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【あらすじ・感想】文庫版・『ガラスの仮面』第20巻【ネタバレばれ】

2015-02-18 02:00:54 | ガラスの・・・あらすじ
※※『ガラスの仮面』文庫版読み返してます。あらすじと感想まとめてます。※※
※※内容ネタバレ、感想主観です。※※


仮面年表は こちら
紫のバラ心情移り変わりは こちら

49巻以降の話、想像してみた(FICTION)*INDEX*はこちら

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『ガラスの仮面』文庫版第20巻 ※第12章(最初から)(途中まで)

第12章 紅天女

いよいよ本格的に『紅天女』再演への道筋がみえてきた。
月影千草が封印してから早27年、心待ちにしていた人々はどれほどの思いだろうか。
大都グループ会長、速水英介はその最たる内の一人だ。
かつて、妄執ともいえる熱情を紅天女=月影千草に抱き、物にしようとしてきた。
その呪縛により尾一蓮は命を落とし、千草は逃げ、英介から離れて行った。
今こそ、なんとしてでも大都が『紅天女』を手に入れる。
英介の気炎を見つめる真澄は、自身の生い立ちを思い返していた。

速水真澄、当時は藤村真澄として速水邸にやってきたのは、6歳の時だった。
やんちゃでガキ大将だった真澄少年は、早くに父を事故で亡くし、
母ひとり子ひとりで育てられていた。
その母、文が速水邸で住込み家政婦として働く事となり、共に速水邸で暮らすこととなる。
屋敷の主、速水英介は14歳の時に岡山の田舎を飛び出し一人上京し、
時には後ろ暗いことも辞さない剛腕と機を読む商才を発揮して大都運輸を興し、拡大させ
いまや大都グループという大企業のトップに君臨していた。
幼少時代に妾の子として不遇の時代を過ごした反骨心が、たとえ身内であろうと
能力のない物は容赦なく切り捨てる、血も涙もない辣腕を生み、会社の利益を
何よりも優先させる冷徹な企業人として恐れられていた。
若き日に南方の戦地で熱病にかかり、それが原因で子を残せない体になっていた英介は、
40歳近くになっても独身を貫いており、誰とも結婚する気はないように見えた。
血縁関係など一切信用していないむしろ仕事にとっては悪とすら考えている英介だったが、
親族から、身内を引き立てるよう下卑た催促が止まない中、
兄弟から自分たちの子供を将来の後継者に育ててはどうかという
あからさまな提案がなされた時、英介は一つのテストを出した。
この屋敷の池の泥さらいをやってみろーーー
幼い子供たちは池の中に入って泥さらいをやってみるが、当然出来るはずもない。
こんなこと、子供たちの手では無理に決まっている、と気色ばむ兄弟を前に、
英介は、そばにいた真澄に同じ問題を投げかける。
思案していた真澄は、ここがきれいになればいいんですよね、というと
庭師となにやら話をし、あっという間に、庭師が専用車両を搬入、
池の泥さらいを始めた。
「池の汚はすごくいい堆肥として利用できると、以前庭師の人が言っていたからちょうどいいと思って」
池の泥をきれいにしたい者と、
池の泥を手に入れたい者、
それぞれの利害が一致して双方に有益となるやり方で、真澄は英介の問題を解いてみせた。

英介は、自身の後継者を自らの手で見つけ、育成することを画策していた。
条件はただ能力の有無、たとえ身内であろうと容赦しない。
そんな英介は、住込み家政婦の連れ子、真澄に目を付けた。
秘かに真澄の身辺調査を進めていた英介、真澄が健康体でスポーツ万能、
勉学も学年トップクラス、人望も厚いという情報を入手すると、計画を実行に移すため、
真澄の母、文と結婚、真澄を養子として速水家にいれた。
速水真澄となった真澄は、これまで通っていた小学校から、教育カリキュラムの徹底した
名門校へと編入、今までの野球仲間や学校の友達、帰りによく通った鯛焼き屋のおばさん達と
別れ、英介の後継者となるべく英才教育を施されることとなる。

