100620.sun.
山梨県立美術館へ、ミレーの絵と
同時開催中の「池田龍雄アヴァンギャルドの軌跡」を見に行く。
建物に大きなミレーの肖像写真が飾られている。
入り口には、観光地のお約束“顔出し”ボード、
それも「種をまく人」の。
顔を出す部分が小さいのが難点だわ。(笑)
ミレー常設館には20点弱ほどの作品が、ゆったりと掛けられている。
結婚後間もなく亡くなった若い妻の肖像画、
その隣は再婚した妻をモデルにした「眠れるお針子」。
いわゆる農民画家として有名なミレーだが、
肖像画や神話画にも愛情溢れる目を向けているのがわかる。
ボストン美術館にある「種をまくひと」と前後して描かれたという同名の作品。
どちらも周りをカットされてしまったため、ほぼ同じ構図だという。
当時、こんなのは農民の姿ではないと非難を浴びた堂々たる男の働く姿は
生き生きとして力強く、背景の、土をかける牛の姿にも存在感がある。
「夕暮れに羊を連れ帰る羊飼い」、いい絵ですねえ。
マントを羽織り、羊の群れを従える聖者のような男と
それを見守る牧羊犬。静かな歩みが迫ってくるようだ。
修復がすんで以前より画面がクリアになったらしく、
後方の夕陽が不自然なくらい赤いのが気になったが。
余談であるが、これを見ると思い出すのが、10数年前のオルセー美術館でのこと。
修学旅行で来ていた日本の男子高校生たちが、1階の案内所で
一生懸命に種をまくひとのジェスチャーをして、
この絵はどこにあるのか?というようなことを聞いているらしい。
フランス人の案内嬢は首をひねるばかり。
たまたま同じ時間にそこにいた私は思わず彼等に声をかけた。
「もしかして“種をまく人”を探しているの?」と聞くと、
やはりそうだという。
「その絵があるのはボストンで、おそらくここで君たちが探しているミレーの絵は
“落穂拾い”じゃないかな? それなら4階だよ」
というと、「あっ!!!」。
とたんに照れた顔をして「ありがとうございました!」
彼等を見送った後、でもちゃんと見るべきものを見ようとする姿勢には感心したのよ。
だって、先生からの説明がすんで、次の集合時間を聞くやいなや
美術館の外にさーっと出て行ってしまった子達の何て多いこと!
パリに修学旅行にくるなんて贅沢させてもらっているくせになんてもったいないことを!
と、密かに憤っていた私だったのでありましたから。
(余談終わり)
日曜日で駐車場には2、3台観光バスが停まっていたとはいえ、
館内の人口密度は非常に低く、絵を見るには非常にいいコンディションだ。
ヨンキントのオランダの風景の連作、
クロード・ロランからライスダール、トロワイヨン、ルソー、クールベといった
バルビゾン派を中心に自然主義、写実主義の画家たちら風景画の系譜が見渡せる展示。
1928年生まれの池田龍雄は、今なお活動を続けるアーティストだ。
10代で特攻隊員として敗戦を迎えた彼は、岡本太郎らと前衛芸術へ傾倒していった。
様々な手法を凝らした絵画だけでなく、立体物、映像など
60年余りの芸術活動のまさに軌跡をたどる展覧会。
風刺の効いたペン画や奇怪な具象画シリーズ、
ここ30年ばかりの宇宙と生命を主題にしたBRAHMAN(ブラフマン)シリーズなど
現代の漫画家、イラストレーターへ及ぼした影響はかなり大きいことを感じる。
岡本太郎や河原温、松澤宥、勅使河原宏ら
当時のアートシーンを代表する人々との交流がわかる資料や、
「こどものとも」など絵本の挿絵原画の緻密さとその迫力には
思わず引き込まれてしまう。
島尾敏雄の著書の装画も描いていたなんて。
でも、あまりにも活動期間が長いと、どうなんでしょうね。
やり尽くした感とまだまだ死ねない感、人によるんだろうけれど。
近年のミクストメディア、巨大な板を扱った作品あたりになると、
観念的過ぎて、どう感じていいのか困ります。(笑)
見ごたえがあったのだけは確か。
庭園のギャラリートークは参加できなかったが
たくさんの彫刻があり、ゆっくり過ごしたくなるような美術館です。