真に必要な道路・ムダな道路の「定義」

2006-12-24 06:08:24 | Weblog

 道路特定財源の見直し問題が「道路歳出を上回る税収」に限って一般財源化するという、道路建設にお墨付きを与える趣旨の方向で政府・与党の間で決着というか、妥協を見たというか、その後を受けた06年12月10日のNHK『日曜討論』。

 共産党小池晃政策委員長「真の道路っていうのは誰が決めるのかと言うことですね。自民党の道路族はこれは、ここは真に必要な道路、ここの道路は真に必要な道路、そうやっていたら、とにかく今までの構造と何も変わらないじゃないかと。で、やっぱしね、おかしいと思うのは色んな予算の中で道路だけは優先で、無条件でここまではもう使いますよと。そこから今は財政大変だって言うんで、色々財源どこから持ってくるか、ああだこうだ議論してやっているときに、道路だけはここまでは使いますという仕組み優先で使えるという必要残しているでしょ?そういう遣り方したら、本当の意味でムダな道路なくすなんていう力が働くのか。私は結果としてですね、そういう遣り方をすれば、まあ、今までと同じようにね、ま、ムダな道路がどんどん造られていくっていう構造、そのまま残ると思いますよ」

 中川昭一政調会長「真に必要な道路と言うのは国民の代表の専門家の方々をご意見を聞きながら、政府が決定するわけで、決して道路族が造るものではございません」

 小池「一般財源の中で必要な道路を造っていけばですよ、私たちは私たちで道路は造るなとは言ってないんですよ。必要な道路は造ればいいんです。しかしそれは色んな諸課題の中で、同列で横並びでね、道路だけは特別扱いするのはおかしいのじゃないかと。そいう中で本当に必要な道路と厳選されていくんじゃないですか?」

 中川「厳選されていくと言うのは分かりますけど、真に必要な道路という定義も分からない。じゃ、ムダな道路というのはどう考えることをムダなと言うのか。例えばね、松木さんや小池さんや私んところ(の選挙区)で、道路造ってもらいたい、貰いたいっていう切実な気持ちがあります。台数(通行量)が少ないとか、色々なまあムダの定義はあるかもしれません。でも、そこに住んでいる人たち、生活者にとってみればですね、ある意味命がけです。積雪関連地帯ではね。だから何がムダだと言うこともね、ある程度定義を決めていかないと、何か地方に造るのはムダだとかね」

 小池「そんなことは言ってませんよ」

 民主党議員「問題はさっき申し上げたように決め方の問題で、我々省庁のみなさんに道路に関係する、いくつかの省庁が跨っていますけれど、申し上げたことあるんですよ。『なぜ必要なのかということを我々に説明して予算を要求されたらいいんじゃないですか。先ずこの道路の金額、枠を守ってください、という陳情ではなくて』そこで、『ウーン』と言われるわけですよ。つまり、先ずおカネを確保するという発想で今までもあったんですよ、現実には。だから、この特定財源のことが問題になってきているわけですよ。だからちゃんと必要性を・・・・」
 ――
 何を以て〝真に必要な道路〟と言うのか、何を以て〝ムダな必要な道路〟と言うのか、定義を持ち出したのはなかなかの策士といったところだが、この「定義」論には大きな誤魔化しがる。「真に必要な道路という定義も分からない」は野党が言う場合の「定義」が分からないということで、自分たち自民党が言う「真に必要」の定義は分かっているという誤魔化しである。だからこそ、いくらでも造り続けることができたのだろう。

 つまり自民党道路族が「真に必要な道路」と言えば、「真に必要な道路」になると言うことであり、「ムダな道路」と言うのは野党が単に反対の立場から言っていることで、自民党からしたら「ムダな道路」は存在しないと言うことである。「何がムダだと言うこともね、ある程度定義を決めていかない」とは言っているが、それは野党が言う「ムダな道路」という批判を否定するための方便で、何しろ必要と言う点では「そこに住んでいる人たち、生活者にとってみればですね、ある意味命がけ」なのだからと正当づけている。

