今だから…昭和さ ある男のぼやき

主に昭和の流行歌のことについてぼやくブログです。時折映画/書籍にも触れます。

ディック・ミネが語った あの歌手・このハナシ(第2章:ヒロポン中毒で散った芸能人)

2006-12-02 23:59:08 | 昭和の名歌手たち

その1(某男性大物歌手)
つい最近、名前をあげれば誰でも知っている有名な歌手が死んでね。故人のために名は伏せるけど、このヒトもかつてはひどいヒロポン中毒だった。なんとかやめることができたけど、残念ながらからだの深いところを蝕まれていたんだろうね。死ぬ数ヶ月前から頭がおかしくなって・・・・・・むかしからよく知っているヒトだから辛くてね。

医者の話だと、ヒロポンの副作用というのは、二十年から二十五年ぐらい後で出てくるらしい。若いときには体力があるから抑えられているけど、七十近くになるととても体力がついていかないからね、みんな、バタバタ死んでいっちゃう。ほとんど内臓をおかされてね・・・・・ね。

このヒト庭の木によじ登るんだよ、カミさんと一緒に。カミさんも亭主と同じころにヒロポンを打ちはじめたからね。大体、おなじ時期に頭がおかしくなったわけだ。ぼくが散歩していたら、八百屋のご用聞きが自転車で通りすがりに、
「△△先生のとこ、はじまりましたよ」
「おい、見世物じゃねえんだよ。可哀相にヒロポン中毒なんだから、放っといてくれ!」
って叱るとね、
「でもね、危ないんですよ。枝が折れたら・・・・・・」
たしかにそうだよね。夫婦で落っこっちゃったら、大変だ・・・・・・。

死ぬ二週間前に、おかしなことをいい出してね。
「ぼくの恋愛を誰かが邪魔してる!」
って怒るんだよ。話を聞くと、
「ぼくには十七歳の恋人がいる。仙台の方に住んでいるけど、ぼくたちの間を誰かが邪魔して、別れさせようとしているんだ!」
で、その犯人は、
「バタやんじゃないか?」
って真剣な目でいうんだね。《ア、こりゃおかしい》って思ったけど、あいまいに口を濁して聞いていたわけだ。ところが翌日、バタやんがカンカンになって起こって電話してきてね。
「彼から電話がかかってきて、おまえじゃないか? っていうんですよ。何いっていやがる、ヒトの恋路を邪魔するほどヒマじゃない。ぼくは自分のことで精一杯だ、って怒鳴りつけましたけど、どないなってるんやろ? あのヒト・・・・・・」

で、日本歌手協会に、その歌手はひとかかえもある封筒の束を持ち込んでね。
「これ、この通り、恋人からの手紙がこんなにある。まあ、読んでくれ」
読んでみると、なんのことはない、どう見てもただのファン・レターなんだよ。そして、「誰が犯人か、協会も探すのを手伝ってくれ」
っていうんだよ。困るよね、そういわれても。で、協会は会員全体の福祉と向上をはかるためのもので、個人の恋愛沙汰にタッチするわけにはいかないって説明したけど、それだけで、今度はぼくが邪魔しているっていうんだよ。もうラチがあかないからね。
「・・・・・・××さんね。警察に行って探してもらったらどうだろう? 一番いいんじゃないか。ぼくもついていってあげるから」

ってことで、築地警察署に行ってわけだ。ところが、警察署まできて玄関口の赤いランプを見たとたんに、
「あ、やめた! 帰る・・・・・・」
さっさと帰っちまった。《警察沙汰はまずい》って瞬間的に意識が正常に戻ったんだろうね。
で、その二週間あとに彼は亡くなり、いくらも日もたたないで、奥さんも後を追った・・・・・・。


その2(漫才師)
漫才界の大アネゴって言われたミス・ワカサね。あのヒトも哀れな死にざまだった・・・・・・。
あのヒトの漫才がおもしろくてね、ぼくは大好きだから、客席で見ることがあるんですよ。ところが、ステージの上からぼくがいるのがわかるんだよね。で、下ネタのときなど、ぼくの方を指して、
「あそこにディック・ミネが来てるんやけど、あの方がまた、大きいものを持ってはってね・・・・・・」
オレ、舞台でいわれちゃうんだから。いくらぼくが図々しい男だといったって、これじゃ顔が赤くなっちまうよ。お客さんはゲラゲラ笑いながら、どれどれ、なんて立ち上がって見るヒトもいるしさ。アネゴ肌の、とても気はいい女でした。

