ブログ「教育の広場」(第2マキペディア)

 2008年10月から「第2マキペディア」として続けることにしました。

教育の広場、第 190号 NHKの自己批判番組

2005年06月24日 | その他
  
 2004年12月19日、夜の9時から11時15分まで2時間15分にわ
たって、「NHKに言いたい」という番組が放映されました。
最近の不祥事に端を発した受信料不払いの動きの広がりに危機
感を持ったNHKの会長がようやく踏み切ったようです。

この番組の視聴率は同時に放映されていた民放の他の番組よ
り低かったそうですが、新聞などではおおむね、最低限の評価
はしているようです。

この番組の最後に、討論参加者の1人である鳥越俊太郎さん
(ジャーナリスト)が「海老沢(勝二)会長の精神論は分かっ
たけれど、具体策が分からない。これで不払いがかえって増大
するのではないかと心配だ」という趣旨の発言をしていました
が、さてどうなるのでしょうか。

番組は5人の識者とNHK会長及び経営委員の7人による討
論が中心で、その他に事情説明のビデオ及び視聴者の意見(手
段はいろいろ)の紹介の3種類だったと思います。

そこでその討論についての私見を書きます。

討論の出来不出来は司会者で半分決まり、残りの半分は出席
者で決まると思います。今回もつくづくそう思いました。

まず、司会者は経済評論家の田中直毅さん(21世紀政策研究
所理事長、経済評論家)でした。しかし、その司会ぶりは落第
でした。田中さんが司会という仕事についてこれほども見識の
ない人だとは知りませんでした。経済評論家としては評価され
ているようですが。

何が欠けていたかと言いますと、第1に、2時間15分をどう
構成するのかを最初に説明しなかったことです。そのために討
論参加者はいつどこで何を発言したらいいのか判断できなかっ
たと思います。

第2に、これと関係するのですが、NHKについて何を問題
にするのか、その主要問題を提示して、「主要点はこれでいい
ですか」と最初に参加者の意見を聞いて確認しなかったことで
す。その上で、その主要点をどういう順序でいつ取り上げてい
くのかを確認するべきだったでしょう。これが番組の構成を最
初に提示するということです。

第3に、特にNHKの経営委員として出席していた堀部政男
さん(中央大学教授)は質問に対して答えをはぐらかしている
ことが多かったのに、司会者が答えるように促さなかったこと
です。

「経営委員会はお客さまの満足度調査をしているのか。現在
の満足度は何点なのか知っているのか」という北城恪太郎さん
(経済同友会代表幹事)の質問に対して、2回目の質問でよう
やく答えました。「していません」と。

視聴率調査のようにNHKの外郭団体がやっていたのではだ
めだ、外部の調査機関に頼むべきだ、という意見に対しては、
最後まで答えがありませんでした。又、経営委員の内の何人の
人が会長の辞任を求めているのかという質問に対しても答えは
ありませんでした。それなのに田中さんは堀部さんに対して答
えを促すことをしませんでした。

以上3点で既に田中さんは司会者として失格だったと思いま
す。失敗学の畑村洋太郎さんにでも司会を頼んだらよかったの
ではないかと思います。

では、その他の参加者はみな、しっかり準備をしてきて自分
の務めを果たしたでしょうか。鳥越さんと今野勉さん(テレビ
マンユニオン副会長)と北城さんはまあまあだったと思いま
す。

しかし、笹森清さん(連合会長)と日和佐信子さん(雪印乳
業社外取締役)には見るべき観点も内容もなかったと思いま
す。特に、日和佐さんは、会長の責任を問題にしている時に、
「全員の問題だ」といった発言をしていました。これはトップ
を免罪するもので、一億総懺悔と同じ発想です。いただけませ
ん。

以上のようにお粗末な番組でしたが、内容的にあいまいだっ
た点を整理しておきましょう。

根本問題は、今回の不祥事は「一部の不心得者」の起こした
ことでしかないのか、それとも最近のNHKの体質の現れなの
かということです。これをしっかり確認し、答えを出して話を
進めるべきでした。

それをしなかったのために、海老沢会長の「一部の不心得者
が~」といった発言が放置されました。これが「一部の不心得
者」だけの問題なら、大した問題ではないのです。会長辞任な
どという声は出てきません。

こんなに沢山の不祥事が起きている時、それが「一部の不心
得者」だけの問題だなどというのは不見識もはなはだしいと思
います。これが最近のNHKの体質の現れだからこそ、受信料
の不払いが起きているのです。これが分からなかったら先に進
めません。

では、これがNHKの体質の問題だとすると、「組織はトッ
プで8割決まる」のですから、会長のその8割の責任は具体的
にどこにあるのかという問題が出てきます。

そのためには、週刊誌などに書かれている会長の不適切と思
われる言動について、1つ1つ説明を求めるべきだったと思い
ます。しかし、誰も週刊誌の調査をしてこなかったようで、そ
ういう質問は出ませんでした。参加者の不勉強だと思います。

 今野さんのように、NHKの現場にコネのある方は、最近の
雰囲気の変化について自分の経験に基づいて問題提起していま
した。たしかにそれはそれで貴重でしたが、週刊誌の問題提起
を代弁する人がいなかったのはいただけません。

鳥越さんは、日歯連からの1億円の献金に関係する橋本元首
相の疑惑についてNHKの報道が十分でなかった点について、
海老沢会長が政治記者として経世会担当だったことと関係があ
るのではないかと糺していました。海老沢会長はもちろん否定
していましたが、週刊誌では海老沢会長の地元ひいきとか、現
場への過大な介入とかいろいろと報じています。最低でも、
「李下に冠を正さず」という言葉くらいは引いて、たしなめる
人がいてもよかったと思います。

経営委員のだらしなさは本当にひどかったと思います。非常
勤だからとか、月2回の会合で決めるべきことが沢山あるから
とか、言い訳ばかりでした。NHKの会長の任命権も罷免権も
持っている「最高経営機関」がこれでは困ります。任された仕
事を全うできないなら辞任するか、組織改革を提案するかする
べきです。

そもそも経営委員はどのくらいの給与ないし手当てをもらっ
ているのでしょうか。社会的な仕事が問題になった場合にはお
金と関係させて考えなければ本当の事は分からないと思いま
す。

最後に、受信料不払い者が急増し、11月末で11万人を越えた
と報じられていますし、当日もその数字が繰り返し出てきまし
た。しかし、放映は12月19日の夜だったのです。出来るだけ直
近の数字を要求するべきだったと思います。

現に、ビデオで出てきた銀行員の女性は「毎日、(受信料の
口座振り替えの)解約のお客さんが沢山きて、その仕事で追わ
れている」といった趣旨の発言をしていたのです。鳥越さんは
「いまでは50万人くらいになっているのではないか」と発言し
ていましたが、更に進んで、「11月末より後の数字はないの
か」と追及するべきだったと思います。

体制側の腐敗堕落を正すべき「有識者」たちにも見識がない
ようです。日本はどうなるのでしょうか。
   (2004年12月22日発行)