わたしの腕のなかで
あなたは声をたてて笑った
孤立した時間のなかでの
明るい想いは
別れた後に
より深い淋しさに変わってしまうことを
知りすぎているので
わたしは
心の一番暗い頁の間に
笑い声を挿みこんだ
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
激しさのあとの
静まりのなかで
あなたは
いっそうわたしによりそった
まるでわたしたちの隙間から
愛がこぼれおちるのを
恐れてでもいるように
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
どちらが先に飽きるだろうかと
わたしたちは
心をそむけて
微笑いながら言う
ひっそりと
激しく息づいている愛の
たったひとつの
逃げ道のように
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
わたしの好きな花を揺らせて
ふいてきた風を
両掌に包んで
佇んでいるあなたに
そっと投げる
あなたの心に
ひとしずくの雨も
落とさないために
そんな風に愛したかったのに
あなたは
少女の香りを残しながら
おんなでありすぎた
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
あなたが遠くにいる時から
あなたのぬくもりを感じた
一日をくぐるたびに
あなたが眩しくなっていった
後をむかなくてはと
いろいろなひとに
微笑む遊戯をくり返した
それはなんのためだったのか
むしろあなたを想う気持を
より強めてゆくためにすぎなかった
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
電話ガアルヨウナ気ガシテ
走ッテ帰ッテキタノ
受話器を通して
激しい息づかいがきこえる
明るい想いをくるみこんだ波が
つぎつぎと
わたしの耳にあたって
眩しいしぶきをあげている
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
ひとを避ける時は、本当に嫌いな時と、もし近づいたら・・・・・・という時がある。
それは予感のようなものかも知れない。
あなたをはじめて遠くからみた時、僕はコスモスの群れ咲くなかに、あなたを佇ませている自分に気づいて、あわてて目をそらせた。
その後もあなたに会うたびに、足早にあなたのそばを通り抜けたり、他のひとと話をしたりして、遠くに身をおく自分に気づいていた。
そのくせ、好きな風景のなか . . . Read more
あなたが希うのならば
あなたの心にかげりを落すような
ひとたちに会うのはよそう
とぎれとぎれの時間のなかに
俯いて燃やすことしか
できない愛を
あなたに背負わせてしまった
わたしにできるのは
あなたの想いの軌跡を
せめてやさしい色彩に
染めてあげられるぐらいしかない
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
他のひとと一緒のなかで
あなたといるのは
とても疲れる
ふとしたはずみに
二人しか知らないことを
口にだしてしまったり
本当なら
そっと肩を抱きよせるはずなのに
遠くをみつめたり
それよりも
あなたにあげるべき
微笑みのいくつかを
他のひとにあげなくては
ならない
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more
わたしが
あなたに残せるものは
わたしが死ぬ時に人知れず
あなたの名前をつぶやくぐらいなものなのに
あなたはいまのままで
幸せだと言う
わたしはあなたの想いの
かくれた色彩を知っているので
微笑みのなかに
十月の黄昏を噛みしめている
塚原将『愛する人よ-あなたと旅ができるなら』より . . . Read more