飛騨さるぼぼ湧水

飛騨の山奥から発信しています。少々目が悪い山猿かな?

(続) 連載小説「幸福の木」 276話 新婚夫婦?

2021-08-15 21:37:57 | 小説の部屋


ハイハイハイハーイ、おまたせ、飛騨の小路 小湧水でーす、いやいや東京オリンピックもようやく終わりました。
はい、金メダルもたくさん獲れましたけど、残念ながらコロナもそれ以上に増えました。
今ではワクチンも三度目を打て!とか、ワクチン先進国イスラエルでもコロナ防止にはあまり効かないようです。
コロナはあと2年は長びき、その間、社会が大きく変わる!とウチの先生が言ってます。
はい、もちろん、受け売りですが、自宅に居ながら大学やコンサートや舞台や旅行等がもっとできるようになると楽天的に喜んでます。
五輪コロナ豪雨と落ち着かない日々が続きますが、何はともかく久々に原稿が届きましたので、はい、早速、小説に参りたいと想います。
はい、では、開幕開幕!

276 新婚夫婦?


さて、時間と場面が少し遡る。
太郎と花園の女性が二人並んで池の方を見ていた。
その視線の先には、ハナ達が順番に池の赤い橋を渡り終えようとしていた。
先頭の少年に猿さんや犬さん、それに二人の爺さんに、二人の幼げな少女達が各々懸命に橋を渡っていた。
その自由そうなばらばらな姿は、何故か見ていて微笑ましかった。
皆が渡り終えるのを見とどけると、太郎の隣の花園の女性が言った。
「あの、お仲間の皆さん方が木花咲姫様の邸の方へ行かれましたが、あなたは一緒に行かなくてもよろしいのですか?」
「えっ、俺が一緒に?とんでもない、俺が彼等を率いているんだ、面倒を見ている身だから、彼等と一緒にいるといろいろ疲れるんだ」
太郎は幼そうな皆と一緒に、と言うか仲間のように見られた事に、少し腹立ちを感じた。
(俺は、大人だ、あんなガキのような子供じゃないし、年老いた爺達でもない、もう一人前の立派な男だ)
つまり、心の底ではあなたのような美しい大人の女性の相手に相応しい若々しい男性だと言いたかったのだ。
二人の会話は、しばらくとぎれた。
太郎は何を話したらよいか、さっぱり話題が浮かばなかった。
女性が無口な事は太郎には初めから分かっていた。
なので惹かれたのだ。
だから、女性の方から話題を言い出す事はない。
太郎の方から話出さなければ!
と焦って、頭で必至に考えるのだが、これは!と言う話題が何も浮かばなかった。
浮かぶ事と言えば、魚釣りや狩りの事ぐらいだった。
しばらく太郎の言葉を待っていたが、女性がとうとう小さな声で言った。
「あの、わたくし、まだ花の苗のお世話が残っていますので・・・」
と言って、ゆっくりと踵を返した。
「えっ?あっ、そうだったな、まだ仕事中だったんだ、俺も一緒に行くよ」
と太郎も横に並んで歩き始めた。
するとフと聞きたい事が浮かんできた。
「あっ、そうだ!あの、あんたは何処に住んでいるの?それに、両親はいるの?」
すると、少し驚いたようだったが、女性はすぐに答えた。
「はい、わたくしはこの花園の宿所に皆と一緒に住んでいます。それに両親は湖に近い村に住んでおります」
「へえーっ、そうなんだ、でっ、宿所って何人ぐらいいるの?それに、両親って何しているの?歳はいくつぐらいなの?」
ようやく話題が見つかった太郎は矢継ぎ早にたくさんの質問をした。
「・・・・」
今度は女性は、すぐには答えなかった。
そしてしばらく黙ってしまった。
しばらくして、太郎もそれもそうだな!と思った。
単純な質問ばかりじゃ、さっき見ていた幼いハナ達や爺達と同じレベルになる。
ここは大人の男女の会話だ。
それらしき恋物語のような、惹かれ合う男女の微妙な恋の会話をしなきゃ!
