ハーバード・ケネディスクールからのメッセージ

2006年9月より、米国のハーバード大学ケネディスクールに留学中の筆者が、日々の思いや経験を綴っていきます。

ハリケーンの爪あと

2006年11月21日 | 日々の思い

 

 アメリカに来て初めてその政治的・経済的・精神的なショックの大きさを認識しました。そして、それは決して過去の惨事ではなく、現在進行中の悲劇だと言うことも。

 昨年の8月にルイジアナ州やフロリダ州を襲い、2,000名近い死者を出した史上最大規模のハリケーン・カトリーナ。今日のNew York Timesの一面にまた気になる記事を見つけました。

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「In New Orleans, Rust in the Wheels of Justice(ニューオリンズ、錆び付く司法の輪)」

 記事によると、裁判で判決を下すのに必要な書類や証拠品の類が、洪水で流されたり水浸しになってしまい、全証拠品のうち、実に10%が台無しとなり、500名近い被告が証拠不十分で無罪放免となっているそうです。そうした元被告の中には、殺人や強姦、強盗などの重大犯罪で現行犯逮捕されている者や麻薬中毒者も多く含まれるそうですが、証拠不十分な上、被害者自身もハリケーンで亡くなったり、避難して行方が分からなくなっているため、裁判にならないとのことです。

 また、判事や陪審員の数も圧倒的に不足しているため、「裁判待ち」の拘束を長期間に亘って強いられている人も多く居るほか、現在「使い物になる」証拠品も、紙袋やダンボールに無造作に放り込まれているものが多いため、次々に「カビ」が生えるなど、質の劣化が著しいとの事。

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 ニューオリンズ市に関する記事がイヤでも目に留まってしまうのは、来年の1月に一週間ほど、現地の仮設住宅の増設、修復のボランティアに参加するためです。この夏にニューオリンズを訪れた知り合いの日本人の話では、ハリケーンの被災が一年前とはとても思えない、つい一月前の出来事かと勘違いしてしまう程の、荒れ果てた町並みが広がっているということでした。また、被災直後に、届かない救援物資に業を煮やした市民が暴徒化して、銃を持って商店に押し入るという「無法地帯」の映像が全世界に映し出されたのは衝撃的でしたが、上記の記事を読むに、未だ「無法」状態は好転していないようにすら思えます。

 1月のボランティアにはケネディスクールの学生、約10名が参加する予定ですが、ボランティア経験初めての自分にとって、果たして無事に現地に貢献できるか正直不安です。

 ただ、机上の学問に加え、「現場」に自分を放り込むのがこの2年間の留学の目的の一つ。アメリカ社会の矛盾が最悪の形で結晶となってしまったニューオリンズ市の空気を吸い、匂いをかぎ、その問題点を肌で感じつつ、微力ながらも現地で未だ苦しむ人たちの生活を、ほんの少しでも好転させることが出来れば、と思っています。


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