英介の教育に、親の愛というものは一切なかった。
全ては最高のビジネスマンとして、大都の後を継ぐ人間を育てることだけが目的だった。

期待に応えられなければ容赦なく切り捨てられる。
まず最初に命じられたのは大都の掃除。
会社では決して英介に話しかけてはいけない。
来る日も来る日もつづく掃除の日々。そのうち真澄は会社にいる者達の
裏の顔が見えてくる。
大都の掃除を続けた1年後、英介が社員たちに真澄を自身の息子だと紹介した。
これまで掃除のおばさんの子供だと思って見くびっていた社員たちの
目の色が変わる。真澄への態度が一変する。
どんなに表面的にいい言葉を並べていても、
決してうわべだけを見て人物を信じるなと叩き込まれた。
社員に紹介されて以降は、会社で様々な特殊教育を受けた。
歴史・経済・法律・経営学・・・・
そして政治家や財界人の集まるパーティーにも出席し、
人間関係を観察する。
失敗すると容赦なく張り倒された。

家政婦上がりの遺産目当て・・・と親族から露骨な蔑みにあいながらも
必死に耐える母、真澄自身も、養子のくせにといじめを受ける。
ある日、英介が親戚一同会している中、真澄にプレゼントだと言って
豪華な鉄道模型を渡す。
父と呼べる人からのプレゼントに喜び、早速それで遊び始める真澄。
しかしその様子を妬んだ義理のいとこたちによっておもちゃは破壊され、
使用できなくなった。
悔し涙を流す真澄に、英介は冷たく言い放つ。
これが妬みを受けるということだ。
同じくらいの立場にある人間が、周りよりも幸運を得た時、目に見えない敵を作る。
幸運を手に入れても見せびらかすな、隠していろ。
英介はそのことを教える為に、わざと皆の前でプレゼントを渡したのだ。

英介にとっての紅天女、それはまさに真澄の人生を大きく左右した運命でもある。
真澄が初めて“紅天女”に出会ったのは、まだ養子になる前、速水邸に来たばかりの頃だった。
たくさんの部屋がある大邸宅、その中で決して近づいてはいけないと言われた奥の部屋。
ある日真澄はその部屋の扉が薄く開いているのを見つけ、好奇心から中を覗いた。
その部屋にはーー
紅天女演じる月影千草のポスターを始め掛け軸や舞台の小道具など、ありとあらゆる
紅天女にまつわる物が飾られていた。
真澄が中にいる事に気付いた英介は、真澄が紅天女の打掛をつかんでいることに気付き
烈火のごとく怒り、真澄の頬を思い切り打った。
紅天女に魅了された英介の目はまさにこの世の者とは思えない、何かに取りつかれたような
狂気すら感じる揺らぎを放っていた。
そして二度とこの部屋に入るなと真澄を追い払った。
それが、真澄と紅天女の初めての出会いだった。

英介と結婚しても、周囲は家政婦上がりの文を白い目で見る。
次第にひきこもりがちになる母、ある日高熱を出して倒れた母を助けるため、
義父の姿を探すが、英介は文の病気の事など気付くこともなく、
例の奥の部屋で紅天女の事だけに没頭していた。

ある日、いとことケンカして家を飛び出した真澄は、あてもなくバスに乗って
街をさまよううちに、区立文化会館にたどり着く。
係員が、お金を持たない真澄をプラネタリウムに入れてくれた。
そこで見た初めての満天の星。
宇宙の大きさに吸い込まれていくような感じ。
自分の存在の小ささ、心だけがぽっかりと宇宙の中にいるような感じ。
気付くと真澄はただひたすら星を見続け。涙を流していた。
その日以来、真澄は心をなぐさめたい時はいつもプラネタリウムをたずねるようになった。

義父・英介にとって価値基準は会社の得になるかどうか。
得になるうちは大切にするが、価値がなくなるとあっさり切り捨てる。
そうして大都グループを大きくし、発展させてきた。
そんな英介のたった一つにして最大の夢、それが「紅天女」を自ら上演すること。
大都芸能こそ、その夢の実現の為に興した事業の最たるものである。
まだ、がむしゃらに働いていた若い頃に出会った月影千草の「紅天女」、
あとにも先にもあんなに感動を呼び起こされたことはない。
人を人とも思わぬ英介が唯一どうにもならない相手、それが「紅天女」の千草だった。
英介は舞台の上の幻を愛し、追い続けていたのだ。

そして、真澄の心を決定づけさせる一つの事件が起こる。
10歳になって間もなくの秋、真澄は学校帰りに連れ去られた。
英介がとある政治家の総裁選挙のための資金として、多額の裏金を
持っているという情報を入手した犯人グループが、その金目当てに真澄を
誘拐したのだ。そして港の倉庫に連れて行かれた。
速水邸に電話をかけ、身代金を要求する犯人。
しかし、英介はいたずら電話だと取り合わず、電話を切ろうとする。
私に子供はいないと言い放ち。
焦った犯人は、真澄に命乞いをするよう命じた。
「助けて、おとうさん、ぼく殺されちゃうよ」
英介は何も言わずに電話を切った。

