ひと日記

お気に入りのモノ・ヒト・コト・場所について超マイペースで綴ります。

濃紺のスーツ

2010-04-17 04:00:00 | 白井さん


 この日4月15日の天気は、朝からの雨に加え4月中旬にもかかわらず最高気温が10度を下回る真冬並みの寒さで、着るものに悩んだ方が相当多かったのではないでしょうか。斯く云う私も、雨だし、寒いし、でももう4月だし、果てさてどうしようと、あまりに悩みすぎたせいで途中から訳が判らなくなってしまい、信濃屋オリジナル・ライダーコートを無帽で、天神山製ダイヤゴナルの枯れ草色のジャケット、ウーステッドのグレーパンツ、信濃屋オリジナルのUチップシューズ、オリーブ色のチーフとソックス、とここまでは良かったのですがその後、これを落札したせいでネットオークションに嫌気がさした“いんだら”フライの茶系チェック柄シャツ、この時期に何故か紺のツイード地ネクタイ、という最終的には“なんだかよくわからない”コーディネートになってしまいました。余りのセンスの無さに呆然としつつ、

 “こういう日は白井さんはどうするのかなあ?”

 と、考えながら信濃屋さんへと向いました。

  

 白井さんがこの日選ばれた服はシンプルな“濃紺のスーツ”(信濃屋オリジナル・天神山製)。『そういえば最近は紺を着てないなぁ、と思って。』と選ばれた理由も実にシンプル。『今日は凄く寒いけどこれはフランネルよりはもうすこし薄手。冬物のスーツはフランネルが多いけど。』と仰っていたので、今日の一着は恐らくウーステッド素材だと思います。この日はダウンのハーフコートを着た人を見かけるくらい寒い一日でしたが、だからといって花見も終わったこの時期に真冬物に逆戻りするといった“野暮”は、やはり白井さんにはあり得ないことのようです。

 『お洒落は“暑い”とか“寒い”とか言っちゃいけないよ。』

 これは以前、白井さん、いつも控えめな白井さんのお散歩お友達Kさん、私の三人で“暑さ”について話していた時に、白井さんが何気なく仰った一言。その時の会話の流れの中でさらっと仰っただけなのですが、“白井流”の着こなしを語る上では決して外すことができない言葉なような気がして今もって忘れられない一言です。

 因みにその時は、夏場のイタリアで、日本人観光客が暑さに負けてすぐジャケットを脱いでしまう姿をしばしば目撃した経験を思い出されて、『あれは何年の夏だったかなぁ~ミラノの日本食のお店で食事をしていると、○○さん(世間では“紳士”として知られる大変有名な方)がやって来てさ。我々のすぐ近くの席に座ったんだけど、席に着くやいきなりジャケットを脱いじゃうんだよなぁ(苦笑)。“○○さん、ジャケット脱いじゃだめですよ!”って思わず言いそうになっちゃったよ(笑)。』と、ちょっとしたエピソードもこっそり教えて下さいました。おっと、まだ夏まではしばらく間があるのに、ちょっとフライング気味のエピソードですね(苦笑)。

    

 『紺無地って何着か持ってるしシングルもあるけれど、やっぱりあまり着ないね。』(白井さん談)

 上の最後の写真は感度を上げて撮影しましたが、それでもご覧の通りかなり濃いめの紺です。信濃屋さんに就職された当初から“誂えの、当時はまだ珍しかったというチョークストライプのスーツを着てたよ”と仰る白井さんですので今日の写真は貴重なショットですが、実は白井さんは今日のこのダブルのスリーピースを昨年の“信濃屋クリスマスパーティー”でもお召しになっていました。憶えている方もいらっしゃると思います。



 昨年末のコーディネートは、紺地に白い水玉の蝶タイ、カラフルなポケットカチーフ、というパーティースタイル。今日は、紺白千鳥格子のプリントタイ、同じく紺白ドットのポケットカチーフ、というストイックなビジネススタイル。

 

 靴は昨年末は黒のキャップトウでしたが、今日はスウェードのフルブローグ。シルヴァーノ・ラッタンツィ(伊)の初期の頃で“ベンティ・ヴェーニア仕様”モデル名“ウィリアム”。因みに今回で2回目の登場ですが、前回も白井さんは紺(のチョークストライプ)の服に合わせていました。どんな靴とも合うオーソドックスな靴ですから恐らくたまたまかと思われますが、もしかしたらこの靴と紺の服に相性の良さを感じられているのかもしれませんね。白井さん曰く『紺の服に合わせる靴は、明るい茶は足元が浮いちゃうからあまり合わないと思うけど、黒、濃茶、ワイン系なんかも良いよね。』とのこと。靴下は一瞬、“え!黒!?”と思いましたがこちらも濃紺です。

 さて、濃紺無地は所謂“ダークスーツ”と呼ばれ、着る人の品格が最も表われる服の一つ。前回の“春のフランネル”でも同じことを書きましたが、飽くまでも基本に忠実に、気取らず飾らず、余計なものは足さず、足りないものもまた一つも無い、上から下まで完璧でエレガントな着こなし。そして、昨年と今年、是非二つの着こなしを見比べてください。

