ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

メルコジの関係は、どこまで進むのだろうか。

2012-02-07 21:48:15 | 政治
「メルコジ」と言われるのは、ご存知、メルケル独首相とサルコジ仏大統領のカップル。その関係といっても、もちろん男女の関係ではなく、その盟友関係。そして、ドイツとフランスの関係です。普仏戦争、第一次世界大戦、第二次世界大戦と刃を交えた両国。しかも、第二大戦では、ドイツに占領され、傀儡政権ができ、解放もレジスタンス運動があったとはいえ、アメリカを中心とした連合国軍によってなされた、という過去を持つフランス・・・

21世紀になったからといって、ドイツ、フランス両国がどこまで平和裏に共存できるのでしょうか。それも、中華思想の強い、つまり自尊心の強いフランスが、ドイツに助けられてのヨーロッパにおける大国という地位をどう受け入れるのでしょうか。

そうした想いを抱かざるを得ない会見・・・メルケル首相とサルコジ大統領の共同会見が、フランスのテレビ局とドイツのテレビ局による共同制作というカタチで、6日夜のニュースで放送されました。

まずは、その概略を伝える6日の『ル・モンド』(電子版)の記事、“Angela Merkel va soutenir Nicolas Sarkozy “quoi qu’il fasse””です。

メルケル首相とサルコジ大統領は、フランス大統領選へ向けたキャンペーン真っ盛りの6日、第14回仏独閣僚会議を主宰した。フィヨン(François Fillon)首相も交えた会談の後、仏独の両首脳は記者会見に臨んだ。

メルケル首相は、「サルコジ大統領がどのような対応をしようと支持する。私たちは盟友関係にある政党に所属しているのだから。友党を支援するのは至極当然のことだ」と語り、2009年に彼女が首相の2期目を目指していた際にサルコジ大統領が応援に来てくれたことに言及した。

昼食会の後、両首脳は同日夜にフランスのFrance 2とドイツのZDFで放送されるインタビューの録画を行った。

その中で両首脳は、ギリシャに対しメッセージを発した。「公約をきちんと守るべきであり、選択の余地はない。時間も差し迫っている。今や決断を下す時だ」とサルコジ大統領は語っている。ギリシャは今、二つの交渉に携わっている。一つは債権者である民間セクター、中心は銀行であるが、彼らに対しギリシャ政府が負っている債務のかなりの部分を帳消しにしてもらう交渉であり、もう一つは新たな融資をしてもらうために「トロイカ」(troïka:EU、ECB、IMF)と行う交渉だ。

メルケル首相は、もしギリシャがEU、IMFとの交渉をまとめることができなければ、どうしても必要な追加資金援助を得ることはできないだろうと予測しながらも、ギリシャがユーロ圏に残ってほしい旨、改めて語った。

欧州委員会(la Commission européenne)、ヨーロッパ中央銀行(la Banque centrale européenne)、国際通貨基金(le Fonds monétaire international)からなるギリシャへの公的債権者、「トロイカ」との交渉がまとまらなければ、新たな資金援助プログラムはあり得ないと、メルケル首相は明言した。

・・・ということで、記事の中心は最大の関心事、ギリシャ問題になっていますが、それでも冒頭の、サルコジ大統領が何をしようと支持をする、というメルケル首相の発言は、いくら党首を務めているキリスト教民主同盟(CDU)とサルコジ大統領が実質主導している国民運動連合(UMP)が盟友関係にあるとはいえ、ずいぶん思い切ったものだと思わずにはいられないのですが、果たしてこうしたドイツ首相による支援発言がドイツをラインの向こう側と呼ぶフランス国民にどう受け取られるのでしょうか。なぜ、メルケル首相は、ここまでサルコジ大統領に肩入れするのでしょうか・・・

同じ6日の『ル・モンド』(電子版)の記事、“Pourquoi Angela Merkel fait campagne pour Nikolas Sarkozy”です。