 何を以て〝真に必要な〟であり、何を以て〝ムダな〟だろうか。将来の首相候補、安倍晋三と似た者同士の中川昭一の発言から、改めて考えてみた。

 道路建設にはどのような基準が設けられているのか、道路関係四公団民営化推進委員会が実施した「高速道路の建設に関する基準等世論調査」の結果を反映すべしとした、2003 年7 月22 日提出の道路公団民営化委員会の猪瀬直樹委員提出資料なるものから見てみる。今以て真に必要な道路とは何か、ムダな道路とは何かが議論されているのだから、3年前の資料であっても、決して古くはない。

 「道路関係四公団民営化推進委員会が実施した『高速道路の建設に関する基準等世論調査』の三指標間の『重み付け』の数値は、『採算性』が35・7%、『事業効率(B/C、費用対便益)』が36・1%、『その他外部効果(波及的影響)』が28・2%であった」とのこと。

 これに対して「国土交通省が知事・政令指定都市市長らにヒアリングした調査結果と大きな違いが生じた。国交省が知事らの意見を反映させた『重み付け』数値は、『採算性』と『事業効率(B/C、費用対便益)』は25%程度、『その他外部効果(波及的影響)』だけは突出しおよそ50%となっている」と逆転状態を示している。

 「そのほか外部効果(波及的影響)」に関しては次のように詳述している。「『高速道路の整備を前提とし』て『スポーツ施設』や『文化施設』などの『施設整備』を行ったり、『高速道路の利用に関するパンフレット・チラシ、小冊子等の配布』や『高速道路に関する出前講座』を行うといった『地方の創意工夫による自主的な取り組み』の数が増えれば増えるほど点数があがる仕組みになっている。このように客観的とは言い難い指標を重視するのは問題ではないか」と批判。

 次に「世論調査」の内容と結果をざっと見てみる。

Q1、高速道路料金についてどう思いますか?
   高い50.0%+やや高い25.1%=75・1%
Q3、費用便益比(B/C)の高い路線から順に建設すべき
   だと思いますか?
   賛成 36.1+どちらかというと賛成 36.5=72・6%
Q4、B/Cの低すぎる路線は建設しないなどの足切りライ
   ンを設ける必要があるとか、建設費があまりに高額
   な路線については再考が必要だなどと思いますか?
   賛成43.2%+どちらかというと賛成33.5%=77・7%
Q5、規格の見直しやコスト削減をすれば採算が合う高速
   道路の建設について、どのように考えますか?
 ・採算が合わなくても、計画通りに高規格の高速を建
   設すべき=5%
  ・採算が合うように、規格の見直しやコスト削減をし
   たうえで建設を続けるべき=52・6%
  ・採算が合わない高速は建設すべきでなく、早く通行
   料金の値下げをすべき=38・5%
  ・わからない=3・2%
Q6、規格の見直しやコスト削減をしても採算が合わない
   高速道路の建設について、どうすべきだと思います
   か?
  ・採算が合わなくても、これまでどおり借金で建設す
   べき=4・7%
  ・採算が合わなくても、税金で建設すべき=11・8%
・採算が合わない高速道路は建設すべきでなく、早く
   通行料金の値下げをすべき=76・8%
  ・わからない=6・8%
Q8、B/Cや採算性が同レベルの場合、工事の進捗率が高
   い高速道路から優先的に集中投資することについて
   どう思いますか?
  ・賛成=35.4%
 ・どちらかというと賛成=39.5%
Q9、進捗率が以下の段階のとき、どんな処置をすべきだ
   と思いますか?
 ・「進捗率10%未満の路線は無条件に凍結すべきという
  意見が5割以上」という結果。
 ――
 以上を見てみると、最後の「進捗率10%未満の路線は無条件に凍結すべきという意見が5割以上」という結果が象徴的に示しているが、道路建設の側から判定した「採算性」、「事業効率(B/C、費用対便益)」、そして殿(しんがり)に「そのほか外部効果(波及的影響)」の各要素を建設基準としている。「重み付け」の順位からすれが当然の結果でもあるが、上記NHKの『日曜討論』も同様の構図を取った議論となっている。

