きられないもののように、
人間にとってそれがなければ生きられないものはなんなのかを考えていた。
水も確かに必要だが、人は水の中では生きられない。
空気?いやそれよりも・・・・
赤ん坊は母親の愛がなければ生きていけない、男も女も愛がなければ・・・・
愛がなければ・・・
愛もまた水・・・・!

**
山寺に居る千草の元を尋ねた真澄は、英介の行方を知らないか尋ねた。
千草からも有力な情報が得られなかった真澄は、一旦自分は東京に戻ることを告げ、
山寺を後にした。
義父の姿を見つけるまで僕はあきらめないつもりです、と語る真澄に千草は尋ねた。
「あなた、お義父さまを愛しているの?」
千草の問いに、まっすぐな目線で答えた真澄。
「いいえ!」

山寺を訪ねた際、源造からマヤが梅の谷へ入っていくところを見たと聞いていた真澄。
いつの間にか降り出した雨はどんどんと激しさを増していく。
まさか・・・・マヤ・・・・。
何となく胸騒ぎがした真澄は、梅の谷へと続く吊り橋を渡っていく。
その先で真澄が見たものは・・・・
全面が紅色に染まった梅の群生。これが、紅天女の故郷・・・。
雨までもが紅く染まる。
初めて見る景色に圧倒される真澄だったが、その梅の木の中に、
マヤを見つける。
マヤは梅の木に腰掛け、雨に打たれている事に気づいているのかどうかも
分からないような表情で、宙を見ていた。
「マヤ・・・!」
真澄の呼び声に我を取り戻したマヤは、思わず木から落ちそうになる。
マヤを受け止める真澄。
「このバカ娘!」
全身ずぶ濡れ、キンキンに冷えきったマヤの手を抱きしめると、
自らのコートをかぶせ、雨をしのぐため近くにあった神社の軒先に腰掛けた。
随分と長いこと雨に打たれていたであろうマヤの体は冷え切っていて、
真澄は少しでも熱を伝えようとしっかりとマヤを包み込んでいた。
マヤは真澄の胸に抱かれながら、いつもこうして優しく自分を守ってくれていた
真澄の本当の優しさに気付く。

しばらく経っても雨はやみそうもない。
真澄は神社のそばの社務所を見つけ、そこに二人で入った。
社務所の中には一応薪ストーブもあり、真澄は湿気た木材に何とか火をつけ、
暖を取る。
濡れていた衣服を脱いで、直に真澄のコートを身にまとったマヤ。
こんな雨の中、自分が濡れる事も厭わずマヤのためにここまでしてくれる真澄。
今頃になってマヤは、真澄の仮面の奥の優しさを感じ、
どうして今まで気づかなかったのだろうと悔やんだ。
自分に投げかけられた言葉も振る舞いも、みんな自分のためのものだったのに。
みんな、真澄の優しさだったことに。
そしてマヤはようやく気付いた。
“あなたが好きです。速水さん・・・”

気を紛らわせるように、マヤを挑発するような言葉をかける真澄。
しかしマヤにはもう分かっていた。そうして真澄は自分の本心を隠してきたのだと。
そして、そうさせてきたのは他ならぬマヤ自身なのだと。
二人は社務所の中で、神社の由緒を見つける。

谷の奥に咲く紅梅は大地から発する神の“気”が“樹”となったとされ、
長い間神木とされてきた
不思議なことに季節を過ぎてもまだ花をつける紅梅はこの谷から持ち出すと
神の霊気を受けられなくなり枯れるという
南北朝のころ、世の乱れを鎮めるため一人の仏師が谷の神木を切り、
天女像を彫ってこの地に祀り平和を祈願したのが神社のはじまりとされる

尾崎一蓮はこの話をもとに『紅天女』を書いたに違いない。
「きみの紅天女を見たいものだな」
真澄の言葉にマヤは
「あたし、速水さんに喜んでもらえるような紅天女を演じたい」
と答え、真澄は動揺する。
「おれを憎んでいたのではないのか?」
「わたし、ずっとあなたに嫌われていると思っていました、だから・・・」
マヤが自分の事を憎くは思っていないということを知った真澄は優しく、
「君のことを嫌いだと思ったことは、一度もない」
と言った。
「舞台の上のきみを観るのは好きだ」
そう語ると真澄は、『若草物語』のベスから、『忘れられた荒野』の狼少女ジェーンまで、
マヤの演じてきた様々な舞台について感想を述べた。
それはまさに、紫のバラの人と同じ目線で。
「君の紅天女を見られれば、どんなに・・・・」
二人の距離が急速に近づく。
しかし落雷の音が真澄に現実を知らしめる。
そして真澄の口から「紫織」という名が出た時、
マヤは自分と真澄間の越えられない壁を感じた。
真澄が好きなのは、舞台の上の自分、女優としての自分・・・・
チビでなんの取柄もない私を、本気で相手にするはずなどない・・。

置いてあった薪も底をつき、ストーブが消えかかる。
ストーブの燃料を調達するためと外に出ようとする真澄。
しかし未だ雨降りしきる中、真澄の体を案じたマヤは、大丈夫だからと引き留める。
自分が金の卵だからと大事にしてくれるというのなら、私を一人にしないで。
速水さんが外に出るなら、私も行く!

燃料も尽き、ストーブの火が消えると、社務所の中に一気に冷気が漂う。
かじかむ手に息を吹きかけても、熱はすぐに消えてしまう。
そんなマヤに真澄は、二人で寄り添うだけでも少しは暖かくなるぞと、マヤに声をかけた。
もちろんイヤというにきまっている。しかしマヤは、
「温めて下さい、速水さん。手も足も冷えて、背中がゾクゾクします。だから」
私を温めて、雨の中のときのように・・・
その言葉に真澄は戸惑いながらもしっかりとマヤを抱きしめた。
「俺も男だからな。責任がもてなくなるかもしれんぞ」
真澄の胸に抱かれるマヤ。
朝になれば、覚める夢、それならこのひと時を私に下さい。
朝まで私に夢を見させてください。たとえ商品と思われていようとも・・・。
元より最愛の少女マヤを胸に抱き、理性を保っていることが精いっぱいの真澄は、
抑えきれない想いを必死に押さえつけると、
おれの気が変にならないうちに眠れとマヤに告げ、長く辛い夜に思いをはせた。

夜明け。
真澄の胸の中で安心したように無防備に眠るマヤ。
そのマヤの寝顔を見ながら、改めて自分のマヤへの愛情と、いつか大きく広い世界に飛び立っていく
マヤの未来を思い、真澄は静かにその唇にキスをした。
“夢はもう終わりだ・・・”

昨夜とはうって変わったように日差しが降り注ぐさわやかな朝。
二人で梅の谷を歩いて戻る。
どちらからともなく、手を繋いで歩く二人は、
このまま夢が続けばいいのに、と心の中で思っていた。
全てこの谷だけの幻。里に戻れば消える夢。

梅の谷を出る直前、マヤは1本の梅の枝を折ると、
伝えられない思いを梅の木に託して真澄に手渡した。
私の気持ちです・・・・

マヤと離れ、車に乗り込んだ真澄は、自身のコートに残ったマヤの匂いに包まれて、
今更ながらマヤを思う気持ちが高まっていく。
そして、マヤに渡された梅の木の枝に咲く花が、里に戻る途端全て枯れ散ってしまう様子に、
梅の谷の幻を感じた。
“今になってこんなに、あの子がいとおしいなんて・・・”
枯れた梅の枝、マヤの残した言葉
“私の気持ちです・・・・”
まさか、紅天女の恋・・・!?

