ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

サルコジ大統領、引き倒される・・・来年を暗示か?

2011-07-01 21:20:04 | 政治
首相の行くところ、影のようにつき従い、護衛の任にあたっているが、ご存知、SP。“Secret Police”の略で、警視庁警備部警護課に所属し、要人警護を職務とする専従警察官です。1975年の三木首相殴打事件が設立の契機となっています。現在、警護の対象となっているのは、首相、衆院議長、参院議長、国賓ですが、実際には衆参副議長、国務大臣、首相経験者などにもSPがついています。

銃の国・アメリカには、シークレットサービス(United States Secret Service:USSS)がありますが、その歴史は1865年にまで遡ります。今では6,500人の職員を抱える大きな組織になっています。

そして、フランスには、SPHP(Service de protection des hautes personnalités:要人警護サービス)があります。1934年、マルセイユで、ユーゴスラビアのアレクサンドル1世とフランスのルイ・バルト外相がブルガリアの民族主義者によって暗殺されたのをきっかけに設立されました。今日では770人の警官が、要人および元要職にあった人たちの警護にあたっています。

このSPHPが一人の男を取り押さえるさまが、30日、多くのメディアで流されました。その背景は・・・30日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

6月30日、訪れたLot-et-Garonne(ロ・テ・ガロンヌ)県(仏南西部、アキテーヌ地方)のBrax(ブラックス)という町で、サルコジ大統領が地域住民と鉄柵越しに握手をするなど愛嬌をふりまいていると、突然一人の男によって引き倒されてしまった。その男は腕を大統領の方に伸ばすと、突然スーツの襟のあたりをつかんで、自分の方へグイッと引き寄せた。大統領はバランスを崩し、危うく倒れそうになった。

男はすぐに警護担当者によって取り押さえられた。サルコジ大統領は平静を取り戻し、住民との握手を継続した。Lot-et-Garonne県に住む32歳の男は、Agen(アジャン)市にある警察に連行され、取り調べが始められた。

男はHermann Fuster(エルマン・フュステール)という名で、アジャン市音楽ダンス学校で受け付けや郵便物の集配などを行う地方公務員だ。犯罪歴はなく、警察によれば、物静かで控えめ、決しておしゃべりではないという。数ヶ月前から精神的ストレスに悩んでおり、自殺未遂を行ったという証言もある。警察に近い情報源によると、彼はフランスのリビアへの介入について大統領に問いただしたいと思っていたそうだ。

事件は、大統領に同行取材しているジャーナリストたちが少し離れた場所にいた際に起きたもので、辛うじてスティルのカメラマン一人と、ビデオカメラマンが一人現場にいただけだった(彼らの映像や写真が多くのメディアによって流されています)。

法律の専門家によれば、大統領を引き倒した行為は公権執行者である大統領に対しての攻撃であり、重大な暴力と見做される。もしそう認定されれば、3年の禁固刑と45,000ユーロ(約520万円)の罰金が科される可能性がある。しかし、大統領周辺によると、大統領は告訴しないだろうし、また大統領府もこの件に介入するつもりはない、とのことだ。

同じタイミングで、南隣りのGers(ジェルス)県のAuch(オーシュ)市を訪問していたドヴィルパン(Dominique de Villepin)前首相は、「この事件は、政治家人生の浮き沈みを物語っている。そして幸いなことに、フランスは危機には瀕していないということだ」と語っている。

サルコジ大統領が、遊説先でトラブルに巻き込まれるのはこれが初めてではない。2009年1月、英仏海峡に臨む町を訪問した際には、大統領一行の進路が妨害された。その責任を取らされ、県知事と警備担当の警察トップが左遷されている。2008年の農業見本市会場では、大統領が握手をしようと手を差し出したところ、「触るな、汚らわしい」(Tu ne me touches pas, tu me salis.)と拒絶された。それに対してサルコジ大統領は、「お前こそ、とっとと消え失せろ」(Alors casse-toi, pauv’con.)と叫び返した。

・・・ということで、フェンスがなかったなら、引き倒されていたサルコジ大統領。さすがに今回は、怒鳴ることもせず、笑顔を取り戻して住民との握手を続けました。しかし、メディアからの質問には一言も応えず、現地を後にしています。顔で笑って、心で怒って、でしょうか。腹の中は、煮えくりかえっていたのかもしれません。しかし、大統領職も4年を超え、気持ちを顔や言葉にストレートには出さないという術は身につけたのかもしれません。

一方、ドヴィルパン前首相は、皮肉のメッセージ。ニコラ・サルコジは内相として人気を誇り、大統領にまで上り詰めたが、今や国民に引き倒されようとしている。有為転変、人生の浮沈、そのものだ。しかし、ニコラ・サルコジを引き倒そうとする国民がいるということは、フランスもまだ捨てたものではない。2007年に国民は自分を選ばなかったが、ようやく目が覚めたようで、フランスは危機にあるのではない・・・そのような気分が現れています。さすが、皮肉は天下一品です。ただし、ドミニク・ドヴィルパンには皮肉やメタファーなど間接的な発言が多く、それゆえ国民の心をわしづかみにするメッセージとなっていないのではないか、とも思えます。

政治の季節がはるか遠くに過ぎ去ってしまった日本では、抗議よりも諦念が先に立ってしまっているかのようです。しかし、政治、あるいは政治家とどう向き合うかは、国民が決めること。国によって、違いがあって当然です。しかし、それにしても、行政改革なき消費税増税にも、唯々諾々として従うのでしょうか。
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