空華 ー 日はまた昇る

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青春の挑戦 17 【小説と詩】

2021-12-17 13:22:50 | 文化


17
「宇宙人のこと、少し耳にしていますのよ。でも、あたし、ああいうの、あんまり信じていませんの。それで、自然とそういう話も私の耳に届かなくなっておりますのよ。
何かあったんですか」
彼はここで、宇宙人と出会ったショッキングな出来事を話そうという気持ちもあったのだけれど、彼自身にもあれはAIロボットではないかという疑いの心がある。そういう迷いの心の中で、口は先ほど話す準備をしていたウネチア物語に触れるような形で、話を進めていた。平和産業では、この宇宙人対策のために、平和の使者を町に送る準備をしていることを話すのも、何故か躊躇する気持ちがあるのは松尾自身にも不可解だった。
「ええ、そのことを話す前に、ウネチア物語の続きを話しましょうよ」と彼はちょっと笑って言った。
彼女も微笑した。
「今のヴェニスが温暖化問題で、悩んでいることはご存じですよね」
「ええ、聞いてはいますけど、それほど詳しいわけではありません。温暖化は地球の所をかまわず襲うのですよ。日本では、豪雨などにも見られますし、ヴェニスは世界の宝石のような町ですから、世の中の人の注目を集めるのでしょう」
「そうでしょうね」
「ウネチア物語は面白くなるという予感がありますの。あの物語はどんな構想で話を進めていたのですか?」
話題は、心の隅に置いてあった所に、再び戻ってきた。彼女がこの話を好むのは二人の最初の接触が文学とその映像化にあったからだと松尾は思った。
彼女の書いた物語とその映像化は何度も鑑賞している。

「ウネチア物語というのは 確かにウネチアという架空の星Mのある面白そうな町を舞台にしていて、それは地球にあったイタリアのヴェネチア共和国に似ていている話なんですが。

最初の方は以前お話したと思いますが、覚えておられますか」
「ええ、確か、楽園のような星RVに住む学者の話という形で始まったと記憶しています」
「そうそう、地球とそれによく似た惑星Mとの比較歴史を専攻している学者です」
「だいたい覚えておりますわ」
「記憶力、抜群ですな」
彼女は微笑した。
「どこまで話しましたっけ?」
「じゃ、あたしの記憶していることを話しますね」
「ええ、お願いします」
「この学者さんは確か、地球人類の歴史を勉強しているんですけど、いつの頃からか惑星Mにも興味を持つようになった。理由はMに地球のベネチア共和国によく似たウネチア共和国を発見したことにあるんですね。このウネチアが大変 面白い。そうでしたよね」
「ええ、まあ、そうです」
松尾優紀はアリサ夫人が自分の話をよく覚えていてくれたのがうれしかった。
「それでこのウネチアの中身は温暖化問題を扱っている。今のヴェニスもそうですよね。高潮で、既に冬には水があふれていた。それが、今は、町の中を歩くのに、腰まで水がくることもある。」
「その通りです」
「そしてこの学者が住んでいる星RVというのは未来のエネルギーとして話題になっているマグネシウム社会なんです」
海水から水と塩を除けば、マグネシウムになり、石油の十万年分のエネルギーがあり、リチウムの七倍というキャッチフレーズを松尾は思い出していた。早くから、こういう素晴らしいものに目をつけていれば、原発なんかつくらなくても済んだのだと思うこともあった。
「ああ、マグネシウムって、エネルギーになるのですってね」
「え、まあ、僕の物語は未来の良い所を先取りしているので、一応、構想としてはそういう素晴らしい科学によって楽園となっている所を舞台に設定したのです。星RVに住む学者が欲望の渦巻いたM星のウネチア共和国で、複雑な人間模様が渦巻いていることに興味を持つという風に話を進めているのです」
「そのあたりまでお話したということですね」
「ええ、そうです。この最初の詩の場面はあなたの映像詩からお借りしてみました。
これは仮の物語ですから、あなたからアイデアをお借りした最初の所は完成したら、削ります。よろしいですよね」
「あら、別に削らなくてもいいですよ。ヒントに使っただけでしょうから、いいんですよ。それよりも、どんな風に展開するのかの方が興味がありますわ」
「殆ど詩ですよ。叙事詩にしようと思っているくらいですから。その昔、どこかの惑星Mのヴェニスに似たような町のある所、オオカミが進化したような人類が栄え、そして滅びた物語を書いたのです。その一部をご紹介しましょう。

