アメリカは北朝鮮に譲歩したのだろうか

2007-02-24 09:29:13 | Weblog

 拉致解決の唯一の方法

 07年2月18日の日曜日にテレ朝「サンデープロジェクト」で「独占映像 北朝鮮の大惨事」なるコーナーを設けていた。

 テレ朝寺崎貴司アナ「特集は先月撮影された独占映像で、北朝鮮で起きた大惨事を追跡します」という触れ込みである。どんな大惨事が起きたのだろうかと思わず画面に見入ってしまった。

 朝鮮問題の専門家だという重村智計早稲田大学教授がテレ朝赤江珠緒アナに6カ国協議の印象を聞きかれて、「もう数ヶ月のあとの北朝鮮は譲歩せざるを得なかったといわれてるんですね。アメリカは北朝鮮の窮状を分かっていなかったんじゃないかと言うことですね」

 (どんな窮状なのだろうか。それをアメリカが「分かっていなかった」と言うのは、アメリカの言われているところの優秀な情報収集能力から考えて、あり得ることなのだろうかというごくごく素朴な疑問を持った。実際に「分からなかった」としたら、自らの優秀な情報収集能力を裏切ることになる。)

 朝鮮中央テレビ・女性アナが朝鮮語で話した言葉を日本語のテロップで流す。「敬愛する金正日将軍様のご誕生日は主体革命の偉業にそうそうたる未来を約束してくれた民族の祝い事でした」

 崎貴司アナ「今回取材、それが出るわけですけれども、今回成果を得た北朝鮮、主張できる立場なのでしょうか」

 (いつも思うのだが、テレビの報道番組に出るスタッフは、出演者にも言えることだが、もう少し論理的に喋れないものなのだろうか。)

 男性解説「一昨日金正日総書記は65歳の誕生日を迎え、北朝鮮で盛大な祝賀行事が行われた。直前まで祝賀は質素になると見られていた。今月6日北朝鮮を訪問した西江大学・金英秀(キム・ヨンス)教授は現地の住民からこう聞いていた」

 金教授「金正日総書記から『私の誕生日は盛大にやらずに4月の金日成主席の誕生日を盛大にやりなさい』と指示が出ていたそうです。今北朝鮮は経済が厳しいため誕生日を盛大にやる余力がないのだと思います」

 (解説と正反対の見解となっている。と言うことは〝捏造〟発言ではないことを証明している。)

 テレ朝解説「ところが、実際には国民への贈り物として食用油500gなどを配給を指示したという報道もあり、大盤振舞いとなった。その背景が直前の6カ国協議だ」

 世帯ごとに食用油500g、砂糖1kg、卵5個、酒1本などの配給を指示。(朝鮮日報2月16日付)――のテロップ。

 (何もしないと言うことなら、完璧に見放される場面を覚悟しなければならないだろう。但し、北朝鮮全地域の住民に平等に支給したものなのか、ピョンヤン市民や党・軍の主だった人間のみに配給したものかのかで事情は違ってくる。)

 テレ朝解説「北朝鮮は核施設の稼動停止などの見返りに最大で重油100万トンという年間の石油輸入量に匹敵するとされる膨大なエネルギー支援を獲ち取った」
 寧辺の核施設稼動停止
 重油5万トンなど
 無能力化後に95万トン――テロップ。
 解説「さらにアメリカからは金総書記ら支配層をかつてないほど追いつめた金融制裁の一部解除も取り付けたのだ」
 ヒル国務次官「30日以内に金融制裁問題を解決」

 (中略)

 テレ朝解説「本当にアメリカに優位を主張できる状況だったのだろうか。実は去年北朝鮮にある大惨事が起きていた。日本には殆ど知られていないその惨事は大きな意味を持っていたのだ」

 「去年7月16日 朝鮮中央テレビ」夜の天気予報。
 北朝鮮テレビ・気象庁副所長「14日夜半から大雨が降り、各地で集中豪雨が降りました。特に大同江の上流地域に豪雨が降り、1990年以降、初めて大同江(テドンガン)に洪水が発生しました」
 テレ朝解説「7月中旬、北朝鮮は集中豪雨に見舞われ、首都ピョンヤンを流れる大同江に洪水が発生したと言う。数日後のニュースは復旧作業の様子が短く流れたが、映像からはその降雨量や被害の全体の規模まではよく分からない。我々は気象予報士に当時の天気図の分析を依頼した」