・・・見捨てられた・・・

その時、真澄は自分の力しか信じる物はないことを悟った。
父親に見捨てられたと知られれば、自分の利用価値はなくなり殺される。
そのことを知られずに、演じなければ。
隙をついて真澄はナイフを犯人の脇腹に突き刺し、
その隙に逃げ出すと、手首を縛られたまま真っ暗な海に飛び込んだ。
海の中で意識を失う寸前、幸いにも巡視艇に救出され、病院に運ばれた真澄。
その後犯人グループは英介の指図で裏の力を使い半殺しの目に遭わされたが、
それは真澄のためではなく、裏金の口封じが目的だった。
英介は、真澄より、政治資金を選んだのだ。
病院のベッドで目を覚ました真澄は、人を愛するという心を喪失した。
真澄の心は、あの暗く冷たい夜の海の中で、死んだのだ。

そしてあの日、真澄が中学2年生の時。
速水邸が火災に見舞われる。
火のまわりが早く、わずかの家財道具を持ち出すのが精いっぱいといった状況で、
自宅に戻ってきた英介は、なによりも紅天女のことを心配する。
なぜ、紅天女の物を持ち出さずに逃げたのだと真澄の母を責める英介に、
文は水をかぶり、未だ炎盛んな屋敷に飛び込み、
命からがら紅天女の打掛を救出した。
ひどいやけどを負う母、しかし英介はそんな文の姿には目もくれず、
助かった打掛にばかりに気をもんでいた。
結局、その時のけがが原因で文はほぼ寝たきりになり、翌年亡くなった。
真澄の中で、義父英介に対する明確な意思が定まった瞬間であった。
義父のせいで、母は死んだ。
義父が何より大切にしている紅天女を、奪ってやる。
その日以来、真澄はすべての学問やスポーツといったものは、
仕事に役立てるためのツールとしてしか考えず、自らの興味や関心を抱いて
動く事は一切なかった。
高校に入ったころから、志願して英介の秘書を務め、
大学卒業後、選んだ仕事は大都芸能・・・それは全て、紅天女のためだった。

10年前、北陸の街で偶然月影千草の姿を見かけた英介は、車でその後を追った。
しかしその時交通事故に遭い、両足をやられた英介は、車いすと杖の生活となる。
紅天女によって英介への恨みを増大させた真澄、皮肉にもそんな二人を繋ぐものはただ一つ、
紅天女だった。

人を愛さないと決めた、冷たい海。
仕事のためなら何でもやる、紅天女を自分の手にするまでは。
そんな真澄の氷の心を溶かしたものこそ、
11歳年の離れた少女、北島マヤの演劇へかける熱い情熱だった。

**
速水邸に自ら育てた花を届けに訪ねた紫織は、英介から
真澄の子供時代のアルバムを見せてもらった。しかし真澄の写真から
ある年を境に一切笑顔が消えていることに気付く。
氷のような、冷たい表情をした少年・・・。
自分にはいつも優しく穏やかな笑顔を向けてくれる真澄の心の奥底が気になった。
真澄と見合いをして以降、紫織は急速に真澄に惹かれ、愛おしむ気持ちが高まっていた。
いつも素敵なレストランに連れて行ってくれ、優しくエスコートしてくれる。
しかし準備してくれる花はきっと全て秘書の選んだもの。真澄から、正式は返事はいまだない。
しびれを切らした紫織は、真澄がいると聞いて伊豆の別荘を訪ねた。
そこで真澄に返事を迫るがそこにあったのは複雑な表情の真澄だった。
あなたは困っていらっしゃるのですね、張り裂けそうな気持で、紫織は別荘を後にした。

もう、これ以上は引き延ばせない。
真澄は観念した。
待っていても、どうにもならないマヤとの関係。
鷹宮紫織ー結婚相手には申し分のない女性、大都芸能にとっても、おれにとっても・・・。
決して消えることのないマヤへの思いを封印し、紫織の誠意には努力で報う覚悟。
決意した真澄は、初めて自ら選んだ花をもって、鷹宮邸に紫織を訪ねた。
返事をするために・・・
しかし、真澄の心の中の紫のバラは、決して枯れることはない・・・・。

