第二次世界大戦が終わった終戦後に生を受けた私は、学校で日本神話を学ばなかった。様々な歴史的背景で学校教育の中に神話が影をひそめたのだろうが、神話や昔話など、長い時間を経て口承等で伝わってきた祖先達の智恵は、その解釈も含めもっと見直しこれからの世代に残す必要があるのではないだろうか。
「生き甲斐の心理学」を学ぶ中で、日本人のこころの故郷というか、こころの原型を勉強しているが、持統天皇、元明天皇、元正天皇、聖武天皇、考謙天皇といった女帝を中心に栄えた古代に、日本神話を含む記紀、万葉集が誕生する。
持統天皇を含む、時の政権の要人もきっと読んだと思われる神話や和歌。彼らは何を感じ、あるいは何にイキを感じたのだろうか。
日本神話の中で、私が好きなのは、イザナギ、イザナミの話である。イザナミが国を産み。最後に火の神を産んでイザナミが死に、黄泉の国に行くが、イザナギが悲しんで黄泉の国に追いかけていく話である。イザナギがイザナミが後を追ってくるので地上と黄泉の国の境を大岩でふさぎ、岩をはさんで、二人が会話するシーンは凄い。見方によっては、絶望を潜り抜けた神々の智恵(祖先といってもいいが)を感じる。私の好きな橋本治さんの名訳で引用してみたい。
岩をはさんでイザナキの命とイザナミの命はむかいあわれ、そしてイザナキの命は、死んでしまわれたイザナミの命にたいして、離縁のお言葉を申しのべられたのです。
イザナミの命は悲しみ、そしてお怒りになりました。
「愛しいわたしの夫であるあなた。どうしてそのようにひどいことをおっしゃいます。それを真実となさるなら、わたしはこの先、あなたの国に住む人間を、一日に千人ずつ縊り殺してやりましょう。」
そこでイザナキの命は、大声で誓われたのです。
「愛しいわたしの妻、イザナミの命よ!あなたがそれをするなら、よろしい、わたしはこちらの国で、一日に千五百人の子どもを生ませるため、千五百の産屋を建ててやろう!」
(橋本治の古事記 講談社 40ページより)
この神話で祖先は何を言おうとしたのだろうか?
(不思議な領域 8/10)