長編「より大いなる希望」は、主人公の少女エレンの視点から、究極的人生の局面が10章にわたって描かれた。:
エレンはユダヤ人の母がアメリカに追放されているため、アメリカ領事館にビザの申請をする。が、誰も保証人にはなってくれない。ばかりか、アーリア人の父は家族を捨て認知を拒んでいるため、エレンはユダヤ人の祖母のところに留まらなければならない。
彼女は他の子供たちと墓地で《聖なる土地への逃亡ごっこ》や、《平和探しごっこ》などして遊ぶが、衣服には いつもダビデの星の紋章をつけ、これはナチス青年隊に誘導されているユダヤ人教師から誹謗と迫害と虐待を逃れるためなのである。 一方、祖母を迫害から救うため、自ら命を絶とうとする手助けをしてしまう。また、略奪兵に囲まれたりするが、爆弾投下の難を潜り抜け占領下の町から走り逃れる。エレンはこのとき兵士のヤンと遭遇する。彼は将来の伴侶となる人。が、ヤンは負傷し、エレンは代わってクーリエ 、とはつまり、伝書使いの役割を果たす。
時は第三帝国下のウィーン。主人公の少女エレンは無辜の天真爛漫から、パラドクス的に知恵を見出す。それはつまり、《負けるが勝》と云うことで、危険から逃れ命を救うためには逃亡を重ねるしかなく、その際、神への信頼と恩寵の下に希望を見出し、より大いなる魂の救済へと変容していくのである。 Ilse Aichinger :Die grossere Hoffnung Roman 48.. Die dt. sprachige Schriftsteller seit 1945
K. Rothmann. Reclam ebd. S. 9ff...
ロートマン著 :現代ドイツ作家の群像より
アイヒンガー:1921年生まれ。
この作品は戦時下に恐怖や滅亡によって喚起された不安を、生存者の印象の下に、自叙伝風に描かれたもの。
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