昭和四十三年より記すとある当社の奉納者名簿。私が生まれる四年前からの帳面を今は私が引き継いでいる。
神社の現在の社殿が建立されたのが昭和6年。日露戦後の国威が高まった頃はで、地方の村社もその時期棟上げされたところが多いだろう。
方や高度成長期の真っ只中。昭和40年代初め神社の社務を担っていたのは祖父である。
明治生まれの祖父の文字はしなやかで力強く、また当時の奉納額の多くは五百円から二千円となっており、私が生まれる前の様子を伝えている。
昭和六十年代には父の文字が見える。基本金と並んで自宅の新築基記念の奉納が多い。バブル全盛期、田舎の多くの人たちが自宅を新築していた時代だ。
日本の現在の戸籍制度は明治維新によって新政府が採用したものだろうが、そのもととなったのは恐らく江戸期から続く檀家帳であろう。誰がどこの檀家で名主が誰、隣組はどこなどを掌握していたものと思われる。
一方神社の奉納者の名簿は、基本金の取りまとめ以降は成人式、結婚、出産など人生の節目にそれを氏神である神社に伝えた記録である。氏子の生涯の通過儀礼と見ていいものだ。
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祖父から父へ、父から私へと引き継がれた筆は、皿尾村の歴史そのものだ。
誰一人としてかけてはならない村の歴史。一人一人の名を読み返しながら未来へと続くよう御神徳を祈っている。