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松山櫨(はぜ)復活奮闘日記

失われてしまった松山櫨の景観を復活させようと奮闘していく日々の記録。

和ろうそく芯ものがたり その16

2007-09-15 18:39:59 | 和ろうそく芯ものがたり
私は芯巻き職人Mさんのもとへ行って、
八女の祭りに、例の和ろうそくを出品・販売することを伝えました。
その場合、私はMさんの芯を展示物で紹介するとき、
何か名前が必要だと主張しました。

「Mさんが作った芯を「M芯」って、
私は言ってますけど、他の人に紹介するときには、
ちゃんとした名前を作った方がわかりやすいですよ。」
「そうねぇ…。本名じゃいやだわ。私、芸名持ってるわよ。」
ええっ!

実はMさんは三味線の名取りなのです。
舞台上での名前を持っているそうなんです。

「なんて芸名なんですか。」
「麗華。」
「………………。」

芯巻き職人の名前が「麗華」って…。

「ちょっと芯巻きには華やかすぎないですか?」
「そお?それもそうねえ。」

あれこれと二人で考えた結果、朝倉市の名前を取って
「あさくら正徳(しょうとく)芯」と名付けることにしました。

「これからMさんは、「正徳さん」とお呼びします。」
「ふうん。それじゃ、私が死んだらどうなるの?」
「いや、あの、娘さんも芯巻きされてるなら、
二代目正徳さんというのはどうですか?」

朝倉市の芯巻きは昭和初期からの歴史があります。
「内職」として軽んじられてきたせいで
芯巻きの技術に目を向けられることは少ないのですが
芯は「和ろうそく」を支える最も重要な役目を持っており
芯巻きの技術が絶えることは、すなわち
「和ろうそく」の技術が絶えることでもあります。

朝倉市に残る芯巻きの伝統を続けてほしい。
そしてMさんの娘さんへ、
そのまた次の人へと芯巻きを繋げてほしい。

そういう願いから、「あさくら正徳芯」となりました。

近江手作り和ろうそく「大輿」と
「あさくら正徳芯」による最高の和ろうそく。

八女の祭りで、手に入れてみませんか?

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和ろうそく芯ものがたり その15

2007-09-14 20:34:29 | 和ろうそく芯ものがたり
櫨蝋100%。芯巻き職人Mさんによる芯。
近江の「大輿」による手がけ和ろうそく。

このあまりにも素晴らしく、切ない和ろうそくを見ているうちに、
私が独り占めしては、もったいない気がしてきました。

本物の和ろうそくを、みんなにも知ってもらいたい。
何かの機会があれば…。
そう思っていたら、思いがけずチャンスが訪れました。

9月22日土曜~24日月曜まで、
八女市で祭り「あかりとちゃっぽんぽん」が開かれます。
八女福島の灯籠人形が目玉なのですが、
それと同時期に開催される「町屋まつり」のイベントで
松山櫨に関する資料展示を行わないかと、お誘いがあったのです。
場所は八女福島の町並みにある「房屋」邸の一角です。

出展の話を聞いて、私の頭は忙しく回り始めました。

「松山櫨」に関する活動をパネルで紹介する他に、
この和ろうそくの展示をしてみるとか?
いや、展示だけじゃだめだ。
みんなに配らなくちゃ。
でも、ただで配るには少なすぎる。
それに、全然和ろうそくに興味のない人が受け取るより、
興味のある人に灯してもらいたい。
適当な価格で販売してみてはどうだろう?
そうすれば、興味のある人だけが購入できる。

私はこの特別な「和ろうそく」を販売していいかどうか、
「大輿」と「房屋」に相談しました。
すると、企画として非常に面白いとのことで、
双方とも即座に快諾していただきました。

「松山櫨復活委員会」企画による特別な和ろうそく。
一般の方に販売できます!

