忘れえぬ体験-原体験を教育に生かす

原体験を道徳教育にどのように生かしていくかを探求する。

覚醒・至高体験をめぐって12: (2)至高体験の特徴⑦

2012年06月12日 | 覚醒・至高体験をめぐって
《N・K氏》

つぎに挙げるのは、ある女性がTグループに参加した時の体験を綴ったものである。Tグループとは、アメリカ開発された人間関係訓練のためのグループ技法のひとつである。こうした特殊な訓練の場面では、グループの中で自己を開示するに伴って至高体験が得られやすいという。Tグループは、山などの自然の中で合宿形式で行われることが多く、感受性が高まった目にとりわけ自然の美が心に迫り、そこに人生の本質とでもいえるような何ものかが感じとられる場合が見られる。日常の自己執着や目先の目的に縛られた心を解放し(D認識からの解放)、まったく新鮮な眼で自然と世界を感じ取る体験をするのだろう(B認識)。

この女性は、合宿Tグループの合間に、ある山頂で自然の中に融合した体験と、その結果として訪れた「爽やかな生の味覚」、「胸の奥で疼いた生命感」を次のように表現する。

N・K氏の事例

これもまた、至高体験の一種と言えるだろう。日常的自我の枠から解放され、自己の内外に開かれた経験だといえる。彼女は、腹の底を突き上げてくるものに、手放しで、ただ、まかせていた。その結果、一瞬ごとに自分を取り囲むすべてのものが飛びこんできたのであろう。ここでは、至高体験における認識の受動性という性格(7)が確認される。そんな状況の中で、本人はいつの間にか自然の中に深く沈潜し、さらに深く、すべてのものに結びついていった。そして人間の本当の姿、といいたくなるような「たったひとり」を経験したのではないかと思われる。

【注】Tグループについては、上のリンク先の注を参照されたい。

(Noboru)