安倍晋三が1月19日(2018年)、都内開催の第2回「女性リーダーのための経営戦略講座」レセプションに出席し、立派な感動ものの「スピーチ」(首相官邸/2018年1月19日)をしている。
感動部分のスピーチのみを取り上げてみるが、その前に安倍晋三が「女性の活躍」を成長戦略の柱に掲げた2013年6月5日のアベノミクス第3の矢「成長戦略」の発表を見てみる。
それまではアベノミクス第1の矢として「大胆な金融政策」、第2の矢として「機動的な財政政策」を掲げ、「隅々までこびりついてしまった『デフレ』という怪物を退治し、日本の自信を取り戻すための取組み」を公言していた。
勿論、「『デフレ』という怪物」は今以って退治できていない。
安倍晋三はこのアベノミクス第3の矢「成長戦略」で「女性の活躍」、「世界で勝つ」、「民間活力の爆発」の3本を柱に据え付けている。勿論、第3の矢「成長戦略」発表後、4年半経過しているが、この3本の柱も全然実現できていない。
安倍晋三は「女性の活躍」を掲げて以降、国会答弁や記者会見で「女性の活躍」、「女性の活躍」と言い続けたが、発言は空回りしていたことになる。日本の大企業が軒並み戦後最高益を上げているのは日銀による異次元の金融緩和を受けた円安の恩恵と、同じく日銀による日本を代表する大手企業225社対象の上場株式平均株価連動ETF(上場投資信託)大量購入を受けた株高の恩恵からで、「民間活力の爆発」といった自律性の“爆発”とは無縁のものである。
元々経営が安定していて高い株価を維持している大手企業225社の平均株価連動のETFを日銀が集中的に大量購入する。頭を抑えても、株価は跳ね上がる。官製株高と言われる所以である。
要するに日銀はアベノミクスは格差ミクスの要因の一つをつくる元凶となっている。
こういった状況を前提として安倍晋三の「女性リーダー」云々での発言を見なければならない。
安倍晋三「この講座は昨年に続きまして2回目であります。女性のリーダーが日本で増えるように、ハーバード・ビジネス・スクールの協力を得てスタートしました。正に女性の活躍を日本は必要としているわけでありますが、バダラッコ、モス両教授には、再び東京までお越しいただき本当にありがとうございます。そして竹内教授には、日本と米国の懸け橋となって、今回の講座にも大変な御尽力をいただいたことを御礼申し上げたいと思います」――
「正に女性の活躍を日本は必要としている」
安倍晋三がアベノミクス第3の矢「成長戦略」の3つの柱の1つとして「女性の活躍」を掲げた以上、自らの政策によって実現させなければならない「女性の活躍」だが、実現できないままにハーバード・ビジネス・スクールの2人の教授を東京にわざわざ招いて女性が活躍するための講座を開催しなければならない。安倍晋三の「女性の活躍」の連呼が空回りしていることの何よりの証明でしかない。
安倍晋三「私は、政権発足以来、女性の活躍を政策の中心に据えました。そして結果、働く女性は150万人増えたわけであります。ただ、企業の女性役員の数では、この5年間で2倍以上に増えているものの、欧米の先進国に比べるとまだまだという水準だと思います」
「働く女性150万人増」を以って「女性の活躍」だとする。これ程の滑稽で恥知らずなハッタリはない。「150万人」に関わらず、働く女性全てに対してそれぞれの就業形態や就業形態に応じることになるそれぞれの賃金の違い等の労働環境が果たして「女性の活躍」という達成感、あるいは自己実現欲求を充たしているのかどうかは一切無視している。
「女性の活躍」とは何ぞやを真に考えずに、単に少子高齢化を受けた労働力人口減少を女性の就業で満たす意味で使っているから、こういったハッタリをかまさなければならない。
安倍晋三「先ほど教授からは、女性がなかなか日本で頑張りにくい2つの理由として、長時間労働と夜のお付き合いと、こういう話がありました。長時間労働については、昨年連合とも我々合意しまして、時間外労働の長時間の規制を、初めて罰則付きで入れる法律をこの国会に出すわけでありますから、これは大きく変わっていく。
長時間働くことを自慢するこの文化を変えていく必要があると思いますし、あとまた、先生に申し上げたんですが、夜の一杯飲む付き合いというのも、随分もう殆どなくなったんじゃないですかね。私が会社に入った頃から徐々になくなり始めていて、上司から誘われたら忙しいと言って、同僚や男女で飲みに行く場合は参加するということはありますけれども、だんだん会社の延長での、というのはなくなり始めてきているのかなと。ですからそういう文化も更に変えていく必要があるのかもしれないなと思います。男性だけなら、仕事もそこそこに酒の席にそのまま延長、なんてことになりかねませんが、女性の皆さんと一緒に仕事をしていれば、なかなかそういうことにはなりにくいのではないのかなと思います」
アメリカ人の教授から、「長時間労働と夜のお付き合い」を日本の女性が「頑張りにくい2つの理由」として指摘されたからと言って、そのことだけを考える。単細胞が災いして、従属的思考性しか成り立たせることができない。
「長時間労働と夜のお付き合い」は男女同条件とすると、仕事に於いて男性は「活躍」できて、女性は「活躍」できないとする理由は見い出すことができなくなる。