**
アカデミー芸術祭授賞式終了後、
全日本演劇協会は、紅天女上演特別委員会を設置し、
全ての配役をオーディションで決定することを発表した。
有名無名を問わず、多くの応募者がいたが、大半は書類選考で落とされた。
そして、第1次審査、2次審査を経て、いよいよそれぞれの役2名ずつ候補が絞り込まれた。
第3次審査では、俳優、演出家それぞれ2組に分かれて双方紅天女の試演をし、
全ての配役、演出家が決定される。

演出:小野寺一
紅天女:姫川亜弓
一真:赤目慶
帝:市村正春
十市:寺田みどり




演出:黒沼龍三
紅天女:北島マヤ
一真:桜小路優
帝:百木房男
十市:史塚京子




そのプランは、まさに大都芸能が描いていた地図と全く同じ道筋だった。
“頼みましたよ、理事長・・・”
手を出せなくなったはずの紅天女の行方を、穏やかに静観する真澄。
まずは、それぞれの紅天女候補が、紅天女の故郷で月影千草の一ヶ月に及ぶ稽古を受ける。

**
姫川亜弓は、紅天女の故郷、奈良の梅の谷へ向かう直前まで、必死に基礎練習に
励んでいた。
周辺の人間は、何故亜弓がそこまで必死になって練習を重ねているのか理解できない。
千年からなる梅の木の精、絶世の美女紅天女・・まさに亜弓のはまり役。
しかも相手は北島マヤ、亜弓の敵ではないはずなのに。
稽古場に、世界的に有名なフランス人カメラマン、ピーター・ハミルがやってきた。
噂高い姫川亜弓の写真を撮らせてもらいに交渉するが、亜弓は拒否する。
亜弓にとって、見た目の美しさなどなんの価値もないのだ。
亜弓は周囲が言うように、自分は演技の天才ではないことを十分に理解していた。
本当の天才は北島マヤ、あの子の方だと。
マヤのように、内面からすべてを役に塗り替える才能、誰よりもその才能を知り、畏れているからこそ、
自分はもっともっと努力し続けなければならない。
そして紅天女をわが手にし、
自分の流した努力の汗が、報われると信じたい。
自分の写真を撮りたいというハミルに、もし表面的な美しさではなく、
稽古の時の汗まみれの姿を美しいと思える時が来たら、承諾してもいいと告げ、ハミルを袖にした。

北島マヤは、芸術祭授賞式で受け取った紫のバラのメッセージを握りしめ、
呆然としていた。
紫のバラの人、中学生の頃からずっと私を支援し、励まし続けてくれた人。
私のファン・・・まさかその人が、速水真澄だったなんて。

信じられない、という気持ちがある一方、これまで幾度となく感じた心の奥底の優しさ、
そして紫のバラの人と絶妙に重なる存在感・・・。
かたきだと思っていた人が、最愛の紫のバラの人であるかも知れないというショック、
もし速水が紫のバラの人だったとしたら、これまで自分がかけてきたひどい言葉の
数々を思うと胸が痛い。
信じられない、でも信じられるような・・・
マヤの胸中は複雑に乱れていた。
東京の空のように、スモッグや地上の明かりにじゃまされて、真実が見えない。

紅天女の故郷へと発つ直前、マヤは麗達と母の墓参りに訪れた。
墓地に着いたとき、真澄の物と思われる車、そしてその後ろ姿を目撃する。
速水さんが、母さんの墓参りに?
墓前には、紫のバラが供えられていた。
やはり真澄が、紫のバラの人?
マヤはそばに万年筆が落ちているのを見つけると、確認するためそれをもって
大都芸能を訪ね、真澄がいるという映画の試写会場へと向かった。
真澄の周辺関係者に、落し物だと墓地で拾った万年筆を預けると、
真澄はその万年筆を確認し、確かに自分の物だと胸ポケットにしまった。
やはり、紫のバラの人は、あなただったんですね。

飛び出しそうな気持を抑えきれないその瞬間、真澄の隣に親しく寄り添う紫織の
姿を見たマヤの足は止まる。
ずっと会いたかった、紫のバラの人。
真澄がその人だと知った時、真澄は既に誰かと一緒になろうとしている。
マヤの心の中には、真澄への思いと、紫のバラの人への思いが
どんな感情なのかもわからないまま、複雑に絡み合っていた。