(poem)
なにゆえに こころは 乱れ迷い 君を思う
銀河 霧深き天空の波さわぐ所
名も知れぬ巨木の幹の黒の黒き肌に
いくつもの緑の葉が糸のように天に伸びている

しなやかな枝の伸びゆく空間のあたりにすみれ色の音がして
銀河の天空もオオカミ族の亡霊に満ち、狂えり
折しも かなたの星々の野原の上は
珈琲のにおう不思議なオオカミ族の跡

名も知れぬ巨木の年輪の刻まれた太い幹に
りこうそうなリス一匹悲しき笛を持って立つ
珈琲から立ち上る白き蒸気はゆらゆらと幻となりて
そこに昔の雄々しき君ありし

春のさわやかな風が吹いているというのに、何故悪があるのか
我々は仏性の海にいるのだ
山も森も川も仏性のいのちの現われと聖人が言われたではないか
なのに、何故、悪だの亡霊だのがあるのだろうか

庭には、様々な形と色をした花が咲いている。
色々な形の昆虫がいる。蜜を集めに来ているようだ。
仏性は真理そのものだ
花も昆虫も大地も仏性のいのちの現われだ
オオカミ族が滅びたのは仏性という霊性を見ようとしなかったからではないか

空には白い雲が流れ、鳥の鳴き声が聞こえる。
いのちの朝日と永遠の夕日の美しいこと。
あの赤と燃えるような色の混ざった神秘な色

そうだ、この世は色と形と音で埋まっている。
科学では、物に反射した光が目に入り、電気信号になり、
脳神経細胞の神経が波長の長さで色々な色を感覚とうけとめる。
そうしたクオリアは色だけでなく、形も音も同じ。

そんなありふれた説明は証明されたのだろうか

感覚器に送られた電気の波長を色と感ずるとしても、不思議なことではない
電磁波とハートをくっける魔法のノリは仏性のいのちそのものだからだ。

確かに脳の電磁波がハートになるというのは大きな飛躍のように見える
オオカミ族はこの飛躍に混乱した

海も山も川もすべてのものが仏性である。そのことを忘れたオオカミ族の末路は哀れだった
仏性とは真理である。
全ての現象に、真理が現われているというのが昔の偉人が悟ったことだ。
仏性のいのちがあってこそ、山や海や川などの森羅万象は現われる。
主客未分の世界、そこは一個の明珠で仏性という真理が現われている

だからこそ、ヴァイオリンの音楽はかくも燃えるのだ
音楽にあのような神秘な深みが生じるのだ。
だからこそ、花はあんなに美しいのだ。昆虫の蜜を集めるためのおびき寄せというのは理屈だ。
あの美しさは仏性の働きがあるからだ

花の色を見、小鳥のさえずりを聞きながら、森羅万象が真理であることを忘れ、宴会で騒ぎ立て、恐怖の武器を発達させていたオオカミ族よ、仏性そのものを見るのは自我を無にする修行が必要なのだ

虹が真実であり、幻のような夢も真実であるように、現実世界も幻のようなものでありながら、真実であり、みな仏性の現われだ。そのことを忘れたオオカミ族は悲しい

座禅をする。只管打座だ。あるいは瞑想。
身体と光と空気と風景は一体になる。法身の世界だ。
それすらせず、科学の繁栄した豊かさにおごり、武器を異常に発達させていたその天の罰なのか、それは厳しかった
身体の内部はこくこくと変化しているけれども、
その見事で精緻な細胞は見事なからみあいの中で新陳代謝をおこない、生きている。
それ故にこそ、座禅の中で呼吸がいのちのシンボルとなる

そのことを忘れたオオカミ族は悲しい
銀河の天空もオオカミ族の亡霊に満ち
折しも、かなたの星々の野原の上は
珈琲の匂う不思議なオオカミ族の墓
ああ、栄光の日は過ぎ去り
幻影の亡霊となりて
あでやかに浮かび立つ悪の舞台
何ゆえにわが心かくも乱れ君を悲しむ
    
【つづく】
     
 [久里山不識 ]
仏性を他の神聖な言葉に置き換えることは出来ると思います。今は仮に、道元の使う「仏性」をお借りしているとお考え下さい。
道元の「正法眼蔵」は古典の中でも、難解な本として、有名です。その本をヒントに書いた詩ですから、ある程度、分かりにくくなるのは仕方のないことでは。詩を分かりやすいものしか読んでない方にはリルケとかそう簡単でない詩があることも、知って欲しいと思います。人類の危機の時の価値観の問題を考えている詩なので、ご理解願います。


それから、色々の都合により、小説「青春の挑戦」は、しばらくお休みさせていただきますので、よろしくお願いします。

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