またまた前回からの続き。
一路箱根湯本へと向かう。
この辺りはアニメの打ち上げ旅行でよく来た土地で何度か宿泊している。最後に泊まったのは『ターンエーガンダム』の打ち上げ旅行の時だったかな。
で、箱根の旧道なのだが、入口を捜してあちこち歩き回る。迷いに迷い箱根新道に入ってしまい、料金所の係員に、「ここは人は歩けないから」などとあきれられてしまう。
出口を探していたら別の係員に、「そこから出れるから」と言われ、その方に向かうと金網のフェンスに枠を作ったドアがあり、錆びた階段が下の方へ続いている。降りるとこれまた金網に囲まれた行き止まり。どうせえっちゅうんじゃい! と、辺りを見たら工事現場で使っているような分割フェンスがあったのでそこをこじ開けて脱出した。なんかスリリングだなあ。この先大丈夫なんだろうか?
住宅地の中で車が一台もない駐車場をみつけたのでシートを広げて小休止。
地図を確認すると、分岐点のかなり手前だったみたいだ。なんてこったい。
やっとの思いで旧道へ出る。
いいな、ここは。
車の通りも人も少ないし、にぎやかじゃないのがいい。旧道だけあってあまり使われていないようだ。山中なので緑が濃い。空気も心なしかさわやかになってきた気がする。
奥湯本を抜けると本格的な山道になってきた。登りは結構きつい。平地の三倍ぐらいきつい。それでも前へ、いや、上に向かって進む。小刻みに小休止をとる。うまく登りきって体力に余裕があったら三島を目指してみようかな。
ぱらぱらと雨が降ってきたが濡れるほどではない。雨具を着るのは降りが本格的になってからにしよう。
小休止をとりタバコを一服して進もうとすると、七八人のグループがやってきた。みな軽装で雨具の準備もしていないみたいだ。
最後尾のお姉ちゃんに声をかけられた。
「旧道ってここを進めば出られますか?」
「?」
あのー、ここが旧道なんですけど。地図は持ってないんですか? その様子だと持ってないですよね? 大丈夫かこの人たち?
旧道がここであることと元箱根まで7㎞くらいあるむねを伝えて俺は先へと進んだ。
雨は降ったりやんだりとせわしない。雨具を着ると暑く脱ぐと寒くて忙しい。
降る時は豪雨。やむときはぱたりとやむ。山の天気は変わりやすいと聞いていたがこれほどとはね。こりゃあ富士山を拝むのは無理だなあ。日本男児として日本の象徴を拝見できないのはちと残念である。
気温も少し下がってきたようだ。やばいので雨具を着っぱなしにすることにする。それでも時には日が差したりするのだが、いわゆる天気雨というやつで、強い降りなのに強い日光に照らされたりもする。不思議な気分だ。
豪雨を避けて大きな枝振りの木の下へと避難する。おなじみの携帯座椅子『ザ・チェア』に腰かけ、タバコに火をつけ辺りの風景を堪能した。灰と吸い殻携は帯灰皿へ。ゴミを山から持ち帰るのはアウトドアマンの鉄則なのじゃ。
雨の旧街道はなかなか渋い。辺りの木々もしっとり濡れ、緑が色濃くなっている。聞こえるのは雨が梢や葉をたたく音と時折過ぎてゆく車があげる水しぶきの音くらいだ。ああ、近くで鳥が鳴いている。こういう時バードウォッチングの趣味でもあれば鳥の名前が分かっていいのになあ。
雨脚が強いのでしばらく停滞する。ここには自分一人きり。いっぱしのアウトドアマンを気取って孤独を味わいながらタバコをもう一本。そういえばさっきのグループが来ないな。きっと引き返したのだろう。この雨だもの。
枝からしたたり落ちてきた水滴にタバコの火を消されてしまったのでそろそろ前進することにする。
雨はどんどん激しくなってくる。やばいな、これは。早く登らないと。
気は焦るがペースはあがらない。脚が前に進まない。ホントにやばいぞ。そりゃそうだ。50㎞近く徹夜で歩いて山に登っているんだもの、体力は限界に近いはずだ。でも疲労感は全然無い。神経がまいっているのか? 三島どころじゃねえぞ、こりゃあ。
と、びびっていたら、そば屋『石だたみ』を発見。助かった!