私はさっそく八女の祭りに向けて、
松山櫨の資料展示と、
Mさんの芯・大輿の手がけによる
和ろうそく販売に向けての準備に取りかかることにしました。

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和ろうそく芯ものがたり その14

2007-09-13 19:58:43 | 和ろうそく芯ものがたり
さっそく芯巻き職人Mさんのもとにも、
出来上がった和ろうそくを届けに行くと、
Mさんは自身が巻いた芯の和ろうそくを、
しばらくじっと見つめていました。

「父が亡くなった時も、母が亡くなった時も
本人が作った芯のろうそくを灯すことができんかった。
私は、自分が巻いた芯のろうそくを
この目で見ることができるとは思わんやったな。」

近所にはろうそく職人もいませんし、
60年間、何万個も芯を巻いてきたMさんですが
まさか、自分が巻いた芯のろうそくを手に入れられるとは
思ってもいませんでした。

Mさんは、数年前、和ろうそくで有名な愛媛県内子町に
観光で立ち寄ったことがあります。
現地のろうそく職人の実演を、他の観光客同様に眺めながら
「あの芯は、誰の巻いた芯を使ってるんだろう。」と思いつつ、
「私も芯巻きしてるんです!」と言いたくても
なかなか恥ずかしくて声をかけずらく、
ただただ、じっとろうそく職人の実演を見ていたそうです。

自分が巻いた芯を持ってきていれば、
それをろうそく職人に渡すことができたのに。

そう思っても時遅し。帰りのバスの集合時刻が来てしまい
後ろ髪を引かれながら、立ち去ったのでした。

私は単に自分が本物の和ろうそくを見たくて
個人的にお願いしたことですが、
Mさんにとってみれば、
自分の巻いた芯のろうそくを手に入れたというのは、
60年もの間、密かに抱いていた叶わぬ夢が、
実現した瞬間だったのです。

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和ろうそく芯ものがたり その13

2007-09-12 20:06:25 | 和ろうそく芯ものがたり
櫨蝋100%。芯巻き歴60年Mさんの芯。
大輿手がけ職人による本物の和ろうそく。

素晴らしい作品には、訴えかける力があると言いますが
この本物の「和ろうそく」には飾る言葉は一切必要ありません。
だって、本物なんですから。
何も言わずとも、心に訴えかけてきます。

火を灯すと、生き物のように、ゆらゆらと一瞬ごとに姿を変えながら、
時折、すっきりと真っ直ぐ上に炎を形作ります。
じっと見ていても、不思議と見飽きることなく、
心が落ち着いてきます。

この美しい炎の形を見ると、
手作りしか出せない独特の暖かみが、
いかに人間の心を落ち着かせるのか実感させられます。

「ああ、これを見たら、もう糸芯の石油ローソクじゃ物足りなくなったな。」
と思いました。

しかし、この最高の和ろうそくの明かりを見ることができて
とても嬉しくはあったものの、
私は、どこか切ない気持ちになってしまいました。

日本人が持つ最高の和ろうそくは、
徐々に衰退し、失われつつあるのです。

この美しい明かりが人々に受け入れられないとは。

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レ・ミゼラブルを観た。

2007-09-11 21:06:15 | 感動したモノ
今日も和ろうそく芯ものがたりはひと休みです。

博多座で「レ・ミゼラブル」を観ました。
以前、山口祐一郎ジャン・バルジャンで観たことがあるので、
今回は別所哲也ジャン・バルジャンです。

別所は、ちょっと声が高めで細くて、
山口に比べると最初は物足りないかなぁ?
と思ってたんですが、後半になってから、
老いゆくジャン・バルジャンの哀しい演技が繊細で
次第に引きこまれていきました。
ミュージカルは歌やダンスが重要ではありますが
やっぱり演技力も大切なんだとしみじみ。

他に驚いたのは藤岡正明マリウス。
テレ東の「ASAYAN」を見ていた私からみると、
当時の藤岡は、まだ若くて突っ張っていて、
とてもミュージカルなんて恥ずかしいもん絶対できねぇよ、
みたいな雰囲気だったんですが、
今回のマリウスの歌を聞いて、その成長ぶりにびっくり。

美しい声を持っている人は、あれこれクセをつけずに
そのまま歌い上げるだけで、人を感動させるもの。
藤岡も昔は力任せで我流の歌い方だったのに
今ではすっかり正統派の聞きやすい素直な歌声です。
性格的な角も取れてるみたいだし?
いろいろと苦労したのかもしれませんね。
次はミス・サイゴンだそうで、
がんばってミュージカル界の星となってほしいです。

