喉に痞(つか)えていた魚の骨のごときCDプレーヤが無事復旧した。結局、穴があってそこに突起を勢いよく嵌(は)めればカチッと納まった。後は分解した手順の逆を、記憶をたどりつつ、慎重に進めて修理は終了となった。CDトレイはスムーズに引っ込むし、その後、イジェクトボタンを押さない限りは勝手に出てこない。モーツァルトが快く部屋を充たす。
「なぁーんだぁ…」
要は、ぼくの臆病な性格が災いしただけ。赤ん坊を撫でるようなソフトタッチでは機械は受け入れてくれない。大胆に、ガバーッでよかったのだ。CPUクーラーを取り付けるより繊細になっていた。
家人からUSB2.0対応の外付けハードディスクにデータをバックアップして欲しいと依頼があった。送る側と送り先の窓を並べ、ドラッグアンドドロップでコピーした訳だが、その最中に彼女が、
「へーっ、こんな小さなものに入って行くんだぁ」
とそのドライブを手に取り始めた。思わず、
「おい、おい、動かすなよ、転送中に!」
と悲鳴をあげてしまった。家人はキョトンとしている。
知らないというのは強い。が、怖ろしくもある。ハードディスクはレコード・プレーヤと同じだ。1分間に5,400回転という高速で回っている。そのまっただ中に振動で傷がつけばどうなるか、と言いかけて言葉を呑んだ。彼女にしたら、このドライブはコンパクトでお洒落なパッケージ商品としか見えない。中の仕組みが見えないから当然だし、家電の感覚ではそうなる。それが普通の反応ではあるまいか。
知識や経験を積めば、まして痛みをともなう体験をすれば、人は臆病になる。家人からしたら、ぼくは小心者にしか見えないだろう。パソコンなんて知らない方が健康にいいようだ。