チコの花咲く丘―ノベルの小屋―

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「希望の樹」第4章 ここにいて、いい人 その39

2012-08-26 19:34:30 | 福祉の現場から「希望の樹」
 もう!はっきりしない、気分悪いなぁ!・・・私は何度か深く息をした。落ちつけ落ち着け。他の利用者さんが来る。こんな感情を、引きずっちゃいけない。
「おはようございまーす!」
到着した利用者さんを迎えに行く。
「チサトちゃん、おはよう!」
「おはよー。」
「エミさん、おはようござます。」
「ああうー!」
施設に入ってもらったら、皆さんの荷物をロッカーまで運び、開けて、連絡帳を出す。
 あれ?サカタニさんも出勤?あ、そうか、ヨシナガさんが今日、法事でどうしても来れないって言ってたからだな。
「はーい、朝の会を始めます!」
利用者さんは全員出席。だけど、いつもとはちょっぴり違う、土曜日の風景。
「さてさて、今日は何する?」
「あ、そうそう、タマキ先生。ケータイの壁紙、新しいの入れた。」
首に下げているケータイを開いて、私に見せてくれるチサトちゃん。
「わー、すごい!かわいいね!」
こんな事言ったら何だけど、私とチサトちゃんって、凄くセンスが合うと思う。
「タマキ先生と私、趣味が合うなぁ。」
ハハハハハ。本当、嬉しくなっちゃうね。
 他にも、お出かけ先で取ってきた写真とか、へー、結構あちこち行ってるんだな。母親であるタカモリさんいわく、
『あの子、朝から晩までずっとケータイと仲良しよ。』
まあ、そうなるだろうなと思う。彼女はそれを使いこなして、必要な支援を自分の力で求めたりできるんだから。支援学校の先生も言ってた。
『障害のある子供たちこそ、パソコンやケータイを利用するべきなんだ。』
って。
 ハハハハハ。こちらが盛り上がってる向こうで、重度の利用者さん達は寝かされたままだったり、車椅子のままだったり。
せいぜいテレビをつけてるぐらいで、何だか、こちらと世界が断絶されてる感じがなくもないけど、私はこれでいいんじゃないかって思う。障害の程度が違うと、理解できる事にも差があるし、下手に皆一緒にってやると、誰かが、多くの場合、窓外の軽い人に辛抱させてしまう事になってしまうもの。
 そう、あるがままに。
「ああー。」
体を揺らし、リズムを取るアズサちゃん。
「この動画知ってる?」
ケータイの画面を見せながら、いろいろ教えてくれるチサトちゃん。
「ああー!」
いけない!ヨウスケ君がエミさんを引っ張ってる!
「こら!いけません!ヨウちゃん、謝りなさい!」
「わわー。」
ごめんなさいのポーズ。こんなトラブルがあっても、スタッフがちゃんと止めるんだから。大丈夫、どんな過ごし方でも大丈夫。