(中略)

 解説「洪水の1カ月半後ピョンヤンに息子(寺腰)武志さんを訪ねた寺越友枝さんは洪水についてこう聞いたと言う」
 寺腰友枝「本当にでかい雨あってえ、一集落が全部流され、人間も牛も大同江に流れ落ちてたくさん死んだよって言った」
 解説「ピョンヤンに住む武志さんも復旧活動に動員されたと言う」
 寺腰友枝「田んぼも畑もみんな被害におったもんで、もう毎日日にち、川工事に行った」
 解説「例年行われていたアリラン祭は去年突如中止になったが、武志さんはそれも洪水で水浸しになったためだと言う。こうした事態に韓国の様々な団体が洪水救援に動いた。実際には北朝鮮でどれだけの被害が出たのか、真っ先に支援に乗り出した韓国のNGO『JTS』法輪(ホン・ニュン)理事長」
 法輪理事長「北緯40度以南地域が集中的な被害を受けた。およそ380キロメートルの道路が寸断され、231個の橋が破壊された。北朝鮮の根幹を揺るがす大きな被害だったという情報もあります」

 (韓国が把握していた「大惨事」だという洪水をアメリカは把握していなかったのだろうか。)

 朝鮮総連の機関紙『朝鮮新報』去年8月7日付 
  水害による被害
  死者・行方不明者  844人
  負傷者      3043人  
  農地      23974 ha
  住宅      28747世帯

 解説「農地の被害はおよそ24000ヘクタールで八王子市と町田市を足した広大な規模なると伝えているが、このNGOによれば実態はそれ以上だという」
 法輪理事長「洪水被害について北朝鮮は政治的な理由で実際より小さな数字を発表しました。北朝鮮はミサイル発射で準戦時体制になったため、外国の支援などを受け入れて国情を外に知れたくなかったからです。数千人の軍人と人民が一瞬で押し流されたと聞きました。死者は3千人に及ぶと見られます」
解説「韓国でも大雨が降りましたが(7月15日~)北朝鮮ほどの被害は生じていない。北朝鮮ではなぜ被害が拡大したのか。北朝鮮農業の研究者は理由をこう説明する。
 農業経済研究院権泰進(クォン・テジン)博士「90年代半ばの大洪水で炭鉱に水が入ってダメになり、不足する燃料を補充するために山の木を伐採して薪にしました。したがって禿山ばかりで保水力がなく、土砂が川に流れ込み川底が浅くなりました。だから洪水が起こりやすいのです」
 解説「さらに北朝鮮では70年代半ばの初めから食糧問題解決のため次々と山を拓き、頂上まで畑に利用した。こうした農業政策の失敗が被害が拡大する原因だと石丸次郎氏(ジャーナリスト・『アジアプレス」)は言う』
 石丸「北朝鮮は国土っていうのは無理な耕作と森林伐採でですね、荒れ放題なんですね。これは天災ではなくて明かに人災だと言えますね」
 北朝鮮人被害者「山へ行って、毎日木を切って薪にしている。政府はトウモロコシなどを数キログラム出しただけで他には何もない。(トウモロコシ粥を食事にしている)切実なのは食べ物です。食べ物さえあれば、何とかなるのに――」
 「北朝鮮大飢饉発生(1996年~1998年)
 1995年に大洪水が発生。200万人とも言われる餓死者を出す。金正日は「苦難の行軍」で乗り切る」――のテロップ。

 (「脱北者――Wikipedia」によると、「北朝鮮では1993年に大水害が発生して以来、水害と旱魃が毎年のように発生し、深刻な食糧難が報じられるようになった。」と伝え、1995年に「大飢饉が報じられた」としている。)

 解説「今回の洪水で飢饉は起こるのか。取材ディレクター高世仁が(去年11月に取材)WPF(世界食糧計画)ピョンヤン事務所に聞いた」
 高世仁「飢饉の危険性を感じますか?」(英語)
 WFP平壌事務所J・P・デマジェリ所長「そこまで言うつもりはありませんが、(洪水被害は)かなり深刻でした。最大で9万トンの食糧に影響が出たと推定しました」

