飛騨さるぼぼ湧水

飛騨の山奥から発信しています。少々目が悪い山猿かな?

(続)連載小説「幸福の木」 306話 日本中を見下ろす?岩魚

2022-04-15 22:58:08 | 小説の部屋

ハイハイハイハーイ、おまたせ、飛騨の小路 小湧水でーす、いやいや雨雨の高山祭で残念でした。でも今年は行われただけでも良かったです。
はい、雨のせいか先生の原稿が届きましたので、早速、小説に参ります、前回は文字オーバーで途中切れで失礼いたしました、はい、では、開幕開幕でーす!

306 日本中を見下ろす?岩魚(いわな)

「わーっ、僕も高い山へ登って、その岩魚(いわな)を食べたいな」
男の子が言うと、即、ハナナが答えた。
「それなら、これからあたい達と一緒に旅すればいいよ、多分、この先、飛騨の高い山も行くからさ」
男の子は、早速、両親や姉に相談していた。
何を思ったのか、また太郎が突然皆に向って質問した。
「あのさ、俺、いつも疑問に思っていたんだけど、どうしてあんな高い峰の谷に岩魚がいるんだろうな?あんな所までいつ遡上したんだろう?って不思議に思ってた。だってよ、途中には高い滝がいくつもあるんだぜ」
「へえーっ、そうなの?そんな上流にも岩魚っているの?」
それはハナやハナナも、聞いてびっくりだった。
いったいどうやって登ったんだろう?考えれば考えるほど不思議だった。
「いやいや、それは、やはり岩魚の野生力で昇ったんじゃろう、なにせ昔から鯉の滝のぼりと言う諺もあるくらいだからな、岩魚は鯉より細くて滝に慣れているのじゃ」
真っ先に答えたのは長老だった。
「嘘だ、それは嘘だ、有り得ない、何メートルもある滝だよ、どうやって昇るんだ?あの落下している水を昇るのかい?無理だ、まさか何メートルも空中を飛ぶのかい?」
太郎は烈火のごとくに否定した。
「すると今度は修験者が答えた。
「いや、ほんとうじゃ、がしかし、滝の水を登るんじゃない、横の崖を登るんじゃ、ほらっ、よくため池や水たまりの水が無くなると魚達は地面の土の上を歩くように移動するじゃろう?あれと同じじゃ、きっと水のない崖を少しづつ登るんじゃ」
「嘘だ、嘘だ、ますます有り得ない、それじゃ、鳶やカラスや獣達にどうぞ捕まえてって言ってるようなもんだ、一度でもいいから見てみたい」
太郎はまた即、否定した。
「やっぱり諺通り、鯉の滝登りじゃ、あの落下する水をすごい勢いで登るんじゃ、それしか考えられん」
長老は滝のぼり説を主張し続けた。
実際、山奥の何メートルもある滝の下はもちろん、上にも岩魚達は住んでいた。
「・・シーン・」
考え込んだ皆の沈黙が続いた。
「はーい、あたい分かったわ!」
突然、ハナナが生徒のように手を上げて、明るい声で言った。
「あの、前に聞いたんだけど、昔々大雨が降って日本中が高い山の頂だけを残して沈んでしまったんでしょ?そして、次第に水が引いていったんでしょ?
その時に岩魚達が高い峰の谷に残ったのよ、なので日本中の上流に岩魚が住んでいるのよ」
「!!!???」
(えっ、まさか?でも一応すべてをうまく説明しているようだけど・・?)
太郎や長老達は焦った、口には出さなかったが、心の中では、やはり当っているかもと思った。
ハナナは、まるで満点のテスト結果を待っているような顔で、長老達を見つめていた。
「いやいや、そんな神話の世界のような遠い昔の話を持ち出さなくても、答えが見つかるんじゃないかな?」
ばつが悪そうに、黙っておれなくなった修験者が無難な答えでごまかした。
白けた空気が流れた。
すると、ハナが小声でボソッとつぶやいた。
「確か爺ちゃんが、昔は小さい岩魚は滝の上やもっと上流に放つって言ってたわ」
その声は静かな中で、イナヅまのように皆の耳に響いた。
「えっ、ハナ、今、今、お前、何って言った?」
太郎が立ち上がった、
爺達があっと大きな口を開けて、自分の手で額を叩いた。
「ああ、それじゃ、それじゃ、それが犯人じゃ、人間じゃ!人間が滝の上に岩魚を上げたんじゃ、そうして岩魚を上流でも池のように飼っていたんじゃ、将来の子孫のためにな」
長老がそう言うと修験者も続けた。
「ああ、それはワシも聞いた事を思い出した、山奥の岩魚釣り名人からな。あそこの岩魚は、そろそろ大きくなって食べ頃じゃと言ってたな、はっはっはー、この謎は、そう言う事じゃったんじゃ、ハっはっはー」
と爺達二人は互いに顔を見合わせて大笑いした。