 “着こなしの醍醐味は組み合わせの変化”

 “服なんてどうでもいい、小物が大事”

 “コーディネートは基礎が大切”

 これまで何度も登場してきたこれらの言葉が自然と頭に浮かんできます。書店の棚にたくさん並んでいる服飾の雑誌には毎号実に多くのコーディネート例の写真が載っていますが、このたった2例の白井さんの着こなしから学べることの方がはるかに多いような気がするのは私だけでしょうか。

 実は今日でこのカテゴリー“白井さん”は 更新30回目の節目を迎えたのですが、このような好例を掲載できたことは“ここまで続けてこれたからこそ”と、ちょっぴり誇りを感じます。もちろんそれは、白井さん、信濃屋の皆さん、いつもお馴染み銀座天神山のIさん、ご高覧下さっている皆様のお陰であることは言うまでもありません。本当に感謝、感謝です(笑)。

 
 

 さすがにこの日の寒さは厳しかったので、コートを羽織ってのお帰りです、チェスターバリー(英)の綿のバルマカーンコートですね。少し緑がかったベージュが良い色です。いかにスプリングコートとはいえ、白に近いベージュだと些か気恥ずかしいような気がするのですが、これくらい落ち着いた色なら大人の男が羽織るのに最適です。帽子(ボルサリーノ・伊)は久しぶりの登場となりました。グレーの中折れは個人的にも思い入れのある帽子なので、これを被られた白井さんを見るといつも“あ~グレーの中折れが欲しいなぁ”と思ってしまいます。写真だとちょっと判り難いのですが、少し焼けたグレーの色が実にカッコいいんですよ。ただこういう風になるには時間も当然必要な訳で、白井さんが常日頃仰る通り“良い小物ほど早くから揃えなくてはいけない”ということを如実に物語る帽子でもあるのです。

 前回訂正です。イタリーの鞄メーカー・レッドウォールについて、白井さんから“強いて言えば”とご指摘をいただきました。

 『レッドウォールは“グッチの初期の頃の鞄を作ってた”というよりは、“そのうちの一つのメーカーだった”といった方が正確かな。当時、グッチの鞄で定番だったのは、こげ茶のなめした豚革の腹に赤と緑のウールンバンド、所謂“シンチ”が巻かれた鞄だったのだけれど、それをつくっていたのがレッドウォールだったんだよ。』

 とのことですが、もしかしたらこれでも正確には説明できてないかもしれませんので、もし更に訂正があったときはお知らせいたします。



 ??・・・これ何だか判りますか?正解は次回発表します(笑)。お楽しみに!といってはあまりに不親切なのでさわりだけ・・・

 今回の撮影日はそのあまりに極端な寒さの影響か横浜の街は人影少なく、“紳士の巣窟”信濃屋さんの地下フロアも私と白井さんの二人きり。実は私、未だに白井さんと二人っきりは緊張します(汗)。また、この日は更に間の悪いことに、私が電車を寝過ごして来る時間がいつもより20分程遅れたためインタビュー時間がかなり短め・・・私は絶体絶命の窮地に立たされていましたが、そんな時はいつも私のお相手をしてくださる牧島さんが何気なく会話の助け舟を出してくださる、はずなのですがその牧島さんはそんな日に限ってお休み。

 しかし、信濃屋(馬車道店)さんには牧島さんともう御一方、いつも優しいY木さんがいらっしゃいます。この日は牧島さんに代わり、Y木さんがお話に加わってくださったお陰さまで私はいつも通りリラックスして撮影に臨むことができたのです。そしてあっという間に6時になり、白井さんがお帰りの支度にかかられたその時です!Y木さんがさり気なく『白井さんの今日のシャツ、タブカラーですか?』と白井さんに質問されました。これは勿論Y木さんから私へのお気遣いだったのは言うまでもありません。

 『そうそう、“イングリッシュタブカラー”。古い(信濃屋)オリジナルのシャツだね。タブカラーっていってもピンで留めるやつで今はこんなの中々無いと思うよ。あ、そうそう、ピン留めといえばこれも・・・』

 そう仰って白井さんが私に見せてくださったのが“遠藤のシャツ”。このシャツは以前Y木さんに“是非白井さんからお話を伺ったほうか良いですよ”と教えていただいていた“メイド イン ヨコハマ”の超逸品!!以前、ロッカーループのお話が出てきた際にもチラっと登場し、その時も白井さんに『フライ(伊)よりもずっと良い。』と言わしめた幻のシャツなのです。ただ折角ながらこの時はお帰り間際、白井さんは大好きな野球観戦(テレビ)が控えているのでゆっくりお話を伺うわけにもいきません。私はとりあえずその時は写真だけを何枚か撮らせていただいたのですが、上の写真はその内の一枚なのです。という訳で次回は是非とも“遠藤のシャツ”について白井さんにお伺いしたいと思っています。最後になりましたが、Y木さんありがとうございました(笑)。