転げるように店に飛び込みかけそばを注文する。六百円。
腹が減っているせいなのか、うまい! 汁も残さず総てたいらげる。身体が温まる! 生き返ったー!
一服して窓外を見ると、さっきより雨脚が強くなっていた。
冷静に今後を判断する。天候と体力を考えて三島行きは断念し、ゴール地点を元箱根とする。さらには念には念を入れレスキュー隊に連絡を取ることにした。
レスキュー隊はJCスタッフ制作の今井君。ともに『光と水のダフネ』で苦労した戦友だ。彼と金曜日にあった時に長い散歩の話をしたところ、「今度行く時には電話をくださいよ。しばらく自分の車を運転していないんで、ドライブついでに迎えに行きますから」と言ってくれたのだ。それじゃあ、土曜に行くから日曜に迎えに来てくれ、高速代と飯代を出すからと頼み、交渉が成立していたのだ。
ただいまは午前11時半過ぎ。先日は迎えに来てもらうのはたぶん午後の4時頃になるだろうと言っておいたので、ちょっと早いかなと思ったが、緊急事態なので電話を入れてみる。
出ねえ! 十回コールしても出ねえ!! まだ寝ているのか?
しょうがないのでメールでピックアップ要請を送っておく。
12時頃から客が次々と来店。席がどんどん埋まってゆく。このそば屋は旧道の中ほどあたりにあり、なんだか心細くなってきたなあと思ったらそこにあるという絶妙なポジションに店を構えているのだ。
ええい、もう一度今井君に連絡だ。
今度はつながらねえ! どうなってんだ?! この天候のせいなのか?
食べ終わっているのにもかかわらずいつまでも席にいるわけにもいないのでジュースを注文した。で、再びメールを送信。
件名──SOS
内容──SOS SOS
頼むぞ今井。気づいてくれ!
雨はさっきより激しくなっている。
不安そうに窓外を見ていると店主のおっちゃんが、「やまないねえ。でもじきにあがると思うからそれまでゆっくりしていきな」と言ってくれた。
ありがとうございます。ホントすいません。
今井からの連絡はまだこねえー!
ベトコンに占領されたサイゴンのアメリカ大使館の米兵みたいな気分で連絡を待つ。
しびれをきらせてこちらから再び電話することにする。今度は出るまでコールし続けるつもりだ。頼むぜ戦友。
出た! 5回目で出た! 出てくれた。
電話口からは「もしもし」と鈍い声。やっぱり寝てたのかよ。
とりあえず起こしてしまったことをわび、手短に状況を説明し、ピックアップ地点を確認して電話を切った。
助かった! 救援ヘリが、じゃなくて車が来る。
雨も心なしか弱まったようだ。
店主に礼を言い、雨具を着込んで出発。ピックアップ予定地点の元箱根を目指す。
全然弱まってねえ! すごい雨になってきた。代わりに弱まったのは俺の脚だ。風まで出てきた。あたりの木々の梢が激しく揺れている。これ嵐じゃん。
それなのに全然スピードが上がらない。
それでも前に進むしかない。後なってみればヒッチハイクをするなり、戻ってそば屋からタクシーでも呼べよと思うのだが、この時の俺は重い足を引きずって前へ進むことしか考えていなかった。疲労で頭がイカれていたのか?
