ひと日記

お気に入りのモノ・ヒト・コト・場所について超マイペースで綴ります。

春のフランネル

2010-04-15 04:00:00 | 白井さん


 またも余談からで恐縮ですが、数回前の撮影から信濃屋さんに伺う際に携えて行く鞄を、フジイさんのスウェードの抱え鞄から、大峡製鞄のオーバーナイトに替えました。理由は、中に入れるカメラの大きさに比べて抱え鞄がいささか小さく、不自然にふくらんだ鞄を見かねた白井さんから『鞄が型崩れしちゃうんじゃない?』とご指摘を受けたからです。その点は私も以前から気になってはいたのですが、お気に入りの鞄なのでついつい(汗)。でもお気に入りなればこそ大切に使うのが当然、と反省した私は、遅ればせながら鞄を替えることにしたのです。実はフジイ鞄の登場以来すっかり出番が減っていた大峡製鞄の“オーバーナイト”。クロゼットの中で静かに出番を待っていた間も、自慢のタンニンなめしの革はひっそりとエイジングを重ねていたようで、少し色艶が増したような(笑)。

 白井さんのアドヴァイスはいつもさり気なくて的確。もちろん、押し付けがましいなどということは皆無です。そして、白井さんに“こうすれば?”と言われると何故か“じゃあ、そうしようかなぁ”という気持ちになるから不思議です。お陰様で、フジイ鞄はストレスから解放され、大峡の鞄は再び日の目を見ることができ一挙両得です。何気ないエピソードなのですが、そこから着こなしにも一脈通じるエッセンスが感じられるのは私だけでしょうか?

   

 タイトルを“春のフランネル”としたのにはある理由があります。昨年の春、いつもお馴染み天神山Iさんのブログ『天神山メンズスタイル』で、白井さんの“ワンランク上の着こなし”が紹介されました。その時、白井さんがお召しになっていたのが今日と同じイザイア(伊)のフランネルブレザー、私はその時の白井さんの着こなしが大好きで、今春、このブレザーの登場を心待ちにしていました。その時のIさんのブログのタイトルが“春のフランネル”という実に洒落たタイトルだったので、今日使わせていただいた次第なのです(笑)。

 私、   『白井さん、今日のブレザーは“イザイア”ですね!?』

 白井さん、『また!そんなことはどうだっていいの。そういうのはそろそろ卒業しないと(苦笑)。』

 と、この日も余計なことを伺い、白井さんから窘められてしまいましたが、私としては上記のような思い入れがあったので、今回だけはどうしても確認しておきたかったのです(笑)。

      

 『お彼岸を過ぎたら起毛系の服はなるべく着ないようにするけど、フランネルのブレザーだけは春になっても好んで着るよ。』(白井さん談)と仰っていたのはまだ記憶に新しいことと思います。因みに、この日は快晴、気温20度、と春らしい一日でした。

 白のオックスフォードBDシャツに、臙脂とゴールドのハッキリ太目のレジメンタルストライプのネクタイ、ポケットカチーフはネクタイの色を拾ったペイズリー柄をパフで。パンツも恐らくフランネルと思いますが、この日の陽気を考慮されてか明るいグレーを選択されたようです。ライトグレーのパンツは二回目の登場、一回目も暖かい陽気の日で、やはり同じくブレザー時に着用されていました。それと、写真には写していませんが、赤いフェルトのサスペンダーでの着用でした。セミブローグの靴はエドワード・グリーン(英)。ロンドンのエドワードグリーンで購入されたそうで、店がまだバーリントンアーケードに在った頃(現在はジャーミンストリート)だったとか。

 コーディネートは飽くまでも基本に忠実に、気取らず飾らず、余計なものは足さず、足りないものもまた一つも無い、上から下まで完璧なブレザースタイル。“教科書通り”という表現がありますが、確かにこうして文字にするだけだと“教科書通り”なのに、写真で見ると(実際はもっと)何故こんなに“エレガント”なのでしょう??

