飛騨さるぼぼ湧水

飛騨の山奥から発信しています。少々目が悪い山猿かな?

(続)連載小説「幸福の木」 304話 五月鱒の長旅

2022-04-02 15:51:14 | 小説の部屋

ハイハイハイハーイ、おまたせ、飛騨の小路 小湧水でーす、いやいや前回はちょっと失敗したようで、文字オーバーと鮎ト鱒ノ混同で失礼しました!とウチの先生が反省シテました。
はい、もう歳ですので、またしでかすかも?です。はい、その折はよろしく。
はい、では開幕開幕でーす!

304 五月鱒の長旅

「あらあら、始まるのですか?鮎焼きが、それなら、あの海外の方達にも声をかけましょうね」
見にキタ木花咲姫ガ、ソウ言うと、傍ノ侍女が呼びに行った。
甲板ノ砂地ノ焚火ニハ、逆さノ曲がった鮎ガズラーッと周りヲ囲んでイタ。
鮎ニ串ヲ刺しテ炭火デ焼いてイタノダ。
そして炭火の真上ニモ金網ガアッテ、ソコデモ鮎ヲ焼いてイタ。
野外テーブルの上には趣向を凝らした様々な料理が並べられていた。
他に地元の酒やワインもタクサン並べられていた。
「さあ、焼けたぞ焼けたぞ、熱いうちに食べよう」
早速、太郎が串を砂地から一本引き抜いて、塩焼きした鮎にかじりついた。
「あっ、あつい!やけどしそう、美味い美味い!」
太郎ハ、ハナ達の怒ってにらんでいる視線に気づいて言った。
「ああ、お前達も、食べたい奴は勝手に取って食べろ、たべろ!ここは自由勝手方式だ」
料理人が持ってきた皿を出した。
「サア、ドウゾ召し上がってクダサイ、熱いカラ火傷ヲシナイヨオウニ気を付けてクダサイ」
青色ノ制服ノ彼女ガ、皿に乗った鮎を皆ニ配った。
「美味い美味い!」
「ワンワンワンワン」
皆ハ話す事モ忘れて、次々ト二匹目ノ鮎ヲ皿ニ受け取った。
「オオ、ソウ言えば、グー太ノ姿ガ見えんナ、ドコニイルンジャ?」
長老ガ口ヲモグモグ動かしながら辺りヲ見回して、ハナ達ニ聞いた。
ハナトハナナハ、互いに顔ヲ見合わせタ。
二人ともスッカリグー太ノ事ハ忘れてイタ。
「アア、アノ幼いオ子サンナラ、釣りヲシテマスヨ、私に釣り道具ヲ借りに来ましたヨ」
料理人ガ鮎を焼きナガラ答えた。
「アア、ソウカイ、ハテ、ドコデ釣ッテイルンジャロウ?」
安心した長老ト修験者ガキョロキョロト甲板ノ縁ヲ見回した。
「えっ、姿が見えんぞ!マサカ、川ニ落ちたンジャナイダロウナ?」
青くなった修験者ガ言うト、ハナ達も食べている口ガ止マッタ。
「ワンワンワンワン!」
ケンガ何か吠えた。
「アノ、グー太ハ、モウカナリ前カラ船の後ろ甲板デ釣りヲシテイルヨウデス」
ゴクウガケンの通訳ヲシタ。
「ナーンダ、ソウジャッタンカイ?ソレデ姿ヲ見かけナカッタ訳ジャ」
長老達も皆モ安心シタ。
「ドウゾ、ドウゾ、コチラヘ来て、鮎ヲ召し上がってクダサイ!木花咲姫様、海外ノオ客さん方ヲオ連れイタシマシタ」
ト侍女ガ案内ヲシテキタ。
海外の客トハ男の子と女ノ子と両親の一家族ダッタ。
「ホーラ、コンナ大きな魚ガ釣れたヨ」
真っ先ニ、一番小さなグー太ガ、バケツのような器カラ魚ノシッポヲ掴ミ上げて見せた。
「バシャバシャ!」
大きな銀色の魚が嫌がって手から器の水に落ちた。
「オオ、大きいぞ、コレハ五月鱒ジャナイカ、ヘエー、ヨク釣り上げたモンダ」
料理人ガ驚き感心した。
「ヘーイ、アイヘルプトヒム」
男の子ガ、僕モ手伝ってアゲタンダよ!ト得意ソウニ英語デ言った。
青い制服の彼女がすばやく同時通訳をした。
また姉さんラシキ女の子ガ、「ソウヨ二人デ協力して釣り上げたノヨ!」ト自分の事のように説明した。
後ろで見守っていた両親も、ニコニコシナガラ自慢顔だった。
「マダ他にも魚を釣ったノヨ!」
ト女の子ガ自慢げに言うト、弟の男の子ガ魚ノ入ったバケツヲ料理人ニ見せた。
「オオー、何ダ?大きな落ち鮎モ入ってイルジャナイカ」
驚いた料理人が、大きな鮎ヲ掴んで持ち上げた。
「オオ、スゴイ、立派ナ落ち鮎ダ!」
「ほんとじゃ、大きいのう、どうやって釣り上げたんじゃ?」
太郎ヤ長老達もびっくりして歓声ヲ上げた。
「おー、オチアユーッテ、ナニデスカ?別ノ魚の事デスカー?」
父親ガカタコトノ日本語デ聞いてキタ。
すると、青い制服の彼女が、進み出て、
「アノ、ココハ私ニ説明サセテクダサイ」
と言って、英語デペラペラト説明シ始めた。
「オー、イエース、ヨークワカリマシタ」
夫婦や子供達ガ納得スルト、今度は彼女ハ皆ニ振り向いて説明し始めた。
「アノ、前ニ説明シタ時ニ、鮎ト五月鱒ノ産卵場所ヲ混同シテイマシタ。訂正します。
鮎は川の中流、五月鱒は上流です。
鮎ハ孵化シタ後ニ、スグニ河ヲ下ってエサノ多い海ヤ河口デ過ごすタメニ産卵場所ハ少し上ノ浅瀬デス。
ナノデ、春カラ夏ニカケテ川を遡上シテ川底ノ石ノ藻ヲ食べて大きく成長シテ卵ヲ持った鮎達ハ、秋ニは川ヲ下って産卵場所へ行きます。
ソレガ、コノヨウニお腹ニ卵ヲ持った大きな「落ち鮎」デス。
夏の終わりから秋に獲れるこの落ち鮎よりも、夏に獲れる若鮎の方が美味しいと言って好む人が多いです」
と彼女はバケツの中の大きな鮎を見ていた。
すると、料理人が、
「ああ、今焼いている鮎は、すべて美味しい若鮎だよ」
と串や金網の鮎を裏返した。
その様子をチラッと見ながら、彼女は話の続きをした。
「一方、五月鱒ハカナリ上流デ産卵シテ、ふ化シタ稚魚達ハ小さな川で住む場所の争いヲシマス。
ソノ争いニ負けた弱い魚達ガ川ヲ下ッテエサヲ求めて海ヘ出ます。
ところが広い海はエサも多く鍛えられるので、コノヨウニ巨大な体ニナッテ川ニモドッテ来るのです。
そして河口から上流の故郷まで遡上スルノデス。ちょうどそれが五月頃に姿を見せるのでこのように名付けられました」
ト彼女はバケツの五月鱒ヲ覗き見た。
「・・シーン・・」
「ヘエー、知らなかった、ソウ言う事じゃったのか?ヘエーッ驚いた、場所争いデ負けた方ガ、勝った魚達よりも何倍モ大きナ体ニなってもどって来たのじゃな、イヤイヤ、驚イタ驚いた」
長老ガ感動で涙を浮かべながら言った。
修験者モ感動シテ、
「いやいやスゴイ、いい話を聞いた、負けるが勝ち?と言う事じゃ、実に素晴らしい話を聞いた、早速、太郎モ見習わなきゃ」
と二人は何故か同時に太郎に目を向けた。
「おいおい、太郎よ、聞いていたか?海ジャ、広い海ジャよ、ソウ、海外ジャ、外国ジャ、お前はソコヘ行って、大きな偉大な人間ニナッテ村ヘもどってくるんじゃ、そしてお前をイジメタ故郷の奴等ヲ見返してやるんじゃ」
修験者と長老達は、ほとんど自分達の事のように興奮して赤ら顔で太郎に言った。
対照的に太郎は醒めた無表情の顔だった。
「・・・ったく!他人事だと思って勝手な事を言いやがって、そんなに感動したのなら自分達でやったらいいんだ」
と反発すると、
「いやいや、ワシ等はもう歳じゃ、これは若いお前達の話じゃ、判らんかのう、情けない奴じゃのう」
と嘆息した。
その爺達の嘆きに、賑やかだった雰囲気も白けて沈黙が続いた。
それを打ち消すように木花咲姫が口を開いた。
「いえいえ、長老さん型、そんなに嘆くような事でもないですよ、この太郎さんとハナさん達は、村長さんに頼まれて村の宝物の幸福の木を探しに村を出たのですから、もう立派な五月鱒の道を歩いていますよ。
もし、目出度くその幸福の木を村に持ち帰る事になったら、それはそれは立派な五月鱒以上の功績ですよ、故郷に立派な錦を飾る事ですよ」
そう言われると長老達は、ハッと気づいたように目を丸くした。
「おお、そうじゃった、そうじゃった、ワシもすっかり忘れていた、村を昔の平和な村にするために旅に出たのじゃったな、ああー、ごめんごめん、すっかり忘れていた、ごめん」
と真っ赤な顔で謝った。
すると、ずっと様子を見ていた、外国人の男の子が立ち上がった。
「僕も五月鱒のようにがんばるよ、皆を見返してやるんだ!」
大声の英語で言った。
それを聞いていた両親と姉の女の子が涙を流していた。
「この五月鱒が僕に勇気を与えてくれた、ありがとう、元気で旅を続けて!」
突然、男の子は五月鱒と落ち鮎をバケツの水ごと川に投げた。
放流された五月鱒と落ち鮎達は、あっと言う間に暗い波間に消えた。
グー太は、落ち鮎を一匹だけ両手に隠し持っていた。

(つづく)

ハイハイハイハーイ、ここまでは載らないと思いますよ、