チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その23

2013-10-21 19:55:38 | ADHDとともに「君の星座」
 ハルカ、十二歳。中学一年生。
 六月にはもう、クラスメイトには愛想を尽かし。部活動にも行かなくなった。
「ハルカ!そんな格好で学校行くの?」
ジーパンにTシャツ。規則に沿った服装なんだしさ。親のお仕着せでは服を着なくなったのはこの頃。私はやっと年中ズボンで過ごす自由を手に入れた。
 昼休みも、持参のサッカーボールを持ち出して一人、グラウンドへ。仲のいい子もいないし。女の子の話って聞いてても面白くないし。運動部の集まってるところを避けて、開いているスペースへ。そこで一人、サッカーしてるんだ。蹴りだしたボールがまっすぐに飛んで、フェンスに突き刺さる。
 地面に腰を下ろして、空を見上げると、じわっと滲んできた。
『アホ!答案どこやったんだ!』
中間テストが終わって、その結果のこと。お父さんお母さんにアザだらけになるまで殴られたんだ。中学に入ってから理由もなく殴られるようになったけど。
『あんたの成績見て、親もこのぐらい心引き裂かれたわ!』
ギャーーーー!お母さんにアニメ雑誌を、真っ二つに破られたんだ。
 教室で笑い声を上げているクラスメイトに異常なほど腹が立つ。私には意地悪ばっかり言うくせに。
『アニメが好き?気持ち悪い!』
『男の子に興味あるなんて、かなりおかしくない?』
あんたらだって、男の子のアイドルグループに夢中になってるくせに!

個性なんてものはないの。中学生は制服でないと。悪いことした時にどこの子かわらかないでしょ?女の子はスカートをはくものって決まってるの。常に皆と一緒にいさせて、監視しあわさないと。一人になったらシンナー吸うとか、ろくなことしない。一年中、部活部活でいっぱいに詰め込むぐらいでちょうどいいのよ、中学生は。自由にさせたら何をするかわからない。非行の始まり!非行の始まり!非行の始まり!非行の始まり!

 夏休み。保護者面談。
「ハルカの母です。お世話になっております。」
「いえいえ。どうぞ。」
成績資料を提示しながら。
「残念ながら、今学期のハルカさんの順位はここになります。」
「はい・・・本当に、私も主人も、私学のシステムを知りませんでして。本人ももう一つ、中学校での過ごし方がわからないようで・・・あの、先生。親として心配してるんですが、うちの子は知能が低いんでしょうか?」
「いいえ。四月の知能検査では、IQは百三十を超えています。」
 知能の問題では、ない?それより、
「成績はまだ努力で挽回できますが、ハルカさんは孤立してますね。休み時間も一人でサッカーやってますし。そういう男の子みたいなことはやめていただきたいんです。クラスの子も怖がるんです。皆、女の子ですので。」
「申し訳ありません。下の子が男の子なので、その影響もあるかと・・・」
一呼吸ついて担任が。
「部活は、マンガ部でしたね?・・・音楽の先生がですね、ハルカさん、物凄く歌が上手だっておっしゃっています。これは才能ですって。合唱部ありますし、そちらにも入部されませんか?部活の掛け持ちは学校としても許可していますし。」
 




 


 

ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その22

2013-10-20 19:26:17 | ADHDとともに「君の星座」
 あーあ、疲れた・・・ガタン、ゴトン!
「終わったからいいけど、嫌そうな顔しないの!」
お母さんと婚活の会に行ってたんだ。その帰りの電車の中。受け付けない衣服、化粧にももう、疲れ果てた。
「ハルカも、そういう格好していたら綺麗なのに。」
また始まった!
 結局、身上書を交換できたのは三人。これをお父さんとも一緒によく読んでよく考えて、誰と交際を申し込むか考え酔うって言うわけ。
「おかえり。どうだった?」
「うん。まあまあ。ハルカもなかなか前向きだったわ。」
いつもの肌に馴染んだ服に着替えて、化粧も落とす。おじいちゃんはもう寝ているし、リビングのテーブルで話し合いすることになった。お父さんが書類に目を通してる間、ずっと冷や汗がにじむ。
「うん・・・この人は勤めてるところがしっかりしてる。この人はいい学校出てる。」
「会えそうな人、いるかしら?」
「どれもいいと思うぞ。」
「ハルカ、一人でも会ってみない?会わないと、何もわからないわよ。ほら、この人とか!」
「えー!嫌だよ、こんな趣味の人!」
「何言ってるの!趣味と結婚しないんだから!会いなさい!」
 こんな感じで、婚活のたびに大喧嘩。これだけでも傷つくよ。
「親の気持ちも考えなさいよ!」
わかってる!親だっていつまでも生きていないことも。だから、私だって自立を目指してがんばっている。気が乗らない婚活をまたやってみるって同意したのも、そのため。・・・だけど、結婚って本来めでたいことのはずだよね?それなのに、うちの家はどうしてそのたびに大喧嘩になるの?
 仕事納めの後は、家の大掃除に正月準備。大きなゴミ袋を持ってきて、
「はい!私の部屋は終了。次、どこか掃除しておこうか?」
「そうね、じゃあ、和室の掃除機かけてくれる?それよりハルカ、あの大量のぬいぐるみ、ちゃんと片付けたの?」
片付けてはいない。綺麗に飾りなおした。だって、私の大切な友達みたいなもんだもん。そこに、ピンポン!
「ただいま!」
ナオキだ!
「お帰り!元気にしてた?」
よかったよかった。お父さんにお母さんにおじいちゃん、そして、ナオキが帰省して。私も職がある状態で年を越せる。これほどに幸せな年末って、ないと思う。

 
 
 

ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その21

2013-10-19 19:32:44 | ADHDとともに「君の星座」
 クリスマスムードも増してきた。そんな今日は医院の忘年会。土曜日の勤務を終えて一度家に帰って、
「綺麗にしていきなさいよ!この間買ったワンピースでも着て!」
「あー!わかったわかった!」
本当にうるさい!だけど、ここは言うこと聞かない。私には私のおしゃれがある。・・・さてと。えーと、この辺だ。
『奥さんが、医師会の奥さん同志の集まりで見つけてきた店だから。いいお店ばっかりよ。』
確かに・・・
「いらっしゃいませ。」
入り口からしていいお店。中にはもう、医院の人が結構集まっていて。受付のメンバーも。
「お疲れ様です。」
オオバヤシさん!よくお話しするマチダさん、ちょっと苦手なアライさん、マエハシさん・・・
 シフト制だから、一同に顔を合わせることないし始めてわかったけど、受付だけで十人、看護師さんはそれ以上、理学療法士さんも。三十人ぐらいいるな。今日はお店貸切で、経費も院長持ち。
「それでは、ヤマダ整形忘年会を始めます。カンパーイ!」
そこで、新入りの私と、理学療法士さんが一人紹介されることになり。
「よろしくお願いします。」
パチパチパチパチ!で、この人が院長なんだ。働いて一ヶ月ちょっとなるのに全然知らなかった。
「彼女は診察室を覗いてみようという勇気もなく、今日に至ってしまったんです。」
オオバヤシさんのフォローに救われながら。
 にぎやかな宴の始まり。私は基本、自分の食事に集中し、会話には耳を傾けるだけにして。へぇ、いろんな人の、知らなかった事情。
 そして、二十五日。今日はクリスマス。で、お給料日。この医院は二十日締めの翌月二十五日払いなんだ。
『お疲れ様でした。』
十一月始めの週から二十日までだから、一ヶ月に満たないけど・・・それでも、九ヵ月ぶりにお給料というものが自分の手に入った喜びで、心はいっぱいだった。
「これから仕事納めに向かって患者さん増えるから。新年の初めも物凄く多いわよ!」


 
 

ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その20

2013-10-18 14:24:50 | ADHDとともに「君の星座」
 結局は、私にあわない仕事に来たんじゃないだろうか?
「何言ってるの!計算も出来れば字も読めるのに!」
お母さんに怒鳴られた。これもお決まりの言葉になってきた。秘書も事務も、どちらも私には出来なかった仕事だよな・・・
 月曜日。勤務の途中で奥さんから。
「ツキシロさん、申し訳ないんですけど夜の人からさっきお休みの電話がありまして。夕方から続きで入っていただけませんでしょうか?」
「はい、わかりました!」
やった!お仕事追加!ですので、午前中は二時で上がっていただいて、また四時に帰ってきていただいたら・・・わかりました!
 その二時。まだまだ患者さんの波は途中って感じだけど、
「ツキシロさん、夕方からもありますし、上がってください。」
と、アライさんから。さて、どうしようかな・・・ここから家に帰ったら三十分。戻ってくるにも三十分。これだけで一時間。休憩は二時間しかないから・・・よし、あそこのコーヒーショップでちょっと、うとうとしてよう。コーヒー飲み放題だし。
 仕事、追加になったんだ。よかったじゃない。役に立ってるってことでしょ?私。自分で思い込んでいただけで、そんなにむいてないわけじゃないのかもしれない。どんどんがんばろうよ。そして、ものにしようよ、この仕事。
 四時少し前に医院に戻ると、
『忘年会の出欠表です。十五日までにお返事お願いします。』
丸!これも参加させていただこう!
 さて、仕事仕事。受付に行くと、そこにはオオバヤシさんが。
「こんにちは、よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします。」
寒いと思ったら雪が舞って来た。そのせいなのか、患者さんも少ない。珍しく座ってられる時間が出来て。オオバヤシさんから、
「会計ノートに書くときは・・・・。休憩室を出るときは・・・ごみを出すときは・・・」
「はい。」
一つ一つ返事はしていくのだけど。
「家にいるとね、きちんとしなくても全然問題起きないけど、ツキシロさん、ここに来てる時だけでも、意識してやってみたら。」
 帰り。私とオオバヤシさんが最後になった。
「ツキシロさん、電気!」
あ、忘れてた!
「帰る前に、一度振り返ってごらん。ツキシロさん、おしい!後一歩のところだね。」

 
 
  
 
 

ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その19

2013-10-17 19:32:37 | ADHDとともに「君の星座」
 今日は土曜日。寒い中、朝六時に起きて支度して職場へ。
「おはようございます。」
朝一番は奥さんが鍵で開けに来られているんだ。この受付の人間模様も、だいたいわかってきた。午前診のリーダーは、アライさん。今、一緒にいるマチダさんみたいに、若い子とは
「今日は多いですね。」
とか、普通に話すんだけど、アライさんは何か話しにくい。仕事のことも聞きにくい。
 おはようございます!今日は?リハビリ!注射!診察!薬!私だって、決して足を引っ張ってはいないと思う。奥さんから飲み込みがいいと評価されたぐらいだもん。
「コピーお願いします。」
看護師さんに言われてやっていたその時、
「受付してもらっていいですか?」
え!まだこっちが途中なのに!・・・。仕方ない、言われたら行かなくちゃ。
「こんにちは。初診の方ですか?」
 私はかなり昔から自分に習慣付けていることがある。用事は、一つやり終えてから次のことをする。こうすると、やりっぱなしで放ったらかしに終わってしまうことがない。さらに、やるべきことを紙にリストアップしておけば、忘れていたなんてこともなくなって完璧というわけ。
 今まで働いてきたところは、自分のやりやすいようにって言われるところが多かったし、私のやり方ですって言っても結構通じた。だけど、ここは・・・
「会計の書き方は。」
「ドアの閉め方は。」
「休憩室の電気は。」
一つ一つ規定がきちっとあって、そのとおりにやること。その仕事が途中であっても、中断して優先すべき仕事に行くことが求められる。
「ちょっと!コピーは?」
「あ、すみません。受付してまして・・・」
 そうだよ、理由がって仕事を中断したんだから、そのわけを言えばわかってもらえる。大丈夫、大丈夫。
「こちら、終わりました。」 
会計も終了。ここから今日入って来たお金を計算する。レジに入ってるお金、ノートに記録してるお金・・・
「あれ?レジのほうが多いです。」
現金を数えてくれたマチダさんが。ウソ!こういう時って本当に真っ青になる。
 今日のカルテを出して、パニック状態の私の横で、ベテランのアライさんは至って冷静。
「たぶん、この人。いつもからしてこの金額はおかしい。・・・ほら。」
すごい!本当にそのとおりだった。

 

ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その18

2013-10-16 19:10:28 | ADHDとともに「君の星座」
 婚活・・・また、嫌なことを思い出した。いや、それをするのは初めてじゃないから。二十代の時にもしてたけど、やっぱり今の時代、まず働くことが先だと悟って、講師の仕事が決まった時に結婚のことは一切考えないでおこう、結婚は仕事が落ち着いて、出来る日が来たらしようって決めてたんだ。それなのに・・・
 未来を焦る気持ちは私にもある。私も好きでこんなにもたついてるわけじゃない。だけど、お父さんお母さんが言うように、今は結婚して解決という時代ではない。
 私には抱えている課題がある。解明すべき問題が私自身にある。
『発達障害が原因で、離婚に至るケースもみられる。』
調べなくちゃいけないのに・・・親のせいだ。検査を受ければ、何に問題があるかわかる。そうすれば、現状を突破する方法を見出せる。時代錯誤もはなはだしいわ!
 まだ七時。仕事ある日は朝六時起き。もうちょっと寝ていたいのに。一応、起きて下の部屋へ。ぽやーんとして座っていると、
「お前、寝られてるか?」
お父さんの心配。確かに私は寝つきも悪いし寝起きも悪い。でも、最近はよく寝ている。お父さんが仕事に行って、私が選択を。そこへ、お母さんが。
「・・・酷い格好ね。本当、涙出るわ。」
「何で?いいじゃない、家だし。」
「家でもよ!いつでもきれいにして欲しいのよ。普通、女の子は年頃になったら何も言わなくてもお洒落するものなの!ハルカは本当に変わってるわ。スカートも履かないし。いつもズボンばっかりだと、スカートが似合わなくなるわよ!」
「似合わなくていい、そんなの!何回言ったらわかるの!私はスカート苦手なの!昔っから!」
私、どれだけ辛抱してきたか!
 昔から、服のことでは大喧嘩だった。大人になってからはもっと。
「今度の日曜日、今度の婚活用の服、買いに行きましょう。で、その服。仕事にも来て行きなさいよ。女の子らしくしなきゃ。」
絶対嫌だ、そんなの。だいたい、あの仕事にドレスなんか着ていけませんって。うちのお父さんお母さん、婚活は無駄だって気づかないのかな?二十代の時あれだけ辛い思いして何も決まらなかったのに。結婚より経済的に自立するのが先だってわからないのかな?
「ご飯食べさせるぐらい、何とかなるし。」
この考えについていったら、将来的にとんでもないことになるんじゃないかって。
 お母さんは私のこと、万年反抗期だって言うけど。私、三十代にもなって何一つ反発できていない。自立できてないんだ。経済的にも、精神的にも・・・

ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その17

2013-10-15 19:17:56 | ADHDとともに「君の星座」
 集中していない?どうして・・・私、仕事のときは仕事のことしか考えてないのに。どうしてそんなこといわれるの?私・・・。
 気を取り直して翌日。私は出かけていった。今日はボランティア時代の仲間と、忘年会なんだ。
「こんにちは!お久しぶりです!」
今日はウツミさんが調べてくれたお店に、メンバー五人全員集合。感動の再会だ!
「久しぶり!ハルカちゃん。元気そうじゃない!」
カンパーイ!皆、女性で、家庭の事情も仕事の都合もあるから、こうして昼間に会を開いてるんだ。
 タキノさん、お仕事どう?うん、ちょうど家から近いところの保育園が募集出しててね。よかったわね!
「カザミさんのところ、お子さんどうだったの?」
「やっぱりね、高機能自閉症だったのよ。私も主人と一緒に悩んだけど、あの子の将来を考えて、受けさせたのよ。ハルカちゃん、特別支援の先生経験者として、どう思う?」
私に振られても困ってしまうんだけど。
「うーん、よく考えて検査を決心されたんですから、いいんじゃないですか?私も学校で見て思いましたけど、早く原因を解明したほうが、本人も傷つかないですし。」
 そこから、今の仕事のお話へ。
「医院の受付、決まったんだってね!どう?お仕事は?」
「はい。物凄く流行っている医院で、もう、座ってる暇もないぐらいです。」
 夕方までゆっくり過ごして、お開き。皆、元気そうだった、よかったな・・・
「ただいま。」
私としては居心地のいい集まりなんだけど、
「お帰り。で、楽しかったの?ハルカより皆年上の、既婚者ばっかりなんでしょ?もっと同世代の人と付き合えないのかしらね?」
家ではいつも悪態をつかれている。正直腹立つだけ!何で同じ年齢にこだわらないといけないの!気が合えば、何歳の人でもいいじゃない!
 お父さんも帰ってきて、夕食。おじいちゃんが引き上げた後、
「ハルカ、ちょっと話が。あのね、これ!」
渡されたチラシは
「婚活の会?」
「そう。お父さんの職場の福利厚生の案内に入っていたのよ。これ、申し込みましょ!」
「え!」
きょとんとした私に、お父さんが怒り出した。
「ハルカ!わしも来年は定年なんだ。お前もいつまでもダラダラして!」
私、ダラダラなんか!
「そうよ!お母さんたちもいつまでも生きていないのよ。ハルカ、あんたはまだ三十一歳。結婚できる可能性がある!結婚できれば、仕事のことも全て解決なのよ!」
「そんな・・」
私の口をふさぐように、
「三十一ならね、まだ子どもだってできる。結婚するなら最後のチャンスよ!ハルカ、あんたは運がいい。それを信じなくちゃ。パソコンで申し込めるそうよ、ほら、早速申し込んで!もう今月末にイベントがあるのよ。」
 一度言い出したら、何を言っても引く人ではない。私は渋々パソコンを持ってきて、言われるままに申し込み手続きをした。キーボードを打ちながら、今日の忘年会で言われた言葉がよみがえる。