そう考え始めると、太郎は自分が思いつく話題や言葉がすべて軽々しく想えてきた。
そう、的の外れた、何の意味も為さない感じがしてきた。
もっと深い意味のある味わいのある会話をしなきゃ!
と想うと、ますます話しにくくなり、太郎も黙ってしまった。
二人は無言のまま並んで、ゆっくりと歩き花園の苗の場所に向った。
遠くから見れば、背丈も姿もお似合いのカップルのようだった。
花々が香る広い園を二人だけで歩いている。
太郎は無上に幸せ感を味わっていた。
その時、幼い子供の頃に村で見た新婚間もない若夫婦の事を思い出した。
その若夫婦は、小さな新しい家を建てて、その家の前の畑でいつも二人で仲良く働いていた。
夕暮れになると早々と手を取り合って家に帰っていた。
「おい、これから始まるぞ、こっそり見に行こう」
村の年上のガキ大将に引きつられ、太郎達はその新婚の部屋をこっそり覗き込んだ。
まさか子供達が息を止めて覗き込んでいるとは知らずに新婚夫婦が夕食もそこそこに、灯りの下で愛し合っていた。
幼い太郎は、初めて見た時はショックだったが、長じるにつけ理解していった。
そして、そんな日がいつか自分にも来るのだと心の隅で憧れていた。
その日が、今かも知れない!
自分と、今隣に並んで歩いている彼女は、あの時の若夫婦だ、と太郎は思った。
そして、二人はこのまま花の苗の世話を終えて夕暮れには若夫婦の部屋へ帰ってゆく。
そうすれば・・・
太郎は、歩きながらひとりで想像していた。
想像と言うより、妄想である。
「るんるんるん!」
知らない内に、太郎はつい鼻歌が出ていた。
(あっ、いけねえ、つい顔がニヤけている)
太郎は表情で彼女に悟られないようにと、唇をキュット結んだ。
しかし、夕食の後の事を想像すると、また顔全体が緩んでくるのを感じた。
(いやいや、これはまずい、もし彼女に、俺がこんな事を考えているなんて分かったら大変だ)
と太郎は反省して、夕食後の事は成り行きみまかせようと考えない事にした。
その時、急に、隣の彼女が足をピタッと止めた。
「えっ?」
驚いた太郎も、足を止め彼女を見た。
すると彼女は訴えるような目で太郎に言った。
「あの、わたくし、駄目なんです、そう言う事は駄目なんです」
「えっ?駄目って?そう言う事って?」
太郎は驚き面食らった。
「そう言う事って?いったい何の話?」
太郎は慌て焦った。
「だって、そう言う事はわたし無理なんです」
「えっ、だから、何の話?」
太郎は改めて聞き返した。
「あの、わたくし達レムリア人は人の心の中が分かるんです」
「えっ、人の心の中って?」
「はい、そうです、他人の心の中が読めるのです、そう、頭の中で考えている事や心で思っている事がすべて分かるのです」
「えっ、考えている事や思っている事?・・すべて?」
太郎はそう言って、さっき顔をニヤけさせて想像していた事を思い起こした。
「えっ、もしかしたら?・・・」
と想うと、太郎は顔が赤くなってきた。
「はい、そうです、その通りです、今太郎さんが思っていた事は、わたくしには無理なんです、ごめんなさい」
と彼女は謝った。
そして頭を下げたままだった。
「今、俺が考えていた事って?そっ、それは?」
と太郎の顔はさらに湯でタコのように真っ赤になった。
彼女が頭を下げ続けたのは太郎の顔を見ないためだった。
(いや、まいった、まいった、心の中がすべて読まれていたとは、参った参った、ああ、そうだ!この事も既に読まれているのかも?」
と思って彼女の下げている頭を見ると、彼女はさらに頭を下げた。
(ああ、やっぱり)
もう考えては駄目だ、すべて読まれてしまう、もう考えないようにしよう。
と太郎は気づき、想う事を止めた。
しばらく太郎が心を無にしていると、
「本当にどうもすみませんでした」
と彼女が頭を上げて元の姿勢にもどった。