ミス・ワカサが死んだとき、ぼくもおなじ舞台に出ていてね。ぼくらと控え室はちがったけど、師匠の具合がひどく悪いって聞いてね。行ってみると、アブラ汗流して土気色の変な顔して、呻いているんだよ。医者が呼ばれてきたけど、もう手遅れでね、心臓マヒでしたね。

ヒロポンというのは、打ちはじめのころは皮下注射だけど、だんだん中毒になってくると静脈に打ちはじめるようになってね。おなじところに打っていると、皮膚が固くなって針が通らなくなるからね、腕のいろんなところに打って、あとは首筋とか肩とか・・・・・・ミス・ワカサも、しまいには打つところがなくなるぐらいの重症の中毒だった・・・・・・。

※どうもミネ氏は、ミス・ワカサの師匠であるミス・ワカナ(こちらは酷いヒロポン中毒)と一部記憶が入り混じっている様子。ワカサ師匠のご親族の方曰く「(ワカサ師匠は)生まれつき重い心臓弁膜症だったので、そんな薬使えるような体では無い」とのことです。

ワカサ師匠の名誉のために訂正致します。
ミス・ワカサ、ミス・ワカナ…名前が似ておりますが、師匠-弟子の間柄で別人です。

他に、正司歌江(かしまし娘)著『女やもン!』にも、このような記述が。
「ヒロポンを打たないと芸人やない、というほどの大流行でした。
でも、なかには意志の強い芸人さんもいてはりました。まわりの人たちがなにをいおいうと、どんなしつこくすすめられようと、ガンとして打たずに頑張り通した人もいてはりました。
暁・伸、ミス・ハワイさん、亡くなったミス・ワカサさんは、その点ではほんまに偉いですヮ。
『あんな毒の薬は、ゼッタイ打ったらあかん。人間の命は明日も知れへんことはたしかでも、それとこれは違う。ヒロポンで身体をいためることは、一種の自殺行為やないか』
こういう信念で、最後までヒロポンを拒否したのは立派やと思います。」


その3(笠置シズ子、岡晴夫)
ヒロポンにはいろんな幻覚症状があってね。部屋中にゾロゾロ虫が沸いてくるように見えたり、窓の外から目が睨みつけているように見えたり、トランプの王様が飛び出して、剣を持って追いかけてきたり・・・・・・。

笠置シズ子の場合はこうだった。
彼女が全盛のころだから、昭和二十年代のことだけどね。ある劇場の楽屋が狭くて、彼女だけ舞台裏の片隅を映画の部屋のセットみたいに仕切ってね、そこを控え室にしていたけど、あるとき、注射打ってるところに通り合わせたんだよ。
で、どうなるかと思って、ソッと見ていると、しばらくして、
「この部屋、汚いッ!」
いきなり立ち上がったかと思うと、
「オバはん! ホウキ持ってきておくなはれ!」
大声で掃除のおばさんを呼んだんだよ。で、ホウキを手にすると、狂ったみたいになって、部屋を掃除しはじめるんだね。相当散らかっているか、ホコリだらけにでも見えるのかねえ、いつまでも、いつまでも掃除しているんだよ・・・・・・。

岡晴夫もねえ、若さにまかせてメチャクチャに打ってたからね・・・・・・。死ぬ前は、テレビで一緒になったときなんて、
「おはようございます」
って挨拶されて、ヒョイと見ると、幽霊みたいな男が立っていてね、岡晴夫なんだよ。
痩せちゃって、青いんだか、白いんだか変な顔色しててね、目は死んだ魚の目だったね。
これはヒトに聞いた話だけど、後に総武線の小岩だかどこだかで飲み屋をやって、客の目もはばからずに打っていたそうだ。いい男だったのに、若死にしちゃってね・・・・・。


亡くなった方たちを引き合いに出して、ぼくも心がいたむけど、みんなエンターテイナーとして才能に恵まれた素晴らしいヒトたちだったのに、ヒロポン中毒になったばかりに、あたら命を縮めてしまった。ぼくはこれが口惜しくてね。二度とこんなことがあってはいけないって、痛切に思っているからね。それで後輩の芸能人のためなら勘弁してもらえるだろうと、あえて紹介させてもらった。



この話のネタ元の本の出版は昭和61年11月。
あとがきは昭和61年10月。
夫婦で…で、夫が亡くなった後、妻もすぐ亡くなった…。
そう考えると、名が伏せられた大物歌手は×××では無いのでしょうか?
(名前は特定できますが、ミネ氏も伏せておりますので・・・)
読んでいて衝撃が走った辛いハナシでしたが、最後のミネ氏の一文、コレに共感しました。本当に残念極まりないです…。
この手の薬物撲滅を心から祈らずにはいられませんね。