最後のカーテンコールで、
出演者が小さな花束(写真)を投げてました。
なぜ写真を撮ったかというと、
そう、たまたま一緒に行った家族が受け取ったんです。
んなこと、観劇歴ん十年の中で、そうあることじゃないですから。
おかげで、まだテーマ曲がぐるぐると頭の中を回ってます。

あ、和ろうそく芯ものがたりは、明日からまだまだ続きます。

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和ろうそく芯ものがたり その12

2007-09-10 20:23:30 | 和ろうそく芯ものがたり
品質の悪い芯のおかげで、
全国各地の数少ないろうそく職人は
芯の悪さをカバーするために、
蝋の手がけでは、
本来しなくてもいい苦労をしているそうです。

私はベトナム芯でない、
Mさんの芯で作った、本来の和ろうそくを
見てみたくなりました。

芯は全国から芯屋に集まってくるわけですから、
誰の芯が、どこのろうそく屋に卸されているのかは不明です。
もちろんMさんの巻いた芯が、
どこのろうそく職人が使うのかも全然わかりません。

Mさんの父親が亡くなった時、
和ろうそくを灯したそうですが、
それが本人の芯だとはわからなかったそうです。

私は、Mさんに特別に小さなサイズの芯を
少しばかり作ってもらえないか、お願いしてみました。
Mさんは「少しだけなら」ってことで快く巻いてくれ、
できあがったのが上の写真です。

この芯を、櫨蝋100%の最高品質にこだわる
近江手作り和ろうそく「大輿」の大西さんに渡し、
一週間ほど経つと…。

私の目の前には、完成したばかりの
本物の和ろうそくがありました。

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はちみつ祭り

2007-09-09 20:05:06 | 復活奮闘日記
今日は和ろうそく芯ものがたりをちょっと一休み。

藤井養蜂場の「はちみつ祭り」に行ってきました。
とにかく人が多かった。
輪投げをする人がずらりと並んだ列を見て、輪投げは断念。

「今日が絞りたてのはちみつを食べられる最後の日です!」
とのアナウンスで、ついフラフラと絞りたてのハチミツコーナーへ。
1kg1,000円。国産ハチミツとしては破格の値段です。

家にはまだハチミツがあるし、
ブレンドはちみつなので、買わなくてもいいかと思って
立ち去ろうとしたら、通りすがりの人が
「普段は2,700円なんですってぇ~。」と
言っているのを聞きつけ、すぐに戻って購入。
こういう言葉に弱いんですよね。

しかし、ここに来た目的は「ハゼのハチミツ」を買うため。
人混みの中を、いつも置いてあるカウンターにたどり着くと
ハゼのハチミツがない!
レンゲもアカシアもミカンもリンゴもいろいろあるのに
ハゼがなくなってるではありませんか。

「ハゼのハチミツは売り切れたんですか?」と係員さんに聞くと
奥から1個だけ持ってきてくれました。
「ハゼのハチミツは数が少ないんですか?」
「いや、まだあります。出すのを忘れていました。」
………。



藤井養蜂場には、国産ハチミツだけではなく、
世界中のハチミツが並んでいます。
中国産、カナダ産、ニュージーランド産…。
どうも国産ハゼのハチミツは
隅っこに追いやられている感じがアリアリ。

もう少しで、その係員さんに
「ハゼのハチミツがあと何個あるのか、
在庫状況をチェックしてください。」と
言い出しそうになる私でしたが、
あんまりヘンな人だと思われたくもなかったので、
とりあえず3個買いました。

ハゼは地味だし、あまり注目されていないので
もうちょっと、あるみたいですよ。

和ろうそく芯ものがたりは、まだまだ続きます。

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和ろうそく芯ものがたり その11

2007-09-08 21:08:31 | 和ろうそく芯ものがたり
なぜ、かつては高い志を持っていた芯屋が、
海外で品質の悪い芯を作らせているのか。
答えは簡単。
コストダウンのためです。

現在出回っている小さな芯の
芯巻きの賃金を推定で換算すると、
一本につき、日本円にして一円以下の金額だそうです。
Mさんの普段の作業スピードは
中程度の芯を一時間に約25本。