確かに幼い子持ちの女性の場合は「長時間労働と夜のお付き合い」は不可となって、そのことが仕事にマイナスに影響して「活躍」の阻害要件となり得るとしても、子どもが幼い間だけのことであって、一定期間が過ぎて、子どもを保育施設に預けることができさえすれば、その阻害要件から解放されることになるはずである、
但しここで問題となるのは仕事上の「長時間労働」の問題だけではないということである。仕事上は「長時間労働と夜のお付き合い」が男女同条件だったとしても、家事に於ける「長時間労働」は女性が殆ど担っていて、そのことに向けるエネルギーが仕事に向けるエネルギーを削いで「女性の活躍」を抑える女性一般にとっての特殊な事情となっていることであろう。
2016年3月1日付の「Newsweek」記事、《日本は世界一「夫が家事をしない」国》なる記事は「国際社会調査プログラム(ISSP)」が2012年に実施した「家族と性役割に関する意識調査」で、「子持ち有配偶男性家事・家族ケア分担率」(男性の平均時間÷男性の平均時間+女性の平均時間)を調べたところ、日本は33カ国中最下位の18.3%と出ている。スウェーデンが42.7%の第1位。アメリカが37.1%の第11位。
日本は第30位、25.8%の韓国よりも下回っている。
日本の男女の家事労働の分担時間の格差はブログに何度も書いてきたが、日本の男尊女卑の風習の名残として今以って男性の、あるいは少なくない女性の精神に巣食わせている男性上位・女性下位の権威主義から来ていることは論を俟たない。
要するに女性を仕事上の「長時間労働と夜のお付き合い」から解放したとしても、仕事上も家庭内に於いても男性上位・女性下位の権威主義から解放せずに、その遺習を現在あるままに残したのでは「女性の活躍」の芽を摘む役目しか果たさない。
現代に於いて男女共に労働はそれぞれの人生の多くの時間を占める。それゆえに多くの場合、労働に於ける自己実現が生きる上に於いての自己実現に対応する。自己実現は何らかの活躍が導き出してくれることになる。
安倍晋三は「一人ひとりの日本人、誰もが、家庭で、職場で、地域で、もっと活躍できる」「1億総活躍社会」の実現を掲げている。あるいは「1億総活躍社会」とは、「若者も年寄りも、女性も男性も、障害のある方も、また難病を持っている方も、あらゆる方々、例えば一度大きな失敗をした人もそうですが、みんなが活躍できる」社会だと力強く定義づけている。
当然、安倍晋三は単に「みんなが活躍できる」という視点からだけではなく、国民それぞれの生きる上に於いての自己実現という視点からも自らの政策を俯瞰しなければならないことになる。
俯瞰できなければ、「女性の活躍」を言おうと、誰の活躍を言おうと、雇用の観点からのみの「活躍」を言い続けることになるだろう。
安倍晋三は2015年2月18日の参議院本会議代表質問で次のように答弁している。
安倍晋三「同性カップルの保護と憲法24条との関係についてのお尋ねがありました。
憲法24条は、婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立すると定めており、現行憲法の下では、同性カップルに婚姻の成立を認めることは想定されておりません。同性婚を認めるために憲法改正を検討すべきか否かは、我が国の家族の在り方の根幹に関わる問題であり、極めて慎重な検討を要するものと考えております」――
安倍晋三は同性婚を「我が国の家族の在り方の根幹に関わる問題」と発言することで異性婚を「我が国の家族の在り方の根幹」としている。いわば同性婚を「我が国の家族の在り方」から排除している。
だが、同性愛者にとって同性婚は最終的には生きる上での一つの重大且つ重要な自己実現であって、安倍晋三の排除は「1億総活躍社会」で「誰もが」を対象とした、あるいは「あらゆる方々」を対象とした生きる上に於いての自己実現をウソにすることになる。
安倍晋三は2010年7月発売の雑誌「WiLL」で、「夫婦別姓は家族の解体を意味します、家族の解体が最終目標であって、家族から解放されなければ人間として自由になれないという、左翼的かつ共産主義のドグマです」と述べているという。
夫婦別姓を望む男女にとって、その達成はやはり最終的には生きる上での一つの重大且つ重要な自己実現の手段であって、「1億総活躍社会」を掲げる以上、そのことに向ける目を持たなければならないはずだが、向ける目を持たないままに「1億総活躍社会」を掲げるのは滑稽な恥知らずそのものである。
異性婚や夫婦同姓を「日本の家族の在り方の根幹」とする考え方は男性上位・女性下位を伝統とする権威主義からきている。異性婚・夫婦同姓の成り立ちそのものが男性上位・女性下位の世界を端緒としていたからだ。
安倍晋三が女系天皇に否定的で、男系の継承のみを日本の天皇制に於ける伝統としている歴史認識も、天皇を日本人の大本としている関係から、男性上位・女性下位の権威主義に立っている。
安倍晋三は男性上位・女性下位の権威主義を精神性としながら、「女性の活躍」を言い、誰もが分け隔てなくという意味で「1億総活躍社会」を掲げる。
自身の矛盾に気づかずないのは滑稽なまでに恥知らずだからだろう。所詮、女性の雇用が何人増えただけで終わる「女性の活躍」であり、「1億総活躍社会」を宿命とすることになる。
それぞれの自己実現にまで考えが及ばないから、このような限界を抱えることになる。