ごとりん・るーむ映画ぶろぐ

 現在584本の映画のあくまで個人的な感想をアップさせていただいています。ラブコメ、ホラー、歴史映画が好きです【^_^】

トロイ(ウォルフガング・ピーターゼン監督)

2007-12-30 | Weblog
ストーリー;ホメロスの「イーリアス」を下敷きに作成された歴史スペクタクル。
出演;ブラッド・ピット、エリック・バナ、ピーター・オトゥール
コメント;この映画では、ホメロスの「イーリアス」を基にして独特のフィクションの世界を繰り広げている。とはいえ、映画の都合上カタルシスが得られるようにストーリーが改変されており、見るべきは5万人の軍団がぶつかりあう戦闘シーンということになるだろうか。
 でもこの監督は「アウトブレイク」といい「パーフェクトストーム」といい本当にすごい予算をかけて単純な話を作り上げる名手だと思う‥。
 アキレスとヘクトル、そしてオデュッセウスといった歴史上の知名人が人間模様を繰り広げる。ヘクトルとアキレスが戦ってヘクトルが死んだのは事実。ただし映画では述べられていないが、ヘクトルの妻アンドロマケは最終的には逃げ切れていない。戦利品としてギリシアのネオプトレモスの戦利品とされた。またその息子アステュアナクスもアキレスの息子ネオプトレモスによって殺害される。あまりにも悲劇的な話であるためラシーヌやエウリピデスが戯曲にもしている。またトロイの王プリアモスの娘カッサンドラも逃げ切れずトロイ陥落後アガメムノンの妾とされ、後にアガメムノンとともにクリュタイムネストラに殺害される。
 アキレス自身は言い伝えではケイロンに育てられたということになっている。デイダメイアとの間にネオプトレモスをもうけている。
 トロイの木馬はオデュッセウスの発案によるものだが、トロイ戦争終了後、家路につく途中単眼巨人キュクロプスの目をつぶしたためポセイドンの怒りをかい、妻ペネロペの元に20年かけて還ることになる。パリスが弓の名手であることと、産まれたときに国を滅ぼす者として予言されたという。アキレスの踵を射抜いたのもパレスだが、彼も後にフィクロテテスに毒矢を撃たれて死亡。
 トロイ自体があまり明るい話はないが、これはやむをえないのかもしれない。一つの歴史スペクタルとしてみればいい映画だが、個人的には「ナンだこりゃ」というレベルの話でもある。ただしショーン・ビーンだけは際立つ演技。アンドロマケ役の女性はやや老け込みすぎかな。
 なおこの時代の勢力図はやや地中海世界は複雑だ。もともとはホメロスの詩としては女性問題に端を発しているが基本的には領土問題。もっといえばエーゲ海と黒海を結ぶ交易路をめぐる争いともされている。ヘレナという人名はヘブライを象徴したものとする説も根強いらしい。このあたりの地域は砂漠かそれに近い乾燥地帯のようだからそのあたりは映画では考慮されている。エジプトでは新王国時代、そして映画でもちょっとだけ名前がでるがヒッタイトもまたギリシア半島を伺っているという情勢にある。ちょうどミケーネ文明とよばれるシュリーマンが発掘・発見した時代の頃で、19世紀半ばまでは空想の産物とされていたころの話だ。
 とはいえ、ミケーネ文明自体もまたドーリア人(ギリシア人)もしくは海の民によって滅ぼされたということだから、歴史はあまりハッピーエンドはない。この海の民はヒッタイトを滅亡させ、エジプトも攻撃したらしい。歴史の流れの中であえて救いの場面をストーリーに織り込んだのは現代風なのか、それともそれがヒューマニティなのか。
 こうした歴史スペクタル物は実際にはこうだったああだったというのが面白いところだが、それにしても救いがない。ヒューマニティという言葉はまだこの時代にはなかったのかもしれない。そのせいか「笑い」のかけらもでてこない映画である。
 ショーン・ビーンのふんするオデユッセウスは、「あきれたヒト、知恵の固まり」と称されており、トロイの木馬も彼の発案だが、これは地中海では最大級のほめ言葉だ。イタケとよばれる地域の片田舎の領主である彼はこの戦争で、知恵の女神アテネの支援を得ているとの評判をとり、10年を超えるトロイの戦争と、その後10年の帰宅途中の旅をホメロスの作品にとどめた。もっとも田舎にもどってからの彼の消息についてはホメロスは語っていない。ショーン・ビーンの憂いを帯びたインテリジェンスとアキレスの単純さが対比をなし、それはまさしく歴史小説の「イリアス」と「オヂュッセウス」の対比ともなっている。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