ペーパードリーム

夢見る頃はとうに過ぎ去り、幸せの記憶だけが掌に残る。
見果てぬ夢を追ってどこまで彷徨えるだろう。

私たちが忘れてきたこと

2010-10-30 02:32:02 | 歌を詠む
101029.fri.
今月に入ってから、毎日のように
「コクサイセイブツタヨウセイネン」なんていう
耳慣れない言葉が飛び交っていた。
今年は国連が定めた「国際生物多様性年」で、
名古屋で開かれていたCOP10も本日で終了。

13日(水)、多摩市鶴牧中学校で
デヴィッド・スズキ博士の課外授業を見せてもらう。

カナダを代表する生物学者で環境運動家でもある氏は
「人種の多様性、文化の多様性こそが人類存続の鍵」と説く。
娘のセヴァン・カリン=スズキは、
1992年、12歳のときにリオデジャネイロで開かれた国連地球環境サミットで
世界の子ども代表としてスピーチして、深い感動を呼んだことでも有名だ。

近著『いのちの中にある地球 最終講義:持続可能な未来のために』の
発売に合わせて来日されたようだが、たまたまこの日、
中学3年生に向けての博士の講義を一緒に聞くチャンスを得たのだった。



赤いポロシャツにジーンズで登場した博士はとても74歳には見えない若々しさ。
生徒たちが多摩の学校周辺の自然、生態系と外来種の繁殖などについて
調べたことを発表するのを眺めながら、
友人であり明治学院大学教授の辻信一さんの通訳に耳を傾けている。
その目がとても優しい。
次に、中学生たちはグループに分かれて、用意された土を盥にあけ、
土の中に潜んでいた小さな生物を見つけてはどよめいたり、悲鳴を上げたり(笑)。
その間を除きながら歩き回る博士は、ニコニコしてまるで少年のよう。

デヴィッド博士の講義は英語で行われた。
辻先生がとてもかみくだいてわかりやすく通訳してくれたが、
生の英語の、こんなにすばらしいスピーチを聞くことができるなんて
ここにいる子どもたちは、なんて贅沢な経験ができたんだろうと思う。
かくいう私も感動した。

自分はバンクーバー生まれだが、先住民族がこの地に住むもっと昔から
この世は水、土、空気、火でできていて、我々はそれをずっと受け継いできた。
しかし人類は今、こうした大地、自然によって育まれてきたことを
忘れているのではないか。
君たちはこれから勉学に励んで、やがて就職して働き始めるが、
君の生活にはこれからも必ずお金がついて回ることになる。
つまり、経済が一番大事な世の中になっているのが現代社会だ。
だけど、大人になっても忘れないでほしいことがある。
私たちは自然なしでは生きていけないということだ。
どんな職業についても、これだけは忘れないでほしい。
そして、今君たちが住んでいる地域のことを、その環境のことを
お祖父さん、お祖母さん、ご両親が元気なうちにぜひ聞いておいてください。

1人の中学生が最後に質問をした。
「温暖化が地球に与える影響とは何ですか?」
「それは、great questionです」と言って、博士はにっこり。
生態系が崩れてしまった今、もうこの後の環境は予想できない。
わかりません、と博士。
けれど私たちは、生活圏の一部であり、
その大いなる恵みによって生かされている。
循環しあう4元素、そして様々な生物種が織りなすもの―生物多様性―なしでは
私たちは生きることができない。
その生命の織り物を自ら引き裂いているのもまた我々人間だ。
生き延びることを考えるなら、目の前の危機に、何をすべきだろうか?

レイチェル・カーソンの『沈黙の春』や
レヴィ・ストロースの『悲しき熱帯』などに、
ご多分にもれず影響された世代の1人である私。
そうだ、私、文化人類学者になりたかったんじゃない!?
いきなり、ぐわり、と記憶が大きく掘り起こされた一瞬だった。

   君たちは魚(うお)だ
   大海に出て
   経験を積み
   故郷へ戻る
   大いなる地上の営みの中で

尊敬する日系2世の父親カオルが16年前に85歳で亡くなる前に
言った言葉が本に書かれている。
「私は自然からやってきた。だからそこに帰っていくよ。
 そして魚や樹木や鳥の一部になる。それが私の転生だ。
     (中略)
 お前の記憶の中で、孫たちの中で、私は生きつづけていくよ」
「木々を吹き抜ける風のささやきが聞こえたら、
 そして海に踊るサケの閃きが見えたら、私はそこにいる」

自分も年をとり、死を考えるようになった。
しかし、人間が他の生物たちと交流しあう豊かな未来がきっとある。
必要なのは夢を見る力、そしてそれを実現する意思だけだ、と
本書は結んでいる。


10月半ばとはいえ蒸し暑い日が続いていた。
(ここ数日の冷え込みが嘘のよう)
単衣の黄八丈を着て、
早朝から(学校ではさすがに目立ってました…笑)、
夜は五行歌の渋谷歌会まで。
さすがに、汗でグダグダになりました・・・。

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4 コメント

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Unknown (清也)
2010-10-30 12:03:42
レイチェル・カーソンの『沈黙の春』!
なつかしい。といってはいけないのだろう。
常に今の問題として続いている。

>ご多分にもれず影響された世代の1人である私。
同じ世代だったんだ。若く見えるのに……
返信する
スピーチに涙 (ぷりん)
2010-10-30 12:16:17
りっぱなスピーチにわたしも感動
自宅のパソコンで聴けました。ありがとう。
現代社会は「恐れる」とか「敬う」いうことを
忘れかけていますね。
大いなる自然の一部だという謙虚な気持ちで
足るを知って暮らしたいよ思います。
こんど、キッコロさんの文化人類学の講義を
うかがいたいわぁ。♪
返信する
同じ?(笑) (kikkoro)
2010-10-31 01:22:55
何年か前にレイチェル・カーソンの絵本版?が出ましたよね。
『センス・オブ・ワンダーだったかな。
『沈黙の春』、今読んでも、現代の問題として胸に響きます。
永遠のロングセラーでしょう。これからもずっと。

>同じ世代だったんだ。若く見えるのに……
あれれ、そうでしたっけ???(笑
ちょっこし若いんですけどね。
返信する
当たり前は、すばらしいこと。 (kikkoro)
2010-10-31 01:32:56
本当に必要なのものは目に入らない。
もっと謙虚にならなくては…って、
そんな簡単な当たり前のことができないんですね、
便利になると、人間って。
拝金主義から方向転換をという掛け声はずいぶん前から言われていますが、
大人が変わらなければ子どもは変われない。
子どもたちにツケを残してはいけない、と
一人ひとりがまず行動を起こさないといけないんだと
改めて思ったのでした。

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