太郎も元の太郎にもどっていた。
そして、二人は、また何事も無かったかのように元どうり並んで歩き始めた。
「あのさ、ちょっと聞きたいんだけど、あんた達は互いに心が読めてしまうんだから言葉なんて必要ないんじゃないかな?皆が集まっても静かなもんだろうな?」
と太郎が聞いた。
「いえ、人の心を読むには相手の事を想わなければなりません、なので思っていない人や姿を思い出せない人などは、やはり直接会って姿を見たり、話したりする必要があります」
「ああ、そう言う事か、なるほど。しかし、村の若者達が集まって恋人や結婚相手を探す時などは、便利だな、すぐに相手が好きかどうかが分かるからな」
「はい、そうです、一目見れば相手の心のすべてが分かりますから、だまされたり嘘をついたりできません」
すると太郎がからかうように言った。
「ああ、それじゃお見合いなんかも互いに話す必要はないな、一目見るだけでいい訳だ、これは便利だ、はっはっはー」
すると彼女が反論した。
「いえ、この能力は私達レムリア人だけでなく人間なら誰でも持っています、例えば太郎さん自身も持っています」
「えっ俺が?嘘だ、俺達にはそんな能力はないよ」
太郎が否定した。
「いえ、一目ですべての人格を見抜くと言う業、つまり直感です、誰でも一目で、自分に合う相手かどうか分かる事があるはずです、太郎さんも経験があるはずです。その直感こそが私達の能力と同じ能力です」
「ああ、そう言えば、確かにそうだ、直感で分かる事がある」
と太郎は彼女を一目見た時の事を思い出した。
「そうです、私達レムリア人が持っているこの他人の心を読む能力は、元々どんな人間でも持っていた能力です。しかし、あなた方は次第に失っていったのだと聞いています」
「へえーっ、俺達も持っていたって?これは初耳だ、でも、どうして俺達だけが失って、あんた達だけが持ち続けているんだ?」
「申し訳ありませんが、その事については木花咲姫様や女神様達から直接聞いてください、私達は詳しい事情は知りませんから」
「ああ、それは、そうだろう、多分ずいぶん昔の事だろうからな」
と言いながら太郎はフと思った。
もし夫婦で互いに心が読み合う事ができたら、もう夫婦間では言葉はいらないな。
それはそれで確かに便利だろうが・・・?
でも、何か息が詰まりそうな気がするが・・?
そう、隠し事もできないな、特に意見が異なった時に困るな。
よく考えると、嘘がつけないと、困る時も有りそうだ。
そうだ!例えばだ、夫婦間で、この料理まずいな!とか、お前かなり老けたな!とか、ずいぶん肥えたな!とか、今まで嘘でごまかしていた事もバレテしまう。
そうなったら、いったいどうなるんだろう?
「そう言う場合は、私達は自分の考える癖を直すように努力するのです。相手の欠点が気になったら、そこを咎めるのではなく、それも相手の個性として受け入れるように自分を直すのです。例えば家が片付いていない時は、綺麗にしろ!と咎めるのでなく、ああ片付けが苦手なんだな、まあ大雑把なんだ、それはそれで気楽かも!、なんて受け入れるのです。相手を変えるのではなく自分が変わるための修行なんだと想うのです」
「えっ、修行?」
「はい、その通りです、結婚は自分の未熟な正確や魂をより大きな愛情深い包容力のある正確や魂に変えるための学びなのです、それが修行なのです」
「ああ、長老達が聞いたら涙を出して喜びそうな言葉だな。
太郎が納得した。
「分かった!簡単に言えば、相手の言う事や為す事等すべて、もし気に障るようならば、それもそのまま受け入れるように自分の方が変わればいいんだ、そのための修行が結婚と言う事なんだな」
と太郎が言うと、彼女は満面笑みを浮かべて、
「そうです、もうひとつ言い忘れていた事があります。