**
「水」のエチュード
滝に着いたマヤ達、いつの間にか村人達や、紅天女を取材したい記者達が多く集まり、
ちょっとした騒ぎになっていた。
そんな喧噪も全く気にならないと言わんばかりに、亜弓は上着を大胆に脱ぐと、
上半身裸になって、川に飛び込んだ。
亜弓の演じる人魚姫・・・
その美しさは大人子供を問わず見ている者を惹きつけ、恋させた。
水の中でしか生きられない人魚姫が、王子様に恋をした。
そして彼に会うため、魔女の薬で両足を手に入れようとする。
激しい痛みが体を襲う。息苦しい。
その痛みも、思い悩んだ王子への恋心と比べれば大したものではない。
水の中でしか生きられない人魚姫は、王子の愛の中で生きる人間に
生まれ変わった。
亜弓は水に生き、恋に生きる人魚姫を華麗に演じた。

マヤの「水」
川をじっとみていたマヤは、おもむろに滝の裏側に入り込むと、
地響きのような唸り声を響かせながら、水の向こうから出てきた。
その目は、すべての人間を下に見るような、威厳と畏怖の塊。
先ほどまでのマヤとは全く異なる別人格のような表情に、見ている者達は驚く。
マヤの演じる龍神は、自然をないがしろにし、水を当たり前に享受する
愚かな人間達を痛烈に非難する。
私の力で、全員押し流してしまおうか。
再び滝の向こう側へと姿を消していく龍神・・・。
エチュードが終わってからもしばらく皆、口がきけないほどだった。

**
「土」のエチュード
亜弓は、古代から人間の生活に深く密着する土に着目し、
縄を使用して、土器をつくり、運び、調理し、祭殿に舞い、
そしてまた土器が土に戻っていく流れを、描き出した。
それは力強く躍動的な、大地のエネルギーそのもの。

マヤは、土の中で育ち芽吹く植物の種を表現し、
母なる大地に守られ、育まれ、そして未来に向かって日の当たる方向へと
豊かに伸びゆく生物の息吹を演じた。
すべての生命を生み育てる土
土からすべての物は生まれ出る・・・・

「風火水土」全てのエチュードを終えた2人、
次はいよいよ「紅天女」を演じる

**
崖から転落する寸前車から逃げ出し、九死に一生を得た速水英介は、
村に住む、耳が聞こえず、言葉の話せない男性に助けられる。
彼の家で介抱を受けていた英介だったが、いかんせん自らの力では動けず、
ましてや耳も言葉も不自由な男性に、外への連絡を頼めるはずもない。
絶体絶命の英介は、唯一自分自身が身にしていた高価な懐中時計を
その男性の腰元にくくりつけ、町で誰かに発見されることをわずかな望みとして
託した。
その合図に気付いたのは源造、そして千草だった。
因縁の二人の再会は、意外な形で訪れた。

**
「紅天女」第2次審査を通過した桜小路優は、仏師一真の役をつかむため、
仏像を見て回っていた。そしてその中に自らの思い描く仏像を見つける。
仏師海慶作・・・
桜小路はその作者に会いにゆく。

仏師海慶、本名は山本清二
普段は市役所に勤務する普通の公務員、優しい妻と元気な子供達2人に囲まれた、
普通の幸せな家庭に暮らしている。
桜小路は頼み込んでしばらくの間居候させてもらう事になった。
仕事の依頼はたくさんあれど、一向に仏像を彫る気配のない山本。
話を聞くと、まだ木の中にいる仏の姿が見えてこないのだという。
時が来れば、自然とそのまま彫りだせばいい・・・・木の内面から湧き出す形のままに・・・

その時が来た
普段見せる柔和なよきパパの顔はそこにはなく、一人の仏師が存在していた。
一心不乱にノミをふるう仏師海慶。
その近寄りがたい雰囲気を目の当たりにした桜小路は
仏師としての一真の心をつかんでいく。
己の中の仏・・・・仏師一真も己の中の仏を見つめ続けたのだろうか
自分の中の紅天女を・・・。

**
最後の課題は「紅天女」
梅の谷を舞台に、セリフの一部を演じる

誰じゃ わたしを呼びさますものは 誰じゃ
森のこだまか 夜の静寂か
いや これは血の匂い

二つの渦がぶつかりあうのがみえる
赤い渦と白い渦と 天地を荒す二つの独楽

まわる まわる ぶつかりながらはじけながら
あらゆるものを破壊してふくれあがり
ますます激しく回転してゆく二つの独楽

神の気は乱れ 戦の火がうまれゆく
二つの独楽を中心に憎しみと悲しみが広がってゆく
つぎつぎと命の玉が消えてゆく

わからぬ 人はなぜ争いあうのか
血を流し 滅ぼしあうのか
天の声がきこえぬか
地の声がきこえぬか
天と地を結び 命の玉を育てゆく 神の歌がきこえぬか

なぜ気づかぬ
この世に”魔”を呼びよせるのは人間のみ
悪しき想いが”魔”へと通じ 彼らの道をつくってしまうのがなぜわからぬ

愚かなことよ
その身を動かすものこそ 己が真の姿であることに気づかぬとは
己が命を育てゆく
天と地の神の心も気づかぬとは

“樹”は“気”じゃ
大地の神の“気”が育って地上に現れしもの
ここは神の棲まう場所 聖なる地
この梅の木は我が姿
我が力は螺旋となりて 天へ昇り 地のものを育てゆく
水のものを育てゆく
根をはるもの 地を這うもの 飛ぶもの 歩くもの 泳ぐもの
育てよ 育てよ すくすくと すくすくと
増えよ 満ちよ 幸いあれよ
まこと紅 千年の命の花を咲かそうぞ


いよいよマヤと亜弓が、紅天女に挑むというその時、
千草の心臓が悲鳴を上げたーーーー

第22巻へは・・・こちらから
*****感想**************************************
紅天女の章は、観念的でまとめにくい。
風火水土好き(一番は亜弓の土)、だけど文章にしようがないし、
無理にすると冗長になってつまらない。
だから今までよりちょっと簡略的にまとめる事にしました。
ミニエピソードいろいろあるんだけど、もー、端折っちゃう!

今回の巻で一番の衝撃は、なんといっても社務所事件なのですが、
それ以上に、私がちょっと驚いたのは、前巻でマヤと真澄二人紅天女の里で
星を見るシーン、
あんなにロマンティックなのに、真澄の最後の独白は“おやじ・・・”
なんだよね・・・・。
そっちかい、真澄さん!!

もとい、社務所事件の話。
私が初めてガラスの仮面を読んだのは中学生の時で、その頃はちょうどこの辺り、
次の次の巻くらいまでしか刊行されていなかったです。(文庫で)
しかも結構がっつり「紅天女」の内容と、千草の幼少時代が入るので、
中学生の私にとっては、社務所事件があったことで、何となく停滞気味の
マヤと真澄の関係において一つの決着が着いた気になれて
折よく途中下車できたというか。
で、長いインターバルを挟んでる間に、いつの間にか話がどどどと進んでいたという。

真澄、マヤの寝込みを襲うシリーズ第2弾
マヤは単純な人なので、好きって気づいたらじっとできないと思うのですが、
そんな時に限って、真澄の中の心の鍵MAX警戒モードになっているという切なさ。
マジ思い出してほしい、水城さんのあの言葉
「いつまでも信号は赤ではありませんわよ!!」
夜の社務所で抱き合って一夜を過ごしておいて、好きも嫌いもあるかいや。
あ、あと大都の車、壊れすぎ。


【あらすじ・感想】文庫版・『ガラスの仮面』第20巻【ネタバレばれ】

2015-02-18 02:00:54 | ガラスの・・・あらすじ
※※『ガラスの仮面』文庫版読み返してます。あらすじと感想まとめてます。※※
※※内容ネタバレ、感想主観です。※※


仮面年表は こちら
紫のバラ心情移り変わりは こちら

49巻以降の話、想像してみた(FICTION)*INDEX*はこちら

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『ガラスの仮面』文庫版第20巻 ※第12章(最初から)(途中まで)

第12章 紅天女

いよいよ本格的に『紅天女』再演への道筋がみえてきた。
月影千草が封印してから早27年、心待ちにしていた人々はどれほどの思いだろうか。
大都グループ会長、速水英介はその最たる内の一人だ。
かつて、妄執ともいえる熱情を紅天女=月影千草に抱き、物にしようとしてきた。
その呪縛により尾一蓮は命を落とし、千草は逃げ、英介から離れて行った。
今こそ、なんとしてでも大都が『紅天女』を手に入れる。
英介の気炎を見つめる真澄は、自身の生い立ちを思い返していた。