そば屋を出てすぐにつづらおりの道になった。けど歩道はそれをショートカットするように急な階段になっていた。この状況でこれは辛い。四五歩登っては一休み。時には一段に二歩使って登ってゆく。残りは4㎞を切っているはず。平地だったら普段は40分もあれば行ける距離だが、今の俺には果てしなく遠くに感じる。
つづらおりを過ぎると緩やかなカーブを描きながらどこまでも続く上り坂。
途中に小さな資料館があったので雨を避けるために中に入る。休憩室のベンチに腰かけ一服。呼吸が荒い。
さあ、これからどうする? と、地図で現在地を確認してみると残りは2㎞ぐらいだ。ふだんならへでもない距離だが……。
で、進むことにする。だって男の子だもん。一度決めたことはやり通さなければね。他人に言われてやっていることではなくて自分で決めたことだから。
でも激しく後悔する。風がどんどん強くなり肌をさらしている部分(手と顔)が冷たくなってきた。
やばい。やばいよ。このままじゃ疲労凍死しちゃいますよ。こんな時はどんなに疲れていても立ち止まったらアウトだ。でもピッチがあがらない。今や歩幅は靴一足分にも満たないくらいだ。
このあたりも後で考えれば、テントを持ってきているんだから適当なところに設営して中に入って風をしのげばいいじゃないかと思うのだが、やはり疲労と睡眠不足でイカれていたんだろうなあ。ホント山をなめてますよねこいつ。
風が強いので顔を上げることが出来ない。あごを引きうつむきながら歩道だけを見てよたよたと歩を進める。と、ふいに脚が楽になった。前を見ると道が平坦になっている。もうすぐ元箱根だ。助かった。
結局そば屋からわずか4キロ弱の道のりを2時間半近くかけて、芦ノ湖畔の定食屋によろよろと転がり込む。
メニューを持ってきた店主が言うには、「下からきたのかい? それにしても今日は寒いねえ。まるで冬に戻ったみたいだ。ああ、カッパはストーブで乾かしなよ」、ってストーブですよ。5月の半ばにですよ。まるで故郷の北海道みたいだ。ホントにやばかったんだな。
とろろそば900円を注文し、今井君に電話する。今旧道を車でとばしているとのこと。かなり近くまで来ているらしい。
とろろそばをたいらげたところで今井君が到着。どんぴしゃりのタイミングだ。ご苦労様。そして本当にありがとう。君が男じゃなかったらキスしたいくらいだ。
帰りの車中で天候について今井君聞くと、東京は好天だったとのこと。こっちは荒天なのになあ。確かに少し降りたらもうピーカンだ。箱根をふり返ると山は怪しい雲に隠れて姿が見えない。なんてこったい。熱海に向かえば楽を出来たんだなあ。なんか悔しい。
本日の歩行距離24時間で約64㎞。一睡もしませんでした。こんな無茶は二度としません。
一路箱根湯本へと向かう。
この辺りはアニメの打ち上げ旅行でよく来た土地で何度か宿泊している。最後に泊まったのは『ターンエーガンダム』の打ち上げ旅行の時だったかな。
で、箱根の旧道なのだが、入口を捜してあちこち歩き回る。迷いに迷い箱根新道に入ってしまい、料金所の係員に、「ここは人は歩けないから」などとあきれられてしまう。
出口を探していたら別の係員に、「そこから出れるから」と言われ、その方に向かうと金網のフェンスに枠を作ったドアがあり、錆びた階段が下の方へ続いている。降りるとこれまた金網に囲まれた行き止まり。どうせえっちゅうんじゃい! と、辺りを見たら工事現場で使っているような分割フェンスがあったのでそこをこじ開けて脱出した。なんかスリリングだなあ。この先大丈夫なんだろうか?
住宅地の中で車が一台もない駐車場をみつけたのでシートを広げて小休止。
地図を確認すると、分岐点のかなり手前だったみたいだ。なんてこったい。
やっとの思いで旧道へ出る。
いいな、ここは。
車の通りも人も少ないし、にぎやかじゃないのがいい。旧道だけあってあまり使われていないようだ。山中なので緑が濃い。空気も心なしかさわやかになってきた気がする。
奥湯本を抜けると本格的な山道になってきた。登りは結構きつい。平地の三倍ぐらいきつい。それでも前へ、いや、上に向かって進む。小刻みに小休止をとる。うまく登りきって体力に余裕があったら三島を目指してみようかな。
ぱらぱらと雨が降ってきたが濡れるほどではない。雨具を着るのは降りが本格的になってからにしよう。
小休止をとりタバコを一服して進もうとすると、七八人のグループがやってきた。みな軽装で雨具の準備もしていないみたいだ。
最後尾のお姉ちゃんに声をかけられた。
「旧道ってここを進めば出られますか?」
「?」
あのー、ここが旧道なんですけど。地図は持ってないんですか? その様子だと持ってないですよね? 大丈夫かこの人たち?
