ふりかえれば、フランス。

かつて住んでいたフランス。日本とは似ても似つかぬ国ですが、この国を鏡に日本を見ると、あら不思議、いろいろと見えてきます。

中絶は匿名でも可、でも匿名での避妊薬購入は不可・・・フランスはやはり変な国?

2011-03-10 20:41:43 | 社会
2009年にフランスで行われた妊娠中絶(IVG:l’interruption volontaire de grossesse)は237,000件ほどで、そのうちの15,000件が未成年者(18歳以下)によるものだそうです。また、4,500人ほどの未成年女性が子どもを産んでいます。避妊と中絶、その現状、そして特に未成年に対する取り組みについて、7日の『ル・モンド』(電子版)が伝えています。

一向に妊娠中絶が減らないのは問題だと一部の人々は言っているが、他方、中絶の権利が脅かされていると訴える人たちもいる。妊娠中絶を認めるヴェイユ法(la loi Veil:1975年、時の保健相、シモーヌ・ヴェイユが中絶を合法化しました)が成立して36年、中絶可能な期間を妊娠10週から12週に延長し、未成年でも親の同意書なしでOKとしたオブリー法(la loi Aubry)の成立からは10年になるが、妊娠中絶は今でも非常に微妙な問題のままだ。

ストラスブール大学病院の産婦人科医、イスラエル・ニザン(Israël Nisand)は今日の妊娠中絶をめぐる問題をさまざまに指摘している。例えば、妊娠の3件に1件は望まない妊娠だが、10年前には2件に1件だった。つまり、10年前の6割ほどしか中絶を行っていないことになる(三分の一÷二分の一=三分の二。6割強ですね)。

しかし中絶の権利に関しては、フランス人女性は無関心ではいられない。製薬会社・ノルディック・ファーマ(Nordic Pharma)の依頼で、調査会社OpinionWayが行った調査によると、フランス人女性の83%が妊娠中絶の権利を守るためなら、デモに参加すると言っている。同じ調査で、いかなる場合でも中絶は行うべきではないという意見はわずか7%だった。

ニザン医師は、未成年者の避妊に関してより良い環境づくりが必要だと訴えている。年間237,000件の中絶のうち、25歳以下のケースが増えており、未成年者も15,000件に達している。ドクター・ニザンは、初恋が中絶で終わるとしたら、とても残念な経験になってしまうし、そのことがトラウマとなって後の人生に影響することも考えられる。だが、未成年者の中絶のその半分は実は防げるものなのだ。フランスでは未成年であっても中絶は無料で、しかも匿名で行えるが(l’IVG est anonyme et gratuit)、一方、避妊用ピルを手にするにはそうはいかない(l’accès à la pilule contraceptive ne l’est pas)。フランスは避妊を内密にするのではなく、中絶をこっそりできるようにしているのだ。なんと恥ずべきことではないか。若者の性について語ることは今でもタブーとなっている。

ニザン医師は、自分の勤務する病院では、未成年女性に社会保険カードを使って無料・匿名でピルの処方箋を書くサービスを行っている。その結果、ストラスブールにおける未成年者の中絶は全国平均の半分ほどになっている。

そこで、同じような制度を全国でできないだろうかと政治家たちに訴えたところ、与党・UMP(国民運動連合)のポレッティ下院議員(Bérengère Poletti)が支持を表明してくれた。ポレッティ議員はすでに中絶や医療に関する情報提供を改善するよう、何度か法律改正案を提出しているが、この春、全国の未成年者が無料・匿名で避妊用ピルを入手できるようにするという提案を行うことになっている(une mise en place au niveau national de la contraception gratuite et anonyme pour les mineures)。

議員は次のように語っている。ポワントゥ=シャラント地方(Poitou-Charentes)で地域圏知事のセゴレーヌ・ロワイヤル(Segolène Royal:社会党の2007年大統領選候補)が同じようなことを提案しているが、この問題は全国規模で行わなくてはいけない。実際、2001年のオブリー法が目指した、中学校での性教育と避妊に関する情報提供は、全国一律とはなっていない。未成年者にさらにしっかりと情報を提供することが大切だ。こうした性教育や避妊に関する情報は、若者を早すぎる性体験へと向かわせてしまうのではないかと危惧する人もいるが、無用の心配だ。初体験年齢は2001年以降もその前と変わりがない(女性問題ではいつも社会党に先を越されてきたので、この問題ではUMPの自分が法案の立役者になるのだ、という願望が全国展開の強調に繋がっているようです)。

ニザン医師はもう一つの問題を指摘している。それは、妊娠8週を過ぎると、薬による中絶が行えないということだ。この10年間で、薬による中絶は中絶全体の30%から50%へと増えた。だが実際には、90%の女性が外科的中絶を避けたいと思っているのだが。

・・・ということで、女性の産む権利・産まない権利を守るためにヴェイユ法で中絶を合法化したフランスですが、カトリックの影響でしょうか、未成年者に対しては避妊に関する啓蒙ですらまだタブーであったり、未成年者が避妊用ピルを入手するのが面倒だったりするようです。

一部情報によれば、性交後24時間以内に服用すれば避妊の効果がある「モーニング・アフター・ピル」(緊急避妊薬)なら処方箋なしでも買えるとか、学校でも保健士がくれるとか言われていますが、通常服用するピルを未成年者が購入するには匿名とはいかないようです。

それが中絶は匿名でもOKなのだそうです。やはり、ちょっと思考回路が違うのではないかと思えてしまいます。しかし、このあたり、権利と宗教、あるいは価値観が微妙に絡んでいるのでしょうね。一筋縄ではいかないということなのでしょう。

今でもこのようにセンシブルな問題なのに、中絶の合法化を36年も前に実現したシモーヌ・ヴェイユは、やはり傑出した人物です。アウシュビッツを生き抜いた経験がそうさせるのか、生まれ付きなのか、まさに鉄の女。母性保護と女性の権利拡大も視野に、1974年には経口避妊薬などの販売を促進する法律を成立させ、翌75年にはついに中絶を合法化しました。賛否両論が渦巻くなかでの、政治的英断でした。こうした実績が評価されたのか、79年、直接選挙になって初の欧州議会議長に選ばれています。

「意志あるところに道は開ける」(Where there is a will, there is a way.)ということなのでしょう。しかしなにも西洋のことわざを持ち出すまでもなく、「為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成さぬは人の為さぬなりけり」・・・日本にも上杉鷹山の名言があります。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする