夏は暑い。
特に、容赦なく陽射しが照りつける昼間の野外は、まるで炎地獄だ。
昔、天竺を目指した中国の三蔵法師が西域のタクラマカン砂漠を通った時は、きっとこんなんだったろう!等と、想像したりする。
が、何はともかく、早く日影へと、誰もが急ぐ。
ところが、日陰へ逃げ出すこともできず、炎天下のその場に留まらなければならないのが草取りだ。
もっとも、黒マルチや敷草で裸土を覆えば雑草は生えないが、今年から他人に頼まなければならない黒マルチをやめ、敷草を検討し始めた。
数年前は、その暑さも覚悟の上で、無料のサウナ室へ入ったつもりで、汗を出してすっきりしよう!と楽天的に考えた。
しかし、今は、体調が悪いせいか、そんな元気もない。
朝、庭の鉢花の手入れをしていても、朝日がさし込み始めると、五分とがまんできず家の中へ逃げ込む。
まるで、大きな篝火の近くにいるように、体全体が熱く痛くなってくるからだ。
そんな中、早く作業を終わろうと、ミニハウスの中のトマトに水やりをしていた時、フと思った事があった。
「そうだ!このミニハウスの天井のビニールの代わりに、シートを張って日影を作ればいいんだ。これなら移動できる」
それは、屋根付きの小さなミニハウスを畑の草取り場所へ持っていき、その場所が終わったら、隣へ移動して草取りを続ける、と言うアイデアだった。
炎天下の畑の草取り場所が、屋内のような涼しい日影になる。
「これは名案だ!これなら、真夏の昼間でも大丈夫だ。まだ世界中で誰もやっていないぞ!」
と大喜びして、すぐ材料探しに取りかかった。
しかし、興奮も醒め冷静になるにつれて、疑問が沸いてきた。
「作物が大きくなったら、果たしてうまく置く事ができるだろうか?」
そうこう考えていると、結局、地面に接するハウスの足は、少ない方が良いと言う結論に達した。
それで、四本足や三脚のハウス等も考えてみたが、作るのが大変だと感じた。
その内、やはり、ハウス式は、鉄パイプ等を溶接しなければならないし、一人で手作りするのは無理だと気付いた。
「あっ、そうだ!市販のビーチパラソルは、どうだ?」
と既製品の利用を思いついた。
ビーチパラソルなら、大きな日影ができる。だから、その軸を支え、車輪か何かで移動できるようにすればいいんだ!」
早速、後輩にネットでビーチパラソルを調べてもらうと直径二メートルの物が二千円で、固定する物が千円弱だった。
「わーっ、今は、そんなに安いんだ!」
と大喜びで即、注文してもらった。
二日後に、品物が宅配された。
しかし、固定部が、中央に穴が空いた、枕のような形の、水を入れて重くすると言う貧弱な物だった。
おまけに、ビーチパラソルの軸は、その下の砂地まで貫かなければならないようだった。
これ等を、どのようにしたら、畑の作物の間で、固定や移動ができるだろうか?
あと一歩のところで、行き詰まってしまった。
「よし、こうなったら、思い切って別の方法を考えよう!せっかく買ったビーチパラソルは、庭での作業に使えばもったいなくない」
と思って考えていると、別のアイデアが沸いた。
「よし、ふつうのパラソルを使おう。しかも地面に固定しなくてもいいように、自分の背中に固定しよう。その方が、より簡単だ」
そう思うと、冬に買ったリュックサックが思い浮かんだ。
それは、年末の大掃除の時に、掃除機をスッポリ入れ、底に廃棄穴を空けて、背中に背負い天井や壁のスス払いをした。動きやすくて、ずいぶんはかどった。
「そのリュックサックの中に、発泡スチロールの箱を入れて、その箱にパラソルを固定しよう」
と想いついたが、バッグが軽過ぎて、果たしてパラソルがしっかり固定できるか自信が無かった。
と同時に、さらに別のアイデアも浮かんだ。
それは、もっと小さな物で、言わば、「巨大な麦わら帽子」のようなアイデアだった。
昔から市販されている、カンナクズで作られた、平たい円錐形の帽子、その帽子の縁に、ダンボール紙をガムテープで貼り付けて、直径一メートルほどの帽子に改造する。
「これが、一番手っ取り早いアイデアだ。これならいつでも、すぐ作れる!」
と安心した。
それは、まさしくパラソルを帽子にしたようなものだ。
この巨大帽子を作るか、それとも、背中パラソルを作るか、どちらが早いか、どちらを先に作るか等迷っている内に、思いがけず全く違った道が開けた。
「あっ、それよりも、日影が欲しいのなら、朝日の出る前の早朝に畑へ行けばいいんだ!
「これなら、早速明日から実行できる」
と、翌日、午前五時に畑へ行った。
すると、まだ寒いくらいだった。
朝日が射し始めるのは七時過ぎ、それまで、涼しい中で気持ちよく草取りができた。
朝ドラを見るための、八時十分前くらいまでは、何とかがんばれた。
「なーんだ、考えて見れば、これが一番いい方法じゃないか。だから昔の人達は、早朝に畑へ行ってたんだ」
と、改めて昔の農人を見習って、その早朝作業を十日間ほど続けた。
すると、予定の草取りや里芋植え等が無事に一人で完了できた。
やがて、入梅となって、雨が降り続いた。
梅雨は、作物も雑草も区別なく発芽させ、成長させる。
「そろそろ、また発芽した雑草の取り頃だ」
と、晴れた早朝に畑へ行くと、蚊がひどくて作業どころではなかった。
前は寒かったので蚊がいなかったのだ。
「早朝を過ぎれば蚊はいなくなるはずだ。梅雨時は、昼間でも曇り空で、それほど暑くないから、今が最後のチャンスだ。梅雨が開ければ酷暑となる」
と思って畑へ行きたい気持ちが高ぶるのだが、あいにく、風邪のような微熱があって体調がすぐれない。
このままでは梅雨が開けてしまい、暑くなってしまう。それに、早朝も蚊が増えてしまう」
そうなると、炎天での作業となってしまう。
そう思うと、早速リュックサックの背中パラソル案を!と、適当な発泡スチロール箱やパラソルの代わりの古いコウモリ傘を探し始めた。
すると、不思議な事に、ちょうど良い大きさの物が見つかった。
ヘルパーさんが掃除している間に作り始めると発泡スチロールを少し削るだけで、ピッタリ組み立てができる事が分かった。
早速、ヘルパーさんにガムテープ貼りを手伝ってもらい、私が実際に背負って、傘の位置を確めてもらうと、それもピッタリの位置だった。傘もグラグラ揺れなかった。
「わーっ、すごいいいアイデアですね!」
新顔のヘルパーさんに褒められて、ついでに巨大帽子の案も教えてやった。
試作とは言え、古い黒のコウモリ傘では、見栄えもパッとしない。
そんな事を考えていたら、明日の日本のワールドカップの初戦の話題が聞こえてきた。
「そうだ!ブルーのスプレーペンキを買ってきて、サムライジャパンの応援文字を書きつめて、派手なパラソルにしてやろう!」
自分の勇壮なパラソル姿が目に浮かんだ。
飛騨街道41号線を走っていて、ブルーパラソルが畑の中に動いていたら、それは私です。よろしく!!
(おわり)