ブログ「教育の広場」(第2マキペディア)

 2008年10月から「第2マキペディア」として続けることにしました。

教育の広場 第 198号  小林俊太さんへ

2005年06月13日 | 教育関係
4月3日付けの朝日新聞の「私の視点」欄にこの春都立高校
を卒業した小林俊太さんという方の投書が載りました。それに
対して私はやはり「私の視点」欄宛に投書をしましたが、私の
ものは載せてもらえませんでした。そこで、ここにこの2つの
投書を載せます。

   自分たちの式がしたい(小林俊太)

 私は今年、都立高校を卒業した。私が出た高校は自主自律の
精神の育成を教育目標に掲げ、自由な校風で知られる。卒業式
や入学式は生徒たちが自主的に運営してきた伝統があり、その
ことを誇りに思ってきた。

 その卒業式に大きな変化が起きている。卒業式での「国旗掲
揚・国歌斉唱」の導入だ。それはほとんど強制下で行われてい
る。

 私の高校の卒業式はかつて「対面式」と呼ばれる形式をとっ
ていた。式場の体育館で卒業生と在校生、保護者が向かい合い
、中央であいさつ、答辞が行われる。結果として、卒業生は壇
上にある「日の丸」に背中を向けることになる。

 まず、この形式が非難の対象となった。昨年の卒業式から対
面式は廃止され、卒業生は在校生と保護者に背を向け、礼をす
る度に「日の丸」に向かって頭をさげることとなった。

 このような形式の変更は東京都教育委員会から通達があった
からだと、報道された。教職員や生徒の多くはそれを圧力と感
じた。

 教職員は「君が代」斉唱では起立を強制された。私の担任の
先生は昨年の卒業式で「国歌斉唱」の時に起立しなかった。先
生が授業で私たちに語った、憲法に規定された内心の自由、思
想信条の自由を自ら示したものだったと思う。

 公務員には憲法擁護の義務が課されている。その義務に従
い、先生は内心の自由を守り、自分の良心に従ったのだと思う
が、都教委は、同様の行為を再び行えば厳しい処分も辞さない
という。

 「圧力」は生徒にも及ぶことになった。生徒が「国歌斉唱」
の起立を拒めば、担任教諭が厳重注意などを受けるおそれがあ
る。私たち生徒は戸惑った。もし私たちが「国歌斉唱」の時に
座れば、担任の先生に迷惑がかかると思ったからだ。これは国
旗・国歌法制定時の「生徒に対し、強制するものではない」と
いう政府見解とも矛盾している。「君が代」をうたう声の大き
さまで指導の対象とされるところもあるという。

 今年の卒業式でも日の丸が掲揚され「国歌斉唱」が行われ
た。卒業の日、私は悔しかった。都教委の不合理な処分や規定、
そして、それらに対し無力であった自分に腹が立った。

 卒業式や入学式での国旗掲湯・国歌斉唱が強制される中、現
場の教師や生徒が何を感じ、考えているのか。実態を知ってほ
しい。

    小林俊太さんへ(牧野 紀之)

 小林俊太さん。あなたの投稿「自分たちの式がしたい」を読
みました。戦後の社会主義か資本主義かの時代から曲がりなり
にもその種の問題を考えつづけ、自分なりに戦い続けてきたつ
もりの者として一言します。私は65歳で大学講師、専門は哲学
です。この問題に対する立場は「日の丸・君が代の押しつけ反
対」です。

 さて、あなたの卒業した高校は「自主自律」をモットーとす
る学校だったようです。では、そこでは教師は教えなかったの
でしょうか。生徒の自主性を尊重することと教師の指導性を強
調することとは対立するものとして捉えられてきましたが、あ
なたの学校ではどうだったのでしょうか。

 なぜそれを聞くかと言いますと、あなたの発言には「~した
い」という心情や「内心の自由」の主張は表現されていますが
、それが否定されてしまった現実を科学的に分析して理解する
態度が見られないからです。科学とは「事実を説明すること」
です。多くの人の反対にもかかわらず、そして天皇陛下でさえ
疑念を表明されたのに、なぜこうなってしまったのでしょう
か。

 その原因は多様で複雑ですが、これを押し進める勢力と反対
する勢力の動きを冷静に評価してみると、前者は巧妙かつ組織
的であるのに対し後者は拙劣ないし幼稚であると思います。

 1例を挙げますと、これを押し進めた最大の力の1つは石原
都知事ですが、彼は1期目には慎重に行動し、準備の出来た2
期目になって大々的に「教育改革」をしてきました。自分のシ
ンクタンクも持っています。

 それに対して前知事の青島氏は革新都政の基盤を強固にでき
ないまま都庁を去りました。教員側のやり方も拙劣です。社民
党も共産党も小さくなりました。石原氏の教育改革は否定面が
沢山ありますが、これまでの都立高校が都民の期待からほど遠
いものだったことも事実です。

 世の中は心情や善悪だけで動いているのではありません。最
後的には力で動くのです。あなた自身自分の「無力」について
触れています。世の中はベクトルの世界と同じで多くのベクト
ルが集まってその結果が現実となるのです。

 どういうベクトルがどう関係しているか、自分の希望するよ
うな公正な社会にするためには自分はどういうベクトルになっ
たら好いのか、それを学び考えることを目標にして大学生活を
送って下さい。

 あなたの先輩たちの多くは、卒業の時はあなたと同じ事を考
えていても、その後その問題を忘れてしまい、世の中に流され
て生きるようになってしまったのです。だからこそ石原氏が都
知事に選ばれたのです。

 あなたが先日の卒業式で味わった気持ちを持ちつづけて、そ
れをこれからの勉強の中で具体化して下さい。そうすれば本当
の先生や仲間も沢山いることに気づくでしょう。ご多幸をお祈
りします。
(2005年04月17日発行)