散日拾遺

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「老いゆけよ 我と共に/老いきたれ 我の許に」

2020-07-03 06:27:15 | 日記
2020年7月3日(金)
 4時台に目覚め、そのまま起き出してみれば既に外は明るい。夏至を過ぎたばかり、若々しい太陽の力が空に路に満ちている。

【ブラウニング】
 14日に話す「老いと祝福」のレジュメ資料を片づけていて、忘れ物に気づいた。北千住のオリーブ会から送られてきた資料の中に、たまたまブラウニングの詩が記されていたのである。これを紹介しない手はない。

老いゆけよ 我と共に! 最善はこれからだ
人生の最後 そのために最初が造られたのだ
我らの時は 御手の中にあり
神云い給う 「すべてを私が計画した」と

オリーブだより2019年6月号(オリーブ会/北千住旭クリニック)

 この項の筆者は会長のOJ姉で、5年ほど前に信仰の先達から絵はがきで贈られたものを転記したとある。せっかくなのでブラウニングの原文を転記しておこう。

 "Grow old along with me! The best is yet to be, the last of life, for which the first was made. Our times are in his hand who saith, 'A whole I planned, youth shows but half; Trust God: See all, nor be afraid!”
“Rabbi Ben Ezra”  Robert Browning(1882-1889)

 原文がこれで正しいとすれば、引用の最後に少し足さないといけない。私訳にて失礼。

我らの時は御手の中にあり 神云い給う
「汝の人生はひとつの全体として設計された/若さはその半ばに過ぎない
神に依り頼め/あまさず見よ、恐るなかれ!」

 趣旨を示すため、敢えて説明がましく訳してみた。「すべてを私が計画した」では "I planned everything." に聞こえる。著者のポイントはそこにはない、「汝の人生を神は始めから終わりまでの全体(whole)として設計し給うた、その全容の中で若さはたかだか半分の重みしかもたない」というのである。「全体」と「部分」の対比が問題で、そうなると「すべてを私が計画した」は誰の訳かわからないが、残念ながら正確とはいえない。この箇所で詩文を終えてしまうのもよろしくない。
 "A whole I planned, youth shows but half." そういうことである。

【ラビ・ベン・エズラ】
 ところで Browning の原文を見たうえは、次に気になるのが Rabbi Ben Ezra とは何ものかということである。ここはありがたく Wiki に頼る。

アブラハム・ベン・メイール・イブン・エズラ
(Abraham ben Meir ibn Ezra, 1090/1092 - 1164/1167)
 スペイン出身(トレド生まれ)のラビ・学者・詩人。文法・哲学・数学・天文学・医学など多くの分野に精通したが、とりわけ聖書注釈は、ユダヤ教注解学の黄金時代の幕開けとなった。1526年刊行のトーラーのヘブライ語註釈書は、伝説的解釈を超えた深い洞察を示すものである。
 1140年以降スペインを離れ、生涯にわたって移住生活を送る。北アフリカ、エジプト、イタリア、南フランス、北フランス、イングランドを巡り、それまでスペインのユダヤ教徒のみにアラビア語で伝えられていた学問を、あらゆる地域のユダヤ教徒の間に広めた。
Wikipedia/アブラハム・イブン・エズラ

 なるほど、これは大変な人物に違いない。移住といえば近い時代のわが国に、寺に定住せぬ遊行僧というものが誕生した。その祖である一遍上人は伊豫・河野氏の出自であることなど思い出すが、一遍が日本人の精神史に無形の刻印を長く残したのに対して、ベン・エズラの生涯はアラビアに蓄えられた古代文化の遺産をヨーロッパに逆輸入する道を拓いた点で、書かれたものからなる有形の歴史に不滅の功績を刻んでいる。
 そのベン・エズラが老いについて何を語り、ブラウニングがそこから何を汲んだか、また宿題が増えた。
 かてて加えて・・・

【John Lennon】
 冒頭の "Grow old along with me." は面白いフレーズで、grow old を「成長せよ」と取ることもできるという御託宣も見かけたが、それよりこれを「僕と一緒に年を取ろうよ」と読めば、プロポーズの囁きにも聞こえるのが洒落ている。
 このフレーズでネット検索をかけてみて驚いた。出てくるのはブラウニングでもラビ・エズラでもない、かの有名人。Wikiからして下記の通り。

 「グロー・オールド・ウィズ・ミー」(英語: Grow Old With Me)は、ジョン・レノンの楽曲。1980年にデモ音源が録音され、レノンの死後にオノ・ヨーコの共同名義で1984年に発売されたアルバム『ミルク・アンド・ハニー』に収録されている。 
Wikipedia/グロー・オールド・ウィズ・ミー
※ 音源 → https://www.youtube.com/watch?v=BzsoxBjjU0g  

 レノンは少しも好きではないし、 "Imagine" のあの歌詞で記憶される同じ人物が "God bless" を連呼するあたり、バカバカしくてどうでもいい気がしてくるが、歌詞の冒頭がブラウニングを踏まえていることは、まぎれもない事実である。

 <ラビ・ベン・エズラ → ブラウニング → 未知の翻訳者 → とある信者 → OJ姉 → 石丸>
 というこの流れに、ブラウニングから枝分かれして John Lennon 経由で夥しい視聴者への巨大な傍流がくっつく。文化の伝達とはこういうものだろうが、それはさておき初めに戻って「老いゆけよ」より「老いきたれ」という語感こそ、この詩にふさわしいようだ。送り出すのではなく、さしまねく神の働きである。

Grow old along with me,
The best is yet to be.
When our time has come,
We will be as one.
God bless our love,
God bless our love.

Grow old along with me,
Two branches of one tree.
Face the setting sun
When the day is done.
God bless our love,
God bless our love.

Spending our lives together,
Man and wife together,
World without end,
World without end.

Grow old along with me,
Whatever fate decrees.
We will see it through
For our love is true.
God bless our love,
God bless our love.
John Lennon, 1980
Ω

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