なーんだ、そう言う事だったんだ!
と皆も納得して、これで一件落着!と落ち着き安堵した。
しかし、太郎だけが、何故かまだ納得できずブツブツ言っていた。
「しかし、あんな遠い不便な峰の谷に、村人がわざわざ岩魚を獲りに行ってたのだろうか?」
すると、それまで沈黙を続けていたゴクウが初めて口を開いた。
「あの、滝ができる前はもっとゆるやかな流れだったんじゃないですか?その頃は岩魚達もふつうに遡上できたんじゃないですか?
その後に地震の断層や風雨の浸食によって流れが急になって今のような滝ができたんじゃないですか?」
その予想外の、しかも有り得そうな説に、皆は唖然とした。
ゴクウとは、もう何百歳も生きている山の主と言われる「白猿」、その跡取り息子である。
父親からいろいろ聞いているだろうと、皆はいつも注目していた。
「おお、そうか、そう言う事かい、滝ができる前に、岩魚達はもう上流まで遡上していたと言う訳か?なるほどなるほど、谷の地形は年月と共に変化するからな、なのでそれは十分有り得る話じゃ」
と長老達は改めて感心した。
「あの、ソレハ、イツゴロ、ナンネンマエのハナシデスカ?」
通訳を通して聞いていた外国家族の父親が質問した。
青い制服の彼女は、英語で懸命に説明し始めた。
その様子を見ながら長老がつぶやいた。
「しかし、ゴクウの父親は何百歳と言うし、その父親から聞いた今の説も、遠い遠いずいぶん昔の気の長い誰にも分からん話じゃのう」
全く!とばかりに修験者もうなづいていた。
やがて木花咲姫が口を開いた。
「そうですね、この私達が住んでいる地球も魚達にも長い長い歴史がありますから、でも皆さん方が答えられた説明は素晴らしいと思いました。
岩魚がなぜ山奥の源流にもいるのかと言う謎は、その答えを想像しながら釣りをするのも、渓流釣りの楽しさのひとつだと思います。よく言われる男のロマンでしょう。
他にも、古代日本独自の変な形の勾玉(まがたま)のように、どうしてあんな形なのか?を想像するのも楽しい謎があります。
むしろ、答えが見つかるとがっかりするかも知れません」
と木花咲姫が一時口を閉じると、これ以上は話さないのかとハナやハナナ達は少し不安になった。
また木花咲姫が話し出すと、ハナ達は安心した。
「あの、先ほどの皆さん方の話についてですけど、鯉や岩魚達が滝を昇る時には、水中深くから勢いをつけて泳ぎ昇るようです。
なので滝壺のような深い水がある場所は昇りやすいようです。しかし、滝の下が浅い場所では勢いがつけられないのでそんなに高くは昇れないようです。
また、滝の横の水の無い場所を登ると言う話ですが、やはり魚達は身をクネクネと蛇のようにくねらせて登るようです。それぞれどのくらいの高さまで可能かと言う事については、わたくしはまだ見た事がありませんので詳しく申し上げられません」
と木花咲姫が言って口を閉じた。
すると、自説を肯定されたように長老と修験者は、ほらっな!と自慢顔になった。
「木花咲姫はさらに話を続けた。
「さて、岩魚の謎についてわたくしもひとつの説を申し上げましょう。
地球には何度か氷河時代と言うとても寒い時代がありました。その時代は赤道付近以外では厚い氷が大陸を覆っていました。
最後の氷河時代の終わりには、まだ日本の高山には厚い氷が残っていたと思います。
温暖化につれて少しづつ解けていったと思いますが、その時に、氷が解けた水が高い峰々に数多くの小さなせせらぎを作ったと思います。
もしかしたら岩魚達はそのせせらぎを辿って高い峰まで登っていったのかも知れません」
それを聞いた修験者が、
「おお、思い出した、つい最近、ワシが現在の御岳の写真集を見ていたんじゃ。
すると、山頂に滝壺跡があって、雪解けの時だけ滝に水が流れるそうじゃ。
その時には、標高三千メートルと言う日本一高い滝になると言ってた。きっと氷河時代には、年中水が流れていたのじゃろう、なにせ滝壺ができたくらいじゃからのう」
と嬉しそうに言った。
「さすが、修験者さんですね、現在の御岳の様子を写真で確かめるとは」
と、高山を治めている女神の木花咲姫は、修験者の信仰心を褒めた。
すると、ずっと通訳で話を聞いていた男の子が、
「僕、やっぱり高い山に登って岩魚を釣ってみたいな」
と大声を出した

(つづく)

ハイハイハイハーイ、さて、ここまで原稿が載るかしら?もしかして、ぎりぎりセーフかも?でしたら、またのお運びを願いバイバイバーイ!です。