速水真澄、当時は藤村真澄として速水邸にやってきたのは、6歳の時だった。
やんちゃでガキ大将だった真澄少年は、早くに父を事故で亡くし、
母ひとり子ひとりで育てられていた。
その母、文が速水邸で住込み家政婦として働く事となり、共に速水邸で暮らすこととなる。
屋敷の主、速水英介は14歳の時に岡山の田舎を飛び出し一人上京し、
時には後ろ暗いことも辞さない剛腕と機を読む商才を発揮して大都運輸を興し、拡大させ
いまや大都グループという大企業のトップに君臨していた。
幼少時代に妾の子として不遇の時代を過ごした反骨心が、たとえ身内であろうと
能力のない物は容赦なく切り捨てる、血も涙もない辣腕を生み、会社の利益を
何よりも優先させる冷徹な企業人として恐れられていた。
若き日に南方の戦地で熱病にかかり、それが原因で子を残せない体になっていた英介は、
40歳近くになっても独身を貫いており、誰とも結婚する気はないように見えた。
血縁関係など一切信用していないむしろ仕事にとっては悪とすら考えている英介だったが、
親族から、身内を引き立てるよう下卑た催促が止まない中、
兄弟から自分たちの子供を将来の後継者に育ててはどうかという
あからさまな提案がなされた時、英介は一つのテストを出した。
この屋敷の池の泥さらいをやってみろーーー
幼い子供たちは池の中に入って泥さらいをやってみるが、当然出来るはずもない。
こんなこと、子供たちの手では無理に決まっている、と気色ばむ兄弟を前に、
英介は、そばにいた真澄に同じ問題を投げかける。
思案していた真澄は、ここがきれいになればいいんですよね、というと
庭師となにやら話をし、あっという間に、庭師が専用車両を搬入、
池の泥さらいを始めた。
「池の汚はすごくいい堆肥として利用できると、以前庭師の人が言っていたからちょうどいいと思って」
池の泥をきれいにしたい者と、
池の泥を手に入れたい者、
それぞれの利害が一致して双方に有益となるやり方で、真澄は英介の問題を解いてみせた。

英介は、自身の後継者を自らの手で見つけ、育成することを画策していた。
条件はただ能力の有無、たとえ身内であろうと容赦しない。
そんな英介は、住込み家政婦の連れ子、真澄に目を付けた。
秘かに真澄の身辺調査を進めていた英介、真澄が健康体でスポーツ万能、
勉学も学年トップクラス、人望も厚いという情報を入手すると、計画を実行に移すため、
真澄の母、文と結婚、真澄を養子として速水家にいれた。
速水真澄となった真澄は、これまで通っていた小学校から、教育カリキュラムの徹底した
名門校へと編入、今までの野球仲間や学校の友達、帰りによく通った鯛焼き屋のおばさん達と
別れ、英介の後継者となるべく英才教育を施されることとなる。

英介の教育に、親の愛というものは一切なかった。
全ては最高のビジネスマンとして、大都の後を継ぐ人間を育てることだけが目的だった。

期待に応えられなければ容赦なく切り捨てられる。
まず最初に命じられたのは大都の掃除。
会社では決して英介に話しかけてはいけない。
来る日も来る日もつづく掃除の日々。そのうち真澄は会社にいる者達の
裏の顔が見えてくる。
大都の掃除を続けた1年後、英介が社員たちに真澄を自身の息子だと紹介した。
これまで掃除のおばさんの子供だと思って見くびっていた社員たちの
目の色が変わる。真澄への態度が一変する。
どんなに表面的にいい言葉を並べていても、
決してうわべだけを見て人物を信じるなと叩き込まれた。
社員に紹介されて以降は、会社で様々な特殊教育を受けた。
歴史・経済・法律・経営学・・・・
そして政治家や財界人の集まるパーティーにも出席し、
人間関係を観察する。
失敗すると容赦なく張り倒された。

家政婦上がりの遺産目当て・・・と親族から露骨な蔑みにあいながらも
必死に耐える母、真澄自身も、養子のくせにといじめを受ける。
ある日、英介が親戚一同会している中、真澄にプレゼントだと言って
豪華な鉄道模型を渡す。
父と呼べる人からのプレゼントに喜び、早速それで遊び始める真澄。
しかしその様子を妬んだ義理のいとこたちによっておもちゃは破壊され、
使用できなくなった。
悔し涙を流す真澄に、英介は冷たく言い放つ。
これが妬みを受けるということだ。
同じくらいの立場にある人間が、周りよりも幸運を得た時、目に見えない敵を作る。
幸運を手に入れても見せびらかすな、隠していろ。
英介はそのことを教える為に、わざと皆の前でプレゼントを渡したのだ。

英介にとっての紅天女、それはまさに真澄の人生を大きく左右した運命でもある。
真澄が初めて“紅天女”に出会ったのは、まだ養子になる前、速水邸に来たばかりの頃だった。
たくさんの部屋がある大邸宅、その中で決して近づいてはいけないと言われた奥の部屋。
ある日真澄はその部屋の扉が薄く開いているのを見つけ、好奇心から中を覗いた。
その部屋にはーー
紅天女演じる月影千草のポスターを始め掛け軸や舞台の小道具など、ありとあらゆる
紅天女にまつわる物が飾られていた。
真澄が中にいる事に気付いた英介は、真澄が紅天女の打掛をつかんでいることに気付き
烈火のごとく怒り、真澄の頬を思い切り打った。
紅天女に魅了された英介の目はまさにこの世の者とは思えない、何かに取りつかれたような
狂気すら感じる揺らぎを放っていた。
そして二度とこの部屋に入るなと真澄を追い払った。
それが、真澄と紅天女の初めての出会いだった。

英介と結婚しても、周囲は家政婦上がりの文を白い目で見る。
次第にひきこもりがちになる母、ある日高熱を出して倒れた母を助けるため、
義父の姿を探すが、英介は文の病気の事など気付くこともなく、
例の奥の部屋で紅天女の事だけに没頭していた。

ある日、いとことケンカして家を飛び出した真澄は、あてもなくバスに乗って
街をさまよううちに、区立文化会館にたどり着く。
係員が、お金を持たない真澄をプラネタリウムに入れてくれた。
そこで見た初めての満天の星。
宇宙の大きさに吸い込まれていくような感じ。
自分の存在の小ささ、心だけがぽっかりと宇宙の中にいるような感じ。
気付くと真澄はただひたすら星を見続け。涙を流していた。
その日以来、真澄は心をなぐさめたい時はいつもプラネタリウムをたずねるようになった。

義父・英介にとって価値基準は会社の得になるかどうか。
得になるうちは大切にするが、価値がなくなるとあっさり切り捨てる。
そうして大都グループを大きくし、発展させてきた。
そんな英介のたった一つにして最大の夢、それが「紅天女」を自ら上演すること。
大都芸能こそ、その夢の実現の為に興した事業の最たるものである。
まだ、がむしゃらに働いていた若い頃に出会った月影千草の「紅天女」、
あとにも先にもあんなに感動を呼び起こされたことはない。
人を人とも思わぬ英介が唯一どうにもならない相手、それが「紅天女」の千草だった。
英介は舞台の上の幻を愛し、追い続けていたのだ。

そして、真澄の心を決定づけさせる一つの事件が起こる。
10歳になって間もなくの秋、真澄は学校帰りに連れ去られた。
英介がとある政治家の総裁選挙のための資金として、多額の裏金を
持っているという情報を入手した犯人グループが、その金目当てに真澄を
誘拐したのだ。そして港の倉庫に連れて行かれた。
速水邸に電話をかけ、身代金を要求する犯人。
しかし、英介はいたずら電話だと取り合わず、電話を切ろうとする。
私に子供はいないと言い放ち。
焦った犯人は、真澄に命乞いをするよう命じた。
「助けて、おとうさん、ぼく殺されちゃうよ」
英介は何も言わずに電話を切った。