(WFPの本体が食糧援助に動いただろうから、アメリカの軍事衛星が怠けていたとしても、国連の各部門に連絡がいくだろうから、アメリカが「北朝鮮の窮状を分かっていなかった」ということがあるのだろうか。分かっていたとしたら、放送の前提そのものが崩れる。)

 解説「しかも洪水で収穫が減っただけではなく、制裁により海外からの食糧供給が激減している」
 J・P・デマジェリ所長「韓国からの食糧支援もありません。中国からの援助も前年に比べるとかなり減らされています」
 高世仁「どのくらい減らされたのか」
 J・P・デマジェリ所長「前年の援助の33%程度です。北朝鮮国内で100万トンの食糧不足が発生すると予想しています」
 解説「国連食糧農業機関(FAO)」、北朝鮮が最低限必要とする穀物量は年間500万トン。去年は最大で380万トンの収穫が見込まれた。不足分120万トンは各国からの支援で賄う予定だったと見られる。ところが洪水で収穫が減り、ミサイル発射で韓国が食糧支援を中断したことなどでおよそ100万トンが不足することが明らかになった。経済失政やヤミ経済の横行でただでさえ統制が乱れている中、食糧不足にさらに国民の不満が溜まり、統制が乱れることを恐れた金正日政権にとって、6カ国協議で合意を成立させ、韓国がら食糧支援を得ることは是が非でも必要なものだったのだ。制裁による食糧事情の深刻化を招いた政府に対して洪水被害者は最後にこう述べた」
 質問「政府が核実験したことをどう思う?」
 洪水被害者「核だろうが何だろうが私たちには関係ありませんよ。核実験で食べていけるようになったの?私たちは食べられさえすればいい」

 (WFP平壌事務所J・P・デマジェリ所長は洪水の食糧への直接的な被害は「最大で9万トン」と言っている。金正日にとって首都の生活維持・治安維持は至上命令だろうから、地方の食糧を更に削って、例え餓死者が出ようと9万トンぐらいは浮かすことぐらいはしただろう。洪水による「大惨事」自体が合意を急いだ理由とはならないのではないか。問題は「国連食糧農業機関(FAO)」が言う「100万トンの食糧不足」の方であろう。勿論そのような「北朝鮮の窮状」は韓国・中国・日本等も当然のこととしてその実情を把握していたはずであるし、食糧支援国として重要なカードを握っていることを認識していたはずである。なぜ重村智計早稲田大学教授が言うように「北朝鮮は譲歩せざるを得なかった」「もう数ヶ月」という期間を待てなかったのだろうか。)

 (中略)

 北朝鮮民主主義人民共和国人民保安省・主体95(2006)年11月15日/布告「電力を盗むな」)
 「この布告に従わない機関・企業所・住民世帯は電力供給を中止し、罰金を課す・厳重な(違反)者は職位・所属に関係なく労働教化刑に至るまで厳しく処す」(韓国NGO「Good Friend」HPより)
 解説「この窮状に2年前盛んに取り沙汰された後継者問題は殆ど騒がれなくなった。実は2年前は金総書記が63歳になり、金日成主席が金正日を後継指名した年を越えたために注目されたのだ。ジャーナリスト恵谷氏は今の北朝鮮の窮状では後継指名できる状況ではないと語る」
 恵谷「90年半ばと比較しても、これは比較にならないほどの経済困難に見舞われている。自分の後継者は誰だというような発表、ないしはそういう検討なんていうのはとてもできない状況にあると私は思います」

 (ものは考えようで、「窮状」を誤魔化すためには後継指名が必要ではないか。後継指名して、金正日体制は磐石だとゴマカシのサインを内外に送る。国民をも鼓舞する。腹の足しにもならないと拒絶反応を示す国民もいるだろうが、金体制を支えるために生活を保証されている軍や党の上層部は鼓舞されるだろう。だが、後継問題は確かに音無しの構えに入ってしまっている。恵谷氏が解説するとおりに「今の北朝鮮の窮状では後継指名できる状況ではない」ということだろうか。)

