ハイハイハイハーイ、おまたせ、飛騨の小路 小湧水でーす、さくらも満開ま近かでーす。
いよいよ、明日は新しい年号の発表、さてさてどんな年号になるのでしょうか?
先生もきっとこれだ!なんて言ってましたが、外れたら恥ずかしいので一度言っただけで、もう言いません。あっ、そうだ!藤井少年の将棋の「封じ手」のように、前以て書いておけばいいですね、当たっても外れても。もちろん日付も書いて、そう自分宛てに郵送すれば当たった時、証拠になるかも。
はい、てな訳?で、早速、小説に参りまーす、はい、では開幕、開幕ー!
21 女王のアドバイズ
(しまった!)
失言で太郎は青くなったままだった。
しかし、心の奥では、言った事は間違っていないと思っていた。
もし獣に生まれるとしたら、やはり草しか食べられないウサギや鹿よりも、彼等を食べる狼や熊の方がマシだ。
「あの、隊長、本当にそうでしょうか?」
ゴクウの言葉に太郎はエッ?とつまった。
「あの、隊長、草は地面至る所に生えています。どこにでも食べ物があるのです。それに比べ狼やキツネは小動物を見つけて捕まえなければ食べられません。彼等は用心深く逃げ足も早いので簡単には捕まりません。果たしてどちらが幸せでしょうか?」
そうゴクウに言われると太郎はあわてた。
「えっ、たっ、確かに、そっ、そうだな・・・」
太郎が考え込んでいると、あの白ウサギがもどってきた。
そしてゴクウに向かって一生懸命何か伝えていた。
元々まじめな顔のゴクウがさらに厳しい表情で聞いていた。
やがてウサギの話が終わると、ゴクウは太郎とハナに向って、
「やっぱり、駄目でした」
と言った。
ハナと太郎が顔を見合わせた。
「あの、理由は違います。ピンクウサギの女王が言うには、この地下王国を通って奥の森まで行くには、私達ウサギだけなら細い通路で行けるけれど、あなた達、人間や猿ではその細い道は通れません。もっと大きな洞窟の道なら通れますが、そこは大変危険な道です。
多分あなた達では騒がし過ぎて途中でこの地下王国の主(ぬし)に気づかれて食べられてしまうでしょう・・・との事です」
「えっ、地下王国の主(ぬし)だって?あのピンクウサギが女王じゃないのかい?主(ぬし)って誰だ?それって、もしかしたら大蛇の事なのか?」
驚いた太郎が怒鳴ると、白ウサギはゴクウにまた何か言った。
「いえ、大蛇は入り口を見張っているだけで洞窟の奥にはいないそうです。それに地下王国と言うのは、とても大きくて、その中に小さなウサギ王国があって、あのピンクウサギは、そこの女王なのです」
「それじゃ、ゴクウさん、主って誰なの?食べられるって、どう言う事なの?」
ハナがゴクウに聞いていると、太郎が白ウサギに向って、
「おい白ウサギさんよ、お前はハナに助けられたんだろ?だったら恩返しはしないのか?ただ案内するだけだろ?こっそり案内してくれればいいんだ」
と怒鳴った。
すると、白ウサギは、またあわてて奥のピンクの女王の所へ跳んで行った。
しばらくしてから、もどって来て、ゴクウに告げた。
「あの、隊長、女王様が言うには、雪崩の中から救い出して、大蛇のいない入り口を教えただけでももう十分恩返しをした事になります。さらに地下王国の様子まで教えたのです。それに大事な注意する事まで教えたので、もう恩知らず!なんて言わないでください、との事です」
ゴクウが言った。
ハナはウンウンうなずいて白ウサギにゴメンネ!と謝った。
そして太郎には、これ以上ウサぎさんを困らせないで!と叱った。
「ああ、分かった、分かったよハナ、ありがとうよ白ウサギさんよ」
太郎はようやく納得した。
「さあ、それじゃ俺達だけで出発するか」
太郎のかけ声で皆が荷物を持って旅支度をした。
「よし、進む方向はあっちだ!よく考えてみれば案内なんていらないんだ、洞窟の奥へ進むだけだ。さあ、ケン、行くぞ!」
「ワンワンワンワン!」
ケンがシッポを振って久しぶりに吠えて先頭へ駆けた。
ゴクウと太郎が、その後ろに続き、最後はハナだった。
洞窟はだんだん大きくなっていって、天上も高く、横壁下の床を水が小川のように流れていた。
明かりは見当たらなかったが、どこからか光が漏れて来るのか、鍾乳洞の壁は乳白色にほの明るかった。
最後列を歩いていたハナは、ウサギ達の姿が見えなくなると、急に淋しくなった。
さらに今まで先頭を案内していた白ウサギの姿が見えなくなると、いっそう淋しく感じた。
この先、もういないと思うと、泣き出したいくらいだった。
しばらく洞窟を進んでいると、壁に小洞窟のような穴が目立ってきた。
(ひょっとして、これが、あのウサギが言っていた細い道の事かな?)
と皆は思った。
(ひょっとしたら?)
