エルソル飛脚ブログ ~Run 4 Fun~

四万十川周辺をチョロチョロしている飛脚の記録です。

エルソル大阪物語■27■「必殺のバイク」

2018年01月20日 | エルソル大阪物語

■27■


夏休みを挟んだ秋になると学校を辞める生徒が出はじめました。

職員室理容部でも毎日討論になりました。

古尾先生の方針は
・誰一人学校を辞めさせない、落ちこぼれをつくらない
・「出来ない子」「やらない子」に力を注ぐ

長島先生の方針は
・辞めたい者は辞めてもらう
・「出来ない子」「やらない子」に構い過ぎない

実際に学校を辞める生徒というのは中卒組や高校中退組に多く、
そういう弱者の受け皿として理美容業界などがあるというのは現実で、
「辞めたいから」といって簡単に「辞めさすべき」なのか、
とてもに難しい問題でした。

でも学校を辞めてしまうような子は、実際サロンに就職しても続かないようで、
「早めに辞めて次の道を模索する」というのがいいのかもしれません。

美容科の主任達は、
「自分の手から次世代のニューフェイスを・・」という思いが強いらしく、
「辞めたい子」は追わずに、「出来る子」に力を注いでいました。
「出来る子」に対する甘やかし方はまるで「ご贔屓」で、
理容部から見るといい気はしませんでした。

「出来る子」「出来ない子」
「やらない子」「やればできる子」
「辞めたい子」「とりあえず来ている子」
それぞれのクラスにいろんなタイプの生徒がいます。
二十歳の僕には到底正解など見つけられませんでした。

結果はどうであれ、僕はひとつの方針を打ち出しました。
『それぞれ個々が自分の限界への挑戦』です。

以前、生徒として感じた感覚、「学校は楽勝」。
しかし、いざ働きだすと「何もできない自分」に対しての後悔や歯がゆさに悩まされます。

学校で出来ることの何かで「他の人に負けない自信のあるもの」を、
一つでも多く持っていて欲しいのです。

しかし生徒達にはいい迷惑でした。
何せ『限界への挑戦』ですから・・、熱血教師に変身した僕は妥協を知りません。

授業科目のひとつ「鋏操作」なんかは『落とし腰』
(立ったまま膝を曲げ腰だけを落とした姿勢で
腕を伸ばし左手に持った櫛に合わして鋏を開閉する)で続けました。

弱音を吐いたりふざけたりしていると容赦なくケツを蹴り上げます。
勿論僕も生徒達と一緒になってやるので誰も文句が言えません。

「学校辞める」と電話のあった生徒なんか、
酒持って乗り込み、一晩中説得して出てこさせたりしました。
歳が近い分、気持ちがダイレクトに伝わります。

「今年の理容科はちょっと違いますね~」
美容科から聞こえはじめた評判は、僕にとってはうれしい褒め言葉でした。

ある月曜日、
「鋏操作」の「落とし腰」を集中してやっていました。
「カシャカシャ」と大量の鋏の音だけが教室に響いていました。
「ブォン、ブォン、バリバリバリ・・・」
鋏の音に混じってバイクの音が聞こえました。

「ブォン、ブォン、バリバリバリ・・・」
だんだん近くなって来たようです。

「ブォン、バリバリバリ、ババッババッバババババババ!」
爆音は関美の前で止まりました。

気になって3階窓から見下ろしました。
フルフェイスのヘルメットをはずした男が上を見上げて手を上げました。
「えひめ福嶋」でした。

生徒「あのうるさいバイク、先生の知り合いですか?」
上田「いや~知らんな・・え?手ェ上げた?、気のせいちゃう?」

関西では散髪屋の定休日は月曜日が多く、
毎週月曜日の夕方は、訪ねて来る卒業生の相手をしました。

僕が学校で働いているのを何処からか聞いたらしく同期の連中がたくさん訪ねて来ました。
実習室は喫茶店に早替りしました。

福嶋「上田が先生とはのう、聞いた時はたまげたのう」
  「お前、まだ修行しとらんのやろ?」
  「おれはもう顔剃りバリバリやぞ!」
  「堀之口が一番頑張っとるかな~、あいつパーマ巻いてるらしいな」

上田「マジ?何かすごい焦るな~」

福嶋だけではなく、同期の奴らが訪れるたびに
「今、お店で顔剃りやってる」とか「カット練習してる」とか言うので、
少しずつ取り残されていくようで、焦り始めていたのは事実でした。

福嶋「上田、もう仕事終わるやろ?」
  「オレの必殺のバイクで梅田にラーメン食いにいくか?」
  「超必殺やぞ~、ヘルメットあるから後ろ乗れや」

福嶋の【必殺のバイク】はヤマハのFZ400というバイクでした。
マフラーをかなりいじっているらしく、
エンジンを掛けると「ブォン、バリバリバリ!」と爆音がします。

上田「ホンマにこれに乗るんか?」
  「恥ずかし過ぎるワ!」

福嶋「ホンマは女しか後ろに乗せんのやけどな」

上田「オンナおらんくせに・・」

福嶋「ほっとけや!」

恐る恐る後ろにまたがりました。
バイクの後ろは初めてです。

近くの高架下のマクドナルド前の信号にかかりました。
スクランブル交差点には多くの通行人がいました。

信号が青に替わりました。
「ブォン!!ブォン!!バリバリバリ!!」
凄まじい爆音に、近くにいたオバサンが倒れこみました。

上田「オバハン一人倒れたぞー!!」

福嶋「ハハハ!!恐れ入ったか!!この前は女子高生倒したワ!」

爆音はハンパなものではなく、通りのみんなが耳をふさいだり、
かなりの注目を浴びました。

福嶋「どうや?最高やろ!?」

爆音必殺バイクはすぐに梅田に到着しました。

すぐ近くの「曽根崎警察」前の信号に引っ掛りました。

曽根崎警察署から二人の警官がこっちに走ってきました。

警官一人がすぐに必殺バイクのキーを抜き取りました。

警官A「兄ちゃん、ちょっと署まで来てもらおうか?」

警察署の裏で、機械による音の測定をしました。

警官A「どうや?」

警官B「116ホーンです!曽根崎警察新記録が出ました!」

その後しっかりお叱りを受け、
「アクセル上げずに(静かに)走ります」という誓約書まで書かされて解放されました。

二十歳までに4回の免停歴がある「福嶋」にまたも勲章がつきました。

福嶋「ツイてねえのう・・」

上田「ラーメンおごるワ」

■27■


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