ヨナの福音こばなし帳

オリジナルのショート・ストーリー。一週間で一話完結。週末には、そのストーリーから人生の知恵をまじめにウンチクります。

ぼくはセミになったのさ(2)

2008-06-24 | 放蕩息子Part2
夕方、セミは、またその木のところに帰ってきました。セミになって、始めて見た、地上の世界のことを、あれこれと思い出していました。それというのも、生まれてこの方、幼虫のときの7年間は、ずっと地面の中にいたのです。

もうすっかり暗くなった頃、モグラが現れました。
「あれ、こんなところにいたのか。
ずいぶんと探し回ったぞ。
木の上になんか止まってないで、
早く、土の中に戻って来いや。
トンネルの続きを掘ろうや。」

セミは答えました。
「悪いけど、ぼくは、もう土の中には、戻らないよ。
だって、ぼくはセミになったのさ。
ぼくは、光の中で生きるんだ。」

モグラは、ブツブツ言いながら、また土の中に戻って行きました。

(つづく)