旅立ちの日ーーー
東京駅のホームに現れた真澄に、いつものような反応が出来ないマヤ。
いぶかしく思いながらも軽口をたたいてその場を後にした真澄を、
マヤは必死に追いかける。
あなただったんですね、紫のバラの人は・・・・・!!
その言葉は届かず、マヤは心残りを残したまま、新幹線で紅天女の故郷へと向かった。

**
演劇協会理事長と共に新幹線から在来線、タクシーと乗り継ぎようやくたどり着いた梅の里。
源造が出迎えてくれたが、これから亜弓とマヤが住まいとするさびれた山寺に
千草の姿はない。
尾崎一蓮が幼少時代に過ごしたというこの寺でこれから、
二人は様々な指導を受けることになる。
翌日朝の澄み切った静けさの中、マヤは誘われるように梅の谷へと足を踏み入れる。
するとそこには・・・・・
一面が紅に染まっているかのような圧巻の梅の木々、
すでに盛りは過ぎているはずの今の時期に、紅梅が咲き乱れている。
まるでこの世の物とは思えない、唯一無二の世界が広がっていた。
そして後から姿を見せた亜弓、理事長と共に、
マヤはその紅梅の中に天女を見た。

月影千草・・・・

そこにたたずむ姿はまさに梅の木の精

『紅天女』
時は南北朝時代
国々が戦で乱れていた頃、帝が平和を願い一人の仏師に天女像を彫るよう申し付ける。
仏師は何体も彫るが気に入ったものができない。
天女の魂の宿った仏像を彫るにはどうすればいいのか。
思い悩む仏師に、千年からなる梅の神木の存在を教える者がいた。
その梅の木を切って天女像を彫れば、きっと魂のこもる素晴らしい像になるだろう。
仏師はその梅の木を探す旅に出る。
そして、仏師は一人の乙女と出会う。
千年からなる梅の木の精、紅天女と・・・。

亜弓とマヤはこれから、紅天女とは何かを学んでいく。
圧倒されるマヤと亜弓に、千草は梅の木になれと指示する。
とっさにその場にたたずむ二人。
優雅な構えで指先まで美しく紅梅の雰囲気を醸し出す亜弓に対し、
じっと根をはるように構えるマヤ
対照的な二人の演技。
片方は舞台での見栄えは明白ながら、時間が経つにつれて人間性が見えてしまう、
片方は朴とつながら不思議と時間が経つごとにどんどん梅の木になっていくように見える。
二者二様の演技、
千草はここで、二人に「風火水土」の演技をしてもらうと告げた。

「風」のエチュード
亜弓は微塵も動く気配なく、じっと向こうを向いてその場に立ち尽くした。
長い間。静かな時間の経過。そして、
ピクリと左肩を動かすとゆっくりとそして実に優雅に
後ろを振り返り、なびく髪をかきあげた。
うなじをすっと吹き流れる一筋の風を描きながら・・・。

マヤは床に膝を抱えて座り込むと、ゆっくりと上半身を回転させていった。
つむじ風・・・
そして回転しながらゆっくりと立ちあがると突如ピタリと止まり、
次に体を波のように動かしながら上半身から腕にかけてゆらゆらと揺れる。
そよ風・・・
その後も向かい風、追い風と風の動きを表現し、
再びゆっくりとした回転運動ののち、最初の膝を抱えた姿勢に戻っていった。

亜弓は、目に見えない、形のない風を感じさせる演技を目指していた。
吹いていないはずの風が、吹いているように感じさせる。
自分自身の体を使って。
身に付いた基礎的な美しいたたずまいと相まって、亜弓の動きは1つの洗練された芝居のように
見る者を一瞬で魅了した。
一方マヤは、自ら風になろうとした。
千草に、演じろといったのであってなれとは言っていないと厳しい言葉を受けたが、
亜弓にとっては、風にすらなろうと思うというマヤの天性の役者魂に恐れを感じた。

「火」のエチュード
風の演技でマヤが見せた風になろうとする演技。
亜弓はそんな風に自分も、火になろうと決める。
ろうそくの炎の揺らぎをじっと見つめ、音楽のリズムと合わせながら、
ひたすら火のリズムを体に刻み込む。
燃え尽きるまで踊り続ける火・・・