メルケル首相はサルコジ大統領を支持するために、選挙戦に身を投じた。仏独閣僚会議の後、両首脳はエリゼ宮において、同日夜のニュース番組でFrance 2とZDFが放送するインタビューに臨んだ。メルケル首相は、世論調査で劣勢を強いられている盟友を救いにやってきたのだ。今や、フランスは政治、経済両面でドイツに対して後塵を拝している。

仏独両国においては、確かに連帯がしばしば行われてきた。2003年1月、当時の仏外相、ドミニク・ドヴィルパン(Dominique de Villepin)が国連でイラク戦争反対の演説を行う1月前にあたるが、時のシラク(Jacques Chirac)大統領とシュローダー(Gerhard Schröder)首相がテレビでの会見を行っている。1992年9月には、東西ドイツの統一を達成したコール(Helmut Kohl)首相が、マーストリヒト条約(le traité de Maastricht)批准を目指すものの苦戦する盟友ミッテラン(François Mitterrand)大統領を支援すべく二元放送に同意した。

そして再び、フランスは自己防衛態勢にある。特に、格付け会社“Standard & Poor’s”がフランス国債をトリプルAから引き下げて以降、その傾向は顕著だ。欧州の首脳たちはベルリン詣でを行い、一方、サルコジ大統領は自身の大統領選挙に傾注している。しかし、両首脳は仏独両国の関係が以前と変わらず機能していることを示そうとしている。サルコジ大統領は自分が欧州をリードしていると示そうとし、メルケル首相はそれとは異なる立場を自らに望んでいる。「ドイツの支配的地位は一目瞭然だ。しかし、仏独両国が並び立っているという考えはドイツを守るのに役立っている。ドイツ人はフランスのサポートが必要なのであり、彼らだけでヨーロッパをリードする術を知らない。メルケル首相もドイツの主導する欧州ではなく、一貫した政策が各国によって共有されていることを示そうとしている」と、社会党政権時代の外相、ユベール・ヴェドリン(Hubert Védrine)は語っている。

ヨーロッパは決してドイツではなかった。「現在の信用不安がドイツを欧州の中心に据えたのだ」と、シンクタンク(le cercle de réflexion)“Bruegel”の主任研究員でエコノミストのジャン・ピザーニ=フェリー(Jean Pisani-Ferry)は述べている。欧州は、欧州通貨制度(le système monétaire européen:1979年から1999年まで欧州経済共同体加盟国の間で維持された地域的半固定為替相場、英語表記ではEMS)が優勢であった1980年代の状況、そしてユーロがなくなると思われるという状況に立ち至った。ドイツとドイツ国債が解決の鍵を握っており、ドイツ国債が各国の基準となっている。フランスも確かにまずまずの働きをしている。国債発行は年初から順調に推移している。しかし、民間資本は南ヨーロッパから逃げ出しており、その中にフランスも含まれている。

こうした支配的地位は、ドイツがパートナーたちとの差を広げた結果の帰結だ。「危機が進展すればするほど、その危機は北欧と南欧の競争力の危機的差として見えてくる」と大統領府は認めている。サルコジ大統領は、フランスは経済危機からさらに強大な国となって抜け出すことができると言い続けてきたのだが、反対のことが起きてしまっている。

投資銀行・ナティクシス(Natixis)のエコノミスト、パトリック・アルチュス(Patrick Artus)によれば、フランスが需要を喚起する政策を行ったのに対し、ドイツは供給を刺激する政策を行った。「フランスは、1998年以降、市場占有率喪失の世界記録を保持している」とアルチュスは分析している。ドイツにおける、押さえられた給与、厳格な社会ルール、生産能力の30%もの向上・・・原因は火を見るより明らかだ。フランス企業は、例えばルノー(Renault)がダシア(Dacia)の生産をルーマニアに移転させたように、付加価値の少ない製品の製造部門を海外移転させたが、ドイツは付加価値の高い製品の製造を東欧に移転させ、ポルシェがスロヴァキアに進出した例のように、レベルの高い熟練工を独り占めしている。「ドイツ企業は、製品の品質を下げることなく、ハイ・エンド製品のコストを下げている」とアルチュスは語っている。