紹介された偉大なるエンターテイナーたちに改めて合掌。


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8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
ミス・ワカサではなく・・・。 (daisan)
2006-12-16 02:16:04
ヒロポン中毒で亡くなった女漫才師は、「ミス・ワカサ」ではなく、ワカサの師匠に当たる、「ミス・ワカナ」さんです。お間違いなく。
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別に間違えてはおりません・・・ (函館のシト)
2006-12-16 17:27:45
daisanさん
いらっしゃいませ。
そしてツッコミありがとうございますm(__)m

ワカサ、ワカナ両師匠共に薬物中毒だったのは、わりかしアチコチで語られてる話です^_^;

まず文章を良くお読みくださいませ。
ワカナ師匠は駅のホームで心臓発作を起こして亡くなったのは有名ですよね?
舞台「おもろい女」でワカナ師匠を演じている森光子さんは亡くなる寸前のワカナ師匠の話をよくテレビもなさってます。

まあ、ミネ本人も記憶違いは勘弁して欲しいと言ってますし、楠木繁夫を「楠本繁夫」と書いていたり、「昭和23年に自殺」と記憶違いしていたりもしますから、一部ワカサ師匠・ワカナ師匠がゴッチャになってる可能性は否定できませんけれども^^;
どちらも素晴らしい漫才師でしたし…。

改めまして両師匠に合掌m(__)m
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昨日の失礼な書き込みをお許し下さい。 (daisan)
2006-12-16 20:47:36
まずは昨日の唐突で失礼な書き込みをお詫びいたしま
す。皆様大変気分を害されたと思います。何卒お許し下さい。 

実はミス・ワカサは私の叔母(母の姉)で、昭和49年に静岡で亡くなるまで、我が子のように可愛がってもらい一緒に暮らしておりました。その事もありまして、つい「ワカナ」さんと間違われる事に敏感になってしまいまして・・。(大人気ないですね・。)

只、亡き叔母の名誉のためにも、「ミス・ワカサ」は生涯決してヒロポン中毒ではなかった事をお伝えしたかったのです。(叔母は生まれつき重い心臓弁膜症でしたので、ヒロポンのような薬は一切使用できませんでした。)
皆様にとっては、「ワカナ」でも「ワカサ」でもどっちでもええやん!という問題だと思いますが・・・。

大変長々と私事で失礼いたしました。今後のご活躍をお祈り致しております。
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いえいえ、こちらこそ大変失礼を… (函館のシト)
2006-12-16 22:44:57
daisanさん
こちらこそ大変失礼致しました。
なるったけ、正しい情報を載せようと少し調べた上で書いているつもりでしたが、今回は失敗しました。
追記という形で、訂正させて頂きます。

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早速のご訂正、ありがとうございます。 (daisan)
2006-12-17 01:04:46
函館のヒトさま
唐突で失礼な当方の申し入れを快くお受け頂きまて、
本当にありがとうございました。
この度の函館のヒトさまの真摯なご対応に
深く感謝致します。

これをご縁に、今後も楽しみにブログを拝見させて
頂きたいと思いますので、よろしくお願いします!
(今後はおとなしく拝見させてもらいますね!)

まずはお礼まで。
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こちらこそ… (函館のシト)
2006-12-17 01:16:10
間違った情報を訂正することができまして感謝しています^^

>これをご縁に、今後も楽しみにブログを拝見させて
頂きたいと思いますので、よろしくお願いします!
(今後はおとなしく拝見させてもらいますね!)

ありがとうございますm(__)m
勝手ばっかりのブログですけれども、どうぞよろしくお願い致します。
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そうですか・・・ (たか)
2010-09-22 18:23:42
私もまだ16歳ですが昭和歌謡曲が大好きです。
その大物歌手の×××氏のファンのため
その事実がとても驚きです。
戦争の疲弊から薬物に手を染めてしまったんでしょうか。
奥さんも素晴らしい方だったのに悲しいですね
ディック・ミネさんもこれから活躍する芸能人
のために執筆したのでしょう。
絶対に薬物に手を染めてはいけないと再実感しました。
改めて亡くなられた方に合掌
ちなみにこの本の題名を教えていただけませんか?お願いします。
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Unknown (スカイハイ555)
2019-11-12 20:59:15
ミネさんの思い出話、僕も読んで、そこが印象に残ってます。「あぁ、あの人か…」って思いました。楠木繁夫さんとかも相当に打ってはったそうで。芸域は違いますが、上方落語の先代の桂米団治師匠(故人になった米朝師匠の師匠)とか、物凄かったそうで。まぁ、一時は薬局へ印鑑持っていけば、合法的に買えたわけですが。あ、そう言えば梨園の方はまったく噂もおませんな。
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