それはわたくし達は人や動物植物達の目に見えない心を読む事ができますが、同じようにこの世を造った神様の心も分かるのです。それは同時に私達の心も神様に筒抜けと言う事です。
なので悪い事をするとすぐに見つかってしまいますのでわたくし達の村には悪人がいないのです」
「ああ、そう言う事かい、それで正直者ばかりなんだ、しかし、何だか俺には住みにくそうだな」
と太郎が感想を言うと、
「それが原因かも知れません。
元々、初めは人々は皆が人や動植物や神様の心が読めたので正直な平和な世界だったのです。
それが、だんだん肉体の欲望に負けて嘘をついたり胡麻化したりする人達が出てきたのです。
その人達は自分の悪い心を他の人々や神様に読まれないように、自分の心と人や神様の心とつながる事を避けたのです。
それが長い年月の内に、人の心が読めないようになった原因だと思います。
そう言う人達は嘘や胡麻化しはうまくやれば神様も他人にもバレないと想うようになったのです。それが私達レムリア人と他の大陸の人々との違いだと思います」
と言って彼女は口を結んだ。
「えーっ、そこが、あんたと俺の違いだと言いたいのかな?」
「いえ、わたくしはそんなつもりで言ったのではありません。
これは女神様から聞いた話ですが、レムリア以外の大陸では神や人や動植物の心を無視し自分の物欲や肉体の欲を優先する争いや戦いを好む力ある人々が増えてきたようです。
そして、その人達が、いつかこのレムリアも勢力下におこうと攻めて来る時が来るかも知れないと聞かされたのです。
それで、わたくしも、それはどう言う人達なのだろうかと気になっていたのです」
と彼女が答えた。
「へえー、それじゃ、この平和な大陸もいつまでも続く訳じゃないんだ?それは大変だ、何とかしなきゃ」
と太郎が慌てた。
「いえ、それはずっと遠い未来の話だそうです」
「なーんだ、そんな先の話なのか?それなら良かった、少し驚いた、それに少し疲れた、今日は俺としては少し頭を使い過ぎたようだ」
と太郎がため息をついた。
「それじゃ、何か飲みますか?香りのよい花の飲み物もありますが・・・?」
と彼女が良い香りのお茶を出してくれた。
太郎は、それを飲んで心が落ち着いた。
「やっぱり結婚と言う事は大変な事だな、そこに一生住む事になるのだからな、それにいろいろと夫婦の間には修行もあるようだし・・・
この国はのんびりしていて正直で平和で争いもないいい所だけど、やはり俺にはちょっと退屈過ぎるかな?まあ、少し考える必要がありそうだ。
さて、そうと決まったら、予定変更だ。
よし、元の路にもどろう!
そう、これから一っ走りしてあのガキと爺の仲間に追い着くとしようかな?」
と太郎は立ち上がった。
「それじゃ、まだ名前を聞いていなかったけど、いろいろとありがとうよ、ここでおさらばするよ」
と言うと太郎は、元来た路を駆け出した。
「あの、ちょっと待ってください、これから皆さんにおい着くのですか?それはちょっと無理だと想います。わたくしが案内いたします」
彼女が慌てて叫んだ。
「いやいや、大丈夫だ、なーに俺が本気で走れば、あっと言う間に追い着くさ、なにせガキ共と爺達と猿や犬達だからな」
太郎が足を少し止め振り向いて叫んだ。
そして、また一目散に駆け出した。
「待ってください、わたくしも参ります、ちょっと待ってくださーい!」
彼女も慌てて駆け出した。

(つづく)

ハイハイハイハーイ、いやいや太郎の新婚生活は残念ながら無理でした、やはり夢か妄想でした。
はい、そう言えば今日は「終戦の日」で、靖国とか、慰霊祭とか選挙とか、いろいろと世の中は大変です。
はい、くれぐれもお身を大切に、またのお運びを願いましてバイバイとさせていただきますル、はい、バイバイバーイ!