今だから…昭和さ ある男のぼやき

主に昭和の流行歌のことについてぼやくブログです。時折映画/書籍にも触れます。

楠トシエ特集パート2 「サンデー毎日」(昭和28年9月27日号)

2006-11-25 17:11:30 | 昭和の名歌手たち

先日、楠ビンちゃんの資料を捜索していたところ、貴重な雑誌を入手できました。
デビュー前後の話が載っておりましたので、ご紹介致します。

楠トシエ(テレビ女優第一号)

「和服姿にハイヒールの歌手」
テレビ創業時代のてんやわんやを語る時、必ず持ち出される話だ。
テレビ珍談奇談集のトップを飾るこの小事件の主が、彼女なのである。

NHKテレビが開局して間もなくのこと、あるミュージカル・ヴァラエティのなかで、彼女はイヴニング姿から毒消し売りに早変わりした。2、3分の間に紺ガスリを着こみ、帯をしめ、カツラをかぶりスタジオに飛び込んだ。
アッと気がついた時には、もう遅かったというわけだ。

このときの話を立会った人にきいてみると
「この時、彼女は少しも騒がず、でね。カメラが泡食ってバスト(上半身)に切りかえたら、臨機応変にバストだけで動きをつけながら歌ってのけやがった」
とむしろ、ほめられてる。

しまったと思った途端、カッーとならなかったこと、その場で動きがつけられたこと、このテレビ的な才能とクソ度胸が買われたか、7月1日からNHKテレビ初の専属スターとなった。
去年のクリスマスの夜に初出演、2月1日の本放送から毎週「僕の見たもの聞いたもの」を市村ブーちゃんと二人で続けている。
これだけの乏しい経験だが日本の流行歌手仲間では、まず一番テレビ慣れの部に入る。
だからNTVにとられては大変だとNHKが抱えたのも、それほど不思議ではない。

女学校三年のころからダン・道子について声楽の勉強をはじめた。
やってみると声量のないことが身にしみて悲しい。マイクの使える流行歌手の方が向くのかしらんなどと考えているうちに卒業。
戦争、疎開、洋裁の内職・・・・・・とお定まりの平凡なコースが続いていたが、戦後ジャズの刺激で昔の夢が目を覚ました。

縁あって二十四年五月、新宿のムーラン・ルージュに入ったのが歌で食べるようになった最初である。
ストリップに押されて解散となった二十六年五月までの丸二年間、マイクの設備の悪い、客席にトイレットの匂いが、そこはかとなく、ただよっていたこの小屋で頑張った。
ムーランそのものが、こんなふうだったので、ステージ歌手としての彼女も大して目につかなかったが、ここで"動き"を勉強したことが、どれくらい得になっているかわからない。

ポリドールレコードの専属になったのもその頃である。
当時のポリドールは戦災の痛手から立ち直れず、まさに潰れんとする一歩前にあった。だから何曲か吹き込みはしたものの、そのレコードが出たのやら出なかったのやら、当人さえ、はっきり覚えていない有様なのだ。

こうして当時は彼女の行くところ必ずつぶれるといった始末で、まさに斜陽とともに歩いていた彼女だったのだ。
それを「そういうところにしか入れなかったのさ」などと悪口をいっていた人もあったが、この話、半分は本当の話だった。

これと同じ経過をたどって消えてしまった歌手が何人いるかわからないのに、なぜ彼女だけは浮き上がってきたのか。
まず正直なところ、時節に恵まれたことが第一、二十六年秋に民間放送が始まり、ムーラン・ルージュの残党と一緒にNJBの「新日本劇場」に出演し、ラジオ東京が始まると「ドレミファ・ゲーム」の歌う司会というふうに、だんだん商売繁盛になってきた。
今ではNHK「ユーモア劇場」のレギュラー・メンバーでもある。

これらのどれをとってみても、彼女が一本立の歌手として歌をうたっているのはない。みんな挿入歌であり、役割はショウのなかの歌を引き受けるだけ。
まあ快く承知するのなら頼む方も頼み易いというわけでもあろう。
近頃はやりの言葉を使うなら、彼女は、まさに「中間歌手」という存在なのだ。
彼女が自ら、これを心得ていることが、彼女の存在を明確にした第二の理由だろう。

この世界、一度上り坂になったら、もうしめたものだ。
テレビ俳優第一号は、かくて先刻御承知のとおり、レコードもテイチクからお迎えがきた。映画だって1本とっている。
ところが彼女、このところ斜陽の歌姫に朝が来たようなものだが、実は年中、自信を喪失している。
顔に自信が無い、セリフが浮いてしまう、自分のものを持っていない・・・・・・となかなか内省方である。

外見は小柄で、人気稼業とは見えぬ地味な作りで・・・・・・バスの停留所あたりに立っている若夫人といったところ。
お年は?と紹介するのもエチケット違反かも知れないが、音楽年鑑には「大正十三年生まれ」とある。
テイチクが彼女入社に際して配ったものは「昭和三年生まれ」
もっとも五㍍も離れていれば、レコード会社的年齢も通用するといったところである。



後追いで、何も知らない私には興味深い記述でした。
一応ビンちゃんを評価しているようですが、最後に年齢詐称で思いっきり嫌味かっ飛ばしてます(笑)


最新の画像もっと見る