 まとめ・重村早大教授「結局核兵器を持っても、アメリカと対等に渡り合って見返りをもらうという教訓を残した。北朝鮮は核兵器を持てば見返りを貰えるという戦略の有効性を確認したと。こうなると21世紀は核拡散の時代になりかねない、という危険を孕んでいると言うことですね」(以上)
 * * * * * * * *
 報道内容の趣旨は、北朝鮮は去年7月の集中豪雨で大同江が氾濫し、ピョンヤンは洪水に見舞われ、経済的に大きな打撃を受けた。さらに核実験の制裁で追いつめられた状況にあり、「アメリカに優位を主張できる状況」にはなかったはずだが、6カ国語協議で譲歩したのはアメリカで、国民を餓死・飢餓に追い込みながらミサイルを発射したり核実験したりしている悪者であるはずの独裁国家の北朝鮮が要求できるはずもない多くの〝見返り〟を獲ち取った――。

 それが最初の重村早大教授の「アメリカは北朝鮮の窮状を分かっていなかったんじゃないかと言うことですね」という言葉と、寺崎貴司アナの「今回成果を得た北朝鮮、主張できる立場なのでしょうか」という解説に集約されているということだろう。ブッシュ政権に近いネオコンの立場の人間や前ボルトン米国連大使を登場させて、北朝鮮との合意を批判させているのも、上記文脈に添わせる必要があったからだろう。
 
 後継問題は北朝鮮の「窮状」を誤魔化す手段ともなり得ると言ったが、実際に後継問題が持ち上がって、後継が内定し独裁政権の父子継承が決定的となった場合、現状でも困難な状況にある拉致問題はその解決の目を失うことが予想される。拉致は金正日自身の主導によって行われただろうからである。

 いわば拉致の真相解明を最も恐れるのは拉致行為張本人の金正日自身であり、権力の父子継承によって、真相解明に蓋をする先延ばしが可能となるからである。

 北朝鮮は日本と国交正常化を果たして日本からの戦後補償と経済援助を梃子に壊滅状況にある北朝鮮経済建て直しの重要な起爆剤の一つとしなければならないことは誰の目にも明らかなことであろう。起爆剤とする唯一の条件は拉致問題の全面解決なのは言うまでもない。また北朝鮮経済の建て直しは金正日独裁体制保証の条件であるだけではなく、父親の金日成から権力を引き継いだと同じく、自分の子どもに権力を無事引き継ぎ父子継承を保証する条件でもある。

 と言うことは、拉致解決が金正日独裁体とそれに引き続く権力父子継承を保証する切って捨てることはできないハードル・条件でもあると言うことであろう。

 ところが、拉致は解決済みの態度を崩さないし、今回の6カ国協議では日本相手にせずの姿勢を取っている。拉致解決のカードを切ることで様々な保証獲得のより有利なカードに替える、誰でもそうするに違いない手を打たずに不利と分かるカードを手に握ったままでいるのは、裏を返すなら、金正日にとって拉致解決はそれ以上に不利なカードとなるからだろう。いわば日朝国交正常化が朝鮮経済の建て直しのカードとはなり得ても、金正日独裁体制保証と権力父子継承保証のカードとはなり得ないということである。ここに金正日が拉致行為張本人とする根拠がある。拉致解決は金正日を権力者の座から引きずり降ろし、決定的な悪人・無様な道化として世界史に刻み付けることになる記念碑となるだろう。

 拉致が日本人だけではなく、レバノン人、タイ人、韓国人と多岐に亘っていることと、拉致した日本人原敕晁さんになりすまして85年に韓国に入国、スパイ容疑で逮捕された辛光洙(シン・グァンス)が同年11月に死刑宣告を受けたが、「00年9月、投獄後も政治思想を改めない『非転向長期囚』63人の一人として北朝鮮に引き渡された。『太陽政策』をとる金大中大統領が金正日総書記と『南北共同宣言』に署名。北朝鮮が離散家族の再会を認めたことの見返りに、引き渡しに応じ」(02.9.25.『朝日』夕刊)させた事情、さらに「板門店であった、非転向長期囚『帰還2周年』記念集会」に出席、「辛光洙容疑者らは『将軍の惠に一千万分の一でも報い鉄石の誓いで、湧き上がっている』と発言したと言う」(同)金正日に対する忠誠心、あるいは日本の捜査当局の引き渡し要求を無視して、北朝鮮の首都ピョンヤンで開催される重要式典への出席を許し、英雄扱いしているといった事情からも、金正日が拉致に権力トップとして関わっていたことを窺うことができる。