サルコジ大統領とメルケル首相は両国における共通税制度(la convergence de l’impôt)を始めようとしている。その手法はドイツ・モデルの長所を示すことになる。サルコジ大統領は社会付加価値税(la TVA sociale)や週35時間労働のフレキシブルな運用(la flexibilisation des 35 heures)などと同じように、ドイツのシステムをコピーしようとしている。

フランソワ・オランド(François Hollande)が大統領選候補である社会党はフランスの競争力低下という主張に異議を唱えている。ある大統領府顧問は、「ドイツは牛乳をフランスに輸出しているが、それはドイツの技術力の優位性によるものではない」と憂鬱な表情で語っている。前出のエコノミスト、ピザーニ・フェリーは、「主題は一目瞭然だ。オランドに対するメルケルのメッセージは、かなり厳しいものとなるだろう」と見ている。メルケル首相は、財政規律強化をヨーロッパに根付かせる欧州協定(新財政協定)について、受け入れ難く再交渉したいというオランドの意向に、反対を表明した。社会党の元外相、ヴェドリンは、「メルケル首相はオランドを怖がっているようだ。オランドならおそらく精神的に優位を占める両国関係を再構築できるだろう」と述べている。

目下のところ、欧州はイタリアの二人の教授、つまり欧州中央銀行のドラギ(Mario Draghi)総裁とイタリア首相になったマリオ・モンティ(Mario Monti)が渦中に入ることで均衡を再び取り戻している。「モンティ首相は、仏独両国の間で漁夫の利を得よう(être le toisième larron)としているが、フランス大統領とドイツ首相の間では妥協が成立してしまっている」と大統領府顧問はこっそり指摘している。

仏独伊の三首脳はストラスブールで会談を行い、月末にはローマで会うことにした。ベルルスコーニ(Silvio Berlusconi)のいなくなったイタリアと比較することはフランスにとって一層容易ならざることになっている。「フランスは500億ユーロの貿易赤字を出しているが、イタリアは500億ユーロの黒字を計上している」とアルチュスは指摘し、フランスとイタリアの間にある格付けの差は信じ難いことだと述べている。フランス人にとって一縷の望みは、ドイツが疑いようもなく競争力の峠に達しているということだ。完全雇用に近いこの国で、給与が2012年には4%も上がることになっているのだ。

・・・ということで、なんだかんだと言いながら、ドイツ主導の現状は認めながらも、ドイツの天下は終わりが近い、次はやはりフランスだ、それもフランソワ・オランドならいっそう精神的にも優位に立てる、と言っているようです。中華思想、自尊心の強いフランスらしい主張ですね。

ただ一点、気になったのが、フランスとドイツの生産海外移転の手法の違い。安い単純労働力を求めて、あまり技術力を必要としない製品の海外生産を進めるフランスと、高い技術が求められるハイ・エンド製品の生産を海外移転させ、新興国の熟練工を抱え込むことで、技術力は維持しつつ、コストだけを低減させることに成功しているドイツ。その結果が両国の経済力に反映されている・・・

さて、我らが日本がとっているのは、どちらの手法でしょうか。言うまでもなく、フランス型。単純労働によるコモディティ生産は労働力の安い新興国などに移転し、国内生産は高い技術を要する高級品に特化する。その結果は、どうもフランスと同じ経過を辿っているのではないでしょうか。市場シェアの喪失。家電製品などに顕著ですね。

エマニュエル・トッド(Emmanuel Todd)の言う「直系家族」(la famille souche)社会に属するドイツと日本。サッカーだけでなく、日本が目指すべきはドイツ型「生産の海外移転」、あるいは「生産の海外・国内棲み分け」なのではないでしょうか。一考の価値ありと、思うのですが・・・
コメント (2)
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