飛騨さるぼぼ湧水

飛騨の山奥から発信しています。少々目が悪い山猿かな?

日々新た、年々新た! 白紙の心

2018-01-04 17:06:32 | エッセイの部屋

「あれっ、変な音がしたぞ!」
いつもの使い慣れたicれこーだーを掴んだ時だった。
瞬間、嫌な予感がした。
「ぴっ」、「ぴっ」
「あれっ、前の録音箇所にもどらない?」
前日に録音した声を聞こうとしたが、その場所にもどらなかった。
(えっ、なんで?もしかして壊れた?)」
大変だ!中には重要な事ばかりがたくさん録音してある。
私は水を浴びせられたように青ざめながら、必死にいつものボタンを押し続けた。
何度押し続けても、過去の録音場所へは行けなかった。
(ああ、やっぱり壊れてしまった。使用頻度が激しいから寿命が来たのかも知れない)
毎日数回以上、ときには二十回も使っていて、もう三年は経っているから壊れても仕方がなかった。
たとえ壊れても新しいレコーダーを買えば良くそんなにあわてる事ではない。
問題は中に録音していた大切なデータだった。
「あっ、そうだ!中にsdカードが入っているはずだ。それを取り出して別のicレコーダーに入れれば聞けるはずだ」
この際、新しいレコーダーを買って、それにこの中のsdカードを入れてもらおう
そう決めると、動揺していた気持ちも納まり、いつものように寝る事ができた。
翌日になった。
その日は週一度の灯油の安売り日、友人が車で買いに行ってくれる約束をしていた事を思い出した。
昼になると早速、いつものように友人に電話した。
「もしもし・・湧水だけど・・昼飯を食べに行こうか?icレコーダーが壊れてしまったので新しいのを買いたいし・・」
「・・・ああ、分かった」
家に来た友人の車で、久々に近くのインド料理店へ行き、3カラの辛いカレーライスを食べた。
そして、馴染みの電気店へ向かった。
「今日はいつもの主婦の店員さんより男性の店員さんの方がいいな、ちょっと難しいから」
なんて言いながら、車を降りると、友人の背中を掴みつつ白杖とバッグを持って店の中へ入って行った。
まだ正月の3日だったが幸い営業していた。
店員は皆お客さんの応対をしていて、あの主婦店員も誰も話しかけて来なかった。
「そうだ!待っている間に加湿器を見ておこう」
それは何日か前に風邪予防に買おうと思ったけれど、高価だからもったいない!とあきらめた商品だった。
その代わり、部屋には濡れタオルや水を入れた器を置いていた。
「あっ、空いている男の店員がいる」
友人が見つけ、その店員を呼んでくれた。
「あの、ここで買ったicレコーダーだけど、壊れてしまって、それで、新しいレコーダーを買って、それにこのsdカードを入れてほしいんだけど・・」
そう言いながら三人でカウンターの席へ向かった。
椅子に座ると私はポケットからレコーダーを取り出した。
「それでは、ちょっと見せてもらえますか?」
店員がレコーダーを手に取って点検し始めた。
「たぶん接触不良じゃないかと思うんだけど、一応スイッチを入れれば反応するから・・」
私が言い訳じみた説明をした。
「ぴっ」、「ぴっ」、「ピッ」
「あの、1チャンネルしか録音されていませんよ」
「えっ、いや、そんなはずは!・・かなり入っているはずだけど」
私は驚いて大きな声になった。
確か、数十分ほどの長い読み上げ文書が二十ほど、それに話の録音が十ほど、さらに電話番号や重要な豆知識が数え切れないほど入っていたのだ。
「ああ、消去されてますね、全消去ですね」
若い店員は、ことさら軽い口調で言った。
「全消去??????」
「はい、全消去されてます」
全消去なんて、このレコーダーに関しては私は初めて聞いた言葉だった。
「そう言えば、横の変なボタンを押した記憶がある、そう、あれからおかしくなった」
あの嫌な予感がした記憶が蘇った。
「ちょっと、どうすれば全消去になるの?」
「いやーっ、以前の機種ですから、説明書がないと分かりませんね・・」
レコーダーをいじりながら店員があっさり答えた。
「壊れてなくて良かったな」
黙っていた友人が重い口で言った。
「いや、とんでもない!大事なのは機種よりも内容だ。これって何とか修復できないかな?」
「いや、できません」
