散日拾遺

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伐採と在庫

2023-08-10 10:36:31 | 言葉について
2023年8月10日(木)
 ある組織のある会議で、ある人が「近隣からの苦情を受け、塀沿いの樹木を伐採しました」と報告、配布資料にも同様に記されている。
 思わず目を向いた。
 「伐採、しちゃったんですか 、苦情があったからって ?」
 「はい、確かにずいぶん枝が伸びていましたので…」
 こちらの剣幕に驚きうろたえ気味、何がいけないんですかと当惑の様子でもある。さてはわかった、
 「もしかして、枝を伐ったってこと ?」
 「あ、はい」
 「……」

 国語辞典を使いましょうよ、日本人なんだから、と言いたくなるのはこういう時である。 

 【伐採】樹木を切り取ること。木材などを切り出すこと。(岩波国語辞典 第四版)
     不要な樹木を切り倒すこと (伐採110番)

 【剪定】枝の一部をはさみ切ること。庭木などのかり込み。(同上・上)
     木の枝を切ること (同上・下)

 見回せば「剪定」の意味で「伐採」の語を使う人は、他にも一人ならず見られている。おおかた「ばっさり切り落とす」といった語感に後押しされたもので、「吐き気・嘔吐」の意味で「おえつ」と言うのと同類の錯誤ではあるまいか。
 こういうのは早晩、悪貨が良貨を駆逐して主流の座につくものと思われる。

 ついでながら、「手許の予備」という意味で「在庫」という人が最近たいへん多い。
 「前回と同じ処方で ?」
 「痛み止めはまだ在庫があるから、今回は要りません。」
 という具合。すごいですね、商売してるんだ。

 【在庫】(取引に備えて)品物が倉庫にあること。(岩波国語辞典 第四版)

 薬局の棚にあるのが「在庫」である。「在庫」の「庫」は「倉庫」の「庫」、つまり「庫(くら)」のことだ。処方薬が自宅の引き出しに残っているのは「手持ち」とでも言ったらよい。
 日本語は難しいって ? 
 こんなの何語だっておんなじですよ。

Ω

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