・・・見捨てられた・・・

その時、真澄は自分の力しか信じる物はないことを悟った。
父親に見捨てられたと知られれば、自分の利用価値はなくなり殺される。
そのことを知られずに、演じなければ。
隙をついて真澄はナイフを犯人の脇腹に突き刺し、
その隙に逃げ出すと、手首を縛られたまま真っ暗な海に飛び込んだ。
海の中で意識を失う寸前、幸いにも巡視艇に救出され、病院に運ばれた真澄。
その後犯人グループは英介の指図で裏の力を使い半殺しの目に遭わされたが、
それは真澄のためではなく、裏金の口封じが目的だった。
英介は、真澄より、政治資金を選んだのだ。
病院のベッドで目を覚ました真澄は、人を愛するという心を喪失した。
真澄の心は、あの暗く冷たい夜の海の中で、死んだのだ。

そしてあの日、真澄が中学2年生の時。
速水邸が火災に見舞われる。
火のまわりが早く、わずかの家財道具を持ち出すのが精いっぱいといった状況で、
自宅に戻ってきた英介は、なによりも紅天女のことを心配する。
なぜ、紅天女の物を持ち出さずに逃げたのだと真澄の母を責める英介に、
文は水をかぶり、未だ炎盛んな屋敷に飛び込み、
命からがら紅天女の打掛を救出した。
ひどいやけどを負う母、しかし英介はそんな文の姿には目もくれず、
助かった打掛にばかりに気をもんでいた。
結局、その時のけがが原因で文はほぼ寝たきりになり、翌年亡くなった。
真澄の中で、義父英介に対する明確な意思が定まった瞬間であった。
義父のせいで、母は死んだ。
義父が何より大切にしている紅天女を、奪ってやる。
その日以来、真澄はすべての学問やスポーツといったものは、
仕事に役立てるためのツールとしてしか考えず、自らの興味や関心を抱いて
動く事は一切なかった。
高校に入ったころから、志願して英介の秘書を務め、
大学卒業後、選んだ仕事は大都芸能・・・それは全て、紅天女のためだった。

10年前、北陸の街で偶然月影千草の姿を見かけた英介は、車でその後を追った。
しかしその時交通事故に遭い、両足をやられた英介は、車いすと杖の生活となる。
紅天女によって英介への恨みを増大させた真澄、皮肉にもそんな二人を繋ぐものはただ一つ、
紅天女だった。

人を愛さないと決めた、冷たい海。
仕事のためなら何でもやる、紅天女を自分の手にするまでは。
そんな真澄の氷の心を溶かしたものこそ、
11歳年の離れた少女、北島マヤの演劇へかける熱い情熱だった。

**
速水邸に自ら育てた花を届けに訪ねた紫織は、英介から
真澄の子供時代のアルバムを見せてもらった。しかし真澄の写真から
ある年を境に一切笑顔が消えていることに気付く。
氷のような、冷たい表情をした少年・・・。
自分にはいつも優しく穏やかな笑顔を向けてくれる真澄の心の奥底が気になった。
真澄と見合いをして以降、紫織は急速に真澄に惹かれ、愛おしむ気持ちが高まっていた。
いつも素敵なレストランに連れて行ってくれ、優しくエスコートしてくれる。
しかし準備してくれる花はきっと全て秘書の選んだもの。真澄から、正式は返事はいまだない。
しびれを切らした紫織は、真澄がいると聞いて伊豆の別荘を訪ねた。
そこで真澄に返事を迫るがそこにあったのは複雑な表情の真澄だった。
あなたは困っていらっしゃるのですね、張り裂けそうな気持で、紫織は別荘を後にした。

もう、これ以上は引き延ばせない。
真澄は観念した。
待っていても、どうにもならないマヤとの関係。
鷹宮紫織ー結婚相手には申し分のない女性、大都芸能にとっても、おれにとっても・・・。
決して消えることのないマヤへの思いを封印し、紫織の誠意には努力で報う覚悟。
決意した真澄は、初めて自ら選んだ花をもって、鷹宮邸に紫織を訪ねた。
返事をするために・・・
しかし、真澄の心の中の紫のバラは、決して枯れることはない・・・・。

**
アカデミー芸術祭授賞式終了後、
全日本演劇協会は、紅天女上演特別委員会を設置し、
全ての配役をオーディションで決定することを発表した。
有名無名を問わず、多くの応募者がいたが、大半は書類選考で落とされた。
そして、第1次審査、2次審査を経て、いよいよそれぞれの役2名ずつ候補が絞り込まれた。
第3次審査では、俳優、演出家それぞれ2組に分かれて双方紅天女の試演をし、
全ての配役、演出家が決定される。

演出:小野寺一
紅天女:姫川亜弓
一真:赤目慶
帝:市村正春
十市:寺田みどり




演出:黒沼龍三
紅天女:北島マヤ
一真:桜小路優
帝:百木房男
十市:史塚京子




そのプランは、まさに大都芸能が描いていた地図と全く同じ道筋だった。
“頼みましたよ、理事長・・・”
手を出せなくなったはずの紅天女の行方を、穏やかに静観する真澄。
まずは、それぞれの紅天女候補が、紅天女の故郷で月影千草の一ヶ月に及ぶ稽古を受ける。

**
姫川亜弓は、紅天女の故郷、奈良の梅の谷へ向かう直前まで、必死に基礎練習に
励んでいた。
周辺の人間は、何故亜弓がそこまで必死になって練習を重ねているのか理解できない。
千年からなる梅の木の精、絶世の美女紅天女・・まさに亜弓のはまり役。
しかも相手は北島マヤ、亜弓の敵ではないはずなのに。
稽古場に、世界的に有名なフランス人カメラマン、ピーター・ハミルがやってきた。
噂高い姫川亜弓の写真を撮らせてもらいに交渉するが、亜弓は拒否する。
亜弓にとって、見た目の美しさなどなんの価値もないのだ。
亜弓は周囲が言うように、自分は演技の天才ではないことを十分に理解していた。
本当の天才は北島マヤ、あの子の方だと。
マヤのように、内面からすべてを役に塗り替える才能、誰よりもその才能を知り、畏れているからこそ、
自分はもっともっと努力し続けなければならない。
そして紅天女をわが手にし、
自分の流した努力の汗が、報われると信じたい。
自分の写真を撮りたいというハミルに、もし表面的な美しさではなく、
稽古の時の汗まみれの姿を美しいと思える時が来たら、承諾してもいいと告げ、ハミルを袖にした。

北島マヤは、芸術祭授賞式で受け取った紫のバラのメッセージを握りしめ、
呆然としていた。
紫のバラの人、中学生の頃からずっと私を支援し、励まし続けてくれた人。
私のファン・・・まさかその人が、速水真澄だったなんて。

信じられない、という気持ちがある一方、これまで幾度となく感じた心の奥底の優しさ、
そして紫のバラの人と絶妙に重なる存在感・・・。
かたきだと思っていた人が、最愛の紫のバラの人であるかも知れないというショック、
もし速水が紫のバラの人だったとしたら、これまで自分がかけてきたひどい言葉の
数々を思うと胸が痛い。
信じられない、でも信じられるような・・・
マヤの胸中は複雑に乱れていた。
東京の空のように、スモッグや地上の明かりにじゃまされて、真実が見えない。

紅天女の故郷へと発つ直前、マヤは麗達と母の墓参りに訪れた。
墓地に着いたとき、真澄の物と思われる車、そしてその後ろ姿を目撃する。
速水さんが、母さんの墓参りに?
墓前には、紫のバラが供えられていた。
やはり真澄が、紫のバラの人?
マヤはそばに万年筆が落ちているのを見つけると、確認するためそれをもって
大都芸能を訪ね、真澄がいるという映画の試写会場へと向かった。
真澄の周辺関係者に、落し物だと墓地で拾った万年筆を預けると、
真澄はその万年筆を確認し、確かに自分の物だと胸ポケットにしまった。
やはり、紫のバラの人は、あなただったんですね。

飛び出しそうな気持を抑えきれないその瞬間、真澄の隣に親しく寄り添う紫織の
姿を見たマヤの足は止まる。
ずっと会いたかった、紫のバラの人。
真澄がその人だと知った時、真澄は既に誰かと一緒になろうとしている。
マヤの心の中には、真澄への思いと、紫のバラの人への思いが
どんな感情なのかもわからないまま、複雑に絡み合っていた。