 

 それから、今日のブレザーに使われていたメタルボタンは“被せ”といわれている軽量が特徴のボタン。白井さん曰く『この軽さが好きなんだよね。もちろん(純)銀のボタンもいいけど重さでボタンが下を向いちゃうのが難点だね。』とのことです。

 さて、シンプルな白いシャツを殊に好まれる白井さん。今日もフランネルのブレザーにはこれ!とばかりに基本通りオックスフォードBDの白を鮮やかに合わせていらっしゃいます。ただ、私個人のことで恐縮ですが、私は真っ白なシャツ特有の“清潔感&爽やかさ”に、何となくある種の“気恥ずかしさ”を感じてしまい、白いシャツをワードローブに加えることを今まで敢えて敬遠していました。でも、白井さんが白いシャツを積極的に着こなす様を何度も何度も目にすると、その気高さ、汎用性の高さ、シンプルゆえに奥深い魅力に改めて気づかされます。そしてこの日、シャツの話にさしかかった時、かなり恥ずかしかったのですが思い切って白井さんに伺ってみました。

 私、   『僕、実は白いシャツはBDのオックスフォードを一枚持ってるきりなんです。』

 白井さん、『え!そりゃだめだなぁ~、白いシャツは100枚は持ってないと!(笑)』

 私、   『ええ~!!ヒャクマイですか!?』

 白井さん、『じゃあ、せめて46枚。白(シロ)だから(笑)。まぁ、たくさん持ってたほうがいいよ。どんなネクタイとも合うしね。それに歳取るとやっぱり白が良くなる。』

 と、いつものように実に明快なお答えを頂きました。なるほどなぁ~・・・よし!少しずつ増やすぞ白いシャツ!

  


 この日は多くの紳士諸兄のご来店があり、信濃屋馬車道店地下紳士フロアはさながら“紳士の巣窟”といった観がありました(笑)。白井さんを中心に実に多くの服飾談義が交わされましたが、その中から一つ二つ。

 この日の白井さんは、まず手始めに紳士服職雑誌の最新号を眺めつつ、あれこれとご感想を仰っていました。『お、このジャケット良いね~、やっぱりラルフローレンだな、これと同じような柄のジャケット持ってるからその内に着てくるよ。』と仰ったり、復活したウォークオーバーのダーティーバックスに目を留められ『メイド イン USAだ、粗い作りだよね(笑)。でも、ラバーソールの靴とかデザートブーツなんかは、こういう“粗い作り”の方が逆に雰囲気が出るよね。』と“白井流”靴選びもご披露されていました。

 私如きが生意気ながら、白井さんについていつも“凄いな~”と思うことの一つは、こうして世間の傾向にも関心を寄せていることです。白井さんくらいになればそんな必要も無いんじゃないかな、と素人の私は思ってしまいますが、そうじゃないんですよね~・・・白井さんはいつも人の服装に凄く興味をお持ちなんですよね。先日、外出時にご一緒させていただいた時なども、例えば電車の中で『あ、あの男の子ホンブルグ被ってる・・・でも本物はもうちょっと鍔の周りがはね上がってるけどね。』なんて仰りながら観察されていました。

 以前、白井さんが何かのインタビューにお答えになられて、『ずっと感じていることですが、日本の男性は他人の服装に興味がない人が多い。僕なんかたとえば冬になると、すごいコート着て、帽子かぶって、ステッキ持って…みたいな、昔だったら何だろう?というような格好をしていますが、誰も見ませんよ。ところがイタリアなんかに行くと、じーっと見られる、振り返るぐらいにね。彼らは他人の着ているものにものすごく興味ある。だからおしゃれな人が多いんです。』と仰っていました。

 上の1、2枚目の写真は白井さん愛用の名刺入れ。購入から約40年近く経っているそうで、以前このブログでもご紹介したことがある藤田商店さん、そちらでのお取り扱いだったというレッドウォール(伊)製の品です。レッドウォールはGucci(伊)の初期の頃のバッグを作っていたメーカーだそうです。3枚目の写真はそのお話の流れで登場してきた“鞴(ふいご)”。赤と緑のチェック柄が魅力的で、このチェック柄を私に見せるために、いつも優しいY木さんがこの鞴をお店の奥から出してきてくださったのですが、この前後のお話が私にとってはかなり複雑で、私の読解力では把握しきれず、この鞴が何処のものか、何故信濃屋さんに置いてあるのか、このチェック柄が如何に価値があるのかについてご紹介できません。折角見せて頂いたのに、信濃屋の皆さん申し訳ありません。また、この時のお話では、ドーメル、ロンシャン、コーチ、近文、真下、と色んなブランドや、メーカーや、代理店などなどの名前が出てきました。私の理解力と記憶力が低く、ここで詳しくご紹介できないのが残念ですが、一つだけ私にも判ったことは、紛れも無く白井さんは、戦後の紳士服飾業界を牽引されてきた重要な人物のお一人で、膨大な商品知識と豊富な人脈もお持ちなのだなぁ、ということです。ま、でもそれは以前から皆さんもご存知のこと、今更私がここでくどくど説明する必要はありませんね(笑)。