ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

カネより強いものがある・・・教育・科学・文化の世界。

2011-11-01 20:41:59 | 社会
新自由主義・・・この世は、すべてカネ次第。カネさえあれば、何でもできる。ひがみも含めて、こう思えてしまうネオリベラリズムが牛耳る今日の世界ですが、その自由を「鶏小屋を荒らす狐の自由」と断罪する向きもあります。しかし、現状は、カネの力が強い。いかんともしがたい、現実です。

しかし、カネの力で脅しても言うことを聞かない国々もある。そのことを印象付けてくれたのが、パレスチナのユネスコへの正式加盟。ユネスコの活動予算の多くを負担しているアメリカが、もしパレスチナを正式加盟国として受け入れれば、その予算拠出を凍結すると、言わばカネの力で脅したわけですが、投票の結果、圧倒的多数で加入が認められました。

反対したアメリカは怒り心頭。日本は棄権。そして、フランスは賛成票を投じました。パレスチナの正式加盟を、ユネスコ本部のあるフランスはどのように報じているのでしょうか。10月31日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

単なるオブザーバーだったパレスチナはユネスコ(UNESCO:仏語では、l’Organisation des nations unies pour l’éducation, la science et la culture)の195番目の加盟国となった。31日に正式な発表が行われた。この加盟はパレスチナが国連で求めている国家としての承認へ向けての新たな一歩となった。しかし、その加盟に対してアメリカは、その日のうちに、ユネスコへの分担金の拠出を凍結するという冷たい対応を取った。アメリカは11月に6,000万ドル(約46億8,000万円)を支払うことになっていた。その額はユネスコ予算の22%に達する。

アメリカ国務省は1990年代のはじめに成立した二つの国内法により、支払うことはできないと述べている。その法律は、イスラエルと平和協定を結んでいないパレスチナを正式な加盟国(Etat membre à part entière)として受け入れた国連機関への拠出金支払いを禁じている。

イスラエルも当然、ユネスコへの分担金支払いに応じることはないだろうと、イスラエルのユネスコ大使、Nimrod Barkanは語っている。Barkanはまた、パレスチナの加盟はユネスコにとっての悲劇であり、加盟に賛成した国々のイスラエルに対する影響力を弱めることになるだろう、とも述べている。

女性の地位向上と世界遺産の保護に特に力を注いでいる国際機関であるユネスコは、その予算の四分の一を削減されることになる。事務局長のイリナ・ボコヴァ(Irina Bokova)は、投票を前にした10月28日、ユネスコはたぶん活動範囲を縮小せざるをえなくなるだろうと、次のように語っていた。「プログラムを縮小し、予算との均衡を図る必要がでてくるだろう。しかし、それは単に予算上の問題であるだけでなく、ユネスコの普遍性に投げかけられた問題となるだろう。」

フランスは、ほぼすべてのアラブ諸国やBRIC(ブラジル、ロシア、インド、中国:南アフリカを含めてBRICSとすることが多いですが、『ル・モンド』の記事は“BRIC”4カ国のみの表記になっています)と同じように、パレスチナの正式加盟に賛成票を投じた。アメリカ、ドイツ、カナダは反対し、イタリア、イギリスは棄権した。

投票はパリにあるユネスコ本部で行われたが、加盟194カ国の対応は、賛成が107カ国、反対14カ国、棄権した国が52カ国、投票を欠席した国が12カ国となっている(これらの数字を合計すると185カ国となります。あとの9カ国はどうなったのでしょう。数字に細かくないフランスのメディア・・・UNESCOのホームページを参照すると、賛成、反対、棄権の票数は同じですので、欠席した国の数が違うのでしょうね)。

パレスチナ自治政府のマルキ(Riad Al-Malki)外相は、歓喜の中で次のように語っている。「パレスチナの権利を認めた歴史的瞬間だ。ユネスコの正式加盟国となったわけで、ユネスコがそのミッションを遂行できるよう、パレスチナはできうる限りのことを行う。」

パレスチナ自治政府のアッバス(Mahmoud Abbas)議長は、10月23日、国連への正式加盟を公式に申請している。安全保障理事会が、加盟の是非を協議し、その投票結果を国連総会に勧告することになっているが、常任理事国には拒否権が与えられている。その一か国であるアメリカは、パレスチナの加盟申請に拒否権を発動することになるだろうと、すでに表明している。投票は11月11日に行われる。

その投票は、ガザ地区のパレスチナ人とイスラエルの間で戦闘が再開されているという状況の中で行われる。

・・・ということで、予算の四分の一を失っても、パレスチナの正式加盟を認めたユネスコ。アラブ諸国や新興国などが賛成票を投じるのは分かりますが、フランスがそれに加わったのはなぜでしょうか。

リビアで反カダフィ勢力の支援の先頭に立ったのは、そこに石油があるからという説もあり、石油利権の三分の一を手にしたとも言われています。では、パレスチナでは? フランスにとってどのようなメリットがあるのでしょうか。

長年、パレスチナ側の捕虜となっていたイスラエル兵一人が、千人ほどのパレスチナ人捕虜と交換で、最近やっと解放されましたが、その兵士はフランス系イスラエル人。その解放をめぐって、フランスが裏で動いていたのでしょうか。解放条件の一つに、ユネスコへの正式加盟を認めることがあった・・・うがった見方、でしょうね。

昨年12月、フランスがパレスチナを国家として承認するというニュースがイランのメディアから流されました。しかし、フランスはすぐ否定しました。また、この春フランスを訪問したイスラエルのネタニヤフ首相に、フランスはパレスチナとイスラエルが9月の国連総会開催までに和平プロセスを再開することを希望しており、もしパレスチナとイスラエルの間に進展がなければ、フランスはパレスチナ国の承認に責任を負う(つまり、承認しちゃうぞ)、とサルコジ大統領が述べたという報道もありました。フランスは徐々にパレスチナを国家として承認する方向へ進んでいるのかもしれません。

人権の本場、フランス。国内に多いアラブ系移民。しかし、パレスチナに肩入れするには、何か別の実利的な背景があってしかるべきかとも思うのですが、浅学の身には分かり兼ねます。その内、『ル・モンド』が書いてくれればいいのですが。大勢に影響しない細かい数字はいい加減ですが、ツボは押さえた報道をしてくれますから。それを期待したいと思います。
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