旅立ちの日ーーー
東京駅のホームに現れた真澄に、いつものような反応が出来ないマヤ。
いぶかしく思いながらも軽口をたたいてその場を後にした真澄を、
マヤは必死に追いかける。
あなただったんですね、紫のバラの人は・・・・・!!
その言葉は届かず、マヤは心残りを残したまま、新幹線で紅天女の故郷へと向かった。

**
演劇協会理事長と共に新幹線から在来線、タクシーと乗り継ぎようやくたどり着いた梅の里。
源造が出迎えてくれたが、これから亜弓とマヤが住まいとするさびれた山寺に
千草の姿はない。
尾崎一蓮が幼少時代に過ごしたというこの寺でこれから、
二人は様々な指導を受けることになる。
翌日朝の澄み切った静けさの中、マヤは誘われるように梅の谷へと足を踏み入れる。
するとそこには・・・・・
一面が紅に染まっているかのような圧巻の梅の木々、
すでに盛りは過ぎているはずの今の時期に、紅梅が咲き乱れている。
まるでこの世の物とは思えない、唯一無二の世界が広がっていた。
そして後から姿を見せた亜弓、理事長と共に、
マヤはその紅梅の中に天女を見た。

月影千草・・・・

そこにたたずむ姿はまさに梅の木の精

『紅天女』
時は南北朝時代
国々が戦で乱れていた頃、帝が平和を願い一人の仏師に天女像を彫るよう申し付ける。
仏師は何体も彫るが気に入ったものができない。
天女の魂の宿った仏像を彫るにはどうすればいいのか。
思い悩む仏師に、千年からなる梅の神木の存在を教える者がいた。
その梅の木を切って天女像を彫れば、きっと魂のこもる素晴らしい像になるだろう。
仏師はその梅の木を探す旅に出る。
そして、仏師は一人の乙女と出会う。
千年からなる梅の木の精、紅天女と・・・。

亜弓とマヤはこれから、紅天女とは何かを学んでいく。
圧倒されるマヤと亜弓に、千草は梅の木になれと指示する。
とっさにその場にたたずむ二人。
優雅な構えで指先まで美しく紅梅の雰囲気を醸し出す亜弓に対し、
じっと根をはるように構えるマヤ
対照的な二人の演技。
片方は舞台での見栄えは明白ながら、時間が経つにつれて人間性が見えてしまう、
片方は朴とつながら不思議と時間が経つごとにどんどん梅の木になっていくように見える。
二者二様の演技、
千草はここで、二人に「風火水土」の演技をしてもらうと告げた。

「風」のエチュード
亜弓は微塵も動く気配なく、じっと向こうを向いてその場に立ち尽くした。
長い間。静かな時間の経過。そして、
ピクリと左肩を動かすとゆっくりとそして実に優雅に
後ろを振り返り、なびく髪をかきあげた。
うなじをすっと吹き流れる一筋の風を描きながら・・・。

マヤは床に膝を抱えて座り込むと、ゆっくりと上半身を回転させていった。
つむじ風・・・
そして回転しながらゆっくりと立ちあがると突如ピタリと止まり、
次に体を波のように動かしながら上半身から腕にかけてゆらゆらと揺れる。
そよ風・・・
その後も向かい風、追い風と風の動きを表現し、
再びゆっくりとした回転運動ののち、最初の膝を抱えた姿勢に戻っていった。

亜弓は、目に見えない、形のない風を感じさせる演技を目指していた。
吹いていないはずの風が、吹いているように感じさせる。
自分自身の体を使って。
身に付いた基礎的な美しいたたずまいと相まって、亜弓の動きは1つの洗練された芝居のように
見る者を一瞬で魅了した。
一方マヤは、自ら風になろうとした。
千草に、演じろといったのであってなれとは言っていないと厳しい言葉を受けたが、
亜弓にとっては、風にすらなろうと思うというマヤの天性の役者魂に恐れを感じた。

「火」のエチュード
風の演技でマヤが見せた風になろうとする演技。
亜弓はそんな風に自分も、火になろうと決める。
ろうそくの炎の揺らぎをじっと見つめ、音楽のリズムと合わせながら、
ひたすら火のリズムを体に刻み込む。
燃え尽きるまで踊り続ける火・・・

マヤはかまどの火を見ながら、火についてじっと考えていた。
なろうとしてはいけない、演じなければ・・・。
考えるうちにマヤは、心の中に宿る火を表現できないかと考えた。
自分の中で燃えさかる火・・・・。
しかしうまく演技として具現化できないもどかしさを感じている。
そんな時、源造の代わりに町の病院に千草の薬と取りに行くお使いを頼まれたマヤは、
病院で聖に似た人物を見つける。
もしかして真澄がなにか調べさせている。常にこちらの様子を探っている。
敵なのか味方なのか、真澄への疑念を募らせながら、ぼーっと歩いていると、
偶然速水英介と再会した。
もちろん真澄の義父、大都グループ会長の英介だとは知る由もないマヤ、
缶ジュースのおじさんと呼び、再会を喜ぶ。
近くの湯治場にきているというおじさんと、ぜんざいを食べながら紅天女に関して話をしていると、
おじさんが、「八百屋お七」の事を教えてくれた。
江戸時代、火事がきっかけで出会った寺小姓吉三に恋をしたお七は、
火付けは死罪と分かっていながら
吉三会いたさに火をつける。
燃える江戸市中と、お七を燃やす恋の炎
本を読み、マヤは心の火を急速につかんでいく。
“吉三さん、会いたい、会いたいよ・・・”

山寺で亜弓と火について語らうマヤ。
「あなた恋をしたことがある?」
亜弓に聞かれ、マヤはかつての甘い初恋を思い出す。
今は?と問われた時、心の中にふと真澄の顔が浮かんだことに動揺した。
まだ私は、本当の恋なんてしらない・・・魂のふれあうような思いのする相手なんてそうは・・・
そう語る亜弓。
やれるだろうか、紅天女の恋・・・・。
これまで亜弓は人知れず誰よりも努力を積んできた。
しかし、努力や情熱だけではできない演技もある。
マヤにだけは負けたくない。
ずっとマヤの才能をうらやましいと思っていた。
亜弓の告白に、マヤは驚き、自分も亜弓に負けたくないと強く思う。
二人それぞれの火の演技が、始まる・・・。


第21巻へは・・・こちらから
*****感想**************************************
そうでした・・・。真澄の幼少時代回顧録があるんでした。
あと、英介との確執の理由も。
まるで美味しんぼの雄山と士郎ばりに恨み持ってますが、雄山が途中からいい人キャラに
すり替わって行ったのに比べ、とりあえず英介はずっと悪役キャラで通してくれてはいる気が。
(でもマヤにだけ心開いちゃうところとか、まさに栗田ゆう子だな・・・)
風火水土のエチュード、好きなんですけどよくよく読み返すと、
真澄が完全に諦めて紫織と正式婚約しちゃう下りとかが紛れててショックでした。
初めて自分で選んだ花は・・・マヤに送った紫のバラだよ。
でも、紫織さんもちょっとずつ真澄とマヤとのただならぬ関係(因縁?魂の片割れ?)への
潜在的な不安を感じていたんだろうなと思います。
だから、脅しみたいに伊豆の別荘に押しかけて、返事キボンヌしちゃったんだな~。

真澄に見合い話が出たのが、『ふたりの王女』の上演中(1月~2月)で、
ずっとそれを受け入れずに拒否ってたのが千秋楽後(3月あたり)。
で、マヤ強引に誘ってデートして、紫のバラカミングアウトしようかとしたけどできなかったので、
結局見合いをしたのが、マヤが『忘れられた荒野』のオファーを受けた頃(4月あたり)。
で、そっからずっと見合い相手っていう、いわばなんの公式なポジションでもない立ち位置で
徐々に真澄の横に紫織が立つようになって(恋人?って感じなのかね)、
それが延々ほぼ1年くらい続く。
『忘れられた荒野』も終わって(秋~年末)授賞式も終わって(翌年2月)、いよいよ本格的に
紅天女の稽古に入ります、って時にようやく婚約(5月ぐらい?)だから、
確かに紫織さんも随分と待たされてますよね。単体で見ればかわいそうかも。
でもそんぐらいマヤ恋しさにはぐらかし続けていた真澄の、ある意味強い精神力・・・。
エチュード時点で真澄31歳、マヤ20歳です。(桜小路君は22歳)
そうか、もうチビちゃんじゃありませんっ!(←STAP的になってる)って言ってたのは
もうハタチになりました、って意味だったのねマヤ。