旧道がここであることと元箱根まで7㎞くらいあるむねを伝えて俺は先へと進んだ。
雨は降ったりやんだりとせわしない。雨具を着ると暑く脱ぐと寒くて忙しい。
降る時は豪雨。やむときはぱたりとやむ。山の天気は変わりやすいと聞いていたがこれほどとはね。こりゃあ富士山を拝むのは無理だなあ。日本男児として日本の象徴を拝見できないのはちと残念である。
気温も少し下がってきたようだ。やばいので雨具を着っぱなしにすることにする。それでも時には日が差したりするのだが、いわゆる天気雨というやつで、強い降りなのに強い日光に照らされたりもする。不思議な気分だ。
豪雨を避けて大きな枝振りの木の下へと避難する。おなじみの携帯座椅子『ザ・チェア』に腰かけ、タバコに火をつけ辺りの風景を堪能した。灰と吸い殻携は帯灰皿へ。ゴミを山から持ち帰るのはアウトドアマンの鉄則なのじゃ。
雨の旧街道はなかなか渋い。辺りの木々もしっとり濡れ、緑が色濃くなっている。聞こえるのは雨が梢や葉をたたく音と時折過ぎてゆく車があげる水しぶきの音くらいだ。ああ、近くで鳥が鳴いている。こういう時バードウォッチングの趣味でもあれば鳥の名前が分かっていいのになあ。
雨脚が強いのでしばらく停滞する。ここには自分一人きり。いっぱしのアウトドアマンを気取って孤独を味わいながらタバコをもう一本。そういえばさっきのグループが来ないな。きっと引き返したのだろう。この雨だもの。
枝からしたたり落ちてきた水滴にタバコの火を消されてしまったのでそろそろ前進することにする。
雨はどんどん激しくなってくる。やばいな、これは。早く登らないと。
気は焦るがペースはあがらない。脚が前に進まない。ホントにやばいぞ。そりゃそうだ。50㎞近く徹夜で歩いて山に登っているんだもの、体力は限界に近いはずだ。でも疲労感は全然無い。神経がまいっているのか? 三島どころじゃねえぞ、こりゃあ。
と、びびっていたら、そば屋『石だたみ』を発見。助かった!
転げるように店に飛び込みかけそばを注文する。六百円。
腹が減っているせいなのか、うまい! 汁も残さず総てたいらげる。身体が温まる! 生き返ったー!
一服して窓外を見ると、さっきより雨脚が強くなっていた。
冷静に今後を判断する。天候と体力を考えて三島行きは断念し、ゴール地点を元箱根とする。さらには念には念を入れレスキュー隊に連絡を取ることにした。
レスキュー隊はJCスタッフ制作の今井君。ともに『光と水のダフネ』で苦労した戦友だ。彼と金曜日にあった時に長い散歩の話をしたところ、「今度行く時には電話をくださいよ。しばらく自分の車を運転していないんで、ドライブついでに迎えに行きますから」と言ってくれたのだ。それじゃあ、土曜に行くから日曜に迎えに来てくれ、高速代と飯代を出すからと頼み、交渉が成立していたのだ。
ただいまは午前11時半過ぎ。先日は迎えに来てもらうのはたぶん午後の4時頃になるだろうと言っておいたので、ちょっと早いかなと思ったが、緊急事態なので電話を入れてみる。
出ねえ! 十回コールしても出ねえ!! まだ寝ているのか?
しょうがないのでメールでピックアップ要請を送っておく。
12時頃から客が次々と来店。席がどんどん埋まってゆく。このそば屋は旧道の中ほどあたりにあり、なんだか心細くなってきたなあと思ったらそこにあるという絶妙なポジションに店を構えているのだ。
ええい、もう一度今井君に連絡だ。
今度はつながらねえ! どうなってんだ?! この天候のせいなのか?
食べ終わっているのにもかかわらずいつまでも席にいるわけにもいないのでジュースを注文した。で、再びメールを送信。
件名──SOS
内容──SOS SOS
頼むぞ今井。気づいてくれ!
雨はさっきより激しくなっている。
不安そうに窓外を見ていると店主のおっちゃんが、「やまないねえ。でもじきにあがると思うからそれまでゆっくりしていきな」と言ってくれた。
ありがとうございます。ホントすいません。
今井からの連絡はまだこねえー!
