ペーパードリーム

夢見る頃はとうに過ぎ去り、幸せの記憶だけが掌に残る。
見果てぬ夢を追ってどこまで彷徨えるだろう。

ただ描くだけでよかった

2010-10-28 11:59:24 | 暮らしあれこれ
101001.fri.

   花に話しかけ
   木に耳をすませて
   心のままに、私は描く。



岩波ホールで映画「セラフィーヌの庭」を見る。
実在していながら、その名を知られていなかった素朴派の画家、
セラフィーヌ・ルイ(1864-1942)の生涯を描いた作品。

パリ郊外サンリス。
家政婦をして暮らす貧しさの中で
信仰と絵を描くことだけが生きがいの
孤独な女、セラフィーヌ。
仕事を終えると野に出て木に登り、花を摘み、川で水浴をする。
アルバイト先でくすねた生血、
教会で祈りつつ失敬した油は画材の材料に。
小さな部屋で、手作りの絵の具を板に塗りたくる彼女の瞳は輝き
無垢な魂そのままの幻想的で魅惑的な作品が生み出されていく。
ドイツ人画商ウーデに偶然その才能を見出されるが、
第一次世界大戦で彼は帰国。
その後再会すると、とうとう彼女の才能は開花して、
その生命力あふれる構図と色使いとモチーフは人々を魅了する。
一転して夢にもみなかったような華々しい生活と、
まもなくやってきた世界恐慌の波に踊らされたセラフィーヌの心は
次第に崩れていき・・・

彼女を純粋無垢と言い切っていいのかどうか。
教養もなく信仰心だけで生きてきた一人の女の成功と、
魂を揺さぶられるような絵は確かにすばらしい。
しかし、後に残るこの哀しさはなにか。
最上級のレースを使ったウエディングドレスを身に纏い
彼女は神と結婚するつもりだったのか。
純粋というものはときに狂気になり暴走する。
最後は精神病院で寂しく死んでいったという天性の画家が
本当に幸せだったのは、あの自然に包まれた貧しい日々ではなかったか。
彼女の絵を育んだあのサンリスの草原と賛美歌に包まれて
おそらくは逝った・・・と思いたい。



ただひたすら描くことだけが生きることだった画家を演じた、
というより“画家を生きた”ヨランド・モローは各種主演女優賞を受賞。
フランス本国では80万人を動員、回顧展も大盛況だったという。

しかし、久しぶりの岩波ホール、オバサマ率高し。

・岩波ホール
・監督:マルタン・プロヴォスト
・主演:ヨランド・モロー、ウルリッヒ・トゥクール

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