2015年7月25日(土)
続けて行っちゃおう。祭りの際のマナーのことである。
「額(ぬか)ずいて二度ひれ伏し、おそれつつしんでかしこまる。」
「頓首再拝」とか「恐惶謹言」とか、周囲で意外に使う人があり、まだまだ死語とは言えない。「頓首再拝」という言葉を僕が知ったのは『罪と罰』の江川卓訳、キザ男のピョートル・ペトロヴィッチ・ルージンが婚約者の母親に宛てた手紙の末尾だったと思う。
深く首うなだれるぐらいのことかと思っていたが、頓首も稽顙も頭を地に付けることを意味するのだそうだ。目前に偉いさんがふんぞり返っている図を考えるとシャクにさわるが、本来は母なる大地に頭をすりつける、素朴な愛情表現ではなかったかしら。
そういえば『罪と罰』の終わり近く、自首を決意したラスコーリニコフがソーニャに言われるまま、道で跪き大地にひれ伏す場面がある。フロイトはドストエフスキーのこの種の悔悟をえらく嫌ったが、僕には懐かしい場面である。どちらかといえば、フロイトの方に防衛の作為を感じるんだな。