ベトコンに占領されたサイゴンのアメリカ大使館の米兵みたいな気分で連絡を待つ。
しびれをきらせてこちらから再び電話することにする。今度は出るまでコールし続けるつもりだ。頼むぜ戦友。
出た! 5回目で出た! 出てくれた。
電話口からは「もしもし」と鈍い声。やっぱり寝てたのかよ。
とりあえず起こしてしまったことをわび、手短に状況を説明し、ピックアップ地点を確認して電話を切った。
助かった! 救援ヘリが、じゃなくて車が来る。
雨も心なしか弱まったようだ。
店主に礼を言い、雨具を着込んで出発。ピックアップ予定地点の元箱根を目指す。
全然弱まってねえ! すごい雨になってきた。代わりに弱まったのは俺の脚だ。風まで出てきた。あたりの木々の梢が激しく揺れている。これ嵐じゃん。
それなのに全然スピードが上がらない。
それでも前に進むしかない。後なってみればヒッチハイクをするなり、戻ってそば屋からタクシーでも呼べよと思うのだが、この時の俺は重い足を引きずって前へ進むことしか考えていなかった。疲労で頭がイカれていたのか?
そば屋を出てすぐにつづらおりの道になった。けど歩道はそれをショートカットするように急な階段になっていた。この状況でこれは辛い。四五歩登っては一休み。時には一段に二歩使って登ってゆく。残りは4㎞を切っているはず。平地だったら普段は40分もあれば行ける距離だが、今の俺には果てしなく遠くに感じる。
つづらおりを過ぎると緩やかなカーブを描きながらどこまでも続く上り坂。
途中に小さな資料館があったので雨を避けるために中に入る。休憩室のベンチに腰かけ一服。呼吸が荒い。
さあ、これからどうする? と、地図で現在地を確認してみると残りは2㎞ぐらいだ。ふだんならへでもない距離だが……。
で、進むことにする。だって男の子だもん。一度決めたことはやり通さなければね。他人に言われてやっていることではなくて自分で決めたことだから。
でも激しく後悔する。風がどんどん強くなり肌をさらしている部分(手と顔)が冷たくなってきた。
やばい。やばいよ。このままじゃ疲労凍死しちゃいますよ。こんな時はどんなに疲れていても立ち止まったらアウトだ。でもピッチがあがらない。今や歩幅は靴一足分にも満たないくらいだ。
このあたりも後で考えれば、テントを持ってきているんだから適当なところに設営して中に入って風をしのげばいいじゃないかと思うのだが、やはり疲労と睡眠不足でイカれていたんだろうなあ。ホント山をなめてますよねこいつ。
風が強いので顔を上げることが出来ない。あごを引きうつむきながら歩道だけを見てよたよたと歩を進める。と、ふいに脚が楽になった。前を見ると道が平坦になっている。もうすぐ元箱根だ。助かった。
結局そば屋からわずか4キロ弱の道のりを2時間半近くかけて、芦ノ湖畔の定食屋によろよろと転がり込む。
メニューを持ってきた店主が言うには、「下からきたのかい? それにしても今日は寒いねえ。まるで冬に戻ったみたいだ。ああ、カッパはストーブで乾かしなよ」、ってストーブですよ。5月の半ばにですよ。まるで故郷の北海道みたいだ。ホントにやばかったんだな。
とろろそば900円を注文し、今井君に電話する。今旧道を車でとばしているとのこと。かなり近くまで来ているらしい。
とろろそばをたいらげたところで今井君が到着。どんぴしゃりのタイミングだ。ご苦労様。そして本当にありがとう。君が男じゃなかったらキスしたいくらいだ。
帰りの車中で天候について今井君聞くと、東京は好天だったとのこと。こっちは荒天なのになあ。確かに少し降りたらもうピーカンだ。箱根をふり返ると山は怪しい雲に隠れて姿が見えない。なんてこったい。熱海に向かえば楽を出来たんだなあ。なんか悔しい。
本日の歩行距離24時間で約64㎞。一睡もしませんでした。こんな無茶は二度としません。