今だから…昭和さ ある男のぼやき

主に昭和の流行歌のことについてぼやくブログです。時折映画/書籍にも触れます。

ディック・ミネが語った あの歌手・このハナシ(第6章:石原裕次郎、三波春夫)

2006-12-25 06:40:44 | 昭和の名歌手たち

その1
あるステージで、ぼくと(石原)裕次郎と三波春夫が共演したことがある。そのときに、ぼくの『旅姿三人男』を三人で、一番、二番、三番とメドレーで歌うことになった。
ところが、裕次郎がブースカ怒ってるんだよ。
「なんだ、あのやろう!後輩のくせに生意気だ」
「どうしたんだ?」
って訊くと、
「あのやろう、自分に三番を歌わせてくれってほざくんですよ・・・・・・先輩が歌うのが当たり前でしょう?それを後輩のくせに・・・・・」

つまり、こういうことなんだね。
ある歌を三人でメドレーで歌う場合、一番、二番よりも三番を歌うほうが、客に与える印象がどうしても強くなる。
他の二人が一番、二番をどう歌おうと、最後に自分の歌い方でピシッと決めるわけだからね、余韻がそれだけ強く残るわけだ。あの、『紅白歌合戦』だって、誰がトリを取るか、毎年話題になるだろう?その年の主役だからね。歌手なら誰だってトリを取りたいわけだ。
で、この場合も、三波春夫が三番を歌いたいっていったんだね。三波らしいやね。

ところが、裕次郎にいわせると、ディック・ミネの持ち歌なんだから当然ぼくが歌うべきだってことと、テイチクの専属のキャリアからいうと、ぼく、裕次郎、三波の順で、三波は一番後輩なのに先輩二人を差し置いて・・・・・・ってことなんだ。
三波はそのころは人気絶頂だったけど、裕次郎だってスクリーンの大スターだし、歌手としても三波に勝るとも劣らぬ人気歌手だったからね。その自負心は強烈に持ってるわけだ。それで、
「三波のやろう、生意気だ!」
って怒ったわけなんだよ。

ところが、ぼくはそういうことは、一向に気にしないんだよ。誰が何番歌おうと・・・。
こっちは飽きるほど、うんざりするぐらい歌っているんだから、ホント、歌うのイヤなんだ。それに彼等はずっと後輩で、これから伸びて行くんだし・・・・・・。
で、裕次郎には
「いいじゃねえか。歌いたかったら歌わせてやんなよ」
「だって、先輩・・・・・・腹が立たないスか?」
「怒るほどのタマじゃないよ、放っとけよ」
ってなだめたんだけど、裕次郎、それでもまだブースカいってたね。


その2
三波春夫で感心するのは、ぼくなんかとはまるで違って、後輩のしつけに異様に厳しいことだね。
テイチクの廊下で、十七、八の女の子が泣いているところに通りかかったことがあってね。わけを聞いてみると、その子、新人歌手らしいんだけどね、ぼくはあんまり若い子なんて知らないから・・・でこういうんだよ。
「・・・・・・・三波先生の前歌をやったことがあるんですけど・・・・・また、やることになって・・・・・」

ポツン、ポツンとその子が話したのをまとめると、こういうことなんだ。

「お疲れ様でした」
って楽屋で座長の三波のところに挨拶に行くとするね。
まず、戸の開け方が悪いって注意される。
―もっと、丁寧に。
で、やり直しをさせられる。
―開けたら、閉める。
あわてて、閉める。
―挨拶はそんな入口じゃなくて、ちゃんと私のところまで来て。
で、三波のところまで行って、正座してお辞儀をする。
―手のつき方はそうじゃない。両手の親指と親指、人差し指と人差し指をきちんとくっつけて・・・・・そう。頭を下げるときは、鼻がその間に行くように・・・・・・そう。

やれやれってホッとしたら、
―いま、こっちに歩いてくるときに、そこの畳のヘリを踏んだだろう!

一事が万事、この調子なんでね。その子、すっかり恐れをなして、それで泣いていたってわけだ。

よく知られていることだけど、三波は浪花節(浪曲)出身だよね。あの世界はことに厳しいらしいんだよ。先輩、後輩の序列やしつけが。三波もたっぷりやられてきてる。
苦労したらしいよ。
(中略)

ぼくなんか、そんなこと一切やらないからね。
「いや、ご苦労さん・・・・・いいんだよ、わざわざこっちにこなくたって。早く寝なさい。くたびれたろう」
で、おしまい。いい女だったらこうはいかないけどね。
「もう寝るのかい?まだ早いよ。遠慮することはないよ。こっちにおいで・・・・・・腹減っただろう。うまい菓子があるよ」
いいかげんなもんだね、ぼくも。

三波は別にいじめてるわけじゃないんだろうけど、いまの若いモンにはいじめとしか思えない。で、泣くわけだ。仕様がないよ。大体、その親たちからして、そんな礼儀やしつけはわかっちゃいないからね、子どもに求めたって無理なんだ。ぼくなんか時代の違いだって割り切ってるからね。しないんだよ、そんな面倒くさいこと・・・・・・。

それから、三波で感心することは、何ごとにも徹底しているってことだね、嫌味なくらい。
「今日は遠いところから、おじいちゃん、おばあちゃん、よく来ていただきました」
で、ステージの前方に出て行って、一番前の客に、
「おばあちゃん、どちらから?」
「●●△△××++・・・・・」
「ああ、わざわざ本当に遠い所からいらしてくださって・・・・・お客様は神様です」
実際《ファンが一番大切》って思っていたって、普通の神経じゃ、あそこまでいえないからね。堂々たるモンだよ。ぼくなんかは、からだがむずがゆくなっちゃうけどね。

それに、
「あのやろうは、えげつねえやろうだ!」
とかナントカいわれながらもあそこまで行ったのは、いい根性してるといおうか、立派だよ。敬服するよ。

ただね。ステージを下りたら、三波春夫じゃない、ただの社会人だってことを本人が気づいていたら、もっと立派なんだけどね。



ディック・ミネ・・・昭和9年テイチク入社。
石原裕次郎・・・昭和31年テイチク入社。
三波春夫・・・昭和32年テイチク入社。


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2 コメント

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良し悪しかな。 (たんぽぽフウ)
2007-06-23 13:48:20
ディックミネもカラオケでわりと歌うし、好きだけど、、、。こんな本だけは書いてほしくはなかった。
大物はこんな雑文を出しちゃあいけねえよ。
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ちょっと…アレですよね (函館のシト)
2007-07-07 23:12:48
ミネさんの悪い部分(自分を良く見せたがる)が結構出ちゃってますからね、これは…。
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