小さなサイズでも手間暇は同じようにかかるそうですので
もしこれをMさんに頼むと
Mさんの時給は25円以下ってことになります。
一日8時間働いても200円以下…。

これじゃ、やらない方がましですね。
どおりで国内で小さな芯の生産が
消えてしまったわけです。

和ろうそくの斜陽化は
コストダウンを図るための海外での業務委託を招き、
それが品質低下に繋がるという
悪循環へ陥っているのが
はっきりとわかってきました。

私は日本で一番芯に詳しい芯屋の苦悩を想像すると
やりきれない思いがしてきました。

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和ろうそく芯ものがたり その10

2007-09-07 21:39:49 | 和ろうそく芯ものがたり
芯巻き職人Mさんの亡くなった父親が、
娘に残した言葉があります。

「芯巻きは、たくさんの芯を巻くから
一本一本がおざなりになってしまいがちだ。
だが、ろうそく職人は一本一本を相手に、
大切に蝋をかけて、ろうそくを作るんだから、
芯巻きも、きちんと一本一本を大切に巻かなくては
良いろうそくは作れない。」

内職といえども、一本ずつ命を吹きかけるように
大切な芯は巻かれてきました。
しかし、現在出回っている小さなサイズの芯には、
こういった作り手の心が見えてきません。
この小さなサイズの芯は、一体誰が作っているのか。

私は関係先の数カ所に尋ねてみました。

「今は芯のほとんどはベトナムで作られてますよ。
小さなサイズばかりじゃない。
大きな芯も最近は明らかにベトナム製がほとんどです。」

!!!!
私は耳を疑いました。
和ろうそくを(たぶん知らない)
ベトナム人が和ろうそくの芯を巻いているとは!

残念ながら芯巻き職人Mさんの取引先と同じ芯屋でした。

「芯屋は芯屋でも、
絶対に私たちがつきあっている芯屋じゃないね。
きっと別のヘンな芯屋があって
こんなヘタクソなのを作らせてるのよ。」

というMさんの言葉を思い出して、私は絶句しました。

Mさんの高い芯巻き技術は、
もともと芯屋が年数をかけ苦労して育て上げたものです。
なのにその同じ芯屋が、
今は品質の悪い芯を海外で作らせているとは。

昔からの馴染みの芯屋さんを信じているMさんに
この事実を知らせるべきなのか。

Mさんを目の前にして、私は言葉を失っていました。

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和ろうそく芯ものがたり その9

2007-09-06 20:36:30 | 和ろうそく芯ものがたり
写真上はMさんに比較してもらうために巻いてもらった小さな芯です。
写真下は現在出回っている小さな芯です。

この小さな芯を、一体誰が巻いているのか。

私は芯巻き職人Mさんに、この芯を見せてみました。
するとMさんは、この芯を一目見るなり、
「なんか、これおかしい。これ、なんなの。」
と、異様なものを見るような目つきになっています。

「芯ですよ。普通に出回っている小さなサイズの芯です。」
「でも、こんな、こんな巻き方ってある?
見て、この芯の先端。みっともなく出てる。
ひどい。こんな芯、ありえない。」

どうやら、この芯はあまりにも出来の悪い芯のようで
これが製品としてまかり通っていること自体、
Mさんには信じられない様子でした。

「私たちはね、芯屋さんから
それはもう厳しく指導してこられたわけ。
堅く、きっちりと巻いて、形を整えたり、
特に先端は、燃え初めの一番重要な部分だから
美しく燃えるよう、和紙をほんのちょっとだけ出すの。
見て。これ。こんなみっともなく和紙が出てるでしょ。」

比較してみるために、もうちょっと画像をアップにしてみます。



明らかに違います。素人の私ですらよくわかりました。
Mさんの芯は美しく形が整っているのに比べ、
この芯はところどころに隙間があるし、
全体的にゆる~い感じで巻かれています。
特に先端の形は、Mさんのがきれいな三角形をしているのに比べ
この芯は、ただ余った紙が出てるだけって感じです。