ここから一気に時の流れが遅くなってゆきます・・・。
最優秀演技賞を受賞して、紫のバラの人の正体が分かって、真澄の事が好きって気づいて、
その思いを確かめ合って(まだ先の話)、で紅天女に選ばれる(かはまだ不明)
を全部この1年で経験することになるマヤ・・・・
すごい人生のターニングポイントな一年なのは間違いないですね。

次の巻はい・よ・い・よ・・・・社務所



【あらすじ・感想】文庫版・『ガラスの仮面』第19巻【ネタバレばれ】

2015-02-14 22:22:15 | ガラスの・・・あらすじ
※※『ガラスの仮面』文庫版読み返してます。あらすじと感想まとめてます。※※
※※内容ネタバレ、感想主観です。※※


仮面年表は こちら
紫のバラ心情移り変わりは こちら

49巻以降の話、想像してみた(FICTION)*INDEX*はこちら

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『ガラスの仮面』文庫版第19巻 ※第11章(途中から)(最後まで)

第11章 紫の影

「こい、ジェーン!!」
パーティーに供されていた骨付き肉を床に投げ、狼少女のマヤを挑発する真澄。
四つん這いになって真澄に歯向かうマヤ。
“あたしを人前で笑い者にする気なんだわ、なんて下劣なの”
マヤの中の闘志に火が付く。
乱雑に脱いだスーツの上着を振り回し、マヤをあおる真澄。
まるで本物の動物のようにその攻撃をかわすマヤ。
いつしかロビー内はこの二人のやり取りに注目し、
記者たちもフラッシュをたいてその様子をカメラに収める。
“わたしは、ジェーン”
狼少女ジェーンとして、真澄にとびかかるマヤを、真澄は乱暴に突き飛ばす。
テーブルに倒れこむマヤを助けようと、とっさに飛び出す桜小路を黒沼が邪魔するなとどやす。
さらに真澄は転がっていた肉を蹴り、それを階段の上に放り投げると、
「どうした、エサは上だぞ、それともシッポをまいてにげるか?おっとシッポはなかったな」
と嘲笑する。
マヤはそんな真澄の右手に力いっぱいかみつくと、手にしていたスーツを奪い、それを
両手で踏みつけた。
その姿はまさに狼そのもの・・・。
そしてそのままゆっくりと四つん這いで階段を上り、上の肉を咥えると、
その肉を階下まで運んだ。
「ゲームセットだな、チビちゃん」
そういう真澄に肉を投げつけると、
「これで気がすんだでしょ、あなたなんて最低だわ!大きらい!あなたなんて死んじゃえ!!」
と叫ぶと泣きながらその場を後にした。

たった一度だけのチャンス・・・・
マヤは見事、自らの演技力で注目を集めることに成功し、
『忘れられた荒野』の話題は一気に演劇界の中心に躍り出た。
だれももう、『イサドラ!』の話をする者はいない・・

誰もいない場所で一人、たばこをふかす真澄。
子どものころから本心を悟られまいと、人前ではいつも感情を抑えてきた。
人前で感情を見せる時、それはたいてい目的があっての事、
そんなことには慣れていたはずなのに、なぜか疲れる
マヤに言われた、大っ嫌いという言葉が離れない。
真澄はマヤにかまれた右手の傷からにじむ血を、ゆっくりとなめていた。

**
翌日の新聞では真澄とマヤのやりとりが大きく報じられ、
『忘れられた荒野』は一気に注目を浴びる。
問合せは殺到し、前売り券は飛ぶように売れだした。
そしてアカデミー芸術祭実行員会から、ぜひ舞台を見たいと連絡が入る。
それもこれもすべて、真澄がマヤに喧嘩を仕掛けたため・・・

屋台に真澄を呼び出した黒沼が、感謝の言葉を告げる。
こうなることを予想して、あんなことをしたのだろうと真澄に話す黒沼。
それをはぐらかす真澄。
真澄は確かにきっかけを作った。しかしあそこでマヤが完璧な狼少女を演じなければ
結局はだれも芝居に興味を持つことはなかっただろう。
すべてはあの子の実力だと語る真澄に、何をたくらんでいる?と訊く黒沼。
そんな黒沼に、あなたの事は経歴実績、過去の舞台の記録まですべて事細かに
データを集めていると告げる。
何故そんなことをしているのかという問いに、その答えは舞台を見てからと答える真澄。
「紅天女」の候補は役者だけではない・・・・
その言葉に黒沼は、自分が演出家として幻の名作に携われる可能性を感じ、
自分を高く買ってくれている真澄の期待を受け、やるだけの事をやる決意をする。

あんなにつらい思いをした『イサドラ!』舞台初日、
しかし結果として真澄とのやり取りが『忘れられた荒野』が注目を浴びるきっかけとなったことに、
マヤは微妙な気持ちを抱いていた。
約束の招待状、やはり直接渡す気に慣れないマヤは、水城にそれを託す。
そして水城に、真澄は結果を考えないで動く人間ではないと言われる。
その意味を図りかねるマヤ。しかし水城は理由は自分で考えなさいと告げ去って行った。
あの冷血漢がなぜ、私たちの為に・・・。

いよいよ舞台初日が近づき、黒沼の指導も熱を帯びる。
一本の脚本から何本もの芝居が生まれる可能性がある。
その可能性を引き出す、生きた舞台をやる為に・・・・

いよいよ明日は初日。紫のバラを届けてくれた聖に、紫のバラの人が初日に
来てくれることを聞いたマヤ。
バラを抱え、紫のバラの人に喜んでもらえるような芝居を一生懸命やることを誓う。
しかしそんな中、巨大台風が関東に迫っていた。

**
『忘れられた荒野』@雨月会館 初日
台風9号は依然風雨衰えず、今夜8時頃関東方面を通過する予報が出ている。
大雨注意報が発令され、海上付近は高波の危険もある為注意が必要ーーー
初日にはアカデミー芸術祭関係者も多数来場する予定となっていた、
しかし今夜8時というと芝居の真っ最中・・・
たとえ一人でも、観客がくれば幕は開ける、そう語る黒沼だったが、
風雨はどんどん激しくなる。

高速道路は封鎖され、首都圏のバス、電車は全面運休、
雨月会館へと続く道路も通行止めとなる。
車で劇場に向かっていた真澄は、傘もさせない嵐の中車を降り、歩いて向かう。

一人でも観客が来れば舞台はおこなう、そういった黒沼だったが、
上演時間を過ぎても、こんな天候ではさすがに誰一人訪れない。
紫のバラの人も、初日に来てくれると言っていたのに・・・。
「どうしたんです?みなさん 上演時間のはずですが」
劇場に現れた、びしょ濡れの真澄。
なぜこんな日に私たちの芝居に、と尋ねるマヤに、
君が招待してくれたのは今日だろう、おれは約束は守るといっただろう?
と言うとマヤに早く舞台にあがるよう促す。
「あたしきっとあなたに恥ずかしくない狼少女を演ってみせますから・・・!」
真澄に誓うと、マヤはジェーンになるために急ぎ舞台裏で準備を始める。

観客席には、真澄一人・・・・
真澄の為だけに演じる、狼少女ジェーン
あなたが最後までその席を動かないように、演じます、速水さん。
観ていてください。

舞台上のジェーンは、まさに狼。
身のこなしと、表情に現れる無の感情は、真澄をひきつけてやまない。
しかし途中、停電により舞台の照明が落ちる。
真っ暗闇に包まれる劇場、停電は周辺地域広範囲にわたり、
復旧の見込みは立たない。
残念ながらここで中止か・・・黒沼もあきらめかけながら
ひっぱり出してきた懐中電灯を舞台に向けた、その先には・・・
ジェーンとしてその場に立ち続けていたマヤの姿があった。
例え光があろうがなかろうが、舞台上ではマヤはジェーン。
そう、幕が下りるまでは、ジェーン。
懐中電灯の灯りだけを頼りに、舞台は再開する。