 と言うことは、拉致の真相は金正日にとっては永遠に蓋をして置かなければならない問題である。そこへ持ってきて、評論家の田原総一郎がテレビでブッシュ政権の間、アメリカは北朝鮮と必ず国交回復すると発言しているとおりになったなら、迷宮入りとならない保証はない。

 拉致の唯一の解決方法は、金正日独裁体制が崩壊し、北朝鮮が民主化される以外に道はないということである。

 ではなぜ北朝鮮は「2年前盛んに取り沙汰された後継者問題は殆ど騒がれなくなった」(テレビ解説)のだろうか。経済的困窮をカモフラージュする有効な手ともなり得ることを考えると、ジャーナリスト恵谷氏が言うように「90年半ばと比較しても、これは比較にならないほどの経済困難に見舞われている。自分の後継者は誰だというような発表、ないしはそういう検討なんていうのはとてもできない状況にある」ということだろうか。

 金正日は中国でも一部反対している独裁権力の父子継承を6カ国協議の合意に向けた大事な時期に持ち出してアメリカやその他の国を刺激することを避けるために意図的に先延ばしにしていると言うことも考えられる。

 日本の援助なしに、他の韓国・中国・ロシア・アメリカ4カ国のみの援助である程度の経済を回復した時点で後継問題を持ち出すと言うことなのだろうか。アメリカと国交回復を果たし、経済も多少回復し、継承問題も解決という万々歳の結果ということなら、金正日独裁体制はますます磐石なものとなる。そういった状況を狙っていないことはないだろう。そのことは現在でさえも解決する気のない拉致解決はますます遠ざかることを意味する。

 だが山が「無理な耕作と森林伐採で」(石丸談)荒廃し、少しの大雨で洪水が起きやすい国土となっている上に現在の地球規模の温暖化による異常気象を原因として頻繁に起こるだろうと予測される大雨・洪水、あるいはその逆の日照り・旱魃、さらには冷夏による農作物の凶作やインフラの破壊が外国の援助に頼る国土回復まで待ってくれず、その被害が援助を相殺、あるいは上回る今までと同じサイクルを踏まない保証はない。

 いわば外国の援助がザルに水を注ぐ結果とならない保証はない。中国・韓国は金体制の突発的・暴力的な崩壊による自国への難民の大量流入を恐れて、それを避けることだけを目的とした焼け石に水の援助を続ける。かくして経済を回復させることができないままに金体制は危ういバランスの上にどうにか維持し続ける。このような展開も拉致解決に道を開くものではないのは言うまでもない。

 金正日独裁体制の崩壊が拉致の唯一の解決方法であるという条件をも含めて、上記諸状況を計算に入れて拉致の解決を図るとしたら、今回の合意でアメリカが譲歩し過ぎたとされているが、譲歩の代償に金正日の退陣、父子継承の禁止、中国への亡命を条件としたなら、解決の可能性は残される。

 だが、ブッシュ政権に近い人間たちの譲歩し過ぎとの批判を封じるために公言を禁止した上で内々に知らせておくべきを、「譲歩のし過ぎだ」、「合意は誤った選択だ」と自由に批判しているところを見ると、条件としていなかったと見るべきだろう。

 勿論金正日は自身の独裁体制の保証をアメリカに求めているが、イラクの例を出し、フセインとその一族の身の安全を保障することを条件に亡命を求めて民主的にイラク問題を解決しようとしたが、フセインが拒絶したために最終手段として我々アメリカは攻撃に踏み切らざるを得なかったと伝え、亡命後の北朝鮮の体制は保証するとの確約を与える。

 金正日のメンツを考慮して、内々に退陣と父子継承の断念、中国への亡命を合意のカードとするか、相手が拒絶したなら、退陣・父子継承の禁止を少なくとも日本とアメリカの合意の条件に据えて、そのことを公表すべきではなかったろうか。

 金正日退陣と父子継承の阻止、中国への亡命が一切ない条件下の合意なら、アメリカの国益に支障はなくても、拉致解決の望みは失う。

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