「おかしい。芯屋がこんなのを扱うわけない。
芯屋は芯屋でも、絶対に
私たちがつきあっている芯屋じゃないね。
きっと別のヘンな芯屋があって
こんなヘタクソなのを作らせてるのよ。そうに違いない。」

最高品質の芯を作り出す芯巻き職人として、
Mさんはかなりご立腹でしたが、私の疑問は膨らみました。

小さなサイズの芯。

その疑問を追求していくと、
私は、やがて芯巻きの世界に、
驚くべき異変が起きていることがわかってきました。

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和ろうそく芯ものがたり その8

2007-09-05 23:13:28 | 和ろうそく芯ものがたり
Mさんの巻く芯は、大きめのサイズのろうそく用です。
主に寺院で使われるそうですが、
小さいサイズは作らないのか聞いてみました。

「昔は作ってたわよ。
っていうか、昔はむしろ小さいサイズばっかり頼まれてた。
そればっかりの時期があったくらい。」

小さい芯の注文は時代の変遷と共に、だんだん少なくなり、
ついに数年前、芯屋が小さいサイズ用の芯棒を
全部引き上げてしまい、作らなくなったそうです。

同じ頃、Mさんのご近所では芯屋からごあいさつがあり、
Mさんと同じ芯巻き職人たちの多くが
この作業を辞めざるをえなくなってしまいました。
いわゆるリストラです。

「ほら、普通のローソクに押されちゃってるのよ。
あれは安いでしょ。割に合わないんだって。
やっぱり時代かしらね。」

でも、和ろうそく店では小さいサイズも
大きいサイズと同じように売られています。

いくら押されているといっても、
需要が全くなくなったわけではないのに、
なぜMさんは大きいサイズの芯しか巻いていないのか。

Mさんをはじめ、ほんのわずかな数人を残しただけで、
芯の生産を縮小してしまった芯屋。

いったい誰が小さい芯を巻いているのでしょうか?

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和ろうそく芯ものがたり その7

2007-09-04 22:36:27 | 和ろうそく芯ものがたり
櫨ろうそくに関しては、
昔から何かと「辛い」というイメージがつきまとっていますが、
芯巻き作業は屋内で自分の好きな時間を使えるため、
外での農作業と比べると、はるかに楽な作業ではあります。

前述したTさんが、芯巻きは楽しかったと言っていましたが
Mさんはどう思っているのでしょうか。

「テレビとか見ながら巻くと楽しいのよ。」

大きなテレビ画面の前には、ご主人席。
その隣がMさんの指定席であり作業場でもあります。
野球やサッカーなど、スポーツ番組が大好きだそうで、
「昨日はホークスが負けちゃったもんだからくやしくて。」

ホークスが勝つか負けるかで、
芯の出来も気分的に若干変わるそうですが、
それは本人にしかわからないほどの微妙な巻き具合なので
大勢には影響ないみたいです。

Mさんは単純な芯巻き作業を自分の生活の一部として、
気負いもなく、ストレスもなく
完全に楽しみながらやっています。

私はなぜMさんが60年間楽しく巻き続けられるのか、
そしてなぜ高い品質を保ち続けられるのか、
わかったような気がしました。

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和ろうそく芯ものがたり その6

2007-09-03 21:40:55 | 和ろうそく芯ものがたり
芯巻き職人Mさんは、15才から専門で芯を巻き始め
もう60年以上になります。
芯巻きの作業自体は単純ですが、
それだけに巻き手の熟練度によって、
出来上がりに相当な差が出てきてしまいます。

芯を取り扱う芯屋は、芯巻き職人の中でも
Mさんの作る芯を、非常に高く評価しています。

Mさんの芯がどうして優れているのかというと…。

和ろうそくは、芯が蝋を吸い上げることで燃焼します。
つまり、よりたくさんの蝋を吸い上げることができる芯が
良質な芯であるということです。
そのためには、より堅くしっかりと巻かなくてはなりません。
芯屋は質の高い芯ができるよう、
職人達に非常に細かく、また厳しく指導してきました。

初心者はどうしても力加減がわからず、
緩くなってしまうので、巻き方にスキマがあったり
デコボコしたりしてしまいます。
そうなると上に載せる蝋の量が変わってくることになり、
燃焼にも影響が出てしまうわけです。