暴れるジェーンを必死に取り押さえ、鏡に映るその姿を認識させるスチュワート。
ジェーンが初めて、自分が人間のジェーンであることを認識する。
そして手にした青いスカーフに残るスチュワートの匂いに、
この人がスチュワートという人間であることを認識する。
狼から人間への変化の過程を、マヤは見事に演じていた。

スチュワートがジェーンの元を去って行った。
ジェーンに残されたのは、あの青いスカーフだけ。
そのスカーフを握りしめ、必死で教えられた言葉を口にするジェーン。
そして、もうそばにはいないスチュワートの名を叫び続ける。
そのマヤの演技に、真澄は改めて自分がどれほどこの少女に惹かれているのかを感じる。
舞台上でこんなに輝くことのできる少女。
それは、うらやましいとも思えるほどに。

終演ーーー
真澄の拍手の音が劇場に響く。
台風の中見に来てくれた真澄に、打ち上げに参加してくれと誘う黒沼。
最後まで席を立たず見てくれた真澄にお礼を伝えるマヤに、
君のジェーンはすばらしかった、最高だったと語る真澄。
顔を赤くしながらも、真澄の髪がまだ濡れていることに気付いたマヤは、
先ほど舞台上で使ってそのまま持っていた青いスカーフで
真澄の髪を拭く。
思わぬマヤの行動に、動揺する真澄。
そのスカーフを手にすると、ジェーンがこのスカーフについたスチュワートの匂いを
かぎながら人間に目覚めていくシーンは感動的だったと語った。
舞台衣装のままのマヤを見つけ、着替えるように促す桜小路。
その様子を見ていた真澄は、手にしていたスカーフをロビーの椅子に置くと、
一人嵐の中会場を後にした。
“おれの中の嵐も当分やみそうもないな・・・”
いつの間にか消えた真澄、この嵐の中を・・・・。
打ち上げの途中、黒沼のたばこの火が、真澄が残した青いスカーフに移り燃やしてしまう。
仕方がないと、翌日からは別の赤いスカーフを使うこととなった。

ロビーで、マヤは真澄の事ばかり考えていた。
どうして、あんなに憎んでいたはずのあの人の事を考えてしまうのだろう・・・・。

この日の出来事が、のちに二人の運命を大きく変えることになるとも知らずーーー

**
『忘れられた荒野』2日目は、実質初日といってもいい盛況だった。
およそアカデミー芸術祭参加作品でないとは思えない、演劇関係者の集合。
演劇協会理事長まで訪れた。
そしてその中に、真澄の見合い相手、鷹宮紫織の姿もあった。

紫織は心の中に得も言われぬ不安を抱いていた。
以前、真澄の伊豆の別荘を訪ねた紫織は、本棚の奥に隠されたアルバムを見つけた。
それは、以前マヤが紫のバラの人にとまとめた舞台写真だった。
そして昨日、あの台風の中、観劇のため劇場に向かったという真澄。
マヤの舞台を見る為に・・・・。
北島マヤ、あの少女はあなたにとって・・・・いったいなんなのですか?
注目を集める『忘れられた荒野』しかし、今日失敗すれば・・・3日目はない。

ジェーンとして舞台に上がるマヤ、遠吠えをする姿はまさに狼。
そしてマヤは気付く。
劇場の一番後ろに、千草が立っていることに。

『忘れられた荒野』は、そのジェーンの圧倒的な演技力がいかんなく発揮され、
観る者を全てその世界に引き込んだ。
芸術祭審査員や演劇協会会長も、惜しみない拍手を送る。
終わるや否や千草の姿を追いかけたマヤだったが、その姿はすでにない。

終演後、舞台の迫力に感動した藤美社長をはじめとする芸術祭審査員や
演劇協会関係者に対し、黒沼は5日後にもう一度舞台を見てほしいと告げる。
黒沼は、芝居の可能性に挑戦するという・・・。

翌日アカデミー芸術祭では、急きょ委員会が招集され、
『忘れられた荒野』はアカデミー芸術祭参加が承認された。
これもすべて、昨日の芝居の成功が、ひいてはあの『イサドラ!』の舞台初日で
真澄が仕掛けたあのケンカの結果が導いたもの。
マヤは以前水城が言った「真澄は結果を考えないで動く人間ではない」という
言葉を今更ながら思い出す。

評判を聞いて高まる観客たちは、その評判以上の舞台の熱気に魅了され、
口々に熱く感想を語り合いながら劇場を後にしていた。
そんなロビーでマヤは、以前駅のホームでであったおじさんと再会する。
まだジェーンが体から抜け切れないとぼーっとするマヤだったが、
以前缶ジュースをおごってくれたあのおじさんだと気付くと元気を取り戻す。
そしておじさんにほめてもらって少し気恥ずかしい気持ちを抱く。
マヤはまだ、その人物が速水英介であることを知らない。

マヤの舞台を見た後、紫織は真澄と訪れたレストランでその感想を語っていた。
初めて見るマヤの演技はまるで本物の狼のよう。
まさに天性の女優、真澄も女優として興味を持っているのだろうと、
何とか不安な心をおさめようとする紫織だったが、
真澄の「紅天女」に対する異常ともいえる執着心に、さらに不安が高まる。
真澄のとっての紅天女とは、そして女優・北島マヤとは一体・・・・。

舞台5日目、黒沼は演出方法を大胆に変更した。
客席を取り払い、舞台上にも観客を入れる。
劇場全体を舞台として、時に観客の真横に、時に足元を狼少女が駆けぬける。
その臨場感にまるで自分も芝居の一員になったかのような錯覚を感じ、引き込まれる。
更にその5日後、『忘れられた荒野』はコメディとして新たな芝居に生まれかわった。
その後も時に喜劇時に悲劇、あるいは人間社会を痛烈に皮肉るアンチテーゼや
ジェーンとスチュワートの純粋な恋物語など、まったく同じセリフなのに、
まったく違う舞台がそこにあった。
舞台は大盛況、収まりきらない観客が大挙して押し寄せ、芸術祭終了までのロングランが
決定した。

**
秘かに上京していた千草は、『紅天女』の上演に向けてスポンサー探しを
行っていたが、その情報を入手した真澄によってその話は潰されていた。
月影千草、あなたが相手でなければもうとっくに荒っぽい手を使ってでも
『紅天女』を入手していた。
真澄は是が非でも紅天女をこの手にするため、罠を仕掛けることにした。

演劇協会会長と会食をする千草は、なんとしても紅天女を上演したいと
その情熱を語る。
昔ながらの顔見知りである会長は、これまでも陰でいつも千草に力を貸していた。
『紅天女』を狙うのは大都芸能だけではない。
宝竹プロ、服部スター社、アクターズ企画、松浦興業社、内山芸能など
あまたの企業がその上演権を獲得しようと画策しているが、いずれも千草の思い通りの
上演が叶いそうな所ははい。
どうしても、自分の思うとおりの紅天女を上演したいと固執する千草に、理事長は、
紅天女の為にはどうするのが一番いいかを考えた方がいい、その方が尾崎一蓮もうかばれると
千草にある提案をする。

自分にはもう、紅天女を守る力はないのか、と肩を落とす千草、
その時、千草の心臓が悲鳴を上げた。
千草が倒れたと聞いて慌てて病院に駆けつけるマヤと亜弓。
緊急手術を受けるという千草の顔は青ざめて、今にも消えてしまいそうだ。
思わず駆け寄ろうとするマヤを、真澄がとどまらせる。
手術の成功の確率は30%、成功したとしても助かるかどうかは本人の体力しだい・・・。
病院には劇団つきかげや一角獣のメンバーも集まり、一様に手術の成功を祈るしかない。
亜弓も最後まで付き添っていたかったが、翌日早朝から映画の撮影のためロケに出る予定が
組まれていた。
今ここでもし、千草の身に何かあったら、「紅天女」はたたかわずして亜弓のものになってしまう。
亜弓は祈るような思いでその場を後にした。
何としても、マヤと競いたい・・・。

