玄文講

日記

道ばたの天才

2005-09-28 18:00:42 | 個人的記録
何年か前、高エネルギー加速器研究所(KEK)へ出かけたとき、それはちょうどKEKを外部に公開する日でもあった。

そこで私は道ばたに立って案内係を勤めている人を見かけた。その人物は、小柄で、頭髪の薄い、どこにでもいるおじさんのようだったが、私はその人をどこかで見た覚えのある気がした。

そして近づいてみて、そのおじさんが偉大なる小林誠氏であることに気がついた。
標準理論の重要なパラメータ「小林・益川行列」を発見し、ノーベル賞受賞最有力候補に挙げられている一流の理論物理学者だ。

その偉大なる学者が、道の真ん中に突っ立って、一般人の「あのー、会場はどこですか?」という質問に答えて道案内をしているのだ。

確かに小林氏もKEKのスタッフの一人であるのだから、そこのイベントで何かの仕事をするのは不思議なことではない。
それにしても、まさか彼らも、今自分がノーベル賞候補者に道案内されているとは夢にも思っていないことであろう。

そして小林氏がノーベル賞を取った時には、彼らは自分がそのノーベル賞受賞者に道案内させたことを思い出すこともなく、自分とは縁遠い人だと思いながらテレビに映る小林氏をながめるのだろう。

有名人が有名人になる前に出会っても、そんなことを覚えていられるわけがないのだから。

そう思うとおかしくなって、私は一人でニヤニヤしながら歩いていた。