マヤはかまどの火を見ながら、火についてじっと考えていた。
なろうとしてはいけない、演じなければ・・・。
考えるうちにマヤは、心の中に宿る火を表現できないかと考えた。
自分の中で燃えさかる火・・・・。
しかしうまく演技として具現化できないもどかしさを感じている。
そんな時、源造の代わりに町の病院に千草の薬と取りに行くお使いを頼まれたマヤは、
病院で聖に似た人物を見つける。
もしかして真澄がなにか調べさせている。常にこちらの様子を探っている。
敵なのか味方なのか、真澄への疑念を募らせながら、ぼーっと歩いていると、
偶然速水英介と再会した。
もちろん真澄の義父、大都グループ会長の英介だとは知る由もないマヤ、
缶ジュースのおじさんと呼び、再会を喜ぶ。
近くの湯治場にきているというおじさんと、ぜんざいを食べながら紅天女に関して話をしていると、
おじさんが、「八百屋お七」の事を教えてくれた。
江戸時代、火事がきっかけで出会った寺小姓吉三に恋をしたお七は、
火付けは死罪と分かっていながら
吉三会いたさに火をつける。
燃える江戸市中と、お七を燃やす恋の炎
本を読み、マヤは心の火を急速につかんでいく。
“吉三さん、会いたい、会いたいよ・・・”

山寺で亜弓と火について語らうマヤ。
「あなた恋をしたことがある?」
亜弓に聞かれ、マヤはかつての甘い初恋を思い出す。
今は?と問われた時、心の中にふと真澄の顔が浮かんだことに動揺した。
まだ私は、本当の恋なんてしらない・・・魂のふれあうような思いのする相手なんてそうは・・・
そう語る亜弓。
やれるだろうか、紅天女の恋・・・・。
これまで亜弓は人知れず誰よりも努力を積んできた。
しかし、努力や情熱だけではできない演技もある。
マヤにだけは負けたくない。
ずっとマヤの才能をうらやましいと思っていた。
亜弓の告白に、マヤは驚き、自分も亜弓に負けたくないと強く思う。
二人それぞれの火の演技が、始まる・・・。


第21巻へは・・・こちらから
*****感想**************************************
そうでした・・・。真澄の幼少時代回顧録があるんでした。
あと、英介との確執の理由も。
まるで美味しんぼの雄山と士郎ばりに恨み持ってますが、雄山が途中からいい人キャラに
すり替わって行ったのに比べ、とりあえず英介はずっと悪役キャラで通してくれてはいる気が。
(でもマヤにだけ心開いちゃうところとか、まさに栗田ゆう子だな・・・)
風火水土のエチュード、好きなんですけどよくよく読み返すと、
真澄が完全に諦めて紫織と正式婚約しちゃう下りとかが紛れててショックでした。
初めて自分で選んだ花は・・・マヤに送った紫のバラだよ。
でも、紫織さんもちょっとずつ真澄とマヤとのただならぬ関係(因縁?魂の片割れ?)への
潜在的な不安を感じていたんだろうなと思います。
だから、脅しみたいに伊豆の別荘に押しかけて、返事キボンヌしちゃったんだな~。

真澄に見合い話が出たのが、『ふたりの王女』の上演中(1月~2月)で、
ずっとそれを受け入れずに拒否ってたのが千秋楽後(3月あたり)。
で、マヤ強引に誘ってデートして、紫のバラカミングアウトしようかとしたけどできなかったので、
結局見合いをしたのが、マヤが『忘れられた荒野』のオファーを受けた頃(4月あたり)。
で、そっからずっと見合い相手っていう、いわばなんの公式なポジションでもない立ち位置で
徐々に真澄の横に紫織が立つようになって(恋人?って感じなのかね)、
それが延々ほぼ1年くらい続く。
『忘れられた荒野』も終わって(秋~年末)授賞式も終わって(翌年2月)、いよいよ本格的に
紅天女の稽古に入ります、って時にようやく婚約(5月ぐらい?)だから、
確かに紫織さんも随分と待たされてますよね。単体で見ればかわいそうかも。
でもそんぐらいマヤ恋しさにはぐらかし続けていた真澄の、ある意味強い精神力・・・。
エチュード時点で真澄31歳、マヤ20歳です。(桜小路君は22歳)
そうか、もうチビちゃんじゃありませんっ!(←STAP的になってる)って言ってたのは
もうハタチになりました、って意味だったのねマヤ。

ここから一気に時の流れが遅くなってゆきます・・・。
最優秀演技賞を受賞して、紫のバラの人の正体が分かって、真澄の事が好きって気づいて、
その思いを確かめ合って(まだ先の話)、で紅天女に選ばれる(かはまだ不明)
を全部この1年で経験することになるマヤ・・・・
すごい人生のターニングポイントな一年なのは間違いないですね。

次の巻はい・よ・い・よ・・・・社務所



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