『ツキシロさん、あなた、それ本当にしたいと思ってるの?』



ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その16

2013-10-14 19:23:35 | ADHDとともに「君の星座」
 冬の早朝。コートで身を包み出勤。揺られるバスには通学の中高生も結構いるんだけど・・・講師経験してから、今の子たちってうらやましいなって思う。まず、部活をやらなくてもいい。私たちの時は嫌でもさせられたのに。本人の意思に耳を傾けてもらえる。私たちの時は門前払いだったのに。私が行ってたみたいな、物凄く自由な学校でも。私が高校を卒業した頃から、全国的に校則や生徒指導のあり方が見直されたんだ。
『ツキシロさんの頃から、今までのマニュアルが通じなくなったのよ。不登校も増えてきて。生徒の質が急に変わったの!だから、学校も体制を変えたのよ。』
教育実習で母校に帰った時に、教えてもらったな。
 正直言わせてもらうと、今の学校のやり方がよいとは思わない。個性の尊重って結局、大人が子どもの言いなりになってるだけ。「皆と同じになりなさい」は何一つ変わっていない。だけど、押さえっつけでなくなったからか、今の子は生き生きしてる。学校が楽しいと答える子が圧倒的に多いし。管理教育・・・私たちってつくづく貧乏くじ引いてる世代だよね。就職に関しても、発達障害に関しても・・・
 バスを降りて職場へ赴く。
「おはようございます。」
色々考えると、人間関係で悩むといっても、大人になるほど改善されてはきたのかな?ほら、高校ぐらいから私のことをそれなりに理解してくれる先生が出てきて、大学はもっと居心地よかったし、働いてからは・・・酷い目にもあったけど、いい人がいる職場も結構あった。今の、この医院だって。
 奥さんはしっかりした上品な方だし、同じ受付のスタッフさんも。
「ツキシロさん、夜ってどんなテレビ見るんですか?」
ちょっと人の波が引いた時に、雑談を振ってくれる人もいるし、何よりも、
「この書類が来たら、日付印を押して・・・」
仕事をきちんと教えてもらえる。ここまで九つの職場で働いてきて、仕事を教えないって意地悪された職場、いくつあったか!
 ドッと患者さんが流れ込んできた。
「リハビリ!」
「診察です。」
どんどんさばいていく。こうしてリズミカルに、くるくると、絶えず動いていられる。これだけでも今のほうがずっと幸せだよ、私。
「お願いします。」
準備したカルテを診察室へ。医療事務って、事務というより、医療秘書って言葉のほうが合うのかもしれないな。なんか、そんな感じ。
 お疲れ様でした。その引き上げ際に、奥さんに呼び止められた。
「ツキシロさん、仕事中は仕事に集中してください。あなた、仕事中に別のこと考えてるでしょう。見ていたらわかるんですよ。こちらはあなたの時間を買ってるわけですから。しっかり集中してください。」

ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その15

2013-10-13 19:10:47 | ADHDとともに「君の星座」
 ハルカ、十二歳。中学一年生。
 黄金週間を迎える前に、私はすでに一人だった。
「あんた、相棒はいないの?」
「ネクラ!キモい!」
 部活動は一応、マンガ部。週三日で楽そうだし、ほら、私アニメ好きだしその話が出来るかと思って。だけどそこも。
「あんたなんかどこにも就職できないわ!」
「どこいっても三日で来なくていいって言われるわ!」
何で・・・担任までさ、
「ツキシロさん。お弁当も一人よね。クラスに友達いるの?部活はどうなの?楽しいの?」
「あ、はい・・・」
そう答えるしかなかった。どうして・・・あれだけ勉強させられて入学した学校なのに!意地悪ばっかり!女の子嫌い!女の子怖い!
 お父さんお母さんも。
「大人になったと思うな!」
バシッ!
「クラブ、週にたった三日だけ?この不良が!」
バシッ!
「前髪が伸びた!」
バシッ!
「何で椅子がこけた!」
バシッ!・・・何で殴るの?中学生になったとたん。ナオキ、あんたはいい子ね。よしよし・・・中学生だから殴られるの?制服がないから?校則が緩いから?じゃあ、どうしてそんな学校に受験までさせて入れたの!
 小学校時代の仲良し、シオリちゃんとナツコちゃん。時々電話するんだけど、
『ごめんね、その日は部活なんだ。』
『試験が近いし、勉強しないと。』
・・・。勉強って、そんなにやりたいかな?そう言えば、学校の教室でも、
「英語の問題集買った!」
なんて話を聞く。同じく、受験してきた子ばっかりなのに。私、もう二度と嫌だよ。あんなしんどいこと。小学校時代を返してもらって思いっきり遊びたいよ。皆、そう思わないのかな?
 どんどん大人になっていく。心も体も、皆はどんどん大人になっていく。私は学生のままなのに。もともと中学生になるの嫌だったけど、本当にもう嫌だ。・・・あれ?あの子、名前なんだっけ?私、中学に入ったとたん、クラスメイトの名前が覚えられなくなった。隣の席の子もわからない。
 昔から思ってたけど、やっぱり私、皆と違う。中学になって今まで以上にはっきりそう思うようになってきた。

ADHDとともに「君の星座」第7章 断ち切れない鎖 その14

2013-10-12 19:51:57 | ADHDとともに「君の星座」
 毎日毎日、本当、すごい患者さんだな!
「こんにちは。今日は?」
ここに来てる時間は本当にフル回転。レセプトのパソコン入力も教わって。一応、戦力になるようにはなってきたのかな?そう思えるようになった第三週目の終わり。
「ツキシロさん、どうですか?こちらのお仕事。続けていけそうですか?」
「はい、よろしくお願いします!」
 仕事としてはやっていけそうだし、がんばって身につけたらきっといいものになると思う。これから行く先を考えても、ここで修行させてもらうほうが。帰ってきた私の報告を聞いたお母さんが、
「やっていけそう?よかったわね。よく雇ってもらえて、本当によかったわ!」
相変わらず雇ってもらえたって理由で舞い上がってる。そうじゃないんだって何回も言ってるのに!
 私は採用されないんじゃなくって、仕事が続かない。すなわち、仕事あるいは職場で何だかの問題を起こしているということになるけど・・・
「ツキシロさん、ボタンは一番上まで止めてください。」
「あ、すみません。」
いつも、ポロシャツ着る時は上まで止めてないからな。だけどこの医院、本当によかったよ。こういう制服で。医療事務って、もっとばっちり制服ってところあるじゃない。
 受付して、カルテを出して・・・パソコン入力までするようになって。
「どうぞ、休憩上がってください。」
「ありがとうございます。」
だいたい、看護師さんと一緒になるように組まれてるみたいで。だけど、一度も話したことない。看護師さんとは。というか、すでに嫌われてる感じ・・・
「うん・・・ああ、そう?フフフ。わかったわ。じゃあ、帰ってからね。」
今日の看護師さん。ケータイで堂々と通話中。私はここにいないのと同じってこと、態度で言われてるんだ。
 やっぱり、私は人間関係でもめるのか。幼稚園から、就職してから、何一つ変わっていない。あれだけカウンセリング受けたけど・・・ううん、それは意味があったよ。
『別に、すっかりその職場にあわせることないのよ。仲良くなろうとすることもないし。』
保健師マツウラさんの言葉。それで今、物凄く救われてる。そうだよ、職場だもん、友達つくりに来てるわけじゃなし。
「お先でした。」
「あ、ツキシロさん。薬局から電話ありました。薬の数が間違ってますって。」
「え!すみません!」
「もう、あちらで修正してくれてますから。後で処方箋だけ打ち直して持って行ってください。」