浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

【本】青木美希『地図から消される街』(講談社現代新書)

2019-01-28 17:33:28 | 
 「原子力 明るい未来のエネルギー」という標語があった。しかしもうそれは虚偽であったことが暴露された。原子力は「明るい未来」をつくるどころか、「未来」をつぶしてしまった。「原子力 未来をつぶすエネルギー」か。

 2011年からもう8年。原発事故の話題は少なくなった。少なくなったからといって、事故に伴う問題がなくなったわけではない。

 私たちも、この事故の顛末を追い続けなければならないーこの本を読んで、そう思った。

 理不尽なことがいっぱい起きている。最後の第六章は、事故により家庭が破壊された話だ。事故がなければ幸せなふつうの日常が続いていたはずだった。しかし、放射能が襲いかかった。家族の分裂。放射線被ばくを軽く考える者と、できうる限り放射線被ばくを避けたいと考える者。考え方の違いが地域だけではなく、家族や親族の中に生まれ、分裂を生み出す。何ということだ。この原因は、原発政策を推進してきた政府と、事故を起こした東電にあるのに、もちろん彼らは知らん顔だ。責任の一片も感じない。

 家族がばらばらになったり、自殺したり・・・多くの悲劇が生まれている。そうした現実が映し出される。

 第五章は、避難者の子どもに対するいじめの問題だ。学校や教育委員会の無責任な対応。だいたい教育界で教育委員会の指導主事になったり管理職になったりする者のほとんどは、無責任でいい加減で、ゴマすりだけが得意という輩である。そういう輩に、いじめにあった子どもの側に立って何とかしようという気持ちがおきるわけがない。東京千代田区の事例が記されているが、しかしこうした学校や教育委員会の対応は、普遍的である。この事例では、母親が毅然とした姿勢で学校に対処している。こうでなくてはならない。事なかれ主義の人々には、毅然としなければならない。

 いずれにしても、政府、東電は、事故を「なかったことにしたい」と画策し続けているようだ。除染も、一応やったというアリバイ作りのように見える。

 どの場合でもそうだが、こんな除染なんかせずに、それにかかった金を被災者にあげる、そして放射線被ばくのないところに移住させた方がよほど使いみちとしてよかったのではないか。

 政府、自治体は、私企業にはカネをばらまくが、家族や個人にはカネを与えようとはしない。それで真の解決が遠のき、私企業だけが肥え太る。そういう現実も、本書には記されている。

 読むべきだ。福島に関心を抱き続けるべきだ、本書はそれを訴えている。

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