手術は深夜数時間にも及ぶ。
病室前の椅子に腰かけ、じっと手術が終わるのを待ち続けるマヤに、
真澄が飲み物を差し出す。
いったんは断るマヤだったが、強引に手渡されしぶしぶ口にする。
そしてそのあたたかさに、張りつめた体が癒されていくのを感じる。
自分の命の全部をかけてもいいくらい好きになれるものに気付かせてくれた千草、
そして「紅天女」・・・・
もし紅天女を演れたら、そのときこそ本物の女優になれる気がする・・・
そう語るマヤに、真澄はそれなら千草の手術の成功を祈るんだなと冷たく放つ。
あなたはなぜここにいるのか、というマヤの問いに、
紅天女の所有者の生死がかかっているからだと答えた真澄。
あなたの顔なんか見たくもないと飲み干したコーヒーの紙コップを投げつけるマヤ。
「悲しみよりは怒りの方がまだましだ」
と言い残し真澄は病院を後にした。

おれはあの少女をうらやましがっている
おれがあの少女にひかれているのはあの魂だ

手術はとりあえず終わった。あとは千草の体力しだい。
しかしその後一週間経っても、千草の意識は回復しなかった。
弱くなる呼吸、急激に悪化した容態に医者も覚悟したほうがいいと告げる。
病室に駆けつけるマヤ、亜弓。
千草の名を呼び続けるマヤ。しかし意識の奥深く、千草は一蓮の背中を追っていた。
“会いたかった、やっと会えたのね・・・・”
心電図がむなしく一線を描いた。

「このままではいやです、このまま紅天女になってしまうのは亜弓はいやです!」
千草の手を握り、亜弓は叫んだ。
子どものころからずっと紅天女を演りたいと思っていたこと
努力すれば何もできないことはないと思っていた自分が、
北島マヤと出会い、初めて敗北感を味わったこと
自分の努力を信じるため、自分自身を信じるため、
マヤと正々堂々戦ってそして紅天女を演じたい

意識の奥底でようやく一蓮と出会えた千草、しかし一蓮は千草の脇をすり抜け
また遠くへと行ってしまう。
“待って一蓮、待って・・・”
千草に一蓮の言葉が届く
“紅天女に永遠の生命を与えてくれ たのむ・・・”

自ら車を運転し駆けつけた真澄が病室に入ったその瞬間、
千草は死の淵からよみがえり、意識を回復した。

先ほど亜弓が病室で語ったことが信じられないマヤ。
あの亜弓が自分に、敗北感を抱いていたなんて。
「悪運の強い子だ」
真澄の言葉にかみつくマヤだったが、真澄は
今、芸術祭は『忘れられた荒野』の話題で持ちきりだと告げる。
「紅天女」が夢で終わらないためにも、千草の回復を祈れといいながら
真澄は病院を後にした。
「ともあれよかったなチビちゃん」

真澄の言うとおり、今や演劇界の話題は『忘れられた荒野』が独占。
特にマヤの演じる狼少女ジェーンの演技が抜きんでていた。

北島マヤーー
芝居をしているときのあのひたむきさ、そっくりだ
若い頃の月影千草と
真澄が執着するだけはある、おもしろい少女だ・・・
速水英介は紅天女へ思いを馳せる

こうして、熱狂のうちに『忘れられた荒野』そしてアカデミー芸術祭は終了した。

**
月影千草は病室で一つの決心をした。
そして置手紙を残すと、再び紅天女の故郷へ帰って行ったという。
その場所は今はまだ教えられない、
紅天女の資格を得た者だけに居所を明かすことになっている・・・
そう演劇協会理事長はマヤに告げた。

とうとう、アカデミー芸術祭受賞発表の日が近づいてきた。
マヤの演じた狼少女ジェーンは、
アカデミー芸術祭主演女優賞そして
全日本演劇協会最優秀演技賞にノミネートされた。
さらに桜小路や黒沼もそれぞれ賞にノミネートされている。
今まさに、「紅天女」への可能性が見えてきた。

そして受賞発表当日、
アカデミー芸術祭、これですべてが決まる。

二年前、月影千草が設定した紅天女への条件、
アカデミー芸術大賞もしくは全日本演劇協会最優秀演技賞を獲る事・・・
いつか「紅天女」を演りたい、その思いでこれまで演劇に向かってきた。
それも、今日ここで賞が取れなければすべてが終わる。
でも例え獲れなくても、自分の役者としての人生まで終わるわけではない。
私はお芝居が好き、結果がたとえどうなったとしても、私はこれからも
女優として生きていく。
あとは運命を待つだけ・・・・。
震えるマヤの背中を支える桜小路、そしてそのさらに後ろから
じっとマヤを見つめる真澄。
心の中に紫のバラを宿らせながら。

おれはこうやってみつめることしかできない
しかし結果がどうなろうとも、これからもずっと舞台に立ち続ける限り、
おれの中の紫のバラが枯れることはない・・・・

アカデミー芸術祭、いよいよ演劇部門の発表に移った。
舞台美術賞:『イサドラ!』大沢事務所制作
脚本賞:『イサドラ!』大沢事務所制作
特別優秀新人賞:『忘れられた荒野』スチュワート役桜小路優
演出賞:『忘れられた荒野』黒沼龍三
優秀作品賞:『忘れられた荒野』
主演男優賞:『リア王』宝竹社制作 丹波一生
主演女優賞:『イサドラ!』大沢事務所制作 円城寺まどか
アカデミー芸術大賞:『哀愁』劇団隼人 田上丈

全日本演劇協会最優秀演技賞
『忘れられた荒野』狼少女ジェーン役 北島マヤ

マヤは紅天女への1%の可能性をつかんだ

**
檀上で演劇協会理事長から紅天女に関する発表があった。
当初の発表通り、候補者である姫川亜弓、そして今日その資格を獲得した
北島マヤを競わせることになること
今後、「紅天女」は全日本演劇協会が責任を持って管理すること
全日本演劇協会が制作管理を行うということはすなわち、
劇場、興業社、演出家やその他配役などすべて協会の許可がないと
認められないということを意味する。
独占権を狙っていた他事務所が青ざめている中、大都芸能の真澄は
どこまでも落ち着いていた。
まるでこれが、自分の描いた地図通りと言わんばかりに。

「未来の紅天女に乾杯」
見事紅天女への夢をつないだマヤに真澄が近づいてきた。
千年からなる梅の木の精、絶世の美女紅天女、
君がやれるのか、亜弓と比べられるのを覚悟してせいぜい演技を磨きたまえと
嫌味を言いながらも、笑顔で去って行った真澄の背中に悪態をついているマヤの所へ、
紫のバラが届けられた。

“受賞おめでとうございます いよいよ「紅天女」ですね 頑張ってください
いつもあなたを見守っています
「忘れられた荒野」でのあなたの狼少女ジェーンはすてきでした
スチュワートの青いスカーフを握りしめながら人間にめざめていく場面は感動的でした 
あなたのファンより”

マヤの笑顔が凍りつく
青いスカーフは初日の公演しか使っていない。
あの日、劇場にいたのは、速水真澄ただ一人・・・・
紫のバラの人、青いスカーフ、そして速水真澄

“あなただったんですか、速水さん・・・・紫のバラの人・・・!!”

第20巻へは・・・こちらから
*****感想**************************************
ばれたーーーー、とうとうばれたーーーーー
紫織にマヤのアルバムもばれたし、マヤに紫のバラの人の正体もばれたーーーー
野良犬ジェーンの茶番を演って以降は、
もはややけくそと言わんばかりに、マヤに露骨に嫌味しか言わなくなっていた
真澄ですが、マヤもいつまでたっても本気で嫌いになれないのよね。

狼少女ジェーンメインなので紫織要素も少なめで、まだ精神安定できました。
次章はいよいよ紅天女への道!!風化水土のエチュード楽しみです!!
あああああ、でもその前に真澄が婚約しちゃうんだった。。。