即座に店員は答えた。
その声から初対面の若い店員だと感じた。
さてどうするかは帰ってから考えよう。
そう思うと、新しいレコーダーを買うつもりで持ってきた胸ポケットの一万円札を思い出した。
「あっ、ところで一番安い、一番ワット数の少ない加湿器ってある?」
「はい、あります、持ってきましょうか?」
「ああ、ちょっと見せてもらおうか」
「ではちょっと待ってください」
店員は若いだけあって行動が早かった。
「これです、二千円ほどで、百ワットです」
「えっ、たったの二千円?」
「はい、○○オオヤマです」
いやーっ驚いた、昔は二万円ほどした、それがたったの二千円とは!」
と言う訳で、結局その加湿器と電気カミソリ用のスプレーを買って帰った。
電気カミソリ用のスプレーを買うのは二度目だった。
初めて買った時は、恥ずかしながら使用方法が分からずキリで穴を開けてガスが噴出し空にしてしまった。
さて、自宅へ帰って自室でコーヒーを飲むと落ち着いた。
冷静になって考えてみると、レコーダーが壊れていなかった事は幸いだったが、すべての録音を消してしまった事はショックだった。
と言っても、もう元へもどす方法がない。
なんでこんな事が起こってしまったんだろう?しかも大晦日と言う日に?
いつまでも悔いが残り、納得がいかなかった。
さらに冷静になって消してしまった録音内容を順番に思い出す事にした。
すると幸いにも、短歌や俳句は年末にパソコンに書き移していた事を思い出した。
最も大切だと思っていた内容は、何度も聞いたので肝心な所は私の頭の中に入っていた。
他の大切だと思って録音した内容は、果たして今後聞く事が実際にあるだろうかと自問自答してみると、おそらく聞かないだろうと思った。
たぶん新しい大切な事を録音する場所が不足すると、古い内容として消されるだろうと思った。
それに、本を買うと、人は満足して読まないで積んでおくように、いつでも聞けると思うと聞かないものだと思った。
事実、よく考えてみると、多くの録音した内容は、実際に聞く時間がなかった。
「そうか、レコーダーに録音する事よりも、早く聞いて頭の中に記録する方が大切なんだ。これからはそうしよう。それで忘れてしまったらそれはそれでいいんだ」
と納得した。
それよりももっと大切な事に気づいた。
「日々新た!」
とは昔、松下幸之助の本で憶えた言葉だった。
年々新た!」
と言う言葉が浮かんだ。
新しく産まれる、新しく生きる、そのためにはそれまでの事を頭の中から消し去る事だ。
でないと、「いや、そんな事は過去の成功体験にない!」とか、「そんな事は聞いた事がない!」とか、古い記憶が場所を独占してしまって、新しい事を受け入れる余地がなくなってしまうからだ。
経験が無い幼児のように、あらゆる見る事、聞く事、体験する事を綿が水を吸うように新しく自分の血や肉にしていくには、白紙の脳、すなわち過去の記憶をすべて全消去しなければならないのだ。
そのために、人は年末の大晦日にすべてを頭から消し去り、白紙の心と脳で新らたな年を迎えるべき。
その事を今回の出来事が私に教えてくれようとしてくれたのかも知れない。
そう思うと、何となく納得がいったかのように肚に落ちた。
まず、過去の自分、過去の考えを全消去する、そして白紙で目の前の事に向き合う!
日々新た、年々新た!新しく生まれるとは、そう言う事なんだ。
そう思えた時、昨年からの長い風邪がかなり治っている事に気づいた。


(2018 正月)

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1 コメント

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野菜ありがとう (ひでとし)
2018-01-07 15:57:10
この前は野菜をたくさんありがとう。
立派な里芋を岐阜でいただいてます。父さん母さんも美味しい美味しいっていってるよ。白菜はケイコさんが実家の広島にも持っていってすき焼きで食べて美味しかったって。
明日、神奈川に帰ります。それじゃあまたね。

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