とハナが思った瞬間、その穴に何か白い影が動いた。
「ワンワンワンワン!」
「あっ、白ウサギだ!」
太郎が大声をあげた。
ハナが見ていると、あの白ウサギが姿を現した。
そして、また今までのようにケンの前を案内し始めた。
「あれっ、どうしたんだろう?また来たぞ、もう案内しないって言ってたのに?」
太郎があっけに取られた。
「まあいいや、案内してくれるのなら、こんな都合のいい事はない、なあ、ハナ?」
振り向けば、ハナは聞くまでもなく満面の笑顔だった。
太郎もハナも、ひょっとしたら女王様の許可が出て、このままずっと白ウサギが案内してくれるのかなと思って嬉しくなった。
やがて洞窟は、高い天井に穴が空いていて、そこからまぶしい光が差し込んでいる場所にきた。
突然、先頭の白ウサギが立ち止まって、振り向いて何か言い始めた。
「ハナさん、この場所に見覚えがありませんか?ってウサギさんが聞いていますよ」
ゴクウがハナに言った。
ハナは何の事だろうと辺りを見回した。
別に薄暗い洞窟の中で、脇に小川が流れているだけで、何も変わった事はなかった。
いったいどう言う事かしら?と思いつつ天井の穴を見上げた時、ハッと思い出した。
「あっ、ここって、昨年、子猿が落ちた穴だわ!」
思わず大声を出した。
「ええーっ!ハナ、ここがあの子猿を助けるためにロープで降りた巌穴なのか?」
太郎も思い出した。
「ええ、あの時、落ちた子猿を救う時、傍に子ウサギがいたのでついでに助けて天井の穴から外に出してあげたのよ、あっ、でも、・・・・」
その時、初めて太郎もハナも白ウサギが前に「ありがた迷惑だった」と言ってた事を思い出した。
その意味が今にして、ようやく理解できた。
「ああ、あの時、そうだったの?白ウサギさん、ごめんなさいね。あの時、ウサギさんは、ここで落ちた子猿さんを見守っていたのね。それなのに私ってあわて者だったわ、白ウサギさんまで一緒に上へ引き上げてしまって、本当にごめんなさい」
するとそれを聞いていた白ウサギは、満足そうにうなづいてゴクウに何か告げた。
「ウサギさんは、いえ、分かってくれればそれでいいんですって、ハナさんの親切心には感謝していますって言ってます。白ウサギさんの見送りは、ここまでしか女王様に許されていないから、ここでお別れしますって言ってます」
とゴクウが通訳した。
「えっ、えーっ、この先は案内してくれないのか?それは困るよ。何か恐ろしい地下王国の主(ぬし)もいるんだろ?ひえーっどうしよう!」
太郎が悲鳴を上げた。
白ウサギはゴクウにまた何か告げた。
「最後に女王様からの特別の伝言があるそうです。それはとても大切な事なので心して聞いてくださいとの事です。
途中で宝のような物が色々有っても、決して立ち止まったり、近寄ったり、触ったりせずに、わき目もふらずに腰を低くしてすばやく通り抜けなさいと言う事です。そうすれば主に気づかれずに通り抜ける事ができるだろうとの事です。もし万が一にも、見つかってしまったら、その時は、どこでもいいから小さい穴に逃げ込みなさい、ってとの事です。こんな詳しい事を女王様が教えるのは初めての事ですので、私も喜んでいます、との事でした」
大事な伝言を伝え終わった白ウサギは、別れを惜しむように長い耳を振った。
ハナ達が、出発してしばらくして振り返ると、白ウサギが立ったまま、天井穴からの光の下で、いつまでも耳を振っていた。
「ウサギさーん、ありがとーう!」
ハナの顔を見ると、また何か言っているようだった。
「ウサギさんが、洞窟には他にもかわいい生き物がいるから友達になると楽しいですよと言ってますよ」
ゴクウが通訳してくれた。
「かわいい生き物って?それは何だ?」
太郎が聞くと、
「それはお楽しみに!と言ってます」
ゴクウが言った。
「それじゃ、元気で、バイバイ!」
ハナ達は、最後の別れを告げると、前を向いてまた歩き出した。
「・・・・」
「へっ、なにだ、お楽しみに!なんてもったいぶって。どうせ、ネズミかリスぐらいだろ?ウサギがかわいいって言うんだからな」
太郎が思い出したようにつぶやいた。
ゴクウも合わすように答えた。
「そうですね、ネズミなんかだったら嫌ですね。白くて小さくて一匹二匹ぐらいならかわいくていいですけど、群れなんかが来たら大変ですね」
ネズミの群れと聞いて、ハナのそれまでの楽しい想像が、一変、悪夢に変わった。
「やめてよ、ネズミの群れだなんて!せっかくの楽しい想像ができなくなってしまうわ」
ハナが言うと二人は黙ってしまった。
(どんな動物がいるのかしら?)
ハナは心の中で想い続けた。
こうして太郎やハナ達だけの、飛騨の洞窟の旅が始まった。
(つづく)
ハイハイハイハーイ、いよいよ飛騨地下の旅が始まりました。
地底王国の主(ぬし)って、何者でしょうか?それにかわいい生き物って何でしょうか?はい、明日は年号のサクラ咲く!もう平成もあとひと月、来る世は、真に明るい世になりますように!
では、またのお運びを願いまして、バイバイバーイです!