 だが、道路は車両通行者の「便益」のみのために存在するわけではない。地域(地方)を先に持ってきて、その振興・活性の「採算性」・「事業効率(B/C、費用対便益)」・「そのほか外部効果(波及的影響)」の中に道路自体の「採算性」・「事業効率(B/C、費用対便益)」・「そのほか外部効果(波及的影響)」は計算されるべきではないだろうか。

 逆説するなら、地域の活性化に供与しない道路建設はムダな道路とすべきだということである。このことをさらに裏返すなら、道路建設は車両通行者の便益や採算性を目的とする以前に地域活性化の付帯事項とすべきだということである。

 「国土交通省が知事・政令指定都市市長らにヒアリングした調査結果」で建設基準とすべき指標値が「50%」も示した「そのほか外部効果(波及的影響)」は、「『スポーツ施設』や『文化施設』などの『施設整備』を行ったり、『高速道路の利用に関するパンフレット・チラシ、小冊子等の配布』や『高速道路に関する出前講座』を行うといった『地方の創意工夫による自主的な取り組み』」によってもたらされるとしているが、これはあくまでも「高速道路の整備を前提と」し、道路利用率を高めることを出発点とした「外部効果(波及的影響)」を目的としていて、地域活性を「前提とし」、それを出発とした「外部効果(波及的影響)」を目的としているとは言い難い。

 地域活性・地域振興の一環として、それとの一体的な取組みによって道路建設はなされるべきだろう。立派な道路はできたが、周辺地域が過疎化するだけでは、道路を建設した意味を成さなくなる。その道路が若者が都会に出て行くためと、盆と正月の年に2回帰省するときに主として利用されるだけなら、それがどのようなラッシュを来たし渋滞しようと、そのことのために道路は建設されるべきではない。都会に出た若者は都会生活でそれ相応の便益を得ているはずである。その上に帰省時の渋滞緩和という年に2回の便益を得るために立派な道路を求める資格はないだろう。土砂崩れ等の危険は別問題として、既設道路が狭くて運転し辛いとか、時間がかかりすぎるといった不便は我慢すべきである。

 立派な道路は造った、地域は過疎化によって衰退していく。衰退していく地域の立派な道路という図式はあまりにも倒錯的であり、あまりにも逆説的であり過ぎる。地域振興があってこそ、道路は生きてくる。

 地域・地方が衰退し、死に体化したなら、道路も死に体化する。地域・地方が過疎化し、老人ばかりが残って孤立し、病院に通うにも道路が整備されていないから不便だということなら、道路建設にかけるカネで地域・地方に医者・看護士を一般よりも高級で雇い、快適な住居付きの診療所を設けるべきだろう。例え赤字でも、建設費にかける膨大なカネを補助金に回せば、運営は可能ではないだろうか。第一、地域住民の福祉に恩恵する。

 逆に「採算が合わなくても」、地域活性を目的とし、その付帯事項としての道路建設であったなら、道路自体の採算性は地域活性度との差引計算で算出・評価されるべきだし、主目的とした地域活性が果たされた場合、道路自体の採算性も回復するはずである。

 都市と地方の格差拡大が続いている。地方が確実に衰退に向かっていることの証明としてある格差拡大現象であろう。高速道路であろうと一般国道であろうと、衰退した地方を結ぶカネをかけて建設した道路は、すべてムダな道路だったとしなければならない。

 例えば東名高速道がいくら車両通行量が多くても、東京や沿道の主要都市のみに利益を与え、それ以外の小都市・地方にはさしたる利益を与えないか、衰退への歯止めの役目を果たさない構造の道路なら、その偏りから見た場合、取り残された都市や地方にとって何のための通行量かということになる。沿道及びその近郊の小都市をも活性化させる実効的な政策を並行させて、初めて通行量は意味を持つのではないだろうか。

 政治が「結果責任」を構造としているなら、地方の衰退、都市と地方との格差を以てして、道路族は何のための道路建設であったのか、一度反省すべきだろう。

 「必要な道路」とは地域振興に必要不可欠となる道路であり、「ムダな道路」とは地域振興に役立たない道路を「定義」とすべきである。

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