60年巻いてきたMさんの指には、
イグサを押さえる部分の骨が突き出ています。
これぞ芯巻き職人の指ですね。



スムーズで堅い芯は、
たくさんのイグサがみっちりと巻かれ
蝋を吸い取る気マンマンに見えます。

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和ろうそく芯ものがたり その5

2007-09-02 23:00:47 | 和ろうそく芯ものがたり
今日は和ろうそくに使われる芯の作業工程を説明します。
上記写真は和紙に巻き付けるイグサの髄(燈芯)です。
柔らかいイグサの髄を触ってみると、
まるで細いスポンジのようでした。

なぜイグサが燈芯草と呼ばれるかというと、
このスポンジ状の繊維が、蝋をたくさん染みこませるのに
最も適しているからです。



最初に細い竹の棒に和紙を挟むように巻きます。
和紙でなく、普通のコピー用紙は使えないのか聞いてみると
紙が厚くなると堅くて巻きにくくなるそうです。
また、紙は煙を出す原因にもなりますから、
薄い方が煙は少なくなります。
よって、蝋がしみ込みやすく、
柔らく薄い和紙が一番適しているということになります。



さて、和紙を巻き終わる最後にイグサを挟み、
くるくると巻いていきます。
要所にふわふわした綿を巻くと、
イグサの回りに薄い綿が入り込み、解けにくくなります。



芯の出来は、この巻き加減にあるそうです。
できるだけイグサを堅くしっかり巻き、密度を揃えることで
ろうそくが燃える時に、イグサが蝋を吸い込めるようにします。

もし、ゆるく巻いてしまうと蝋をあまり吸い込めず
だらだら蝋が流れる原因になってしまいます。

芯が巻いている途中で終わったらどうするのかというと
できるだけスムーズに、デコボコしないように
次の芯を入れ込み整えます。
このへんがなかなか難しいところです。



最後にきちんと芯の規格に合ってるかどうか幅を確かめます。
もし太かったり細かったりするとやりなおしですが、
OKのようです。



出来上がり!

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和ろうそく芯ものがたり その4

2007-09-01 19:24:43 | 和ろうそく芯ものがたり
たまたま朝倉市に和ろうそくの芯を
巻いている職人がいることを知り、
さっそく行って話を聞いてみることにしました。

Tさんです。
Tさんは78才。Tさんの一族が
芯巻き作業を始めたのは昭和初期だそうで、
それ以前は馬の鞍を作る職人をしていたそうです。

芯巻きは、重労働の農作業と違い、
家の中に座って出来る軽作業のため、
お年寄りの内職として、
近所には一時期20人程度が従事していたそうです。

このような芯巻き職人は、
今でも少ないながら各地にいるらしく
芯屋は、各地の芯巻き職人から
芯を買い取って、ろうそく職人に売っています。

昭和40年代頃まで、近所には芯に使う
イグサが植えられており、
茎の中の髄(燈芯)を引き出す作業も同時に行われていました。
寒い冬にイグサを冷たい水で洗い
一本ずつ燈芯を引き出すのは
辛いものだったと言います。
Tさんは年代物の古く小さな作業机を取り出し、
どうやって一本ずつ巻いていたかの説明をしてくれました。
(上記の写真)

残念ながらTさんは二年前に病をわずらい、目がかすむようになり、
芯巻きの作業を断念せざるを得なくなりました。

「悲しかったとですよ。
茎から燈芯を引き出す作業は辛くていやだったんだけど
芯巻きの方は、みんなと話をしながら
作業が出来るから楽しかった。
もう芯巻きはできないと思うと、涙が出ました。」

Tさんは最後に巻いた一束を手に取ると、
当時を思い出し、うっすらと涙を浮かべました。



私も悲しくなりました。
「それじゃ、他にはもう芯巻きをしておられる方は
 いらっしゃらないんですか?」

「いや、おる!おりますよ。二歳年下の義妹が!
今も現役で巻いとるとですよ。
すぐ近くに住んでるから、一緒に会いに行きましょう!」

こうして、私は現役の芯巻き職人Mさんと出会うことになりました。

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